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一章
この世界でも社蓄?
しおりを挟む町を出る前に買い出しとかしたくとも、パンは硬めで、水分はワインかブランデー系で。いまいち購買意欲がわかない。
万が一に持っておくにしてもあんまりなぁ?
食料の店をぶらぶらっと見ていたら、〈鋼鉄の拳〉のヤンに声を掛けられた。
「あー、いたぁ!」
「へ?」
ガシッと肩を掴まれて、冒険者ギルドに連れ込まれた。
ギルドの中が混雑する中、俺は引きずられ気味に二階のギルマスの部屋に。
「おー、来たか」
「ん、みんなに連絡~」
ソファでお茶を飲んでいたシャートが何か小粒の魔力をいくつか窓の外に向かって飛ばした。
「一体何?」
「ああ、お前ポルドスに行くって言ってただろ?」
「ああ」
ニヤリと笑うギルマスに何か嫌な予感がする。
「ついでだから〈新月の雷光〉と〈鋼鉄の拳〉といっしょにポルドスでの緊急依頼に参加しろ」
「はぁ?」
なんの依頼かわからないけど、Bランクパーティ二組に俺って必要ないよな?
「ちなみに強制依頼だ。お貴族さま案件だ。ペーぺーは断れないぞー」
何その案件。
詳しく聞くと王都からポルドスにバカンスに来ていた侯爵家の子供二人が攫われたらしく、子供の捜索と発見したら王都まで護衛するんだって。
「カナンからBランク二組も出して良いのか?」
「良かぁないが人攫いの犯人が個人か集団かで対応が違う。が、どっちかはまだわかっていねぇ。他にも見た目のいいのが数人消えているから集団の可能性の方で対策する」
ポルドスの冒険者もいるにはいるが、侯爵家の人たちが仕事でボルドスに残れないらしく念のために侯爵家の護衛を増やして同行させたり、逃亡ルートをしらみ潰しに探索したり街の警戒に人手が割かれていて、まったく人が足りず近隣の他のギルドからも応援を呼んでいるらしい。
侯爵家には王都から連れて来ている護衛がいるが犯人の目的がわからないため、侯爵家の護りも増やした方が良いとポルドスのギルマスが判断してAランクを付けたってさ。
「ポルドスで子供が見つかったら俺は依頼達成か?」
海沿いをバイクでかっ飛ばして、釣りもするんだ。俺は。問題なければ海でゆっくりするんだ。
「んなわけには行くか。〈鋼鉄の拳〉はこっちに帰ってもらうがお貴族さま令息と令嬢の護衛は〈新月の雷光〉とお前に任せる」
子供が一緒じゃタバコ吸えないし、それ以前に飯や風呂とか気ままに〈ルーム〉に入れないじゃん。やだよ。
「はぁ?ポルドスの冒険者でも良いだろ?」
「どうせ旅するんだろう?」
一人で気ままに動くのと団体ツアーは違うだろうが。
「ポルドスから王都まで何日だよ・・・」
「子連れだと二ヶ月かなぁ?」
シャートが答えてくれた。
「お断りしたい」
「ギルド員なら諦めろ」
ぐぬぬ。身分証が無かったばっかりに。あんなにチートもらったのに身分証をもらい損ねたばかりに・・・
ドカドカと下から音がして他の連中が上がって来た。
「お~、いたぁ」
「どこ行ってたんだよ」
「そんな目立つツラしておいて目撃情報が無いってどういうこった」
おお、〈隠者〉の指輪すごいっぽい。
「で説明は済んだのか?」
ドットがギルマスに聞きつつ、俺を見る。
「嫌なんだけど」
往生際が悪いか。でもいくら良い奴らでも移動中ずっと一緒は嫌だ。
「なぁに言ってやがる。お前、小さいお貴族さまが俺たちだけで王都まで付き添ったら可哀想だろ?ちっとでも貴族っぽい綺麗なツラのがいたほうが安心だろうが」
そんな理由か?シャートは顔立ちが優しげだし、ヤンはちょっと胡散臭いけど取っ付きやすそう?だぞ。
「女冒険者とかいるじゃん、獣人だとより子供に喜ばれるんじゃねぇの」
俺ならそれが良い。可愛い女の子ともふもふ。絶対それが良い。
「お前、女冒険者が何ヶ月もオッサンパーティに付き合うわけねぇだろうが」
ランガがそう言うけど、強制依頼とかお金上乗せとかしたら良いじゃん!しかも「Bランクとお近付き♡」的な・・・のが来たらダメか・・・?
「ジェイル、貴族は獣人をそばに置かないんだぞ」
「えー」
人種差別反対。モフ毛があるって良いじゃんか。
「そう言うわけだから今から十日分の食材と必要なもん買って二時間後に〈小鳥の止まり木〉に集合な」
今日出ていくの⁉
「ポルドスに現地集合と言うのは?」
馬車移動嫌だ。徒歩もダッシュも嫌だ。
トイレと風呂が使えないのも嫌だ。
贅沢言ってるのはわかってる。でも持ってるもの使いたいんだー。
「ダメに決まってんだろ。盗賊や人攫い一味が噛んでるならすでに町を出ている。カナンからポルドスの間で見つかるかもしれんだろうが」
ギルマスとドットに怒られた。
ポルドス停泊の船やポルドスからガジャル、ポルドスからドランと、道のない森沿いも全方位捜索中らしい。かなりのことだ。
「・・・」
オーズ、教会か神殿だかいけなかったらごめん。
とりあえず、それぞれ買い出しに行くらしいので俺も一応何か買いに行くことにした。
何を買おう・・・。
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