〈蓮~ロータス~〉夜譚

紫楼

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第7話 入口

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 コマっちゃんと奥さんの成美さんはカウンターの端の席に着いた。
 空いてるから隅っこじゃなくても……と思うけど、常連さんたちはそれぞれ自分の席を決めてるみたいだから、コマっちゃん夫妻もそうなんだろう。

「成ちゃん、久しぶりだね、何を飲む?」
  つきだしを出して、コマっちゃんはまず生ビールで、成美さんはブランデーのロックだそう。イケる口ですね。
「ママ、今日のカミさん美人だろう」
 ワハハと笑うコマっちゃんにママが、
「成ちゃんはいつも美人だろう?ああ、美容院に行ったのね。可愛いわ」
と、成美さんに笑顔を見せる。
「やだー、ママ。久しぶりにパーマをしたのよぉ」
 成美さんは美人と言うよりかわいらしい感じの人だ。肩までの髪を緩やかに巻いていて明るすぎないオレンジ色にカラーをしていて、コマっちゃんの奥さんにしては可愛すぎると思う。失礼かな。

「あら、このきんぴら、味が染みてて美味しいわね。さすがママ。いつも美味しいわ。こっちの鶏も。この人が持って帰ってくれるのが楽しみなの」
 ママは余ったものはタクシーの運転手さん、主にコマっちゃんに押し付けている。ママの飲みに行く先に持っていくことも多いけどね。

「そういえば、ママ、私今日怖い話を聞いてきたのよ。今夜寝るのが怖いから聞いてくれる?」
 成美さんはものすごい勢いでブランデーを飲み、つきだしのお代わりもした。
 そしてマシンガントークを始める。

「私が担当してもらってる美容師さんのお友達の夫婦のお話で……
 そのご夫婦は登山が好きであちこちの山に登っているらしくて……
 大きい山を登る時は途中の山小屋で寝てしっかり体を休めてからチャレンジするんですって。
 その山がね、とても有名な山なの。ほらいつだったか学生が小屋で亡くなったニュースがあったでしょう?
 その山の小屋に着いたら、青い服を着た男性がいて、奥さんがイスに座るなり、隣にきてずーーーーっと話かけてくるんですって。
 もう煩くて休めないから、旦那さんと場所を交換して貰ったら今度はずっと旦那さんに話かけて……嬉しいな~楽しいな~。あっ……やっぱり僕って男性の方が好きかもーーって嬉しそうな声が響いていたそうなの。
 山小屋で逃げ場がないから旦那さんはしばらく「ああ、うん」って話を聞いていて、旦那さんがついウトウトしていたら、いつの間にか青い服の男性が姿を消したんですって。深夜の山小屋から一人で出ていくなんて……?とご夫婦は不思議に思ったそうなの。
 だけど、ふとニュースを思い出してしまったそうで。特徴がニュースで聞いた感じだったから、お二人とも朝まで寝れなくなったそうなの」

 よくある雪山の怪談みたいな話だった。ちなみにご夫婦は翌朝しっかり頂上を目指して登頂したそうだ。

 成美さんが楽しそうにしているのをコマっちゃんが嬉しそうに聞いている。こんな夫婦の感じ、ちょっといいね。私はまだ結婚はしたくないけど、将来は年をとっても仲良し夫婦ってあこがれる。うちの両親もわりと仲良しだからね。

「……山は何が起こってもおかしくないからね」
「やだぁ!!ママったらぁ。そんなこと言ったら川も怖いし海も全部怖いってなっちゃうでしょ~」
 たしかにオカルトネタでは自然の中に怖い話がいくらでもあるね。

「ママ、カラオケ入れて」
 コマっちゃんはビールを五杯くらい飲んでいい気分になって夏歌で有名なバンドの歌を三曲歌った。冬だけど。
 成美さんはコマっちゃんが歌う姿を楽しげに見ている。

「コマっちゃんが惚れられて五年前に結婚した夫婦なんだよ……」
 ママがこそっと教えてくれた。引く手あまたっぽいかわいらしい奥さんが、ちょっとぽっちゃりな普通のおじさんを口説いての結婚。ミステリーだね。
 でもコマっちゃんは人の好さそうな雰囲気だし、優しくて陽気だし、結婚相手ならいい選択かも。

 コマっちゃん夫婦はかなり飲んでいたけど終始楽しげで、ママに今日のつきだしの残りを包んでもらって仲良く手をつないで帰っていった。

「さ、今日は店じまいにするよ。片づけて」
「はーい」
 ママが洗い物に奥に入ったので、私は店内のテーブルやソファを軽くふいて、床をザッと掃く……

 …………カラン

「ごめんなさい、今日はもう……え?」

 入り口のベルが鳴って、誰か入ってくると思って振り向いたのだけど、入り口が開いた様子がない。

 私はあわてて入口を開けて外を見ようとした。

「ユリカ!」
「はぁい」

 奥からママに呼ばれて、扉が開いてないからきっとお客じゃないと、ママを優先することにした。



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 山の怖い話は もこやま氏にいただきました。ありがとうございます。
 
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