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三章
249話
「まずは初診だ。行くよ」
マギー先生は私を片手で抱き上げた感じでスタスタっと小さめの応接に運んで行く。
なぜかアンゼリカさまも来なって。
「ほい。ここに座ってな」
応接には心なしかげっそりなロジャー先生とニコニコしたハロルドがいた。
「さて、この鼻ったれはついぞ女子の診察を学ばなかったようで迷惑かけたね」
ロジャー先生を鼻ったれとな!?
「ええと?今のところ困ったことがないので大丈夫?です?」
「そうかい。そりゃ運が良いこったな。アンゼリカもついでに見てやる」
マギー先生はまず私の全身を魔力でスキャンして、五臓六腑あたりを手かざしで確認していった。
「ふん、随分難儀したもんだねぇ。栄養失調は改善、臓器も損傷なくって言うのは強運なのか潜在魔力のおかげか」
ロジャー先生のカルテと照らし合わせつつ新たにカルテに書き込んでいく。
「魔力回路の封印や何か別に封印していた形跡があるが、今後は精神や魂に関与するような魔法には気をつけるこったね。病気を治そうとして治療や魔術を何人もの術者に頼る者もいるがねぇ、それぞれ使う術が違うと複雑に絡んじまって副作用を起こして解除するのが難しくなってるようなのもあるんだよ」
かけた記憶もかけられた記憶もないからなんとも言えないや。
「さぁて、あとは鼻ったれが私を呼んだ理由だね」
私のお腹まわりにじわっと魔力を流して診る。
触診や内診じゃないのはいいよね。
「そうさねぇ、卵巣はまだ準備中か。今は障りが順調かい?」
「う?うーん?ここに来てから二回くらい?」
つい最近の不調の時は出血が無かったからどうなんだろう?
「栄養失調からの回復期間だし、食生活も環境も一気に変わったんだからそんなもんかね」
ストレスも栄養不足も良くないからね。
「まぁ機能には問題なさそうだし、精神が揺らぐのは多少はあるもんさ。障りの前兆があったら薬湯を飲むと多少マシだよ」
ちなみにまだ致してないのはわかってるらしく、「あのボンは奥手だねぇ」なんて言いつつ、致しても問題はないけど子宝云々はあと一年くらい先がいいよって。それはジュリアスさまに言ってほしいなぁ。いや、言わない方がいいかも?
隣で聞いてるロジャー先生とアンゼリカさまが居心地悪そうだよ。ハロルドはニコニコしたままなのでさすが執事長って感じだね。
「さてと、アンゼリカ。あんたはどうだい」
「・・・特に問題ないよ」
手順は私と同じようにアンゼリカさまも手を当てられつつ診てる。
「相変わらず、腕力でゴリ押しするスタイルかい」
なんと筋肉がアンゼリカさまの繰り出すパワーに耐えきれてないらしい。どんだけ~。
「魔力の使い方もなってないねぇ」
横で聞いているとお義父さまに憧れ過ぎてお義父さまの闘い方に固執するあまり本来得意なはずの魔力操作を蔑ろにしてるそう。
要するにサーキスさまのような戦闘スタイルが向いてるってことかな。
「長く現場にいたいなら改めな」
悔しそうな顔で無言でいるアンゼリカさまが切ないよ。
「まぁ年齢的には家庭を持つのもありだろうけどね。結婚には向き不向きがあるんだから好きにしたらいい。でも戦さ場に立つなら理想を捨てて命を大事にしな」
辺境の女医さん、騎士さんたちのギリギリの生き様を見て来た人だから厳しいことでもはっきり言ってくれるんだ。
「・・・わかってるよ」
「はぁ、なまじ強いもんだから今までやって来たんだろうけど男でも女でも年には勝てないからね。体を壊したらそれまでだ。自分を大事にしな」
マギー先生はアンゼリカさまの右肩に手を添えて魔力を緩く流す。
「ああ、今回の治癒術はあくまでも自己回復を促す程度だからね。極限でもない限り修復はしないよ。癖になったら自力で治せなくなるからね」
ほほう。やっぱりポーションと治癒術は違うのかな。
「鼻ったれ、あとはお前の苦い薬を処方してやんな」
とりあえず今日の診察はおしまいらしい。
「アタシはそこの鼻ったれととりあえず騎士団の医務室にいるからね」
私の子供を取り上げるつもりで今まで担当して来た仕事はお弟子さんに託して来たそうだ。何年計画だろう?
ジュリアスさまの帰宅を知らされたのでお出迎えに行こうとアンゼリカさまを誘ったら、マギー先生もニヤリとして一緒に行くことになった。
またもマギー先生に抱き上げられ・・・と思ったら担がれて玄関に向かう。
ニーナがあちゃーって顔してるけど、マギー先生の迫力に何も言えないよね。わかる~。
玄関ホールにお義母さまもいたので私の状況にびっくり。
「あらあらマギー先生、リーシャちゃんを下ろしてくださいな」
「はは、軽いからついな」
ジュリアスさまとセリウスさまが玄関の扉が開いて入って来た瞬間に、
「げぇ」
「っ!」
って呟きが聞きえた。
「おいおい、随分な挨拶だね!坊やたち」
「マジかー」
「久しぶりだな、マギー師」
セリウスさまはかなり引き攣った笑みで、ジュリアスさまはカチコチな動きで挨拶をする。
送迎についてたサーキスさまと他の騎士さんたちは扉が開いた瞬間に「ではお疲れ様でした」って一瞬で脱兎の如く逃げたよ。
マギー先生ってば一体どんな恐怖を与えたんだろう?
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