とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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第三試合その二

 仕掛けるとは言っても、矢を放つのはちょっとリスキーだ。確か大盾のアーツの中に放たれた飛び道具を跳ね返すというのがあったような気がするからだ。八岐の月から放たれるドラゴンの矢を反射されたらたまったものではない。故にここは接近戦を選択する。ゆっくりと相手に近寄っていき、一気に距離を詰めて──少し後ろに下がる。

 このフェイントで相手の大盾が適切に防御する事を阻害するのだ。更にレガリオンをスネークモードにして相手の大盾を迂回するように斬りつける。ダメージは低くてもいい、ほんの僅かでも相手の体力を削る事が今は肝心。大きな一撃は他で出す。相手にペースを再び握らせる展開は絶対に阻止する。

「こんどはくねくねと盾を避けるか……! 次から次へと厄介極まりない!」

 相手はかなり苛立っているようだ。スネークソードによって盾の上から横から切っ先が相手を脅かされる状況は実に面倒くさいだろうからな。もちろんそれを分かっているからこそ全力でやっているのだ、対戦の基本、相手の嫌がる事をやれ。対処できないならひたすらこすり続けろに則っている。あ、嫌がる事とは言っても煽りとか暴言とかは含まないからね?

「大盾相手に真っ向から切りつける武器じゃないからね、当然そういう運用方法になるよ」

 相手の言葉に返答しつつ、更にレガリオンでチクチクと相手を責め立てる。大剣や両手斧とかならまだ大盾を相手に殴りに行ってもいいけれど、それ以外の武器は基本的に大盾をどう避けて攻撃するかという動きになるのは自然だろう。下手に殴りつけて大盾に弾き飛ばされて隙を晒せばシールドバッシュが飛んでくるのだから。

 大盾の重量を生かしたシールドバッシュの一撃はまさに重いの一言だ。それ一つで勝負の流れが大きく変わりかねないだけの威力があるのだ。そもそも大盾を使うプレイヤーは皆筋力に優れている。そんなパワフルな相手に、鋼鉄の塊でぶん殴られたら痛くない訳がないのだ。一番悲惨なのは、シールドバッシュで転んだところに盾でプレスされて押しつぶされる事だ。動画で見た事があるのだが、実にえぐかった。

 そんな悲惨な負け方をしたプレイヤーの二の舞、三の舞となるのは絶対にご免こうむる。だからこそこうしてチクチクと攻撃する形を取っている、というかそうするしかないというのが正しいか。相手の強みに付き合っていたら命がいくつあっても足りない。相手の強みを殺して自分の強みを押し付ける、というのも対人の基本だったな。

 ついにいら立ちを抑えきれなくなったか、相手は強引にシールドバッシュで攻撃を仕掛けてきた。自分はそれを《大跳躍》で回避するだけに留めず、相手の頭を踏みつけた。むろん優しくではなく蹴る勢いでだ。が、これも手ごたえが薄い。あんまり大したダメージになっていないのが分かる、相手の装甲は並じゃないな、これ。

(この装甲を抜くのは並の攻撃じゃだめだな。ドラゴンの矢とかパイルバンカーなどの貫通力が強い物を用いないと大きな一撃は取れそうにない)

 頭部というのは基本的に弱い箇所のはずなのだが、目の前の相手にはそれが通じないだけの防御力があるのは間違いない。そして大盾に矢を跳ね返される可能性を考慮すると、もう一発パイルバンカーを──今度は相手の体に直接突き刺すことが自分の勝利につながる道か。とはいえ、パイルバンカーは一度見せているから相手も警戒している。当てるには何らかの策が必要か。

 再び間合いが開いたので、もう一度にらみ合いになるが──自分はここで、先ほど大盾で矢を跳ね返してくるという事を確かめるべく八岐の月を構えて矢を番えた。自分の動きを見て相手は盾を構えなおしている。それを確認した後に自分は矢を放った、相手の大盾の下あたりに。

「《プロジェクト・リフレクター》!」

 すかさず相手はアーツを展開、大盾の前に膜の様なものが展開された。日本語に直せば投射物反射となるのか? まあとにかくやはり反射アーツは持っていたか。しかし、残念ながらそのアーツは効果を発揮できない。なぜならば、先ほど放った矢は相手に届かないのだから。当たらない以上、反射の仕様がないよね。そしてさらに自分は動いた。

「《トライアングル・シュート》!」 

 キック系統のアーツであるトライアングルシュートで空中を蹴り軌道を変えて相手の頭部に蹴りを見舞う。相手はアーツで動けないからこれは刺さる。蹴った脚からしっかりとした感触が伝わってきたが──浅いな。アーツで蹴っても、ダメージを稼げないとは。これは自分の基礎能力が低い事が原因だろう。純粋に戦闘に特化した人が放っていれば、しっかりとしたダメージが入ったはずだ。

 追撃をすることも考えたが、ここは後ろに飛び跳ねて間合いを再び取る事にした。再び向かい合って相手の姿を観察するが、やっぱり先ほどの《トライアングル・シュート》はあんまり効いていない。相手の反応が軽く首を振るだけに留まっているからな……効いていれば、もう少し大きなリアクションを取っているはずなのだ。

「くそ、ここで騙されるとは……反射の弱点を突かれたか」

 相手が苛立たしげにそうつぶやいた。反射すべき物体が反射できる個所に当たらなければ反射の仕様がない、これこそが反射の弱点──そう、この動きはかつて黄龍のおじいちゃんと行った試練の時にも使った手段だ。あの時もそういえば、頭部に蹴りを入れてもほとんど効いていなかったなぁ。思い出したからやってみたけど、結果まで同じじゃなくていいのよ?

 とはいえ、これで更に相手を揺さぶること自体はできたかな? 自分の行動を相手に見抜かれ、更には攻撃まで貰うというのは大なり小なり動揺するものだ。動揺に動揺を積み重ねていって相手の心を揺さぶり、生まれる隙ににパイルバンカーを叩き込む流れを作りたい。その為にもここは焦らず相手を少しずつ崩していこう。

 今度は互いに間合いを詰め、ギリギリのところで動きを止める。が、自分は一拍置いてから再びレガリオンを振ろうとした──が、嫌な予感がして左へと回避した。直後、金属音が耳に届く。武舞台に軽めの金属が落ちたような音だ。そこから予想されるのは相手がナイフのような何かを投擲してきたという事だ。

「ちっ!」

 舌打ちをしながらも、再び自分に向かってナイフのような何かを投げてくる相手。なので少しだけ集中力を強めて相手の投げてきた物を見る。その正体は──鏢、だ。ひょうと言っても振ってくる雹のことではない。中国の暗器の一つで、日本の苦無と見た目多少似ているか。

(これまた珍しい物を。とは言ってもマッスルのパワーで投げられる鏢の威力は推して知るべし。食らったらまずいな)

 基本的には回避しつつ、回避が難しい物は八岐の月やレガリオンで弾き飛ばす。弾き飛ばした時に見えたのだが、刃は鋭く、並の鎧なら容易く貫くだろうと感じさせるものがある。やはり一発でもまともに被弾したら残りのHPなどすべて消し飛ばされかねない。鎧やマントの防御性能もあるが、積極的に頼るべきではない。あくまで鎧などの防御は回避できなかったときの最後の運頼みなのだから。

 こちらが完全に受けに回ったことを見たからか、相手は大盾すらも一度地面に置いて両手で氷を持ち次々と投げつけてくる。ちょっとしたシューティングの様にいくつもの鏢が自分の命を食い破ろうと迫ってくる。その数に、全てを捌ききることが難しくなった。いくつもの鏢が四肢を掠ってしまい、今度はこちらがじりじりとHPを削られるようになってしまう。

(力任せではない、練習に練習を重ねた投擲の技術によってこの鏢の恐ろしさが跳ね上がっている。このままでは、こちらのHPが持たない)

 とはいえ、ここで防御態勢を解除すれば一瞬で蜂の巣にされかねないので耐えるしかない。鏢の数があとどれほどあるか分からないが──泣き言を言っても始まらない。ここは耐え忍んで期を待つべき所だ。相手もここまで見せなかった手札をガンガン開けなければこちらを倒せないと踏んだのだろう。つまり、焦りが含まれているはず。

(ここを耐えれば、相手はきっと焦る。この投げつけられた大量の鏢の数と勢いからしてこれで倒しきる計算がある筈だからな。それをひっくり返せば──こっちの番だ)

 何より、こんな行動をとるって事は近寄られたくないと言っているに等しい。だからこそこんな行動と暗器まで持ち出したのだ。その暗器が尽きた時が、こちらの勝機だ。だからこそ、ここは耐え抜いて見せる。この程度で、終わってたまるか。
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