とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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砂龍師匠から最後のプレゼント

【ふむ、この声が届いたという事は……明鏡止水を真の意味で習得できるか否かのところまで行ったという事か。この伝言も無駄にならずに済んでまずは良かったというところだろう】

 砂龍師匠の声がとても穏やかだった。あのような形で世を去ったのに。

(さて、成功したか失敗したかはさすがに分からぬが──どちらにせよ、お前には我から最後の贈り物として技を伝授しよう。お主が目を開けたときに、成功したときは《龍咬》(りゅうこう)が、失敗したときは《龍牙》(りゅうが)がお主の体に宿るだろう。まず《龍牙》から説明するが、これはあのときの一閃そのものだ。本当の意味でこれを使いこなせるだけの時が来たという事になる)

 ロスト・ロスの障壁を無視して斬ったあの一撃の事だろうな。ここで正式に技の名前が出たか……やっと、本当の意味での習得という事になるわけだ。

(そして成功していた場合の《龍咬》の方だが、これは抜刀術でありながら二連撃となる技となる。威力も《龍牙》よりはるかに勝る。《龍牙》が龍の牙による引き裂き、《龍咬》は文字通り龍によるかみつきと想像すればよい。そして《龍咬》を習得した場合はさらなる先がある事も伝えておこう)

 成功していれば更なる先があるのか──残念ながら自分は失敗したからその先を見る事は叶わないが。

(わが最後の愛弟子よ、我はお前と出会えて楽しかった。幾人もの弟子を取ったが、お前のように熱心に修業を行って鍛錬を積み、己を磨くものはそう多くなかった。そんなお前が成長していくたび、我も雨龍も実に喜んだものだ。この贈り物も、そのためよ。お主があまりやる気もなく己を鍛えぬ者であったならば、このような事はせんかった)

 砂龍師匠──自分は本当にいい師匠に恵まれた。ここまでしてくれる師など、そうそう居るものではないのだから。

(最後にこれだけは伝えておこう。たとえ肉体は滅び魂は天に昇っても、我は空の果てからお前を常に見ている。最後の最後まで、お前が納得するだけの旅を続け、修練を積み、難物に挑み続けよ。修業に終わりなどない、たとえ体をこれ以上成長できない程までに鍛え抜いても、心はその先まで伸びて行く。その様を、我はずっと見ているぞ)

 その言葉を最後に、何も聞こえなくなった。では、目を開けて立ち上がろう。想定外の出来事だったが、ここで《龍牙》という新しい手札が手に入った。どういう技か、嫌というほど理解している。ロスト・ロスとの決着をつけたあの一太刀の手ごたえを忘れる事などできないのだから。


 静かに目を開けた瞬間──自分は固まった。そこには当然武舞台があったのだが、世界が真っ青に見えたからである。まるで日本晴れの世界にものを配置したかのような──そんな世界が見えた。その青はゆっくりと落ち着いて本来の色合いに戻っていったが、さっきのは一体──と、ここでインフォメーションが展開した。

INFO 貴方の〈魔剣の残滓・明鏡止水の極致〉は〈真・明鏡止水〉へと進化しました。このスキルは特殊なスキルであり、スキルレベルという概念は存在しません。使い込み続ける事で本人のみが理解できる強さを持つスキルとなります。新しいアーツ《龍咬》を習得しました。明鏡止水状態を維持し、条件が整ったときのみ発動できるアーツです

 どういう、事だ? 成功、していた? 光はか細くなって消失し、青い世界は広がらなかったはず。なのになぜ成功している? それに先ほどの世界が青く見えたのも──ダメだ、さっぱり分からない。が、説明してくれる存在はもういない。砂龍師匠は天の先へと昇ってしまっているし……

 混乱気味だが、それでも次の試合がある。深くあれこれと考えるのはその後にしようと考えてとりあえず自分は立ち上がった。ダメージの蓄積の影響なのか、体がふらついた。それでもまあ、何とか立ち上がる事が出来たが──やはり運営役のプレイヤーに声をかけられる。

「アース選手、本当に大丈夫ですか? 正直に申し上げて、ギブアップしていただいた方が良いとこちらは判断しています。相当な痛覚に何度も晒されてしまった今の貴方は、精神的な疲労をかなり覚えているはずです。これ以上戦いを継続することはお勧めできません」

 もっともな話だろう。そして彼の言葉通り、今の自分は非常に精神的な消耗が激しい状態だ。長期戦はもう無理だろうな……勝つならば短期決戦。《龍咬》を相手に決める外ないだろう。

「アース、もういい! 十分戦ってくれた! ギブアップして終わりにしても俺達は一切文句を言わない! だからこれ以上の無茶はしないでくれ!」

 ツヴァイからもそんな言葉が飛び出していた。そう言われても仕方ないだけの消耗を、今の自分は確かにしている。だが、一枚切れる手札が手に入った以上、あと少しだけやらせてもらう。

「ツヴァイ、気にしなくていい。これは自分のわがままだ、最後までやり切りたいというわがままだ。今日のこのギルド戦が終われば、もう後は最終日まで塔の踏破を諦めない人達への支援に回る日々になる。そう、ツヴァイ達と一緒に楽しめる機会はこの日が最後なんだ。ソロ活動ばっかりやっていた──自分になんだかんだと付き合ってくれたツヴァイを始めとしたブルーカラーの初期メンバーと一緒にやれる最後のイベントになるんだ。だから、最後までやらせてほしい」

 普通、ソロばっかりしているプレイヤーにギルドにも入らないのに親しい付き合いを長く続けてくれる人というのは早々いない。そんな人よりもギルドメンバーを大事にする方が一般的だからな。なのにツヴァイを始めとしたブルーカラーの面々は、なんだかんだと自分との付き合いを続けてくれた。なかなか稀有な面々なんだ。

 そんな面子に、最後に贈り物の一つをしたって罰は当たらないだろう。ここで勝っても手に入るのは名誉だけだが、その名誉はとても重い。もう手に入らないというのが何より重要だ。だからこそ、彼らにその名誉を与えたい。まさに自分のエゴ、わがままそのものだ。でも、自分がそうしたいのだからやるだけである。

「ああもう! そこまで言われたら止めるに止められねえじゃねえか! でもよ、アース! これだけは言っておくぞ! 明確に無理だと見たら俺達が強制的にギブアップさせる! それでいいな!?」

 このツヴァイの言葉に、答えたのは自分では無くマッスルの最後のひとりとなった彼であった。

「俺が強制的に止めるさ。俺だって嬲り殺しなんて事はしたくないからな──だが、嬲り殺しなんてさせてくれるとは思えないだけの目をしているんだよな……なあ、アース。お前さん何を掴んだ? さっきまでとは違う雰囲気が漂っているんだが」

 そうか、彼もまた感じているのか。自分がさっきまでとは変わったことに。だが、もちろん自分は答えない。もし教えるとしても試合の後だな……それはそれでいいとして。

「一つ、質問があるんですが。なんかそこでうめき声を上げながら倒れている人は一体何なんでしょうか?」「ああ、そいつはお前をヤジったんだよ。痛いふりをするな、最後まで戦えとな」「あらま」

 教えられて理解したが、ヤジられたのは自分が砂龍さんの最後の思念との対話の最中だったんだろうな。自分には全く聞こえていなかったし。

「そんな事があったのですか」「──全く聞こえていなかったようだな。それだけの痛みを感じながらもこうして立ち上がってくる奴にヤジるとか見下げ果てた奴だからな……まあ、つまらん奴だ。忘れていいだろう」

 まあ、彼の言う通り忘れてよさそうだ。そしてついに時間が来る。最後の試合が始まる。

『では、最終試合を始めます。ただし、アース選手に明確な問題が発生したときには即座に試合を中止させていただきます。アース選手、よろしいですね?』

 これは仕方がないだろう。もう明確にボロボロな状態だしな……それでも、やれるだけはやらせてもらう。さあ、試合開始だ。


スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! エルフ流・限定師範代候補Lv50 精密な指Lv80 小盾Lv49 〈双龍蛇剣武術身体能力強化〉Lv19 〈真・明鏡止水〉 隠蔽・改 Lv7 義賊頭 Lv90 百里眼Lv46 妖精招来Lv22 (控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身・覚醒Lv??(使用不可) 偶像の魔王 Lv9

控えスキル

木工の経験者 Lv14  釣り LOST!   人魚泳法Lv10 〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝〉The limit! 薬剤の経験者 Lv43  医食同源料理人 Lv25

ExP 40

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在  天を穿つ者 魔王領名誉貴族 獣の介錯を苦しませずに務めた者 氷の祝福 聖樹の祝福(エルフ)

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》

付与ステータス 最大HP低下 最大MP低下 黄龍封印
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