とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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そして再び話し合いの場

 さっそく宿屋の一部を借りて(もちろん宿屋の主人には話して許可を取った)の話し合いが始まった。まずは、当然マッスルのギルマスからだ。

「さて、結論から言ってしまうが……こいつは良い。実に使える装備だ。もう動画が出回ったらしいから見た奴もいるかもしれねえが、厄介な二メートル弱の頑丈さと機敏さを兼ね備えたゴーレムを一撃でぶち抜いた。片手武器や槍ではあまり通じず、両手斧などの攻撃速度からどうしても捕まえにくいあいつを、だ」

 このマッスルのギルマスの発言に、自分を除く皆の表情が変わった。それだけの強敵という事か。

「あいつを打ち抜くのか──頼りになる事は間違いないな」「俺の両手剣でも、ゴーレムを砕くのは骨だし、サイズが人間に近いとちょろちょろ動き回られて当てにくいんだよなぁ。そいつを一撃か」

 レイジ、そしてツヴァイの言葉からも厄介な相手であることは嫌というほどに伝わってくる。そんな面倒な相手を一撃で抜けるとなれば、そりゃ表情を変えるのは当然だろう。

「実際には手助けを借りて、一瞬だけ動きを止めて貰ったんだがな。だが、その一瞬があればこいつはぶち抜いてくる。どうしても砕くために大振りになってしまうが故に命中率が落ちる両手斧とは比べ物にならない。一瞬のチャンスでぶち抜くという事を両手斧でやるならば、連携を取って誘い込んで打ち込む一瞬だけ動きを止めるという行動が必要になるが、援軍に行った先でそこまでの連携はまず取れないからな」

 マッスルのギルマスの言う通り、即席パーティで練度の高い連携を決めるというのは無茶だ。もちろんお互い一定レベルの腕はあるからある程度の連携はすぐにできるだろう。だが、ここでのマッスルのギルマスが求めたのは互いの呼吸を合わせてチャンスメイクをしたうえで、そのチャンスをしっかりと物にするだけの練度の高さが求められるという話になる。

 それを出会ったばっかりの人間が可能にするなんて無茶にもほどがある。他のゲームなんかにも連携技ってものはあるが、それは大体決まった行動──例えば特定の技の後にさらに決まった技を決めるとコンボになって威力が跳ね上がるとかの物だ。こういう簡単な物であれば、事前情報さえあれば初見のプレイヤー同士であっても決めるのは難しくない。

 一方でワンモアに求められるのは、本当の戦術が入り混じった戦闘になる。モンスターを誘導するにせよ、攻撃のタイミングにせよ、何度も同じ面子で戦って呼吸を合わせて、俺が囮になって誘導すればあいつは必ず決めてくれる──という信頼関係も無ければレベルの高い連携は成功しない。もちろんマッスルのギルマスが求めたのはこちらだ。

「確かにある程度まではともかく、ここで完璧に合わせるというのは援軍先の人にも求めるのは酷な話ですからね……それが簡易な連携でもあのゴーレムの胴体を打ち抜けるというのは大きい話です。私も今日受け取ったこの子の活躍が楽しみでなりません」

 と、ヴァルキュリアスのギルマスが先ほど渡したパイルバンカーを宝物でもあるかのように優しくなでている。

「ああ、とにかく一〇〇階ぶち抜きの試練で難易度を跳ね上げる障害の一つがあの新しいゴーレムたちだからな。あいつらを即座に叩き落とせるとなれば、かなり難易度が下がってくる。だからこそ、さっきの様な事になったんだろうがな」

 と、今度はマッスルの副ギルマスが自分を見ながら発言をした。まあ、あんなことになっちゃ言われるのも仕方がない。

「あっちの意見が分からない訳じゃないんですけどね。それでも物理的にどうしようもないですから断る以外の選択肢は初めからないですよ。時間も素材もぎりぎりですし」

 自分の返答に誰もが頷いていた。状況をきちんと理解してくれているからこそだろう。

「俺も欲しい! となるのは分かるんだがなぁ」「かといってアースに押し掛けて作ってくれは無理だわ。もはや金も一部を除いてほとんど意味が無いからな」「アースが総資産ナンバーワンを狙っているなら話は別だが、狙ってたか?」「興味ないなぁ……あくまでこのパイルバンカー製作も状況打破のためだし。もしお金が欲しいなら最初から要求しますよ」「だよなぁ」

 お金が欲しいなら各ギルドから話を持ちかけられたときに要求している。でも別に資産トップとか全く狙ってない。ワンモアがプレイできる残りの時間、問題なく行動できるだけのお金があればそれで充分なのだ。そしてそれだけのお金はすでに懐にある。だからパイルバンカーを製作するときに材料しか要求しなかった。

「つまり、そいつらがアースに出せる物ってないんだよな。まあまだ残り時間が一か月とかあれば変わって来るが、それはもしもの話に過ぎない」

 ツヴァイの言葉に自分は頷いた。もう何を貰っても意味が限りなく薄いんだよな。薬草も幸い残りの時間で使う分には十二分にある。最終決戦用の分を考慮しても、やはり在庫は潤沢過ぎるほどにある。更にもうしばらくパイルバンカーの製作をするので、装備品が傷まない。これにより補修に使う素材も必要なくなってしまった。おかげで色々とアイテムボックス内で死蔵という形になり、使わない可能性が高いものが出てきてしまっている。

「やっかみは、仕方がないでしょうね」「そればかりはどうしようもない。成果をもって納得してもらう他ねえよ」

 カナさんの言葉に、マッスルのギルメンのひとりがそう返していた。確かにそれしかないんだよなー……言葉で言ってどうこうなる話じゃないんだから。これだけの成果を上げるために必要だったという理屈で納得させる他ないだろう。

「とはいえ、アースにちょっかいをかけられるのは困るな。俺達が護衛に回ってもいいんだが……」「おいおい、ウィザードナイツも塔の援軍役として活躍してるって話は聞こえてきているぜ? あんたらが塔の援軍に向かわないとなったらブーイングが起きかねないぞ」「それはここに居るマッスル、ヴァルキュリアス、ブルーカラーも同じだろ。どこかが塔にもう援軍として向かわないとなったら、掲示板である事ない事書かれるぞ」

 そうなのか、後で掲示板を確認しよう。まあ、このギルドの面々なら、それぐらいの活躍をしていても驚かない。していないと書かれていたら驚くが。

「まあ、こっちはこっちで何とかするしかないですよ。どこもかしこもまだあきらめていない人達からの熱気って奴は嫌でも伝わってきます。ここでこちらの護衛として皆さんのギルドの面々が傍についたら、それこそ何を言われるか……」

 宿屋の作業をしていると、なんとしてでもと血走った眼をしている人なんて何人も見た。そこまではいかなくても諦める物かと意思を持って動いているプレイヤーはまだまだ見かける。そんな彼らの熱に冷や水をかけるような真似はしたくない。諦めない者には何らかの手助けがあってもいい筈だから。

「アースの言う事ももっともなんだよなぁ。そこが悩ましい」「実際ここの話し合いが終わってもまた援軍に向かうんだろう? 需要は高まる一方だ、特にマッスルのギルマスが援軍に来てくれれば希望が見えるとまで言われ始めているぞ」「パイルバンカーを絡めた戦闘方法が受け入れられたのは良いが、あまりにも要望が高すぎるのも困った話だぜ」

 などと、各ギルドのギルマス達の言葉が飛び出し続ける。ここまでの話を聞いていれば嫌でも理解できる、実力がトップ層にあるこれらのギルドにいるというだけでも一目置かれる上に、パイルバンカーという厄介な相手に対する圧倒的なメタとなる切り札を所持しているとなれば、当然誰もが来て欲しいと願うのは自然な事だ。

 そして、そのメタ要素を自分の手の中に入れたいと考えるのも、至極当然のことだ。そんな人たちが今日自分のことを探し当てたプレイヤー達なのだ。行動は間違ってはいないんだがな……物理的な問題で、彼らの要望には応えられないんだ。

「それも、休憩する時間は必要だろう? その時間を活かしてアースの傍にいる時間を作るというのが妥当だろう」「それしかねえか……俺達四ギルドで調整すれば、それぐらいはできるだろう」「アースにちょっかいをかけられてパイルバンカーの製作が遅れれば全体に響くからな。それぐらいのことは必要経費だ」

 最終的にそう纏まったらしい。そして、各ギルドからギルメンの休憩時間を使って、自分の傍に最低でも誰か一人はいるようにするという事が正式に決まった。おそらく明日も自分の所にやってくるプレイヤーはいるだろうし……申し訳ないけれど、力を借りる方がよさそうだ。
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