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16巻
16-1
1
黄龍様と龍神様から呼び出され、〈黄龍変身〉についての忠告を受けた翌日。自分――アースはアクアの背に乗せてもらって、龍の国からエルフの村へと移動した。
人目につかない所まで来たら空を飛んでもらい、大した時間もかからずに到着。
久々の訪問だし、蹴りの師匠であるルイさんに不義理を怒られてしまうかもな――そんなことを考えつつ、小さくなったアクアを頭に乗せて村に入った訳なのだが……
「何ということをしてくれた!」「極刑に処せ!」「森をなんだと思っているのだ!」「裁け! 絶対に裁け!」
エルフの村には怒号が飛び交い、非常に殺気立っていた。
一体何があった? 以前来たときは、こんな風にエルフの皆さんが声を荒らげていた記憶はないぞ……とりあえず様子を窺うか? とても話ができるような気配じゃない。
より激しく怒号が聞こえてくる方向に歩いていくと、大勢のエルフが集まっていた。そしてそんな皆さんに取り囲まれるように、昔の罪人みたいに手と首に枷をはめられている人族がいた。こんな扱いを受けるからには、何かとんでもないことをやったんだろう。
「皆の者、静かに! 気持ちは分かるが静かに! これより、これら六名が行った罪についてどのような罰が相応しいかを決める! できる限り感情的にならぬように!」
そんな中、一段高い場所にいる一人のエルフがそう宣言する。一斉に皆が静まったところからして、おそらく長老ランクの人なんだろう。
その様子を見た長老エルフさんは、一度静かに頷いた後でこう言った。
「改めてこの六名の罪を発表する! こやつらの罪は、我らがエルフの森の木を勝手に伐採したことだ!」
あ、これは完全にアウトだ。エルフの森の木は勝手に切っちゃいけない、切りたいのであればエルフの皆さんの許可を得ること、ってちゃんと事前に説明があったのに。
「さらに、切り出した数が数だ! 数本だったならまだここまでの大事にはしなかった。だがあろうことかこの者達は、我らが調べただけでも七一本もの木を切り倒している! それにより、森の一部にぽっかりと穴が空いたように木が消えてしまった! その周辺で生きる者達の環境が狂ってしまい、大変なことになっている!」
それほど大量に切り出したら、そうなってしまうよな。大木ばかりだと日差しが遮られ、他の草木が育たなくなってしまうので、ある程度の調整は必要だが……明らかにそんな範疇からは逸脱している。どう考えても無罪はあり得ない。
「さて、勝手に木材を切り出した人族よ、そのことについて何か言いたいことはあるか?」
容疑者にも発言の機会はちゃんと与えるのか。さて、何を言うのやら。
「木なんてあれだけあるんだ、あれくらい持ち帰ったって森は壊れねえよ!」「ここの木材は弓にも杖にも使えるいい木材なんだ、そんなお宝を独り占めしてるのが悪いんだろ!」「少し待てばまたすぐに元通りになるだろ! いくらなんでもこんな枷をつけるなんてやりすぎだろう! さっさと外せ!」「いい物を手に入れて、必要とする人に売る、俺達がやってるのは真っ当な商売だ!」
――ダメだな、話にならない。おそらくこの人達は、ネクシアやサーズの街にある伐採場の気分でやったんだろう。つまり、おそらくプレイヤーだ。
というか、もしかして以前から龍の国とかで木材を買い占めていた犯人は……こいつらか? こんなことをやらかすくらいだし、可能性はあるよな。
「ふむ、なるほど。では他の人族の者に尋ねようか。この者達の言っていることや考え方が一般的なのかどうかをな」
そう言ってから、何やら呪文を唱える長老エルフ。そしてその魔法が発動した途端、自分の視界はぐにゃりとぼやけて、すぐにまたはっきりと見えるようになった。
ただし、そのときには周囲をエルフの皆さんに取り囲まれていた。一体何が……?
「近くにいた人族を三名、無作為に呼び出した。この者達から意見を聞こうではないか」
今の魔法はそういう効果だったのか。何とか状況を呑み込んだところで、長老エルフが自分達の前にやってきて、軽く会釈した後にこう言った。
「急に呼び出してすまない。だが、君達はここからそう離れていない場所にいたため、ある程度状況を理解しているはずだ。そこで、あの六人に対してどう思うかを教えてほしい。よろしく頼む」
隣の二人は、突然の展開とエルフの皆さんからの視線に萎縮してしまっている。ならばここは一つ、自分から質問しておくか。
「すみません、自分の考えを述べるために二つだけお聞きします。まず、彼らが切り出してしまったという木を見せてもらうわけにはいかないでしょうか?」
こう聞くと、エルフの皆さんの中から「我々の調べを疑うのか!」という怒声が飛んできた。だが、そんな怒声を抑えた長老エルフさんが、「よし、ならば見せよう。持ってきてくれ!」との指示を飛ばす。
そうして運ばれてくる数本の木材。まだ加工されておらず、ただ切っただけという状態のそれを観察した結果、自分はある判断をした。
「それからもう一つ質問です。彼らを取り押さえたときの状況を教えていただけないでしょうか?」
するとどうやら、彼らが森の中で木を切り倒そうとしているところを、パトロールしていたエルフたちが発見してその場で取り押さえた、ということらしい。その証拠品として、加工するための道具が突き刺さったままの木まで出てきた。
その木を見た途端、また周囲の殺気が強まる。ここまで証拠が揃っているなら、もう言い逃れはできないな。本当に七一本かどうかまでは分からんが、少なくとも勝手にエルフの森の木を切っていたことだけは間違いない。
「ありがとうございます。伺ったお話と見せていただいた証拠を検討した上で、自分が下す判断は……はい、有罪ですね」
枷をつけられている連中がこちらを睨みつけてくるが、知ったことかと自分は話を続ける。
「まず、全く知らなかったということであればまた話は変わりますが……エルフの皆様はきちんと、いくつも設けている案内板にて『森の木を勝手に切ってはいけない、どうしても切りたいときはエルフの許可を貰うように』と知らせています。それから、実は自分は一回だけ、今は亡きエルティルから許可を得てエルフの森の木を切り倒したことがあります」
この自分の言葉を聞いて、真剣な目を向けてくるエルフの人達。その視線に呑まれないように内心で気合いを入れ直してから、自分はさらに言葉を紡ぐ。
「そしてそのときに見た木の断面には……先程の証拠品の木のようなみずみずしさや生命力はありませんでした。つまり彼らは、まだまだ生きることができる元気な木を切り倒してしまっている。それはすなわち、森にとって必要な木を切り倒してしまったと言っても良いと自分は考えます。それらの観点から、自分は彼らの行為を有罪と考えました」
長老エルフさんは一度頷いてから「よく分かった、では次の者の意見を聞きたい」と話を振った。
結局他の二名も、自分なりの考えなどを述べた後に、有罪と判断した。
「我々だけでなく、人族達も罰すべしとの判断を下した! よって彼らは牢へと連行し、より深く調べを進めた後で罰を下す! ただし、どんなに軽くても永久追放の刑に処すこととする!」
ま、そうしないとおさまりがつかないよね、根本的なルールを破っちゃったんだから。
エルフの村が実装されてから結構時間が経ってるんだし、さすがに単にルールを知らなかったって可能性はあり得ない。プレイヤーであっても、こっちの世界の人であっても、ね。
そんな風にして有罪であると確定した六人は、そのまま村のどこかへ引っ張られていった。
◆ ◆ ◆
「――なんてことがあったんですよ」
ここは蹴りの師匠であるルイさんの家。
なんでもルイさん、前日にかなり疲れる訓練をやっていたそうで、訪ねたときは寝起き状態だった。それで、村が騒がしいけど何かあったの?と自分に聞いてきたので、その原因を報告していたのだ。
話を聞き終えると、ルイさんは「それは許されることではないわね」と怒気を孕んだ声で呟いた。森と共に生きるエルフとしては、こう考えるのが当然なんだろうな。
「それにしても、随分とお久しぶりよね。あんまりにも来ないものだから、どこかで行き倒れてしまったのかと思ったわ」
雰囲気が暗くなったのを感じて、ルイさんが話を変えてきた。自分もこれ以上今の話題を続けるつもりはなかったので、その流れに乗っかる。
「まったくもって申し訳ない。ただまあ、向かった先で色々とあったんですよ……そう、色々と」
獣人連合でもやたらと事件があったからなぁ、特に最後の盗賊団との一件がなきゃ、もっと早くここに来られてたのに。まあ、きっちりと終わらせてきたから問題はない、はず。
「貴方に課す訓練は色々あるからねー? しばらくはここにいられるのよね?」
急いでやっつけなきゃいけないことはないので、素直に頷く。自分としても、最近出番がなかった足技関連をここで鍛え直しておきたかったから、訓練は望むところである。
「森の見回りなどを搦めつつ、訓練を行っていくからね。それと、訓練なんだから貴方の頭の上にいる子に頼っちゃダメよ。いいわね?」
アクアに頼ってたら訓練にならないからね、当然の話だ。久々に師匠にしごいてもらいますか……なまってないといいけど。「痛風の洞窟」以降、あんまりにも蹴り技を使ってないんだよね。
◆ ◆ ◆
そして……やっぱりなまってました、というのが結論だった。
そんな自分を見た師匠が容赦なくハードルをガンガン上げてくれるので、毎日ボロボロ。この一週間の行動内容は――
ログインしたら宿屋から出て料理を用意し、特設修練場に向かう→ルイさんとひたすら戦う(基礎は叩き込んだので、後はひたすら戦うことで磨き上げていくらしい)→ブッ飛ばされて転がされて、食事休憩までボール気分を味わう→食事休憩中に必死で息を整える→ログアウトするまでひたすら戦う→ボロボロの体を引きずって宿屋まで帰ってログアウト。
こんな修行なんだかイジメなんだか分からない毎日を送っているおかげで、〈剛蹴〉のレベルアップ速度が異常なことに。三日目でレベル50になり、〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉からExPを3消費して〈砕蹴(エルフ流・一人前)〉に進化。それがさらにレベル31にまで上がってしまった。いくらなんでも急激に上がりすぎだろう……ルイ師匠曰く、
「蹴りの修練はあまりしてなかったようだけど、肉体の強さそのものは以前と比べるとかなり上がってるから……その体にふさわしい訓練をしているだけよ」
ということらしい。こちらからしたら、ひたすらボールとして蹴られてお手玉されてゴールの中にぶち込まれた気分なんですが。
ちなみにアーツは、まず〈剛蹴〉レベル50で《開門》という一種のガードブレイクの特性を持つ蹴り技を習得した。一発目の蹴りで相手の動きを封じて姿勢を崩させ、二発目の蹴りで門を蹴り開ける、というイメージのネーミングだと思われる。ただし、一発目の蹴りを放つにはかなりのタメ時間を必要とするので、相手との読み合い勝負になる。
さらに〈砕蹴〉のほうでは、レベル1で《幻体》という技を習得。体と足の動きで幻影を見せて相手の命中力や回避を惑わす技だそうだ。スキル名にある「砕」きに行く前の事前準備、ということだろうか?
そしてもう一つ、レベル25で習得したのが《楔》。つま先で相手を三回蹴り、攻撃が全て命中すれば蹴った場所を結ぶラインの内部で爆発を起こす、というものだ。蹴った場所が離れているほど最終的な威力が上がり、まさに相手の体に楔を打ち込んで砕くアーツと言える。ただしマニュアル発動限定であり、自力でつま先での蹴りを成立させないといけないところなどは、体を使うVRならではだろう。
が、せっかく身に付けたこれらの各種アーツも、ルイさんには当たらない、もしくは発動前に潰される、という散々な結果に。よく言うように、当たらなければどんな攻撃も意味がないのだ。それどころかアーツを撃った途端に反応して、容赦ないカウンターがふっ飛んでくる。
そんなわけで、どれも使ったのは一回か二回だけ。マニュアル発動に切り替えないと通用しないかねぇ。唯一オート発動がない《楔》は、蹴り方が明らかに変わるから簡単に見抜ける、とはルイ師匠のお言葉。
そんな一週間を過ごした頃、ルイ師匠が「そろそろいいかな?」とボソッと呟いた。
それを聞いた途端、ビクッ!と反応してしまった自分が嫌だ……
だがこの言葉の意味は、修練のレベルを上げるということではなかった。エルフの森の見回りに行こう、とルイ師匠は言う。
なぜですか? と問うと、森を走ることで足腰を鍛えるためだそうで。それに加えて、先日の事件を考慮して、エルフの皆さんの中では見回りを増やそうという空気が流れているらしい。ルイ師匠も自分がいないときに見回りに行ってたんだろう。
そういえば、先日牢に引っ張られていった奴らの末路も発表されていた。まず、エルフやダークエルフの領域からの永久追放。さらに全員に特定の腕輪と足輪が強制装着された。んで、その腕輪と足輪には、装着者の生命力と魔力を奪い取ってエルフの森の木々に与える、という効果があり、そうして吸い上げた力を新しく植えられた幼い木々の生長に用いるのだという。
木が生長すれば腕輪や足輪は自然と外れるそうだが、木は生長に時間がかかる。基本的に死ぬまで外れることはないだろう。
執行する刑の候補には、死刑も挙げられたらしい。しかし、殺してしまうと苦しみは一瞬で済み、それでは罪に対する報いとして不十分すぎるとして、このように長く苦しむことになる罰が下されたそうだ。
こうした発表を記したエルフの連絡板には、この六名のことは世界に広く広めた、とも書いてあった。つまり、あの六人は今後どこの国に行っても『その国の規律を守れない愚か者であり、犯罪者である』と知られることになる。
そうなれば……悲惨だな。誰だって犯罪者とは関わり合いを持ちたがらないだろう。それはすなわち、お店で物を買えず、宿屋にも泊まれなくなるかもしれない、ということだ。それ以前に、街に入れすらしないかもな。
そうして孤立していけば、最終的に待っているのは死しかない。映画とかにあるような、法がないのが法なんていう悪人街なんてものでもなかったら、もうどうにもならないんじゃないかねぇ。
「やっぱり魔物の数が急激に増えてるわね……修行も兼ねてどんどん狩るわよ!」
そして、木を切った人達に厳罰が下された理由の一つがこれ、魔物の大増殖だ。
というのも、定期的に大討伐をしなくてはならないとはいえ、基本的にこの森はモンスターの発生を抑える役目を担っているそうだ。これは基本的に部外秘だが、エルフに対して悪意を持たない、信頼できる者には伝えてもいいらしい。
ともかく、大量に木が消えたことでそんな森の力が低下し、こうしていちいち倒さなければいけないようになってしまっているのだ。
ちなみに自分の頭上には、今回も案内役として契約した、ハムスターに似た姿のキーン族のとらちゃんが乗っている。
「一つ、二つ、三つ! 《楔》成立!」
ラインが走って、グラスホッパーを砕く。
早く使いこなせるようになるため、自分はこのように時々新しく覚えたアーツを組み込んで戦っている。久々に振るわれたレッグブーツの牙は、嬉々としてモンスターの体をえぐっているような気がするな……牙部分はドラゴンの素材で作ってあるから、その影響だろうか?
また、これも修行ということで、使っていいのは蹴り攻撃系統だけ、とルイ師匠から指示があった。まずルイ師匠とアクアが数を減らし、自分だけで対処できる数になったら手出しはしないという感じだ。
ただ、それなりの時間をかけて戦っているのに、スキルレベルは全く上がらない。先に一気に上がった分の反動なのか? それともルイ師匠との訓練が苛烈すぎたせいで、この程度の相手ではもう格下扱いになってしまっているんだろうか。
「うーん、数は多いけどそれだけね。見回りは必要といっても、これじゃアース君の訓練としてはぬるすぎるわ……サージェントランクじゃないとダメかしら」
師匠、今は大討伐中じゃないです。物騒なこと言わないでください……それにレベルが上がらないってだけで、弓も魔法もスネークソードもなしで複数のモンスターを相手にするのは結構きついんですよ!? そりゃ、確かに師匠にボコボコにされるよりはましですけどね!?
「よし、もうしばらく見回りをしたら……ダークエルフの領域で訓練しましょう! そうと決まれば、もっと魔物を討伐しちゃわないと。さ、アース君。次行きますよ!」
師匠、お願いですからもう少しペースを落としていただけると……聞いてくれそうにないなぁ。アクアも諦めなさいとばかりに首を横に振っているし、とらちゃんは肩に下りてきてポンポンと軽く叩き、頑張って!って感じで応援(?)してくるし……行くしかないかぁ。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・一人前)〉Lv31 〈百里眼〉Lv38
〈技量の指〉Lv54 〈小盾〉Lv39 〈隠蔽・改〉Lv7 〈武術身体能力強化〉Lv98(←8UP)
〈ダーク・スラッシャー〉Lv1 〈義賊頭〉Lv45
〈妖精招来〉Lv17(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)(←1UP)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv12
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv8 〈上級薬剤〉Lv34 〈釣り〉(LOST!) 〈料理の経験者〉Lv27
〈鍛冶の経験者〉Lv28 〈人魚泳法〉Lv9
ExP27
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ:《ソニックハウンドアローLv5》
2
森のモンスターが沈静化したと判断されるまで、現実世界の時間で一〇日もかかってしまった。これだけの時間をかけてやっとというところからして、無断で木を大量に切り出した連中に重罰を科すのは当然だな、と改めて納得させられた。
幸いにしてエルフの皆さんに死者は出なかったものの、やはり重軽傷者は出てしまったようだ。
そして、プレイヤーの一部は、森のモンスターを討伐する手伝いをしていた。今回の一件の原因となったような自分勝手な行いで私腹を肥やす連中ばかりではない、ということを証明したかったと言っている人もいた。
幸いエルフの皆さんもこの手助けの申し入れを受け入れ、協力態勢を構築。これにより、エルフとプレイヤーの関係が悪化することは何とか回避された。モンスターが沈静化した後も、もうしばらくは様子を見ようとエルフの村に滞在するプレイヤーが、それなりにいるようだ。
「何とか事態は治まったわね。貴方達の協力もあって助かったわ。予想以上の数だったから、私達だけではちょっとマズかったかも」
支度を整えながら、今回の事件を振り返るルイさん。
そう……最終的には、大討伐並みとまではいかないが、かなりの数のモンスターが森に湧いてしまったのだ。そのため自分の蹴りの修行は急遽中止となり、使える手段全てを使ってモンスターを倒す方向に切り替えざるを得なかった。
そしてあるプレイヤーが事のあらましとその影響、加えて援軍要請を公式掲示板で報告。それを見た人達が駆けつけてくれたおかげで何とかなった、ということになる。
「本当に、自分もあの連中には怒りを覚えますよ。これだけ大勢の人に余計な負担を強いたのですから」
当の犯人達は、何者かによってその顔などが大きく広められている。これまた掲示板からの情報だと、当初の予想通り彼らはプレイヤーからもこちらの世界の人からも何も売ってもらえない状況に陥っているようだ、という報告もあった。
顔が公表されている上、特徴的な腕輪と足輪のせいで、ごまかしようがない。これから長い時間をかけて、償いをしていくことになるのだろう。
「さて、それはそれとして。アース君、ちゃんと宿屋は引き払ってきたのよね?」
ルイ師匠の言葉に自分は頷く。
モンスターの大量発生が沈静化した結果、こう言っては何だが蹴りの修練相手がいなくなった。また、マンネリ化を防ぐためにも、場所を移して訓練内容も変えようとのルイ師匠の意見に従い、今日から自分達はダークエルフの里に出向くのだ。行くのも久々だし、いい刺激になると思う。
「戸締り良し、火の元も良し! じゃ、行きましょう!」
ルイ師匠の家はきちんと戸締りしたし、近所の人にもしばらく出かけるので家のことをよろしくお願いします、と頼んであるそうだ。
リアルだとそういうのって少なくなったよな……お隣がしばらく旅行とかでいないと分かるや否や、犯罪行為に走るバカすらいるわけで……少なくとも、こうやって後のことをお願いしますと頼み、周りも気にせず行ってきなと送り出す光景はまず見ない。何とも寂しい気がするな。
ダークエルフの街に向かう途中の森で出会うのは動物だけだ。もちろん万が一に備えて警戒は解いていないが、モンスターと出くわすような雰囲気はない。
空気も穏やかで、先日までのピリピリとした嫌な感じもしない。沈静化が発表された昨日までは、森の中に入ったら〈義賊頭〉関連のアーツに色々とひっかかってたからなぁ。第六感的な悪寒もセットでついてきたし。
「また穏やかな森になってよかったなぁ……」
ついボソッと漏らした呟きはルイ師匠の耳に届いてしまったようで「ホントね。大討伐でもないのにあんなことになっちゃって……取り返しのつかないことが起きなかったのは本当に良かったわ」と同意された。
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