とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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番外編。ひな祭りイベント

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 三月三日はひな祭り。日本では全国各地で様々なお雛様が飾られ、華やかになる。そんなイベントが、ワンモアにも輸入されてしまっていたのを知ったのは、ログインした後だった。

「なんだこりゃ」

 ファストの街がピンク色に染まり、桃の花っぽい物があちこちに飾られている。だが、それ以上に目を引いたのが街の中央にあるひな壇の様な物だった。まず、リアルのお雛様だと一番上にお内裏様とお雛様、その下に三人官女、そしてその下に五人囃子。後はお菓子を模した飾りやお宝を模した飾りってのが基本形だったはず。もちろん細かい事を言えばもっと豪華な物もあるのは知っているが、それは今回は無視する。さて、それを踏まえて目の前にある物は。

 お内裏様とお雛様が龍人だと思われる。角があるし……着物が合うって事でチョイスされたのだろうか? まあここは良い。だが、その下からがなんかおかしい。三人官女の場所にはなぜかドラゴンさんが三匹並んでいる。色が白と赤と青とどういうチョイスか分からない。その下は五人囃子になるんだけど……人族、妖精族、エルフ、獣人、魔族の五種族が並ぶ。ここはバランスをとったんだろうか? で、その下が……金塊やら宝石やらが飾られている。無駄にキラキラしていて眩しいと言うか悪趣味。なんでこうなった。

 そしてそのひな壇モドキの周囲ではお団子やら甘酒やらが配布されており、プレイヤーでもこっちの世界の人でも受け取れるようになっている。試しに自分も甘酒を貰ってみたが、普通に美味しかった。まあ、世界も違うのだからお祭りに細かい事をグダグダと言うのも無粋って物かもしれないな。カオスではあるが。

「うむ、なかなか良い物が出来た。そうは思わんかね?」

 甘酒を飲み終わって、コップを戻した所でそんな声を掛けられた。振り向くと、そこにはドラゴンの王様人型形態が。王様だけでなく、お団子を両手に持ったお姫様もいる。そしてさらには長い紅の髪を靡かせている女性も。おそらく、王様の伴侶なんだろう。

「もしかしてこれ、王様の監修が入っているんですか?」

 自分の問いかけに、うむと頷く王様。

「といっても、こちらが監修したのは三匹のドラゴン部分だがな。後はいくつかの素材をこちらも提供した。ちなみに各種族の人形は、各種族の職人達が丹精込めて作り上げたそうだぞ? 見ごたえがあって非常に宜しい」

 ──あの。まさか。あのドラゴンの人形って、本物の竜麟が使われているとか言いませんよね? あくまでレプリカですよね? そうだと言ってよ!

「お父様、このお団子という食べ物はとってもおいしいです! もっと貰って来ても良いですか!?」

 お姫様はもう目がきらきらとしていらっしゃる。普段あまり口にしない物が出るのがお祭りだからねえ。ここぞとばかりに食いだめするつもりなんだろうか? ああ見えてもドラゴンだから……本気を出せば、人の数倍の食べ物を胃袋に納める事が出来るんだろうなぁ。ほどほどでお願いしたい所だけど、女性が言う「甘い物は別腹!」法則がどこまで適用されるのかが怖いな。

「うむ、今日ぐらいしか口にできないだろうからな。お前も行ってくると良い。普段とは違う物を口にするというのもなかなか良い物だぞ」

 何て事を王様が言うと、お二人とも姿を消した。いや、早すぎて見えなかっただけか。お願いだから、他の人の分もきちんと残してねー。食いつくさないでねー!

「あんなこと言ってよかったんですか? 王妃様だと思いますが、目の色が変わっていた様に見えましたが」

 物のたとえじゃなくて物理的に。なんか目の色が金色になっていたような気がする。一瞬で姿を消したから見間違えの可能性の方が高いけど。

「はは、その分の金銭はこの街の上層部に出しているさ。いくら祭と言えど、ただで飲み食いするだけしてさようなら何ぞやっては王としての器が知れると言う物だ。それに我が妻は、なかなか食い意地が張っているからな……ここで我慢しろなんて言えば、帰った後の喧嘩が怖い」

 をい、王様。

「それを多少の金銭で解決できるなら安い物だ。その、なんだ。こんな事を言うのは情けないと思うかもしれないがな……どんなところでも母は強し、だぞ」

 甘酒をちょびちょびと口に含みながら、そんな言葉を口にする王様。なんか、嫌な現実を叩きつけられたような気がする。というかドラゴンですら夫婦喧嘩は妻の方が強いの? なんだろう、想像したら地獄絵図が頭に浮かんできた。でかいドラゴンが、取っ組み合いすると怪獣映画そのものじゃないですか。絶対に、ドラゴンの国の中だけでやってほしい物である。他の場所でやったら、流れ弾だけでどえらい被害が出るだろう。

「ま、争い事を避けられるのであれば、避けた方が良いですよね」

 この自分の言葉に、王様もうむ、と力強く頷いた。力の入れ所を間違っている様な気もするけど、まあそれだけ奥さんが怖いんだろう。この辺はあれこれ言うつもりはない。リアルの知り合いでも、奥さんの事についての話をして来る事は多いからな。特に恐ろしい方面で。こういう話が多いのはたまたまだと思うんだけど、なんでこうも偏るかねえ。

「それに、一応私は王だからな。その王が伴侶と常にゴタゴタを起こしていれば不安にもなるだろう。その様な姿を皆に見せずに済むのであれば、それが良い」

 ああ、そう言う見方もあるか。上がゴタゴタしてたら、下も不安になるのは当然の話。そう言った事を回避する事は国の上に立つ者には必要不可欠な事だな。もちろん王妃が贅沢しまくって国を傾ける様な真似をしているというのであれば、叱責なり何なりすべきだが……まあ、子の王様にはそういう事は多分なさそうだ。

「なるほど、その辺は理解できます。ですが……あれ、ちょっとやそっとの金塊ですみますかね?」

 視線の先には、団子を食い漁り、甘酒をがぶ飲みしている王妃様? の姿があった。お姫様の方はある程度控えめにしているんだが、王妃様? の方は一切加減をしてない。詰みあがる皿の山、すごい勢いで減っていく行く甘酒入りの釜。周りの人もその食いっぷりに「やれやれー!」とか「まだまだあるからもっと食ってくれ!」とまあ盛り上がってる盛り上がってる。一方で王様は頭を抱えているが、まあ無理もないだろう……こうして、色気のかけらもないひな祭りイベントは過ぎて行った。



今回は何のつながりもない完全な番外編です。書籍にも入りません。
初登場のドラゴン国の王妃様ですが、本編ではっきりとした出番があるかは不明です。
大食いです。ドラゴン国随一の。
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