とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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9巻

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 今日も「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界にログインした自分――アースは、ファストの街にあるベンチに座って、何か面白おもしろい話はないかと掲示板をながめていた。
 新しいタイプの矢もとりあえず完成したので、材料をりに坑道通いするのはひと休み。なんとなく鍛冶屋関連の掲示板をのぞいてみたところ、鉱石を掘り出せなくなってしまった鉱脈がいくつか出始めたとの情報があった。本当に必要な人のために、自分は当分控えるつもりだ。
 そんなことを考えつつ、いくつかの掲示板を順番に見ていくと、こんなスレッドが現在進行形で動いていた。


     ◆ ◆ ◆


【実況スレ31】

 81:名もなき冒険者 ID:FG2d3rWdf
 実況スレが動いてるな
 何か面白いことでもあったのか?


 82:名もなき冒険者 ID:g3g5HE1da
 人魚のときみたいなインパクトはあるのか?


 83:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 えー、今実況している者でござる
 今回のターゲットは幼女でござる


 84:名もなき冒険者 ID:G2s3rFGew
 幼女に興味はないので帰りますね


 85:名もなき冒険者 ID:o23hP1g11
 ロリは趣味じゃないんだ、すまないね


 86:名もなき冒険者 ID:Z21fd2qwE
 詳しく


 87:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 今ファストの街で、姿をした幼女がうろついているのでござる


 88:名もなき冒険者 ID:g2iRYHfj8
 うお、すっげー綺麗な髪の毛。炎みたいな紅だな


 89:名もなき冒険者 ID:g3f65gWEr
 この髪の毛の色からして、プレイヤーじゃないな


 90:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 拙者も同意見でござる
 さて、この幼女は30分ほど前にファストに入ってきた様子でござる


 91:名もなき冒険者 ID:Kr2y85Rfx
 それで今どこにいるの? この幼女ちゃんは


 92:名もなき冒険者 ID:g3wf5gGwe
 多くの露店が並ぶお馴染みの大通りを、ぽてぽてと可愛らしく歩いている
 様子でござる


 93:名もなき冒険者 ID:Kfd3g8RTt
 これは見に行かざるをえない


 94:名もなき冒険者 ID:fg32df8vd
 んで、この幼女は一体何しに来たんだ? なんかのイベント?


 95:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 その辺がはっきりしないのでござる
 時たま、お兄ちゃんはどこ? と呟く声は聞こえてくるのでござるが


 96:名もなき冒険者 ID:Das21fTGF
 お兄ちゃん……だと!?


 97:名もなき冒険者 ID:KJfg2hr5E
 お兄ちゃんを見つけて、「妹さんを下さい!」と言えばクリアなイベントな
 んですね、分かります


 98:名もなき冒険者 ID:fdf28iTUe
 それはただの危ない人だぞw


 自分も実況者の表示してくれたスクリーンショットSSを見てみたが……髪はくれないのセミロングで、華美かびではなく上品な、赤を基調としたドレスのようなものを着ている女の子だ。
 髪の色からして、自分にはこの子の正体についての心当たりがあり過ぎる……これは直接出向いてきちんと確認をしておかないと、ファストの街が物理的な意味で危ないことになるかもしれない。


     ◆ ◆ ◆


 124:名もなき冒険者 ID:Fs2dfGewY
 時に実況者よ、何で幼女が呟いている声の内容が分かるのか?


 125:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 忍びたる者、〈聞き耳〉スキルを所持するのは当然のたしなみでござるよ?


 126:名もなき冒険者 ID:f2w3rGwgE
 普通に盗聴じゃねえかw あぶねえよ!w


 127:名もなき冒険者 ID:Otg3hg6hr
 つか、歩いているところを見たけど、めっちゃかわええ抱きしめたい!


 128:名もなき冒険者 ID:WDw2t8Rqd
 念のために言っておくが、触んじゃねえぞ? 分かってるな?


 129:名もなき冒険者 ID:Gw2f8dwWm
 着ている服がどう見てもドレスなんだよね
 あれいいなー、着てみたい


 130:名もなき冒険者 ID:GEd23f5WE
 ローブの新しい形として、創作意欲が湧くね! ドレスローブとか


 131:名もなき冒険者 ID:ew215rWef
 それは是非作って欲しい~! 少々高くても買うから!


 こんなやり取りが交わされているところからすると、この紅の髪をした幼女はまだ露店が多くある大通りを歩いているようだ。
 自分は小走りで大通りを目指した。あと少しで到着する。


     ◆ ◆ ◆


 151:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 お!? ターゲットが突如、歩く速度を上げたでござる


 152:名もなき冒険者 ID:gHe8ue32i
 もしかして、「お兄ちゃん」とやらが近くにいるのか?


 153:名もなき冒険者 ID:o32fP2g74
 さて、どんな奴が「お兄ちゃん」なのか、しっかりと確かめないとな?


 154:名もなき冒険者 ID:Ur2e7fwdF
 ぬお!? 大通りから突如外れて、横道に入ったぞ!?
 見失った、他の追跡者は!? てか足速いよ!


 155:名もなき冒険者 ID:2hdRT1gEr
 すまぬ、拙者も見失った! 急いで追いかけるでござる!


 ここで自分は掲示板をそっと閉じた。
 なぜならば、掲示板で話題に上がっていた幼女がかなりの腕力で、自分の足に抱きついている……というかしがみついているからである。やっぱりこの子は、そういうことか……

「お兄ちゃん、会いたかった」

 そう、ゲヘナクロスとの戦争の前に偶然助けた、あのレッド・ドラゴンの子供だろう。親のレッド・ドラゴンが人化じんかの術を使えていたことから、その子供も使えるようになっていてもおかしくはないと予想がついたのだ。それに、紅の髪という忘れられない共通点もあるし。

「とりあえず、ここは騒がしいから少し移動しような。それと、しばらくの間はこれを頭から被っておいて」

 紅の髪と美しいドレスがあまりにも目立ち過ぎるので、アイテムボックスに保管しておいた緑色の外套がいとうを幼女の頭の上から被せた。身長はごまかしが利かないが、これだけで随分と地味になる。
 被せるだけに留めたのは、「ドラゴンの人化の術は人間の装備を身に着けると解除される」と、以前ドラゴンの王様から聞いていたからだ。「身に着ける」とは装備することを指しているのだろうと踏んでいたが、どうやら当たりだったようで、特に問題は起きない。
 幼女に外套を被せた直後、いくつかの人影が自分たちの横を通り過ぎていった。間違いなく、掲示板で実況行為を行っていた忍者とその協力者だろう。彼らには申し訳ないが、下手を打つとレッド・ドラゴンのご両親がここにやってきて大暴れする未来が待っているので、実況はここで打ち切りにさせてもらうしかない。
 とりあえず、幼女は自分が泊まっている宿に案内するか……外套を被せたままの状態で、宿屋まで一緒に向かう。傍目はためからは、ただの誘拐犯にしか見えないような気がするが、気にしたら負けだ。外套を被せているので前が見えづらい王女様の手をとって道を歩く。

「それにしても、お父さんやお母さんにはちゃんと言ってきたの? 人の街に行ってきますって」

 おそらくは言っていないだろうが、一応念のために聞いておく。

「──いってない……」

 ああ、やっぱりな。いくらドラゴン族が強いといっても、あのご両親が大事な娘さんを一人で人の街に行かせるとは思えなかった。以前迎えに来たとき、娘の無事を完全に確認できるまで本気の殺気を自分に向けてきた記憶は、はっきりと頭の中に残っている。

「お父さんか、お母さんに連絡はつくかな?」

 自分はできるだけ穏やかな声を出すように注意を払い、レッド・ドラゴンの幼女に確認をする。

「う、うん……おかあさんになら……」

 表情は、親に怒られるとびくびくしている子供そのものだ。だがレッド・ドラゴンの王女様が一人でいると知っていて、その親に連絡を取らないわけにはいかない。最悪、また人族に誘拐されたと勘違いされて、魔物の被害からの復興が進みつつあるファストの街を火の海にされては、たまったものではない。そうなる前になんとかしないと。

「じゃあ、お兄さんが君のお母さんと話せるようにしてもらえないかな? さすがにずーっと黙ったままでいるというわけにはいかないでしょ?」

 幼女も観念したのか、ごそごそと手を動かし始めた。もう少しで宿屋に着くので、個室内で落ち着いて話せるだろう。
 宿屋の主人には「随分とお早いお戻りですね?」と妙な視線を向けられてしまったが、この際それはどうでもいいか。自室に入り、幼女は被せていた外套を取って椅子に座らせた。

「お兄ちゃん、繋がるよ」

 その直後、キン、と何かに繋がった感じが頭の中に伝わってくる。

『私に念話とは……貴方はどちら様ですか?』

 やはり、娘が突然いなくなったことにいらだっているのか、声だけで恐怖を煽ってくるようなプレッシャーを感じる。だが黙っているわけにもいくまい。

『お久しぶりです、以前貴女あなたの娘さんを保護した人間です。実は、娘さんが人に変身して、一人で人間の街にやって来てしまったことを知り、大慌てで私が保護しました。この念話は保護した娘さんに繋いでもらっています』

 面倒な話が始まりそうである。

『と、いうことは、娘は貴方の元に無事でいるのですね?』

 まだ焦りが半分はみ出しているが、それでも比較的冷静になった声が頭に響く。

『はい、とりあえず人の目に触れぬよう宿に連れてきまして、大人しくしてもらっています』

 自分がそう報告すると、ほっとしたような吐息が聞こえてきた。

『そうですか、以前に続き二度までもご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません』

 とりあえず娘の無事が判明して落ち着いたのか、レッド・ドラゴンの母親の声も幾分柔らかくなってきた。とりあえずこれで、最低限のラインはクリアしただろう。

『いえ、たまたまですが、気がつくことができて何よりでした。とりあえずこのまま私が保護しておきますので、誰かをこちらの街の近くまで迎えに回してもらえないでしょうか?』

 そのとき、念話に男性の声が交ざった。

『ならば私が行こう。妻はまだ人化の術を覚えていないから、目立ち過ぎる』

 その声は、久々に聞くレッド・ドラゴンの王様のものだった。

『王様直々じきじきにですか? 娘さんの迎えに親である貴方が来るのはおかしいことではありませんが……王様が国を留守にしてもよろしいのですか?』

 自分の質問に、王様からの答えは……

『いや、実はな? 我が娘を孫のように可愛がっておるブラック・ドラゴンのおさがいるのだが……王女様はどこに行かれたのだー!? と半狂乱状態でな……妻が抑えていなければ、今すぐにでも飛び立って見境みさかいなく人族の街に突っ込んでいきそうな勢いなのだ。今いる場所と無事であることが分かったと言っても、ではワシが全力で迎えに行きますぞ! と普段の冷静さが欠片もない』

 おおう、それは非常にマズい。というか、街の人が誰一人として知らないところで、冗談抜きにファストが壊滅する危機に陥っていたとか、笑い話にもならないよ!? 
 早めに動いて本当によかった。だができれば自分も、そんな状態になっているということを知りたくなかったな。

『ならば一刻も早く、ここにいるおてんば王女様をそちらに帰さないとマズいですね』

 何とか自分がしぼり出した言葉に、「うむ」と同意する声が念話で聞こえてくる。

『実は今も背後でな、ブラック・ドラゴンの長と我が妻が取っ組み合いを始めたところだ。行かせてくだされ! とブラック・ドラゴンの長は叫んでおるが、人化ができぬブラック・ドラゴンでは悪目立ちし過ぎる。お前は、我々の本来の体躯が非常に大きいことを知っているだろう?』

 ええ知っていますよ、かつて妖精国で見ましたから。ゲヘナクロスとの戦争のときにいた灰色ドラゴンよりも大きかったという記憶があります。あんなのが街の付近に現れたら、再び襲撃イベントが発生したのかと、とてつもない大騒ぎに発展してしまう。

『すみません、なぜか急に頭痛がしてきたのですが』

 つい本音が漏れてしまった。

『私も同じだ、まさか普段はあれほど冷静なブラック・ドラゴンの長がここまで取り乱すとは思わなかった。我が娘よ、そこで聞いているな?』

 突然話を振られたレッド・ドラゴンの王女様は、慌てつつも王様の声に応じた。

『は、はい、聞いています!』

 その王女様に向かって、王様はこう言った。

『とりあえず、念話でブラック・ドラゴンの長にお前から声を掛けてやれ。それとな、今後は無断で我々の里から出るんじゃないぞ? お前がいなくなっただけでこれだけ大騒ぎになると、お前もよく分かっただろう?』

 王様からのお言葉に、うなれる王女様。まあさすがに何も言わずにひょこっと外に出てきたというのはマズいから、こう言われてしまうのは当然だろう。
 王女様も素直に聞き入れて、別に念話の回線を開いてブラック・ドラゴンの長に話し始めた。

『──やれやれ、やっと大人しくなったわ……とにかく、ブラック・ドラゴンの長が落ち着いている今の内に迎えに行くとするか。すまないが、こちらが到着するまで娘の面倒を頼む』

 ……との王様の言葉を最後に、自分はいったん念話を終了した。
 王女様の方は、まだ念話が終わりそうにないな……とりあえずご飯を食べさせて、迎えが来るまでのんびりさせておけばいいか。
 そうとなれば早速料理を作るべく、各種調理器具と狼の肉、ハーブの葉にレタスとレモンをアイテムボックスから取り出す。本格的に下準備をする時間はないので、作れるものも手抜き料理のレベルでしかないが……
 まずは薄く切った狼の肉を焼く。このときに味付けと臭み抜きのため、塩と胡椒こしょうを少々振り掛ける。あまり濃い味になっては困るので、本当にうっすらと。ジャーっとお肉が焼ける音を聞いたレッド・ドラゴンの王女様は、こちらに目が釘付けだ。
 お肉に火が通ったら、適量をレタスに載せ、手でちぎったハーブをぱらぱらとふりかけてからぐるっと巻き、仕上げにレモンの汁をぽたりと少量たらせば完成。



【狼肉のレタス巻き】

 焼いた狼の肉をレタスで巻いた料理。手づかみでぱくっと食べられる手軽さが売り。
 製作評価:7



 フォークやらナイフやらを使うには王女様の手がまだ小さいので、手づかみで簡単に食べられる物にした。適当に作ったのに製作評価が高いのが気になるが、まあ特に難しい技術は要求されないものだからな。

「とりあえず、王様が迎えに来るまで軽く食事をして待とうか」

 大皿いっぱいに作ったが、ドラゴンの食欲の前ではこの程度などおやつの範疇はんちゅうだろう。食べ物で釣るというのは悪いことかもしれないけれど、今回は勘弁かんべんしてもらおう。

「た、食べていいのですか!?」

 グワッと身を乗り出してくるレッド・ドラゴンの王女様の姿に苦笑しながらも、どうぞ、と勧める。

「いただきますです!」

 と言うが早いか、王女様は両手でレタス巻きを掴み取って口に運び出す。自分も一つ手にとって食べてみるが、即興で作った料理にしてはなかなか美味しい方だろう。
 じっくりと味わって食べ終えてから皿に目を移すと、山ほど作っておいたはずの【狼肉のレタス巻き】が一つ残らず綺麗に消えていた。そして肝心の王女様は、その皿を寂しそうにじーっと見つめている。

「もうちょっと、食べたいのかな?」

 自分がこう問いかけると、思いっきり首を縦に振る王女様。
 やれやれ、尻尾があったら元気よくぶんぶんと左右に振っているんじゃないだろうか? あれ、ドラゴンは普通に尻尾があるよな……ドラゴンの尻尾が左右に元気よく……それだと、ただの破壊行為にしかならないよ。って、そんなあほなことを考えてどうするんだ。
 とにかく今は、この可愛い王女様のお願いを聞いてあげることを優先しよう。幸いにして、先日狩った巨大狼のお肉はまだまだあるし。
 再び自分が次々とレタス巻きを作り、出来上がった直後に皿の上から消えていくということがその後二〇分ぐらい続き……お腹がいっぱいになったのか、うつらうつらとし始める王女様。

「王様が迎えに来たら起こすから、しばらく寝てていいよ」

 少し汚れてしまっていた王女様の口元を拭いてあげながら自分が言うと、ぽてぽてと宿屋にあるベッドにもぐり込んで、あっという間に寝息を立て始めた。
 王様が到着の連絡をくれるまで、このままゆっくりと寝かせてあげようか。



【スキル一覧】

 〈風迅狩弓ふうじんかりゆみ〉Lv‌10 〈剛蹴ごうしゅう〉Lv‌23 〈百里眼ひゃくりがん〉Lv‌23 〈技量の指〉Lv4(←1UP) 〈小盾〉Lv‌22 
 〈武術身体能力強化〉Lv‌37 〈スネークソード〉Lv‌40 〈人魚泳法〉Lv8 〈隠蔽いんぺい・改〉Lv3 
 〈妖精招来〉Lv2 (強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
 追加能力スキル
 〈黄龍変身〉Lv3
 控えスキル
 〈上級木工〉Lv‌30 〈義賊頭ぎぞくがしら〉Lv‌18 〈上級薬剤〉Lv‌21 〈釣り〉Lv2 
 〈料理の経験者〉Lv7(←6UP‌) 〈鍛冶の経験者〉Lv‌21 
 ExP29
 称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 
    妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
    託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定)  義賊 人魚を釣った人間
 プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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