とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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守護者、本気になる

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 守護者は涙目ではなく、涙を流しながらこちらを指さし続けている。だが、弓を使うからってインファイトの技能を持っていないと考えるのは短絡的では……まあ、関節技は基本的に見せてこなかったから持っていないと予想されたのかもしれないが。

「絶対倒す! 倒す前に泣かせる! ごめんなさいと言わせる!」

 そんな決意を、守護者は大声で叫ぶ。しかし、勝って先に進みたいのはこちらも同じ。それにだなぁ……一六〇〇〇もの分身をぶつけてきたおかげで塔の攻略が遅れに遅れているんだ。これぐらいじゃまだ生温いぐらいだぞ?

「その言葉はそのまま返す。絶対に倒して先に進ませてもらう!」

 そこから数秒にらみ合った後、互いにインファイトの距離へと移行した。今度は守護者も闘気の弾を撃つために離れたりせず、近距離での殴り合いを続行している。無論殴り合いと言っても武器同士の話だ。直撃を貰えば、自分の装備の守りがあっても危険すぎる。そのため金属と金属のぶつかり合う音が周囲に響き渡る。

「く、突破できない!?」「この距離での戦闘は、何度も経験している。格闘家との戦いもそれなりに味わってきた。簡単に一撃を入れられるなんて思わないで欲しい!」

 相手の手数は確かに多い。更に手打ちの攻撃なんてものはなく、飛んでくる拳の攻撃全てが恐らくは一撃必殺の威力を秘めていると思わせるだけの圧がある。頭をひねって回避した拳からは、それだけの熱を感じさせる。が、この塔に来るまでにそんな熱を感じさせる攻撃はたくさん味わってきた。ファストから始まり、今に至るまでの旅路の中で食らったら終わるなんて攻撃を幾度見てきたか。

 恐怖心がなくなった訳じゃない。ただ、その攻撃されることに対する恐怖を立ち向かえるだけの経験と強さを旅の中で出会った全てから貰って来た。いろんな人と共闘した。いろんな奴と戦った。許しがたい悪党も居れば、近くに居たのに助けることが出来なかった人もいた。そう言った出来事が全て、今の自分を作っている。

 だからこそ、こんな所でこれ以上止まっている訳にはいかない。この塔の主に会って、自分を呼んだ真意を聞きださなければならない。塔の天辺まで登り切ると約束をしてきたこの世界で出会った大勢の仲間との約束を果たしたい。だから……

「いい加減に力ずくでもどいてもらう! 先に進まなければならない理由が、自分にはあるのだから!」

 相手のラッシュを上回るラッシュを叩き込み始める。一発の威力では上回れなくても、相手の攻撃を少しいなしながら反撃の攻撃を相手の体に叩き込む。相手の拳を、足をとことん受け流してからの反撃というラッシュを叩き込み続ける。スペックの違いがあるのだから、一〇発、いや一〇〇発攻撃をぶち込んでも倒せないかもしれない。だが、それならば相手が倒れるまでぶち込み続ければいいだけの話だ。

 ひたすらに受け流して切り付ける、引っ掻く、蹴るの攻撃を守護者に叩き込む。無論守護者側もこちらの受け流しを潰そうとあの手この手でフェイント交じりの攻撃を仕掛けてくる。だが、それらはすべて今までに味わった物ばかり。師匠達から学んだものばかり。自分のラッシュを止めるには──足りない。

「あれもこれも対処される!? 貴方一体どうなってるの!?」

 守護者から、そんな非難めいた言葉が飛んでくるが知った事ではない。守護者はまだ、何か手を隠しているはず。ならば、それを使われる前に少しでも体力をそぎ落とさせて貰わなければ勝てない。もし、もう手が無いならこのまま削り切るだけ。さあ、まだ手があるのか? それともこのまま終わるのか?

 前者だな。そう自分は見定めた。あれこれこっちに文句を言ってくる守護者だが、目が死んでない。諦めたりもう手が無くて絶望的な人がする目の色、輝き方じゃない。ワンモアの目は口以上に物を言う事がある事は散々学んだことだ。やっぱりそう簡単に終わってはくれないな。それが分かれば、後は何時それを出してくるかだが──

(殺気!)

 ラッシュを中断して、全力で後ろに飛んだ。戦いが始まって一番の殺気を、守護者から感じ取ったからだ。どうやら、プランCを出してくる気になったようだ。つまり、それなりのダメージが蓄積したとみて良い。再び攻撃を止めて対峙する形となった訳だが、気配がさっきまでとは大違いだ。砂龍師匠に近い雰囲気を纏わせ始めているのだ……静かだが、圧を感じる。どうやら、本気になったのだろう。

「──流石ね。こうも早く見極めるなんて私の変化を見極めるなんて。今までの私は、どこかあなたを舐めていた所があった。認めましょう、慢心していたと。でも、貴方は慢心していて勝てる相手じゃない事はよく分かった……だから、本気の本気、出させて貰うわ」

 空気が変わった。そして──来る。いやもう来た!

「ぐっ!?」

 何とか、守護者が振るってきた左手のストレートを盾で防ぐ事が出来た。だが、早い! そして重い! なるほど、この速さこそが本気か……さらに後ろに既に回り込んで更なる攻撃を振るってこようとして来ている。もちろん目で見たわけじゃなく背中から感じられる殺気から判断している。

 狙われているのが左肩だと判断して素早くしゃがみつつ後ろに足払いを仕掛けたが──手ごたえがない。殺気は──上! 何とか左側に転がって振るわれた攻撃を回避したが、守護者の足による攻撃が地面に当たったとたん、軽微な地震が発生した。もしもろに貰っていたら、間違いなく終わっていただろうと理解させられる一撃だ。

 もちろん長々と地面に転がっている理由はない。すぐに立ち上がって再び対峙する形を取る。これがトップスピードかどうかは分からないが、カウンターを取る事が容易ではない速度だ。仕掛け処を間違えば、こちらが一方的に大ダメージを被る事となるだろう。こちらも意識を改めてから構えを再びとる。

「これでも直撃させられない、とは……流石と言った所かしら。いいわ、続けましょう」

 今までの守護者とは思えないほどに冷たい声だが……むしろ、こっちが本当の声の感じなのかもしれない。ここまでは作っていた上部の姿だったのかもな、なんて事を考えてしまった。さて、それはいったん横に置いておくとして今は目の前の事だ。スピードの上昇は驚異的と言っていいだろう。殺気を当てにして勘で回避して何とか間に合うというレベルだった。

 が、これがいつまで持つかというのは不安になる。今までの経験から来る勘だから信頼はしているが……殺気だけを当てて実際には行動しないというフェイントもあるのだ。殺気のみを当てに体を動かしたら、そう言ったフェイントにもろに引っかかる事になるだろう。そして、引っかかって大ぶりの攻撃を外しでもしよう物ならそこで終わりかねない。

 あまり、考える時間はくれないか。再び急接近して飛んでくる打撃の数々。不味いな、早い……受け流しが追い付かない。直撃ではないにせよ、胴体に数発、左足に一発貰ってしまった。それだけでHPがかなり減る──大体三割弱ぐらいかな。様々な効果を持つ防具の上からこれだけのダメージが抜けてくるのか。市販品の防具だったら、もう自分の負けという形で戦いが終わっているな。

(かなり痛い。直撃を貰ってないのにこの減りか。この火力の上に機動力まで備わっているからこそ、二五〇と五〇〇階の守護者よりもはるかに強い。故にこの階の守護者としての立ち位置を確立しているのだろう。それに、防御力と体力まである……上段抜きで単独なら最強クラスの存在だな。が、それでも何とか勝たなきゃ先に進めない。さて、どうするか)

 何とか打ち合いを耐え抜き、再びい間合いが開いて互いに構える。さっきのような打ち合いを繰り返せば、あと二回で自分は沈む。更にまずいのは、この守護者が本気になったとたん自分の攻撃が今の所かすりもしていない点だ。必死のカウンター攻撃もすべて空を切っているからな……さて、本当にどうしよう。何か、一手を考えないとこのまま負けるぞ。
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