文字の大きさ
大
中
小
552 / 783
連載
守護者、本気になる
守護者は涙目ではなく、涙を流しながらこちらを指さし続けている。だが、弓を使うからってインファイトの技能を持っていないと考えるのは短絡的では……まあ、関節技は基本的に見せてこなかったから持っていないと予想されたのかもしれないが。
「絶対倒す! 倒す前に泣かせる! ごめんなさいと言わせる!」
そんな決意を、守護者は大声で叫ぶ。しかし、勝って先に進みたいのはこちらも同じ。それにだなぁ……一六〇〇〇もの分身をぶつけてきたおかげで塔の攻略が遅れに遅れているんだ。これぐらいじゃまだ生温いぐらいだぞ?
「その言葉はそのまま返す。絶対に倒して先に進ませてもらう!」
そこから数秒にらみ合った後、互いにインファイトの距離へと移行した。今度は守護者も闘気の弾を撃つために離れたりせず、近距離での殴り合いを続行している。無論殴り合いと言っても武器同士の話だ。直撃を貰えば、自分の装備の守りがあっても危険すぎる。そのため金属と金属のぶつかり合う音が周囲に響き渡る。
「く、突破できない!?」「この距離での戦闘は、何度も経験している。格闘家との戦いもそれなりに味わってきた。簡単に一撃を入れられるなんて思わないで欲しい!」
相手の手数は確かに多い。更に手打ちの攻撃なんてものはなく、飛んでくる拳の攻撃全てが恐らくは一撃必殺の威力を秘めていると思わせるだけの圧がある。頭をひねって回避した拳からは、それだけの熱を感じさせる。が、この塔に来るまでにそんな熱を感じさせる攻撃はたくさん味わってきた。ファストから始まり、今に至るまでの旅路の中で食らったら終わるなんて攻撃を幾度見てきたか。
恐怖心がなくなった訳じゃない。ただ、その攻撃されることに対する恐怖を立ち向かえるだけの経験と強さを旅の中で出会った全てから貰って来た。いろんな人と共闘した。いろんな奴と戦った。許しがたい悪党も居れば、近くに居たのに助けることが出来なかった人もいた。そう言った出来事が全て、今の自分を作っている。
だからこそ、こんな所でこれ以上止まっている訳にはいかない。この塔の主に会って、自分を呼んだ真意を聞きださなければならない。塔の天辺まで登り切ると約束をしてきたこの世界で出会った大勢の仲間との約束を果たしたい。だから……
「いい加減に力ずくでもどいてもらう! 先に進まなければならない理由が、自分にはあるのだから!」
相手のラッシュを上回るラッシュを叩き込み始める。一発の威力では上回れなくても、相手の攻撃を少しいなしながら反撃の攻撃を相手の体に叩き込む。相手の拳を、足をとことん受け流してからの反撃というラッシュを叩き込み続ける。スペックの違いがあるのだから、一〇発、いや一〇〇発攻撃をぶち込んでも倒せないかもしれない。だが、それならば相手が倒れるまでぶち込み続ければいいだけの話だ。
ひたすらに受け流して切り付ける、引っ掻く、蹴るの攻撃を守護者に叩き込む。無論守護者側もこちらの受け流しを潰そうとあの手この手でフェイント交じりの攻撃を仕掛けてくる。だが、それらはすべて今までに味わった物ばかり。師匠達から学んだものばかり。自分のラッシュを止めるには──足りない。
「あれもこれも対処される!? 貴方一体どうなってるの!?」
守護者から、そんな非難めいた言葉が飛んでくるが知った事ではない。守護者はまだ、何か手を隠しているはず。ならば、それを使われる前に少しでも体力をそぎ落とさせて貰わなければ勝てない。もし、もう手が無いならこのまま削り切るだけ。さあ、まだ手があるのか? それともこのまま終わるのか?
前者だな。そう自分は見定めた。あれこれこっちに文句を言ってくる守護者だが、目が死んでない。諦めたりもう手が無くて絶望的な人がする目の色、輝き方じゃない。ワンモアの目は口以上に物を言う事がある事は散々学んだことだ。やっぱりそう簡単に終わってはくれないな。それが分かれば、後は何時それを出してくるかだが──
(殺気!)
ラッシュを中断して、全力で後ろに飛んだ。戦いが始まって一番の殺気を、守護者から感じ取ったからだ。どうやら、プランCを出してくる気になったようだ。つまり、それなりのダメージが蓄積したとみて良い。再び攻撃を止めて対峙する形となった訳だが、気配がさっきまでとは大違いだ。砂龍師匠に近い雰囲気を纏わせ始めているのだ……静かだが、圧を感じる。どうやら、本気になったのだろう。
「──流石ね。こうも早く見極めるなんて私の変化を見極めるなんて。今までの私は、どこかあなたを舐めていた所があった。認めましょう、慢心していたと。でも、貴方は慢心していて勝てる相手じゃない事はよく分かった……だから、本気の本気、出させて貰うわ」
空気が変わった。そして──来る。いやもう来た!
「ぐっ!?」
何とか、守護者が振るってきた左手のストレートを盾で防ぐ事が出来た。だが、早い! そして重い! なるほど、この速さこそが本気か……さらに後ろに既に回り込んで更なる攻撃を振るってこようとして来ている。もちろん目で見たわけじゃなく背中から感じられる殺気から判断している。
狙われているのが左肩だと判断して素早くしゃがみつつ後ろに足払いを仕掛けたが──手ごたえがない。殺気は──上! 何とか左側に転がって振るわれた攻撃を回避したが、守護者の足による攻撃が地面に当たったとたん、軽微な地震が発生した。もしもろに貰っていたら、間違いなく終わっていただろうと理解させられる一撃だ。
もちろん長々と地面に転がっている理由はない。すぐに立ち上がって再び対峙する形を取る。これがトップスピードかどうかは分からないが、カウンターを取る事が容易ではない速度だ。仕掛け処を間違えば、こちらが一方的に大ダメージを被る事となるだろう。こちらも意識を改めてから構えを再びとる。
「これでも直撃させられない、とは……流石と言った所かしら。いいわ、続けましょう」
今までの守護者とは思えないほどに冷たい声だが……むしろ、こっちが本当の声の感じなのかもしれない。ここまでは作っていた上部の姿だったのかもな、なんて事を考えてしまった。さて、それはいったん横に置いておくとして今は目の前の事だ。スピードの上昇は驚異的と言っていいだろう。殺気を当てにして勘で回避して何とか間に合うというレベルだった。
が、これがいつまで持つかというのは不安になる。今までの経験から来る勘だから信頼はしているが……殺気だけを当てて実際には行動しないというフェイントもあるのだ。殺気のみを当てに体を動かしたら、そう言ったフェイントにもろに引っかかる事になるだろう。そして、引っかかって大ぶりの攻撃を外しでもしよう物ならそこで終わりかねない。
あまり、考える時間はくれないか。再び急接近して飛んでくる打撃の数々。不味いな、早い……受け流しが追い付かない。直撃ではないにせよ、胴体に数発、左足に一発貰ってしまった。それだけでHPがかなり減る──大体三割弱ぐらいかな。様々な効果を持つ防具の上からこれだけのダメージが抜けてくるのか。市販品の防具だったら、もう自分の負けという形で戦いが終わっているな。
(かなり痛い。直撃を貰ってないのにこの減りか。この火力の上に機動力まで備わっているからこそ、二五〇と五〇〇階の守護者よりもはるかに強い。故にこの階の守護者としての立ち位置を確立しているのだろう。それに、防御力と体力まである……上段抜きで単独なら最強クラスの存在だな。が、それでも何とか勝たなきゃ先に進めない。さて、どうするか)
何とか打ち合いを耐え抜き、再びい間合いが開いて互いに構える。さっきのような打ち合いを繰り返せば、あと二回で自分は沈む。更にまずいのは、この守護者が本気になったとたん自分の攻撃が今の所かすりもしていない点だ。必死のカウンター攻撃もすべて空を切っているからな……さて、本当にどうしよう。何か、一手を考えないとこのまま負けるぞ。
「絶対倒す! 倒す前に泣かせる! ごめんなさいと言わせる!」
そんな決意を、守護者は大声で叫ぶ。しかし、勝って先に進みたいのはこちらも同じ。それにだなぁ……一六〇〇〇もの分身をぶつけてきたおかげで塔の攻略が遅れに遅れているんだ。これぐらいじゃまだ生温いぐらいだぞ?
「その言葉はそのまま返す。絶対に倒して先に進ませてもらう!」
そこから数秒にらみ合った後、互いにインファイトの距離へと移行した。今度は守護者も闘気の弾を撃つために離れたりせず、近距離での殴り合いを続行している。無論殴り合いと言っても武器同士の話だ。直撃を貰えば、自分の装備の守りがあっても危険すぎる。そのため金属と金属のぶつかり合う音が周囲に響き渡る。
「く、突破できない!?」「この距離での戦闘は、何度も経験している。格闘家との戦いもそれなりに味わってきた。簡単に一撃を入れられるなんて思わないで欲しい!」
相手の手数は確かに多い。更に手打ちの攻撃なんてものはなく、飛んでくる拳の攻撃全てが恐らくは一撃必殺の威力を秘めていると思わせるだけの圧がある。頭をひねって回避した拳からは、それだけの熱を感じさせる。が、この塔に来るまでにそんな熱を感じさせる攻撃はたくさん味わってきた。ファストから始まり、今に至るまでの旅路の中で食らったら終わるなんて攻撃を幾度見てきたか。
恐怖心がなくなった訳じゃない。ただ、その攻撃されることに対する恐怖を立ち向かえるだけの経験と強さを旅の中で出会った全てから貰って来た。いろんな人と共闘した。いろんな奴と戦った。許しがたい悪党も居れば、近くに居たのに助けることが出来なかった人もいた。そう言った出来事が全て、今の自分を作っている。
だからこそ、こんな所でこれ以上止まっている訳にはいかない。この塔の主に会って、自分を呼んだ真意を聞きださなければならない。塔の天辺まで登り切ると約束をしてきたこの世界で出会った大勢の仲間との約束を果たしたい。だから……
「いい加減に力ずくでもどいてもらう! 先に進まなければならない理由が、自分にはあるのだから!」
相手のラッシュを上回るラッシュを叩き込み始める。一発の威力では上回れなくても、相手の攻撃を少しいなしながら反撃の攻撃を相手の体に叩き込む。相手の拳を、足をとことん受け流してからの反撃というラッシュを叩き込み続ける。スペックの違いがあるのだから、一〇発、いや一〇〇発攻撃をぶち込んでも倒せないかもしれない。だが、それならば相手が倒れるまでぶち込み続ければいいだけの話だ。
ひたすらに受け流して切り付ける、引っ掻く、蹴るの攻撃を守護者に叩き込む。無論守護者側もこちらの受け流しを潰そうとあの手この手でフェイント交じりの攻撃を仕掛けてくる。だが、それらはすべて今までに味わった物ばかり。師匠達から学んだものばかり。自分のラッシュを止めるには──足りない。
「あれもこれも対処される!? 貴方一体どうなってるの!?」
守護者から、そんな非難めいた言葉が飛んでくるが知った事ではない。守護者はまだ、何か手を隠しているはず。ならば、それを使われる前に少しでも体力をそぎ落とさせて貰わなければ勝てない。もし、もう手が無いならこのまま削り切るだけ。さあ、まだ手があるのか? それともこのまま終わるのか?
前者だな。そう自分は見定めた。あれこれこっちに文句を言ってくる守護者だが、目が死んでない。諦めたりもう手が無くて絶望的な人がする目の色、輝き方じゃない。ワンモアの目は口以上に物を言う事がある事は散々学んだことだ。やっぱりそう簡単に終わってはくれないな。それが分かれば、後は何時それを出してくるかだが──
(殺気!)
ラッシュを中断して、全力で後ろに飛んだ。戦いが始まって一番の殺気を、守護者から感じ取ったからだ。どうやら、プランCを出してくる気になったようだ。つまり、それなりのダメージが蓄積したとみて良い。再び攻撃を止めて対峙する形となった訳だが、気配がさっきまでとは大違いだ。砂龍師匠に近い雰囲気を纏わせ始めているのだ……静かだが、圧を感じる。どうやら、本気になったのだろう。
「──流石ね。こうも早く見極めるなんて私の変化を見極めるなんて。今までの私は、どこかあなたを舐めていた所があった。認めましょう、慢心していたと。でも、貴方は慢心していて勝てる相手じゃない事はよく分かった……だから、本気の本気、出させて貰うわ」
空気が変わった。そして──来る。いやもう来た!
「ぐっ!?」
何とか、守護者が振るってきた左手のストレートを盾で防ぐ事が出来た。だが、早い! そして重い! なるほど、この速さこそが本気か……さらに後ろに既に回り込んで更なる攻撃を振るってこようとして来ている。もちろん目で見たわけじゃなく背中から感じられる殺気から判断している。
狙われているのが左肩だと判断して素早くしゃがみつつ後ろに足払いを仕掛けたが──手ごたえがない。殺気は──上! 何とか左側に転がって振るわれた攻撃を回避したが、守護者の足による攻撃が地面に当たったとたん、軽微な地震が発生した。もしもろに貰っていたら、間違いなく終わっていただろうと理解させられる一撃だ。
もちろん長々と地面に転がっている理由はない。すぐに立ち上がって再び対峙する形を取る。これがトップスピードかどうかは分からないが、カウンターを取る事が容易ではない速度だ。仕掛け処を間違えば、こちらが一方的に大ダメージを被る事となるだろう。こちらも意識を改めてから構えを再びとる。
「これでも直撃させられない、とは……流石と言った所かしら。いいわ、続けましょう」
今までの守護者とは思えないほどに冷たい声だが……むしろ、こっちが本当の声の感じなのかもしれない。ここまでは作っていた上部の姿だったのかもな、なんて事を考えてしまった。さて、それはいったん横に置いておくとして今は目の前の事だ。スピードの上昇は驚異的と言っていいだろう。殺気を当てにして勘で回避して何とか間に合うというレベルだった。
が、これがいつまで持つかというのは不安になる。今までの経験から来る勘だから信頼はしているが……殺気だけを当てて実際には行動しないというフェイントもあるのだ。殺気のみを当てに体を動かしたら、そう言ったフェイントにもろに引っかかる事になるだろう。そして、引っかかって大ぶりの攻撃を外しでもしよう物ならそこで終わりかねない。
あまり、考える時間はくれないか。再び急接近して飛んでくる打撃の数々。不味いな、早い……受け流しが追い付かない。直撃ではないにせよ、胴体に数発、左足に一発貰ってしまった。それだけでHPがかなり減る──大体三割弱ぐらいかな。様々な効果を持つ防具の上からこれだけのダメージが抜けてくるのか。市販品の防具だったら、もう自分の負けという形で戦いが終わっているな。
(かなり痛い。直撃を貰ってないのにこの減りか。この火力の上に機動力まで備わっているからこそ、二五〇と五〇〇階の守護者よりもはるかに強い。故にこの階の守護者としての立ち位置を確立しているのだろう。それに、防御力と体力まである……上段抜きで単独なら最強クラスの存在だな。が、それでも何とか勝たなきゃ先に進めない。さて、どうするか)
何とか打ち合いを耐え抜き、再びい間合いが開いて互いに構える。さっきのような打ち合いを繰り返せば、あと二回で自分は沈む。更にまずいのは、この守護者が本気になったとたん自分の攻撃が今の所かすりもしていない点だ。必死のカウンター攻撃もすべて空を切っているからな……さて、本当にどうしよう。何か、一手を考えないとこのまま負けるぞ。
感想 5,013
あなたにおすすめの小説
名門御曹司の婚約者を奪ったあざといルームメイトが、三日後「助けて」と泣きついてきた
熾星 午前一時、大学近くの女性専用シェアハウスは、エアコンの低い音だけが響いていた。森下莉香から一枚の写真が送られてきた。ホテルのスイートルームらしいベッドの上で、彼女は片方の肩を露わにし、鎖骨のあたりには生々しい赤い痕が残っていた。
背後の男の顔は写っていなかった。けれど、画面の端に映った手首だけで、私は十分だった。そこに巻かれていた白檀の腕輪念珠を、私は知っていた。
あれは、私が神宮寺怜央に贈ったものだった。
東京・港区の旧財閥系一族、神宮寺家の後継者。神宮寺家は老舗の不動産開発会社を中核に、近年は医療・介護施設への投資も広げていた。怜央はその跡取りとして、著名な卒業生であり、大学の有力なスポンサーでもある人物として、たびたび私たちの大学に顔を出していた。
『嘘の病気で同情を買うな』と私を死に追いやった婚約者、私の墓標の前で額を叩きつけ、血の涙を流して号泣する大破滅!
熾星婚姻届を出す前日、久世景人はようやく、十年遅れの婚約指輪を私の指にはめた。
銀色の輪が薬指に滑り込んだ瞬間、私は照明の下で光るダイヤをぼんやり見つめた。長く続いた待ち時間が、やっと終わったような気がした。けれど次の瞬間、彼は私の手を見下ろし、まるで似合わない品物を評するように静かな声で言った。
「正直、澪の手ってあまりきれいじゃないよな」
私は言葉を失った。
景人はそのまま私の指先を取ると、さっきはめたばかりの指輪を抜き取った。十年待ち続けた指輪は、彼の手のひらの上で冷たく光っていた。
「この指輪、瑠奈の手にあったほうが似合うと思う」
私は手を引き戻し、信じられない思いで彼を見た。
「どういう意味? 瑠奈と結婚するつもりなの?」
景人は目を伏せ、指輪の縁を指先でなぞった。まるで、たいしたことではない問いを少し考えているだけのようだった。
「そこまでじゃない。ただ、会えない時間が長くなると、どうしても瑠奈のことを考えるんだ」
その瞬間、私は自分がどうやってあのタワーマンションを出たのかさえ覚えていない。
「もやし炒めかぁ」——切り忘れた本音が、世界中のお姉さんを落とした件。
冬野 結流行りのイケメンボイスが出せず、事務所の同期やマネージャーから「才能がない」とバカにされ契約解除された底辺個人VTuber。絶望しながら最後の個人配信を終えた後、マイクの切り忘れに気づかず「お姉さん達に美味しいご飯作ってあげたいな」と素朴な本音を愚痴ってしまう。その不器用なギャップがSNSで世界中に大拡散。配信画面に戻ると、赤スパチャの嵐。元事務所が泣きついてくるが、すでに億万長者になった彼は完全無視する。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
夫が私の移植用心臓を運ぶヘリを愛人の犬に回したので、目覚めた私は彼を知らないふりをした
熾星 宗一郎がシャツの三つ目のボタンを留めたときには、私はもうスマートフォンで銀行アプリを開いていた。
ベッドの脇には女物のワンピースと彼のベルトが散らばっている。神崎美月はホテルのバスローブをまとい、浴室の入り口に立っていた。鎖骨には意味ありげな赤い痕。まるで私に見せつけるために、そこに立っているようだった。
カーテンは完全には閉じられていない。朝の光が絨毯に差し込み、部屋の惨状を残酷なほど鮮明に照らしていた。
初めてこんな場面に出くわしたとき、私は部屋のグラスを叩き割り、宗一郎の胸ぐらをつかんで理由を問い詰めた。
あのときの彼はベッドヘッドにもたれて煙草を吸い、ズボンすらまともに穿かないまま、淡々と言った。
「部屋が暗くて、お前と間違えた」
その後、同じような「人違い」は二度起きた。
それをきっかけに、私たちは書面で取り決めを交わした。不貞行為が一度発覚するたび、離婚成立前の解決金として、彼は私に五百万円を支払う。
「振り込んで」
「愛していない」って言われましても
小鳥遊 れいら結婚式前夜に「お前など愛していない」と言ったフォーエル侯爵家嫡男のルーカスに嫁ぐことになったスターリング伯爵家長女のべリーチェは、驚きながらも冷静だった。所詮は、貴族同士の政略結婚なのだから愛してほしいなど願ったこともなかった。べリーチェの反応に驚きながらも恋人との時間を優先していくルーカス。
ルーカスが本当に大切なものに気づいた時には時すでに遅かった・・・
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。