とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
579 / 765
連載

ファンタジー世界で餅つきをやる

しおりを挟む
「それで、私は何をすればいいの?」

 ニコニコ笑顔になった守護者さんに、お雑煮の制作手順を伝えていく。まずはもち米を水に浸して十分に給水させる。本来なら一晩かける行為だが、これはスキルで時間を短縮できる。次に給水が済んだら、釜の上に蒸し器を乗せてしっかりと蒸かす。蒸かし終わったら作ったばっかりの木の臼にもち米をいれて、杵でしっかりと錬り潰すような形である程度もち米を纏める。その後はしっかりと杵で餅を付き、ようやく餅の完成となる。

 一方でお雑煮の汁などを作るために、鰹節と根昆布から出汁を取り、鶏肉と細切れにしたニンジン、角切りにした大根を煮て醤油や多少の調味料を入れて味を整えた汁を作り、そこにお餅、青物のちょっとした野菜になるともどき(と表現するしかないものがあった)を食べやすいようにカットした物を乗せてようやく完成となる。

 なお、これはあくまで自分の作るものであって、日本全国津々浦々にお雑煮の形という物が存在する。故に、決まった形という物はお雑煮にはない。あえて言うなら、汁の中に餅が入っているぐらいしか共通点は無いと思われる。なので、お雑煮に関しては正解の形など存在せず、美味しければそれでいいのであると言うのが持論だ。

「うわー、また手間がかかる物を作るのね」「でも、そういう奴も作らないと向こうが納得しないでしょう。それに、これならば守護者さんのパワーが生かせる料理です。やる価値は十分あると思いますが」

 手間がかかる事で守護者さんはちょっと嫌な顔をしたが、パワーを活かせると自分が伝えた事に気を良くしたようで作る事に反対はしてこなかった。ならばさっそく行動あるのみ。まずは清潔な網目状になっている布でもち米をくるみ、端をしっかりとまとめて零れないようにする。そうしたらそれを十分な水で満たした桶の中に投入。後はスキルで時間経過を速める。リアルでやるなら先に言った通り一晩かけてじっくりと水を吸わせなきゃらないので、ワンモアでは加速させてもらう。

 そっちが終わるまでの時間は、汁を作る事に使う。左記にも言った通り、鰹節と根昆布で出汁を取る。出汁の味を確認して、問題なしと判断。そうしたら鍋に小さく一口大に切った鶏肉を適量投入。あくまで主役は餅だし、鶏肉はこれまた出汁を出すために入れるという側面があるのでほどほどに。後はニンジンと大根もサクサク切って鍋の中に入れたら火を入れる。

 完全に沸騰させると風味がぶっ飛んでしまうので、火は強めても中火ぐらいまで。灰汁が出てきたらそれは除去して各種具材に火が通ったら醤油などの調味料を加えて味を調える……うん、鶏肉が良い味を出している。これで汁の方は完成と言う事でいいだろう。鍋ごとアイテムボックスに入れてしまい、時間経過をさせない。

「こっちの方はまだー?」「ちょっと待ってね……うん、行けそうかな」

 水の中に浸していたもち米も多分いい感じになったので、携帯のかまどを用意し、その上にたっぷりの水を入れた釜、更にその上に蒸し器をセット。後はもち米を蒸し器の中に布ごと入れて、蒸気で蒸しあげればいい。桶の中から浸していたもち米をくるんでいた布を取り出し、軽く水を切る。そこから一気に蒸し器の中に運び入れて蓋をする。蓋の上にさらに重しを乗せてようやく準備完了。

 かまどの中に木を投入。空気の出入り口を塞がないように、交差させるような形で木を組んでいく。火をつけるのは、守護者さんの火の魔法で簡単に済んだ。こういう時魔法は便利だよねぇ、リアルだと最初の火付けから安定させるまでに火を消してしまう事が多かった。そう言う心配がないんだから。

「後はしばらく待つだけ?」「そうだね、こればっかりは……スキルの力で加速させるけど、もち米が蒸し上がるまでは待つしかないかな」

 蒸す料理はどうしても時間がかかる。焼いたり煮たりという料理に比べると、どうしても熱の伝わり方などが鈍くなる。が、蒸し料理には蒸し料理の良さという物がある。それにもち米を煮たり焼いたりしたら……餅にするには不適切なんてことは言うまでもない。なのでここはじっくりと待つ。リアルに比べれば非常に短い時間だし。

「あ、なんだか甘い香りがしてきたわ」「それはもち米の香りだよ。火が通ってくるとこういう香りがしてくる」

 ふわりと、甘い香りが周囲に漂い始めた。もち米にある程度火が通ってきたことを教えてくれる香りだ。ここで蒸し器を一八〇度回転させた。あまり意味はないのかもしれないが、動かす事で満遍なく蒸し上がるような気がするからだ。そうして、また待つ。

「香りが強くなってきたわ」「そろそろ頃合いかな──うーん、まだ芯がちょっと残っている。あと少し待たないとダメだな」

 そろそろ良いかなと、上の方のもち米を数粒取り出して口にしてみたがまだ芯が取れていなかった。あとちょっと蒸さないとダメだろう。それを数回繰り返して──遂にいい感じにもち米が蒸しあがった。

「よっし、いい感じ。じゃあついに出番だよ。じゅんびは良いかな_?」「ええ、待ちくたびれたって所ね。いつでも行けるわ」

 やる気は十分と。蒸しあがったもち米を布ごと持ち上げ、臼の中へと運ぶ。リアルだと熱いんだがワンモアだとそう言うのがスキルの影響なのか大幅に軽減されるのが良いところだね。後は水を入れた小さな桶に杵の先を浸し、遂に餅つきの一歩手前まで来た。

「最初は、こうやってもち米をじっくりと押しつぶすように動くんだ」「分った、やってみるわ」

 最初に手本を見せ、杵を使って牛の中に入れたもち米を圧し潰す様な動きを見せる。すると守護者さんはすぐにその動きを覚えてスムーズにもち米を圧し潰してまとめていく。パワーがあるから早いな……

「いったん止まって。よし、この感じならあと一回やって貰えば行けるな。下の方に少量の水を走らせておいて……よし、もう一回お願い」「任せなさい!」

 やる気満々の守護者さんの手によって、もち米は半分ぐらい餅になった。よし、これなら最後の餅つきの動作に移っていいだろう。餅を一回つくたびに自分がついて欲しい所を中央に持ってくるので、二回連続でつかないようにお願いしてから……いよいよ餅つきが始まった。

「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」

 お互いの声を交互に掛け合いながら餅をつく。これまたリアルでやると結構疲れる動作なんだが……こっちではそんな事はなくペースが全く落ちない。途中でいったん止まってもらい、餅のつき具合を確認して軽くひっくり返してまた餅をつく事を二回縫度繰り返した。それで完全にもち米の粒はつぶれ、ちゃんとした餅になっていた。

「よし、これでいい! これで餅は出来上がりだ」「面白い作業よね、こんな動きで料理が出来上がるなんて初めて知ったわ」

 本来ならつきあがったお餅は、餅とり粉なんて言い方をされる粉を撒いた台の上にもっていき、適度な大きさにきり分けて特定の四角い木組みの中に入れる。その木組みのなかでなんども伸ばしては慣らし、伸ばしては慣らしを繰り返し四角い形にしていくのだ。それらを餅が冷める前にやらなければならないのであるが……ワンモアでは単純に、アイテムボックスの中に突っ込むだけでいい。

 そしてまな板の上に取り出した餅を適切な大きさに切ってお椀の中に入れて、先ほど作った汁を入れて、上にちょっとした青物やなるともどきなどの具材を乗せれば……やっとお雑煮の完成となる。これで十品すべてが出そろったな。当然作るのに協力してくれた守護者さんに味見と言う名の試食をしてもらう。

「餅は延びるので、しっかりと噛んでから食べてくださいね」

 餅はその特性上、慌てて食べると喉に引っかかる事がある。なのでやや小さめにカットしてあるが、それでもちゃんと噛んでもらった上で食べてもらわないと不安が残る。守護者ならそんな心配はないのかもしれないが、それでも念には念を入れておくべきだろう。

「面白い触感ね。うん、でも自分で作って食べるとこんなに美味しいんだ。一番おいしいのは肉料理とばっかり思ってたけど……肉がわき役の料理でも美味しいって知れたのは良かったわ。もち米、ね……なるほどね」

 じっくり味わう様にゆっくりと食べている守護者さん。自分も食べてみるが……ああ、うん。正月に食べている味だな。味の乖離もないし、十分美味しい。これならば合格は貰えるだろう。


 お雑煮 制作評価八

 お正月などに食べられる料理。だが決まった型が無く、無数の作り方が存在する。シンプルな物から豪華な物まで非常に幅が広い。

 空速度低下(中) 物理攻撃力上昇(大) 物理防御力上昇(中) 短時間で食べきると一定確率で窒息


 むう、物騒な効果がついてしまっている。でもゆっくり食べればいいだけなのでさほど問題は無いだろう。さあ、これで評定だ。制作した十品を試験官の前にあるテーブルの上に並べる。さて、下される評価はどうなるか。でも、問題なく通ると思うけどね。



*****

つきたてのお餅は美味しいです。きなこ餅とかよもぎもちなどが特に好きです。
しおりを挟む
感想 4,907

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。