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連載
ヘイロクさんの目覚め、そして決着
再び始まったヘイロクさんとの戦い。そして数回打ち合っただけで気が付いた、確かに『変わった』と。
(先ほどまでは鋭いが、直線的な動きも多かった。が、今は明確に曲線を描く動きが増えた。が、それは無駄が増えたという意味ではない……滑らかになったと表現すべきか。受け流し一つとっても、先ほどよりもこちらの力をより削ぎながら薙ぐような形に変わっている)
剛のやり方をある程度抑え、柔の動きを取り入れた感じがする。無論剛のやり方を捨てたわけではなく、必要な時には直線的に素早い剛の力を振るってくる。まるで川の流れのように、緩やかかと思えば早く、そして早くなったかと思えば緩やかになると言う変化を取り入れたおかげで、はるかに先ほどよりも戦いにくい立ち回りになった。
更にするりとこちらの懐に入ろうとする動きも増えた。自分のレガリオンの振るい方を参考にしたのか、刃だけでなく剣の柄部分での打撃攻撃も取り入れてきている。ヘイロクさんの流派の動きに、こちらの動きの中で使えそうなもの、取り入れる価値があるものを選別して吸収し、立ち回りを変えてきたという事なのだろうか?
「これだ、これが今の今まで碌に使えず、最後まで超えられなかった祖父が見せていた流派の動き! 現実ではどれだけ真似をしようとしてもしっくりこず、体得できなかった動きが、この世界でついに動き方を、体捌きを掴めたぞ!」
ヘイロクさんが吠える。なるほど、今の動きに至る為の下地はあったのか。それが自分との戦いで攻撃を受け続けながらも学び、そしてその祖父の動きの意味、体の使い方などをついに理解し、そして動けるようになったと。
なるほど、直線と曲線の動きを不規則に変え、剛の剣と柔の剣を変幻自在に繰り出して相手を責め立てる。これは確かに厄介だ……熟達していれば。
(目覚めたばかりと言う事もあってか、粗がいくつも見えるな。容赦なく突かせてもらおう……その方が、ヘイロクさんの為になる)
剛と柔の切り替えがまだぎこちないのだ。切り替えるときに、まだ不慣れなためか頭で考えてしまうのか動きが明確に鈍る。そこを遠慮なく、自分は突く。ヘイロクさんの動きにやや劣勢気味な動きを演じ、切り替えようとして動きが明確に鈍った瞬間──レガリオンでヘイロクさんの腹部を一閃した。切り裂かれた腹部からは血が噴き出し、更に吐血するヘイロクさん。
「が、はっ!?」
まさか、と言う表情に変わるヘイロクさん。現実世界では師範である彼も、新しい動きを手に入れた事に夢中になってしまっていたのだろう。切り替えるときに自分に明確な隙が生まれている事に気が付けなかった──それは、戦いにおいて致命的すぎる。自分の攻撃が相当に効いたようで、先ほどまで生き生きと攻撃していた姿から一転してヘイロクさんの動きが止まる。当然自分はそこに畳みかける。
「ぐ、おっ!?」
腹部からの出血、さらに吐血で大量の血を失ってしまったためか何とか直撃を避けるので手いっぱいになるヘイロクさん。もうこれ以上やっての嬲るだけになると自分は判断し、ヘイロクさんの防御を八岐の月に付いている爪ですくい上げるような形で大きく崩して──空いた胴体の心臓部分にレガリオンの刃を深々と突き刺した。
これがとどめとなって決着がついた。PvPが終わり元の場所に戻ってくるとそこには地面を殴りつけたのであろう姿で顔を地面に向けたまま動かないヘイロクさんがいた。それを見ていたオサカゲさんがため息をついていた。
「悔しがるのは分かるがな、ヘイロク。アース殿はこの世界においては儂らよりも遥かに先達だぞ? 負ける事は恥ではない」
しかし、このオサカゲさんの言葉に、ヘイロクさんは腹を立てているのはそこではないと首を振る。
「そうかもしれん。だが! 祖父に出来て今まで己が出来なかったあの動きが出来るようになって浮かれ、そこを完全に突かれた! あんな楽しい時間が、己が心の未熟さで台無しになった! 負けた事は良い、だがそこが口惜しくてならん!」
どうやら、先ほどの戦いにおける敗因を自分自身で理解したようだ。ここは流石師範という所か……それ故に、浮かれた自分が許せないのだろう。浮かれて油断し、そしてそこを疲れての敗北と言いう結果は、屈辱だという心境が、ひしひしと伝わってくる。
「だが、掴んだのだろう? ならあとはこちらの世界と現実の世界両方で磨けばよいではないか。それとな……悔しがっているお前には悪いが、アース殿は全然本気を出していなかったぞ」
このオサカゲさんの言葉に、オサカゲさんの顔が自分に向かって上げられた。そしてオサカゲさんも自分を見る……なんて答えればいいのよ、少し考えたがどれも間違っているような気がしてならない。
「オサカゲ、それはどういう意味だ」「アース殿が使っていたあの特徴的な双刃剣と言うのか? あれはまだ先があったと言う事よ。アース殿、済まぬが軽い演武のような物をしてもらえぬか? それを見れば、オサカゲも納得すると思うのだ」
様は、スネークソードモードも見せろと言う事か。確かに先ほどの戦いではソードモードだけで戦っていて、一切見ていなかったな。盾の中に仕込んだ暗器役を務めるスネークソードなどを見せろと言う訳でないのであれば、いいか。周囲に人がいないことを確認し、レガリオンと八岐の月を持ついつもの戦闘スタイルを取る。そして……
「はっ!」
まずはソードモードのまま八岐の月との二刀流の演武を見せる。動いているうちに、何人ものプレイヤーが気が付いてやってくる。何か面白い事が始まった、みたいな感じなんだろうか……まあいい。そして途中から、レガリオンをスネークモードに変更してより大きく動くようにして盛り上げていく。が……
「な、なんっ……」「あれがあの剣のもう一つの姿よ。変幻自在、間合いの変化……それを一切使われていなかったのだ。加減されていたと分かるだろう?」
そんなヘイロクさんとオサカゲさんの言葉を耳が拾った。ちらりと二人がいた方に目をやると、驚いて面白い顔をしているため折角の浪人の雰囲気がぶち壊しになっているヘイロクさんとそれを楽しそうに見ているオサカゲさんの姿が目に入った。その後は再び視線を外し、五分ぐらいの演武を終える。するとたくさんの拍手を頂いてしまった。
「見ごたえあったぞ!」「楽しかったよ!」
そんな声とともに、いくつものおひねりが飛んできた。いや、その、それを狙っていたわけではないのだけれど……とも言いだしずらかったし、極端な大金を投げた人もいなかったのでありがたく頂戴させていただいた。そしてヘイロクさんとオサカゲさんの所に戻ると……ヘイロクさんが頭を下げてきた。
「わが師になっていただけませぬか?」
いや、それはちょっと……まだ塔も登り切っていないし、登り切った後にも何があるか分からない。なのでお断りするしかないんだよね。塔を登り切った後ならば、受ける受けないを決められたんだけど……なので申し訳ないが、その話は受けられないとちゃんと断った。ヘイロクさんは残念そうな表情を浮かべていたが、仕方がない。
「仕方があるまい、アース殿にも都合という物がある。ただ、空いた時間に今回のような手合わせをしてもらうぐらいが精いっぱいだろう。それまでに腕を磨くしかないぞ?」
とオサカゲさんの言葉に、ヘイロクさんはしぶしぶと言った感じで頷いた。その後は別れて宿屋に入り、ログアウトして就寝。しかし、師になって欲しいと言われるとはね……
(先ほどまでは鋭いが、直線的な動きも多かった。が、今は明確に曲線を描く動きが増えた。が、それは無駄が増えたという意味ではない……滑らかになったと表現すべきか。受け流し一つとっても、先ほどよりもこちらの力をより削ぎながら薙ぐような形に変わっている)
剛のやり方をある程度抑え、柔の動きを取り入れた感じがする。無論剛のやり方を捨てたわけではなく、必要な時には直線的に素早い剛の力を振るってくる。まるで川の流れのように、緩やかかと思えば早く、そして早くなったかと思えば緩やかになると言う変化を取り入れたおかげで、はるかに先ほどよりも戦いにくい立ち回りになった。
更にするりとこちらの懐に入ろうとする動きも増えた。自分のレガリオンの振るい方を参考にしたのか、刃だけでなく剣の柄部分での打撃攻撃も取り入れてきている。ヘイロクさんの流派の動きに、こちらの動きの中で使えそうなもの、取り入れる価値があるものを選別して吸収し、立ち回りを変えてきたという事なのだろうか?
「これだ、これが今の今まで碌に使えず、最後まで超えられなかった祖父が見せていた流派の動き! 現実ではどれだけ真似をしようとしてもしっくりこず、体得できなかった動きが、この世界でついに動き方を、体捌きを掴めたぞ!」
ヘイロクさんが吠える。なるほど、今の動きに至る為の下地はあったのか。それが自分との戦いで攻撃を受け続けながらも学び、そしてその祖父の動きの意味、体の使い方などをついに理解し、そして動けるようになったと。
なるほど、直線と曲線の動きを不規則に変え、剛の剣と柔の剣を変幻自在に繰り出して相手を責め立てる。これは確かに厄介だ……熟達していれば。
(目覚めたばかりと言う事もあってか、粗がいくつも見えるな。容赦なく突かせてもらおう……その方が、ヘイロクさんの為になる)
剛と柔の切り替えがまだぎこちないのだ。切り替えるときに、まだ不慣れなためか頭で考えてしまうのか動きが明確に鈍る。そこを遠慮なく、自分は突く。ヘイロクさんの動きにやや劣勢気味な動きを演じ、切り替えようとして動きが明確に鈍った瞬間──レガリオンでヘイロクさんの腹部を一閃した。切り裂かれた腹部からは血が噴き出し、更に吐血するヘイロクさん。
「が、はっ!?」
まさか、と言う表情に変わるヘイロクさん。現実世界では師範である彼も、新しい動きを手に入れた事に夢中になってしまっていたのだろう。切り替えるときに自分に明確な隙が生まれている事に気が付けなかった──それは、戦いにおいて致命的すぎる。自分の攻撃が相当に効いたようで、先ほどまで生き生きと攻撃していた姿から一転してヘイロクさんの動きが止まる。当然自分はそこに畳みかける。
「ぐ、おっ!?」
腹部からの出血、さらに吐血で大量の血を失ってしまったためか何とか直撃を避けるので手いっぱいになるヘイロクさん。もうこれ以上やっての嬲るだけになると自分は判断し、ヘイロクさんの防御を八岐の月に付いている爪ですくい上げるような形で大きく崩して──空いた胴体の心臓部分にレガリオンの刃を深々と突き刺した。
これがとどめとなって決着がついた。PvPが終わり元の場所に戻ってくるとそこには地面を殴りつけたのであろう姿で顔を地面に向けたまま動かないヘイロクさんがいた。それを見ていたオサカゲさんがため息をついていた。
「悔しがるのは分かるがな、ヘイロク。アース殿はこの世界においては儂らよりも遥かに先達だぞ? 負ける事は恥ではない」
しかし、このオサカゲさんの言葉に、ヘイロクさんは腹を立てているのはそこではないと首を振る。
「そうかもしれん。だが! 祖父に出来て今まで己が出来なかったあの動きが出来るようになって浮かれ、そこを完全に突かれた! あんな楽しい時間が、己が心の未熟さで台無しになった! 負けた事は良い、だがそこが口惜しくてならん!」
どうやら、先ほどの戦いにおける敗因を自分自身で理解したようだ。ここは流石師範という所か……それ故に、浮かれた自分が許せないのだろう。浮かれて油断し、そしてそこを疲れての敗北と言いう結果は、屈辱だという心境が、ひしひしと伝わってくる。
「だが、掴んだのだろう? ならあとはこちらの世界と現実の世界両方で磨けばよいではないか。それとな……悔しがっているお前には悪いが、アース殿は全然本気を出していなかったぞ」
このオサカゲさんの言葉に、オサカゲさんの顔が自分に向かって上げられた。そしてオサカゲさんも自分を見る……なんて答えればいいのよ、少し考えたがどれも間違っているような気がしてならない。
「オサカゲ、それはどういう意味だ」「アース殿が使っていたあの特徴的な双刃剣と言うのか? あれはまだ先があったと言う事よ。アース殿、済まぬが軽い演武のような物をしてもらえぬか? それを見れば、オサカゲも納得すると思うのだ」
様は、スネークソードモードも見せろと言う事か。確かに先ほどの戦いではソードモードだけで戦っていて、一切見ていなかったな。盾の中に仕込んだ暗器役を務めるスネークソードなどを見せろと言う訳でないのであれば、いいか。周囲に人がいないことを確認し、レガリオンと八岐の月を持ついつもの戦闘スタイルを取る。そして……
「はっ!」
まずはソードモードのまま八岐の月との二刀流の演武を見せる。動いているうちに、何人ものプレイヤーが気が付いてやってくる。何か面白い事が始まった、みたいな感じなんだろうか……まあいい。そして途中から、レガリオンをスネークモードに変更してより大きく動くようにして盛り上げていく。が……
「な、なんっ……」「あれがあの剣のもう一つの姿よ。変幻自在、間合いの変化……それを一切使われていなかったのだ。加減されていたと分かるだろう?」
そんなヘイロクさんとオサカゲさんの言葉を耳が拾った。ちらりと二人がいた方に目をやると、驚いて面白い顔をしているため折角の浪人の雰囲気がぶち壊しになっているヘイロクさんとそれを楽しそうに見ているオサカゲさんの姿が目に入った。その後は再び視線を外し、五分ぐらいの演武を終える。するとたくさんの拍手を頂いてしまった。
「見ごたえあったぞ!」「楽しかったよ!」
そんな声とともに、いくつものおひねりが飛んできた。いや、その、それを狙っていたわけではないのだけれど……とも言いだしずらかったし、極端な大金を投げた人もいなかったのでありがたく頂戴させていただいた。そしてヘイロクさんとオサカゲさんの所に戻ると……ヘイロクさんが頭を下げてきた。
「わが師になっていただけませぬか?」
いや、それはちょっと……まだ塔も登り切っていないし、登り切った後にも何があるか分からない。なのでお断りするしかないんだよね。塔を登り切った後ならば、受ける受けないを決められたんだけど……なので申し訳ないが、その話は受けられないとちゃんと断った。ヘイロクさんは残念そうな表情を浮かべていたが、仕方がない。
「仕方があるまい、アース殿にも都合という物がある。ただ、空いた時間に今回のような手合わせをしてもらうぐらいが精いっぱいだろう。それまでに腕を磨くしかないぞ?」
とオサカゲさんの言葉に、ヘイロクさんはしぶしぶと言った感じで頷いた。その後は別れて宿屋に入り、ログアウトして就寝。しかし、師になって欲しいと言われるとはね……
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