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29巻
29-3
◆ ◆ ◆
翌日、ログインした自分は、アクアに乗って魔王領へと向かっていた。人気のないところは飛んでもらい、フォルカウスの街から多少離れた場所で降りて小さくなってもらう。
そのまま街に向かおうとしたところで――突如遠くから男性の悲鳴が聞こえてきた。
「誰か、誰か助けてくれ! うおっ⁉」
声のした方向に急行すると、そこには商人と思しき人が数人と装備を整えて戦っている護衛らしき人が数人。そして魔王領にいるはずのスノーホワイトウルフが七匹。
一瞬、商人達がスノーホワイトウルフを捕らえて運送しているところを逃げられたのかと思ったが、もしそうだとしたら彼らが使っている馬車がもっと派手に壊れているはず。
馬車には商人達のものと思われる血が付いているものの、それ以外はきれいだ。繋がれている馬は大騒ぎしているが。
(はぐれモンスターって事か? ともかく、無理に連れてきて反撃されたというわけでもないようだし、ここは救援を)
まだ、なぜスノーホワイトウルフがここにいるのかという疑問は解けていない。もしかすると馬車の中にスノーホワイトウルフの子供が捕らえられている展開もありうる。
なので自分は【八岐の月】に矢を番えて、わざとスノーホワイトウルフ達の前に矢が刺さるように放った。足止めをして、そのうちに馬車の中を《危険察知》で、商人達を〈義賊頭〉でチェックする。
(馬車の中に生命反応――なし! 〈義賊頭〉による悪人判定――悪人ではない。つまり彼らは単純に襲われただけというわけか)
これなら、スノーホワイトウルフを倒してもいいだろう。だが、声だけはかけておくか。
「立ち去れ! 立ち去らなければ次は当てるぞ!」
この自分の声が予想外に効いたのか、スノーホワイトウルフ達は魔王領の方に向かって逃げていった。
護衛の人達も武器を下ろし、けが人の手当てに走った。商人が二人ほど、かなり深い傷を負わされている。スノーホワイトウルフの爪か牙にやられたんだろう。
「手伝える事は?」
「いや、大丈夫だ。薬の備蓄もある。援護に感謝する……今なら十分に手当てが間に合う」
護衛の人達の手際は見事だな、手を出せばかえって邪魔になるだろう。
なので自分は【八岐の月】を持ったまま周囲の警戒に当たる。そりゃ《危険察知》があるんだから近くにいる、いないは分かるんだけどさ……それは自分だけだ。
商人さんや護衛の人達が同じような能力を持っているとは限らない。だから警戒している奴が一人いる、ってだけでも精神的に落ち着くはずだ。
「今は付近に何もいない、落ち着いて手当てをしても問題はなさそうだ」
「分かった、済まないがそのまま頼む。あと少しでこちらの治療も終わる」
その言葉に偽りはなく、数分後には攻撃を受けた全員の手当てが終わっていた。
馬車に繋がれていた馬も落ち着きを取り戻した。とりあえずこれで一安心かな。
「遅くなりましたが、先ほどの支援ありがとうございました。おかげで死者を出さずに済みました。私、各地を旅して商いをしております、ポールと申します」
と、ここで商人達の代表と思われる身なりがちょっといい男性が自分に挨拶してきた。
ただ、この人も顔や手に傷を負っており、手当てのあとがまだ痛々しい。
「いえ、たまたまフォルカウスの街に向かっている最中でして。声が聞こえたから駆けつけたまでです」
ポールさんは、少し考えてから新しい話を振ってきた。
「実は我々もフォルカウスに向かう途中でして。申し訳ないのですが、街まで護衛していただけませんか? 先ほどのスノーホワイトウルフの襲撃で、我々の護衛の皆様も私達を護るために相応の手傷を負いました。もう一度魔物や盗賊に襲われたら耐えきれるか分かりません。もちろん対価はお支払いいたします」
うーむ、確かに魔王領にしかいないはずのスノーホワイトウルフがここにいたのは気になるし……徒歩でもフォルカウスの街へは三十分かかるかどうかの距離だ。
護衛をしても大して時間は変わらんか。それに無視して街に向かっても絶対気になり続けるもんな、自分の性格からして。
「分かりました、魔王領に生息しているはずのスノーホワイトウルフがなぜここにいたのかも気になりますし、フォルカウスの街までの護衛は引き受けましょう。大した距離ではありませんが、よろしくお願いします」
そう言うと、ほっとした空気が流れた。
ふむ、確かに護衛の人達を再確認すると、スノーホワイトウルフの攻撃で防具のあちこちが破損している。これでは確かにもう一回襲撃を受けたらちょっと厳しいだろう。
護衛の人達の腕が悪いわけではないと思うから、これらは完全な不意打ちによるダメージかね?
あとは防具の質がちょっと……といっても、自分が妖精国にいた時より遥かにいい物だが。
「受けてくださいますか、ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
ポールさんは、自分に向かって深々と頭を下げた。
こうして、短いながらも護衛の一人として同行する事になった。
「先ほどは助かったよ……その異様な弓から放たれた矢の勢いで、あの獰猛なスノーホワイトウルフ達の戦意が挫かれたのを感じた。こんな人気のないところで、最高の助けが来てくれた」
歩き始めてすぐ、護衛の人のうちの一人がそう話しかけてきた。
「状況が分からなかったので、ああしたんですけどね。ウルフ系は下手に殺すと仲間の敵討ちを果たすまで引かなくなる可能性があるので」
そんな性質が「ワンモア」のウルフ系にあるなんて話は知らない。なのでこれは適当な誤魔化しだ。
彼らが悪党か否かを見極める時間が必要だったから取った手段である、なんて言えるはずがない。
義賊が悪党を助けたなんて事になったら笑い話にもならない。その時は知らなかったとしても、な。
「ああ、その可能性はあったかもしれないな。ウルフ系の中には自分の家族を傷つけられたら、己が死のうとも最後まで戦う種があると聞く。あの場でそうなったら被害は確かに広がったか……その判断にも感謝しないとならないな」
納得したのか、うんうんと頷く護衛。まあ納得してくれたのであればそれで良い。
あとはちょこちょこたわいない話をしながら、フォルカウスの街まで行くだけだ。今のところ周囲に敵の反応はない。このまま二十分ほど護衛をしていればいい。
と、素直にいかないのはお約束なんだろうか?
《危険察知》に敵の反応が引っかかった。モンスターじゃない、人間だ。
そうなると野盗か。こちらを待ち受けるような形で布陣している。数は――二十八人。そこそこ多いな……真っ向勝負だと少々面倒だ。
「全員止まってくれ。この先に野盗と思しき連中の気配を感じた」
すぐさま馬車が動きを止める。馬車からポールさんが下りてきた。
「野盗の反応とおっしゃったようですが、間違いないのですか?」
「三十人弱が陣形を展開して、この先に待ち構えていると感じました……スノーホワイトウルフは、もしかしたらこの野盗達に飼いならされていたのかもしれない。疑うのであれば、身軽な人が確認してくればいい」
自分の発言を受けて、護衛の一人が最低限の装備に絞って静かに先行し――五分ほどで戻ってきた。
「そいつの言う通りだった。人数も大体合ってる。強行突破は無理だ、包囲されちまう。道にはご丁寧に木でできた拒馬槍まであるから、馬の突破力でごり押しもできないぞ」
――拒馬槍まであるのか。なお、参考までに……拒馬槍とは、古代中国で使われていた兵器であり、大体三メートルほどの木に槍を複数固定して立てかけるというものである。構造が単純故に作りやすく、それでいて馬の足を止める能力はかなりのもの。
馬がいくつも並んだ槍の穂先を嫌がるという事は容易に想像がつくかと思う。
「十中八九、先のスノーホワイトウルフはそいつらの手下だな。こちらに馬車があると知ったから拒馬槍まで用意してきたと考える方が自然だろう。しかし、野盗が三十人か……存在を早めに知れたのはありがたいが、どうしたものか。回り道をすれば相当な時間がかかるし、向こうだってそれを見越した行動を取ってくるかもしれぬ」
話を聞いた護衛の中でも年長者と思われる男がそう言うと、周囲も唸る。こちらは戦えるのは数人、しかも護衛対象もいる。向こうは約三十人いて護衛すべきものは何もない。
こちら側が圧倒的に不利なのは言うまでもない。それに、運んでいる商品を差し出すというのも却下だ。そんな事をしたら、商人達が収入を失ってここの命は助かっても先がない。
「ならば、こちらが不意を突き、最初の強襲で少しでも数を減らして五分に持っていくしかないでしょうね。向こうはまだこちらが気が付いたとは思っていないでしょう。ならばそこを突く他ないと考えますが」
自分が提案すると、視線が集まる。やがて、先ほどの年長者が再び口を開いた。
「ううむ、他の案が出ない以上、それしかないか。しかし、不意を打つとはいえ、こちらは護衛が主な仕事でな。そういった経験はほとんどないのだ。そんな付け焼き刃ですらない攻撃がそう上手くいくか……」
なるほど、そういう心配があったか。確かに経験がない事をやるってのは怖い、それもぶっつけ本番ならなおさら。なら、ここは自分が引っ張るか……
「なら、身軽で弓が得意な人を二人貸してくれませんか? 自分が仕掛けますので」
5
商人と護衛が歩き続ける事しばし。拒馬槍があるところの近くまで来ると、大勢の男達が姿を見せた。当然のように、全員が剣や斧、槍などの刃物を抜刀している。
「おおーっと、そこで止まりな。ここは関所だ、通りたかったら定められた税金を支払ってもらうぜ!」
親分らしき男がそう叫ぶと、周囲の男達も次々と「げっへっへ」みたいな上品とは言えない汚い笑い声を上げる。
「関所だと? ここに関所などなかったはずだが?」
「それは以前来た時の話だろ? 今はあるんだよ! さあ、さっさと税金を払いな!」
「ちなみにいくらだ?」
「ああ、それはなぁ……お前らの持っている金になるもの全部だよ!」
護衛とのそんな会話のあとに、野盗としての本性を現した男達が商人と護衛に向かって攻撃を仕掛けようとしたまさにその瞬間――
地面に落ちた【強化オイル】が複数の火柱を上げ、近くにいた野盗の身を焼いた。野盗達から悲鳴が上がる中……自分は狙い通りだとほっとしていた。
時間は少しだけ巻き戻る。弓が得意な護衛二人を借りた自分は、その二人に近くの岩の陰に隠れてもらった。
ここならば矢の射線を防ぐものはなく、反撃されたらしゃがめば岩が盾になってくれる。
「では、このあと連中が襲いかかろうとしたところで自分が火柱を上げますので、その火柱が見えたら野盗に矢を放ってください」
「それは分かったが、ここからその火柱を上げる魔法を唱えるのか?」
「いえ、もうちょっと連中の近くに忍び寄って仕掛けますので……ここからは離れます」
そう言い残して自分は野盗達の左後方まで移動。ここには背の高い草が生えており、自然のブラインドとなっているため身を隠すのが楽だったので選択した。
そして、タイミングを見計らって【強化オイル】を野盗達に投げつけたというわけだ。
「伏兵だと⁉ どこにいやがる⁉」
「ぎゃあ!」
「矢が飛んできたぞ、どこだ⁉」
自分の【強化オイル】による炎上と、伏せておいた弓使いの二人による不意打ちは見事に決まった。数の上では優勢な野盗達だったが、突如上がった火柱に身を焼かれた事と予想外の方向から矢が飛んできた事が重なって、パニック状態に陥っていた。
こいつらは、数の優位を活かして一方的な虐殺はできるが、不意打ちを受けた時の心構えはなんにもなかったようだ。
「奴らを撃て! 逃がせばまた商人達の商品と命が狙われる! 討伐しろ!」
商人の近くにいた護衛の皆さんも、弓を取り出して次々と混乱状態の野盗に対して矢を射かける。
野盗達はその数を減らしていく。
今回の野盗、一人一人は弱いみたいだな。もう半分ぐらいまで減ったぞ……
「おい、ログフ! いつまで大騒ぎしてやがる! さっさとあの犬どもをけしかけろ! てめえが指示を出さなきゃ動かねえだろう!」
「おお、すまねえ! 犬ども出番だ、さっさとあいつらを血祭りにあげやがれ!」
そんな声とともに、ログフと言われたぼっさぼさのひげを蓄えた男が、短い笛を吹くところを〈百里眼〉が捉えた。
もしかしなくても、犬笛か。犬笛ってうろ覚えの知識が間違っていなければ、人の耳には聞こえない周波数の音が出てるんだっけか?
とにかく、《危険察知》でこちらに近寄ってくる存在を確認せねば。
(来てる、スノーホワイトウルフだ。結構遠くにいたんだな……犬笛の呼びかけに応えて来るように訓練されていたのか。やってくる方向から予測すると、自分がいる場所の前を横切るな。ならばタイミングを計って、スノーホワイトウルフ達も【強化オイル】で焼いてしまおう)
状況はすでに護衛の皆さんが圧倒的に優位だ。自分が少しの間手を出さなくても問題はない。
あとはこのスノーホワイトウルフの横やりで形勢逆転されなければ、大丈夫だろう。
タイミングを見計らい……スノーホワイトウルフ達が自分の前方を突っ切るところで、【強化オイル】を複数ぶん投げた。
「ギャィィン!」
「ヒィン! ヒィン!」
炎に焼かれて、スノーホワイトウルフ達が悲鳴を上げながらのたうち回る。
そんなスノーホワイトウルフ達に対して、草むらから飛び出した自分は【レガリオン】で首を次々と切り裂き、とどめを刺す。
体を火で焼かれる苦しみを長引かせないための介錯も兼ねていた。
「犬っころが⁉ てめえ何もんだ!」
「お前らの敵だよ、そんな事も瞬時に分からんのかド阿呆が!」
起死回生の一手を潰された事で激高したログフと呼ばれた男に、自分はそう怒鳴り返し、盾である【食らいつく者・クラネスパワー】に仕込まれているアンカーを久々に起動する。
盾から撃ち出されたアンカーの先端部は、自分が狙った通りに飛んでログフの顔面を捉え、容赦なく締め上げる。
「ぎゃあああ⁉」
「発射!」
さらにアンカーに仕込まれている砲塔から、威力をとんでもなく高められた魔法――ウィンドニードルが三発連続で発射される。
当然、顔面を拘束されているログフに回避できるはずもない。三発ともしっかりと顔面に撃ち込まれてジ・エンドである。
クラネスさんが作った砲塔の魔法威力の強化はえげつないレベルだな。
「お頭! ログフまでやられた! ログフの犬っころも全滅だ!」
「畜生が! なんだってこんな事に!」
生き残っている野盗達の間でそんな会話が行われたが……そりゃお前達が悪事を働いていたからでしょうが。
自分が今日ここにいなくたって、いつかはこんな日が来たはずである。
ただ、こいつらの命運が尽きたのが、たまたま今日だったというだけにすぎない。
「あと少しだ、全滅させろ!」
「撃て撃て! こんな奴らは生かしておく理由はない、始末しろ!」
一方で護衛の皆さんの士気は高まる一方。次々と野盗は討ち取られ、なんの因果か……生き残った最後の一人はこの野盗達の親分だった。
「お前が親分だな? 部下達はもう全員死んだ。お前もしっかりと始末させてもらう」
「お前のような奴を逃がせば、また別の場所で同じ事をやるに決まっている。絶対にここで殺す」
自分と護衛の皆さんがジリジリと野盗の親分に向かって距離を詰める。
そして自分を除く全員が飛び掛かったところで……野盗の親分は、素早く懐に手を入れ、取り出した何かを地面に叩きつけて煙幕を展開した。
実に動きがスムーズだった、手慣れているな。
「これは煙幕か⁉」
「く、どこに行きやがった!」
「ダメだ、逃がすな! 誰でもいい、奴に攻撃を加えるんだ!」
「畜生が、見えねえっ‼」
部下が死んでいく中でも使わず、自分一人が助かるためだけに煙幕を発生させる道具を隠し持っていたんだろう。声で位置がばれる事を警戒して、負け惜しみの一言も言わずに逃げる姿からも、何度も同じ事をやってきた経験があると窺える。
でもね、残念だがお前の命日は今日なんだよ。
「ギャアアアアア⁉」
煙幕で目を塞いでも、《危険察知》先生の探知から逃れる事はできない。
位置が分かれば、あとは経験でどう矢を放てば当たるのかは体が知っている。
煙幕が晴れたあとに現れた野盗の親分は、右足と左肩あたりに自分が放った矢が刺さってうめいていた。
「あの煙幕の中で……よく当ててくれた!」
護衛の一人からよくやったと褒められたが、自分の力じゃなくて《危険察知》先生のおかげだからなぁ。まあ、そんな事を一々言っていても仕方がない。とりあえずこの場は頷いておく事にする。
そして、再び全員で野盗の親分を取り囲んだ。
「こいつ、確か……そうだ、思い出したぞ! 賞金首のジェイルフだ! 間違いない! 商人殺しのジェイルフだ!」
「やっぱりそういう悪党だったか。首を落としていくとしよう。フォルカウスの兵士詰め所に報告すれば報酬が出るはずだ」
「報酬云々より、こんな危険な奴は放置できねえ」
どうやら護衛の皆さんの中では、ある程度の有名人だったらしい。もちろん悪い意味での……
当然ジェイルフは首を落とされる事となる。ただその前に必死の命乞いをしてきたので、自分はこう言ってやった。
「そんな命乞いをした商人達を、お前は見逃したか? 散々弄んでから殺してきたんだろう? それなのに自分が殺される番となったら助けてくれというのは、あまりにも虫が良すぎる話だろう? 違うか?」
護衛の人だけでなく商人の皆さんまで頷いていた。もうどうあっても助からないと理解したジェイルフの顔は、青を通り越して白くなっていたが。
まあ、そんな顔色になるような事を今まで他の人にやってきた以上……自分も同じ事をやられるのは当然の結果である。
「これで一人、厄介な奴が消えたな。本当に良かった」
「フォルカウスを通じて、ジェイルフの死は各国に伝わるだろう。これで商人達の旅も少しは穏やかなものになるだろうな」
「新しい悪党が出てこなければ、だが」
そんな話を護衛の人達としながら、歩を進める。フォルカウスまで、あと少しだ。
6
野盗が再び襲ってくるという事はさすがになく、ようやくフォルカウスに到着した。護衛の人達は商人さんとここでお別れのようだ。
報酬をもらっている、と思ったら自分にもくれたよ。五万グローほどね。護衛した時間の短さからすれば多いだろう。
あとは護衛の人達と一緒にジェイルフの死を報告すべく、フォルカウスの兵士詰め所へ。
「ん、どうした? 我らに何か用事があるのか?」
「ああ、商人殺しのジェイルフを討ち取った。確認と賞金を頼みたい」
詰め所の中に入り、護衛の人がジェイルフの身に着けていたもの渡す。詰め所の人達が数人がかりであれこれ確認している。
「間違いなくジェイルフのものであると確認できた。よくぞ討ち取ってくれた、感謝する。では報酬の七十万グローだ、受け取ってくれ」
お金の入った袋が手渡され、受け取った護衛の人が念のために確認。間違いなく七十万グローが入っていたのでこれで話はおしまいだ。で、自分には分け前として十万グローを譲ってくれた。
「今回は助かった。また縁があれば一緒に仕事をしたいものだな」
そう言い残し、護衛の人達は立ち去っていった。ここでリアルの時間を確認すると……うん、魔王領の最初の街に到着できるぐらいの時間はあるか。
そう考えて、魔王領に入るための入国手続きを行う場所に向かったのだが……
翌日、ログインした自分は、アクアに乗って魔王領へと向かっていた。人気のないところは飛んでもらい、フォルカウスの街から多少離れた場所で降りて小さくなってもらう。
そのまま街に向かおうとしたところで――突如遠くから男性の悲鳴が聞こえてきた。
「誰か、誰か助けてくれ! うおっ⁉」
声のした方向に急行すると、そこには商人と思しき人が数人と装備を整えて戦っている護衛らしき人が数人。そして魔王領にいるはずのスノーホワイトウルフが七匹。
一瞬、商人達がスノーホワイトウルフを捕らえて運送しているところを逃げられたのかと思ったが、もしそうだとしたら彼らが使っている馬車がもっと派手に壊れているはず。
馬車には商人達のものと思われる血が付いているものの、それ以外はきれいだ。繋がれている馬は大騒ぎしているが。
(はぐれモンスターって事か? ともかく、無理に連れてきて反撃されたというわけでもないようだし、ここは救援を)
まだ、なぜスノーホワイトウルフがここにいるのかという疑問は解けていない。もしかすると馬車の中にスノーホワイトウルフの子供が捕らえられている展開もありうる。
なので自分は【八岐の月】に矢を番えて、わざとスノーホワイトウルフ達の前に矢が刺さるように放った。足止めをして、そのうちに馬車の中を《危険察知》で、商人達を〈義賊頭〉でチェックする。
(馬車の中に生命反応――なし! 〈義賊頭〉による悪人判定――悪人ではない。つまり彼らは単純に襲われただけというわけか)
これなら、スノーホワイトウルフを倒してもいいだろう。だが、声だけはかけておくか。
「立ち去れ! 立ち去らなければ次は当てるぞ!」
この自分の声が予想外に効いたのか、スノーホワイトウルフ達は魔王領の方に向かって逃げていった。
護衛の人達も武器を下ろし、けが人の手当てに走った。商人が二人ほど、かなり深い傷を負わされている。スノーホワイトウルフの爪か牙にやられたんだろう。
「手伝える事は?」
「いや、大丈夫だ。薬の備蓄もある。援護に感謝する……今なら十分に手当てが間に合う」
護衛の人達の手際は見事だな、手を出せばかえって邪魔になるだろう。
なので自分は【八岐の月】を持ったまま周囲の警戒に当たる。そりゃ《危険察知》があるんだから近くにいる、いないは分かるんだけどさ……それは自分だけだ。
商人さんや護衛の人達が同じような能力を持っているとは限らない。だから警戒している奴が一人いる、ってだけでも精神的に落ち着くはずだ。
「今は付近に何もいない、落ち着いて手当てをしても問題はなさそうだ」
「分かった、済まないがそのまま頼む。あと少しでこちらの治療も終わる」
その言葉に偽りはなく、数分後には攻撃を受けた全員の手当てが終わっていた。
馬車に繋がれていた馬も落ち着きを取り戻した。とりあえずこれで一安心かな。
「遅くなりましたが、先ほどの支援ありがとうございました。おかげで死者を出さずに済みました。私、各地を旅して商いをしております、ポールと申します」
と、ここで商人達の代表と思われる身なりがちょっといい男性が自分に挨拶してきた。
ただ、この人も顔や手に傷を負っており、手当てのあとがまだ痛々しい。
「いえ、たまたまフォルカウスの街に向かっている最中でして。声が聞こえたから駆けつけたまでです」
ポールさんは、少し考えてから新しい話を振ってきた。
「実は我々もフォルカウスに向かう途中でして。申し訳ないのですが、街まで護衛していただけませんか? 先ほどのスノーホワイトウルフの襲撃で、我々の護衛の皆様も私達を護るために相応の手傷を負いました。もう一度魔物や盗賊に襲われたら耐えきれるか分かりません。もちろん対価はお支払いいたします」
うーむ、確かに魔王領にしかいないはずのスノーホワイトウルフがここにいたのは気になるし……徒歩でもフォルカウスの街へは三十分かかるかどうかの距離だ。
護衛をしても大して時間は変わらんか。それに無視して街に向かっても絶対気になり続けるもんな、自分の性格からして。
「分かりました、魔王領に生息しているはずのスノーホワイトウルフがなぜここにいたのかも気になりますし、フォルカウスの街までの護衛は引き受けましょう。大した距離ではありませんが、よろしくお願いします」
そう言うと、ほっとした空気が流れた。
ふむ、確かに護衛の人達を再確認すると、スノーホワイトウルフの攻撃で防具のあちこちが破損している。これでは確かにもう一回襲撃を受けたらちょっと厳しいだろう。
護衛の人達の腕が悪いわけではないと思うから、これらは完全な不意打ちによるダメージかね?
あとは防具の質がちょっと……といっても、自分が妖精国にいた時より遥かにいい物だが。
「受けてくださいますか、ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
ポールさんは、自分に向かって深々と頭を下げた。
こうして、短いながらも護衛の一人として同行する事になった。
「先ほどは助かったよ……その異様な弓から放たれた矢の勢いで、あの獰猛なスノーホワイトウルフ達の戦意が挫かれたのを感じた。こんな人気のないところで、最高の助けが来てくれた」
歩き始めてすぐ、護衛の人のうちの一人がそう話しかけてきた。
「状況が分からなかったので、ああしたんですけどね。ウルフ系は下手に殺すと仲間の敵討ちを果たすまで引かなくなる可能性があるので」
そんな性質が「ワンモア」のウルフ系にあるなんて話は知らない。なのでこれは適当な誤魔化しだ。
彼らが悪党か否かを見極める時間が必要だったから取った手段である、なんて言えるはずがない。
義賊が悪党を助けたなんて事になったら笑い話にもならない。その時は知らなかったとしても、な。
「ああ、その可能性はあったかもしれないな。ウルフ系の中には自分の家族を傷つけられたら、己が死のうとも最後まで戦う種があると聞く。あの場でそうなったら被害は確かに広がったか……その判断にも感謝しないとならないな」
納得したのか、うんうんと頷く護衛。まあ納得してくれたのであればそれで良い。
あとはちょこちょこたわいない話をしながら、フォルカウスの街まで行くだけだ。今のところ周囲に敵の反応はない。このまま二十分ほど護衛をしていればいい。
と、素直にいかないのはお約束なんだろうか?
《危険察知》に敵の反応が引っかかった。モンスターじゃない、人間だ。
そうなると野盗か。こちらを待ち受けるような形で布陣している。数は――二十八人。そこそこ多いな……真っ向勝負だと少々面倒だ。
「全員止まってくれ。この先に野盗と思しき連中の気配を感じた」
すぐさま馬車が動きを止める。馬車からポールさんが下りてきた。
「野盗の反応とおっしゃったようですが、間違いないのですか?」
「三十人弱が陣形を展開して、この先に待ち構えていると感じました……スノーホワイトウルフは、もしかしたらこの野盗達に飼いならされていたのかもしれない。疑うのであれば、身軽な人が確認してくればいい」
自分の発言を受けて、護衛の一人が最低限の装備に絞って静かに先行し――五分ほどで戻ってきた。
「そいつの言う通りだった。人数も大体合ってる。強行突破は無理だ、包囲されちまう。道にはご丁寧に木でできた拒馬槍まであるから、馬の突破力でごり押しもできないぞ」
――拒馬槍まであるのか。なお、参考までに……拒馬槍とは、古代中国で使われていた兵器であり、大体三メートルほどの木に槍を複数固定して立てかけるというものである。構造が単純故に作りやすく、それでいて馬の足を止める能力はかなりのもの。
馬がいくつも並んだ槍の穂先を嫌がるという事は容易に想像がつくかと思う。
「十中八九、先のスノーホワイトウルフはそいつらの手下だな。こちらに馬車があると知ったから拒馬槍まで用意してきたと考える方が自然だろう。しかし、野盗が三十人か……存在を早めに知れたのはありがたいが、どうしたものか。回り道をすれば相当な時間がかかるし、向こうだってそれを見越した行動を取ってくるかもしれぬ」
話を聞いた護衛の中でも年長者と思われる男がそう言うと、周囲も唸る。こちらは戦えるのは数人、しかも護衛対象もいる。向こうは約三十人いて護衛すべきものは何もない。
こちら側が圧倒的に不利なのは言うまでもない。それに、運んでいる商品を差し出すというのも却下だ。そんな事をしたら、商人達が収入を失ってここの命は助かっても先がない。
「ならば、こちらが不意を突き、最初の強襲で少しでも数を減らして五分に持っていくしかないでしょうね。向こうはまだこちらが気が付いたとは思っていないでしょう。ならばそこを突く他ないと考えますが」
自分が提案すると、視線が集まる。やがて、先ほどの年長者が再び口を開いた。
「ううむ、他の案が出ない以上、それしかないか。しかし、不意を打つとはいえ、こちらは護衛が主な仕事でな。そういった経験はほとんどないのだ。そんな付け焼き刃ですらない攻撃がそう上手くいくか……」
なるほど、そういう心配があったか。確かに経験がない事をやるってのは怖い、それもぶっつけ本番ならなおさら。なら、ここは自分が引っ張るか……
「なら、身軽で弓が得意な人を二人貸してくれませんか? 自分が仕掛けますので」
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商人と護衛が歩き続ける事しばし。拒馬槍があるところの近くまで来ると、大勢の男達が姿を見せた。当然のように、全員が剣や斧、槍などの刃物を抜刀している。
「おおーっと、そこで止まりな。ここは関所だ、通りたかったら定められた税金を支払ってもらうぜ!」
親分らしき男がそう叫ぶと、周囲の男達も次々と「げっへっへ」みたいな上品とは言えない汚い笑い声を上げる。
「関所だと? ここに関所などなかったはずだが?」
「それは以前来た時の話だろ? 今はあるんだよ! さあ、さっさと税金を払いな!」
「ちなみにいくらだ?」
「ああ、それはなぁ……お前らの持っている金になるもの全部だよ!」
護衛とのそんな会話のあとに、野盗としての本性を現した男達が商人と護衛に向かって攻撃を仕掛けようとしたまさにその瞬間――
地面に落ちた【強化オイル】が複数の火柱を上げ、近くにいた野盗の身を焼いた。野盗達から悲鳴が上がる中……自分は狙い通りだとほっとしていた。
時間は少しだけ巻き戻る。弓が得意な護衛二人を借りた自分は、その二人に近くの岩の陰に隠れてもらった。
ここならば矢の射線を防ぐものはなく、反撃されたらしゃがめば岩が盾になってくれる。
「では、このあと連中が襲いかかろうとしたところで自分が火柱を上げますので、その火柱が見えたら野盗に矢を放ってください」
「それは分かったが、ここからその火柱を上げる魔法を唱えるのか?」
「いえ、もうちょっと連中の近くに忍び寄って仕掛けますので……ここからは離れます」
そう言い残して自分は野盗達の左後方まで移動。ここには背の高い草が生えており、自然のブラインドとなっているため身を隠すのが楽だったので選択した。
そして、タイミングを見計らって【強化オイル】を野盗達に投げつけたというわけだ。
「伏兵だと⁉ どこにいやがる⁉」
「ぎゃあ!」
「矢が飛んできたぞ、どこだ⁉」
自分の【強化オイル】による炎上と、伏せておいた弓使いの二人による不意打ちは見事に決まった。数の上では優勢な野盗達だったが、突如上がった火柱に身を焼かれた事と予想外の方向から矢が飛んできた事が重なって、パニック状態に陥っていた。
こいつらは、数の優位を活かして一方的な虐殺はできるが、不意打ちを受けた時の心構えはなんにもなかったようだ。
「奴らを撃て! 逃がせばまた商人達の商品と命が狙われる! 討伐しろ!」
商人の近くにいた護衛の皆さんも、弓を取り出して次々と混乱状態の野盗に対して矢を射かける。
野盗達はその数を減らしていく。
今回の野盗、一人一人は弱いみたいだな。もう半分ぐらいまで減ったぞ……
「おい、ログフ! いつまで大騒ぎしてやがる! さっさとあの犬どもをけしかけろ! てめえが指示を出さなきゃ動かねえだろう!」
「おお、すまねえ! 犬ども出番だ、さっさとあいつらを血祭りにあげやがれ!」
そんな声とともに、ログフと言われたぼっさぼさのひげを蓄えた男が、短い笛を吹くところを〈百里眼〉が捉えた。
もしかしなくても、犬笛か。犬笛ってうろ覚えの知識が間違っていなければ、人の耳には聞こえない周波数の音が出てるんだっけか?
とにかく、《危険察知》でこちらに近寄ってくる存在を確認せねば。
(来てる、スノーホワイトウルフだ。結構遠くにいたんだな……犬笛の呼びかけに応えて来るように訓練されていたのか。やってくる方向から予測すると、自分がいる場所の前を横切るな。ならばタイミングを計って、スノーホワイトウルフ達も【強化オイル】で焼いてしまおう)
状況はすでに護衛の皆さんが圧倒的に優位だ。自分が少しの間手を出さなくても問題はない。
あとはこのスノーホワイトウルフの横やりで形勢逆転されなければ、大丈夫だろう。
タイミングを見計らい……スノーホワイトウルフ達が自分の前方を突っ切るところで、【強化オイル】を複数ぶん投げた。
「ギャィィン!」
「ヒィン! ヒィン!」
炎に焼かれて、スノーホワイトウルフ達が悲鳴を上げながらのたうち回る。
そんなスノーホワイトウルフ達に対して、草むらから飛び出した自分は【レガリオン】で首を次々と切り裂き、とどめを刺す。
体を火で焼かれる苦しみを長引かせないための介錯も兼ねていた。
「犬っころが⁉ てめえ何もんだ!」
「お前らの敵だよ、そんな事も瞬時に分からんのかド阿呆が!」
起死回生の一手を潰された事で激高したログフと呼ばれた男に、自分はそう怒鳴り返し、盾である【食らいつく者・クラネスパワー】に仕込まれているアンカーを久々に起動する。
盾から撃ち出されたアンカーの先端部は、自分が狙った通りに飛んでログフの顔面を捉え、容赦なく締め上げる。
「ぎゃあああ⁉」
「発射!」
さらにアンカーに仕込まれている砲塔から、威力をとんでもなく高められた魔法――ウィンドニードルが三発連続で発射される。
当然、顔面を拘束されているログフに回避できるはずもない。三発ともしっかりと顔面に撃ち込まれてジ・エンドである。
クラネスさんが作った砲塔の魔法威力の強化はえげつないレベルだな。
「お頭! ログフまでやられた! ログフの犬っころも全滅だ!」
「畜生が! なんだってこんな事に!」
生き残っている野盗達の間でそんな会話が行われたが……そりゃお前達が悪事を働いていたからでしょうが。
自分が今日ここにいなくたって、いつかはこんな日が来たはずである。
ただ、こいつらの命運が尽きたのが、たまたま今日だったというだけにすぎない。
「あと少しだ、全滅させろ!」
「撃て撃て! こんな奴らは生かしておく理由はない、始末しろ!」
一方で護衛の皆さんの士気は高まる一方。次々と野盗は討ち取られ、なんの因果か……生き残った最後の一人はこの野盗達の親分だった。
「お前が親分だな? 部下達はもう全員死んだ。お前もしっかりと始末させてもらう」
「お前のような奴を逃がせば、また別の場所で同じ事をやるに決まっている。絶対にここで殺す」
自分と護衛の皆さんがジリジリと野盗の親分に向かって距離を詰める。
そして自分を除く全員が飛び掛かったところで……野盗の親分は、素早く懐に手を入れ、取り出した何かを地面に叩きつけて煙幕を展開した。
実に動きがスムーズだった、手慣れているな。
「これは煙幕か⁉」
「く、どこに行きやがった!」
「ダメだ、逃がすな! 誰でもいい、奴に攻撃を加えるんだ!」
「畜生が、見えねえっ‼」
部下が死んでいく中でも使わず、自分一人が助かるためだけに煙幕を発生させる道具を隠し持っていたんだろう。声で位置がばれる事を警戒して、負け惜しみの一言も言わずに逃げる姿からも、何度も同じ事をやってきた経験があると窺える。
でもね、残念だがお前の命日は今日なんだよ。
「ギャアアアアア⁉」
煙幕で目を塞いでも、《危険察知》先生の探知から逃れる事はできない。
位置が分かれば、あとは経験でどう矢を放てば当たるのかは体が知っている。
煙幕が晴れたあとに現れた野盗の親分は、右足と左肩あたりに自分が放った矢が刺さってうめいていた。
「あの煙幕の中で……よく当ててくれた!」
護衛の一人からよくやったと褒められたが、自分の力じゃなくて《危険察知》先生のおかげだからなぁ。まあ、そんな事を一々言っていても仕方がない。とりあえずこの場は頷いておく事にする。
そして、再び全員で野盗の親分を取り囲んだ。
「こいつ、確か……そうだ、思い出したぞ! 賞金首のジェイルフだ! 間違いない! 商人殺しのジェイルフだ!」
「やっぱりそういう悪党だったか。首を落としていくとしよう。フォルカウスの兵士詰め所に報告すれば報酬が出るはずだ」
「報酬云々より、こんな危険な奴は放置できねえ」
どうやら護衛の皆さんの中では、ある程度の有名人だったらしい。もちろん悪い意味での……
当然ジェイルフは首を落とされる事となる。ただその前に必死の命乞いをしてきたので、自分はこう言ってやった。
「そんな命乞いをした商人達を、お前は見逃したか? 散々弄んでから殺してきたんだろう? それなのに自分が殺される番となったら助けてくれというのは、あまりにも虫が良すぎる話だろう? 違うか?」
護衛の人だけでなく商人の皆さんまで頷いていた。もうどうあっても助からないと理解したジェイルフの顔は、青を通り越して白くなっていたが。
まあ、そんな顔色になるような事を今まで他の人にやってきた以上……自分も同じ事をやられるのは当然の結果である。
「これで一人、厄介な奴が消えたな。本当に良かった」
「フォルカウスを通じて、ジェイルフの死は各国に伝わるだろう。これで商人達の旅も少しは穏やかなものになるだろうな」
「新しい悪党が出てこなければ、だが」
そんな話を護衛の人達としながら、歩を進める。フォルカウスまで、あと少しだ。
6
野盗が再び襲ってくるという事はさすがになく、ようやくフォルカウスに到着した。護衛の人達は商人さんとここでお別れのようだ。
報酬をもらっている、と思ったら自分にもくれたよ。五万グローほどね。護衛した時間の短さからすれば多いだろう。
あとは護衛の人達と一緒にジェイルフの死を報告すべく、フォルカウスの兵士詰め所へ。
「ん、どうした? 我らに何か用事があるのか?」
「ああ、商人殺しのジェイルフを討ち取った。確認と賞金を頼みたい」
詰め所の中に入り、護衛の人がジェイルフの身に着けていたもの渡す。詰め所の人達が数人がかりであれこれ確認している。
「間違いなくジェイルフのものであると確認できた。よくぞ討ち取ってくれた、感謝する。では報酬の七十万グローだ、受け取ってくれ」
お金の入った袋が手渡され、受け取った護衛の人が念のために確認。間違いなく七十万グローが入っていたのでこれで話はおしまいだ。で、自分には分け前として十万グローを譲ってくれた。
「今回は助かった。また縁があれば一緒に仕事をしたいものだな」
そう言い残し、護衛の人達は立ち去っていった。ここでリアルの時間を確認すると……うん、魔王領の最初の街に到着できるぐらいの時間はあるか。
そう考えて、魔王領に入るための入国手続きを行う場所に向かったのだが……
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