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30巻
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VRMMOゲーム「ワンモア・フリーライフ・オンライン」のサービス終了が発表され、アースこと自分は最後の試練となる塔への挑戦を前に、方々にて別れの挨拶を済ませた。
最後に妖精国でフェアリークィーンとアクアに別れを告げ、次に自分が「ワンモア」にログインしたのは三日後だった。
アクアがいない、アクアの声が聞こえないというだけでログインする気力がわかず、仕事が特別忙しいわけでもないのに帰ったらすぐに就寝してしまっていたからだ。
しかし、ついに塔の解放が一週間後に迫った今、いつまでもそんな気持ちのままではいられない。
今日の目的は人族の街ファストにある倉庫を綺麗にして、立つ鳥跡を濁さずという言葉の通りにする事。
久しく来ていなかったし、そもそも中盤以降は存在自体を忘れがちだったため、中には碌なものは入っていない。
とはいえ、世界からなくなる前にとっておいた天然の薬草や騎士剣が開放されるきっかけになった過去の騎士の遺品など、一部は大事なものである。
そういった一部を除き、残りはすべて現金化する事で倉庫の中身を片づける。作業は二十分程度で終わってしまった。塔の中に入る前にやっておく事は義賊団の件を含めてもあとわずかである。
(義賊の部下達が今後をどうするかは十分に検討してから答えを出してほしい……だから塔が解放される前日まで、彼らにはじっくり考えてもらおう)
行く当てもないので、ファストの街をぶらぶらする。
塔の解放まで残り一週間となり、今までいろんな場所にいたプレイヤー達が続々と集まってきて、街は非常に混雑している。
そして人が集まればものも動くという事で、塔に入る前に装備の更新はいかがとばかりに、多くの人が商品の案内をしている。
「こちらミスリルの装備だ。なんでもあるから塔に登る前にどうだーい?」
「最高級のミスリルのみで作った武器ならこちら! 値は張るけど、最後の相棒にするにはもってこいだと思うぞー!」
「各魔剣販売中、最終決戦前に検討してみてくれ!」
最初の街だというのに、品ぞろえはまさにRPGの最後の街で買えるようなラインナップが並ぶ。
他のゲームならミスリルの上にオリハルコンとかの名前が出てくるんだろうけど、「ワンモア」での最高鉱石はミスリルを精製し、ひたすらに純度を高めたものがそれにあたる。実際同じミスリル製の武具でも、精製の度合いによって差がえげつないほどに出る。
「もうちょっと負けてよ」
「さすがにこれは精製を重ねたミスリル装備だからなぁ……お金を稼いだ後は一年かけて各国をのんびり回りたいから、護衛を雇うために金がいるんだよ」
「これいいなぁ……買っちゃおうかなぁ」
「塔に入っても五階ごとに宿屋、鍛冶屋、食料品店などの冒険に必要なものがそろう場所はある。そこには職人も行けて、装備を更新できるだろうから、もうちょっと考えろよ?」
商人や職人とあれこれやり取りする声が耳に入ってくる。
そういえば、ファストの街の鍛冶場でひたすらハンマーを振るっていた親方はどうしているんだろう?
気になるし、予定もないので訪ねてみる事にした――そして、現場は戦場だった。
「親方、こちら上がりました!」
「よし、次はそこにある武器の修理だ!」
「うへぇ、いっぱいある」
「口は動かしてもいいが、それ以上に手を動かせ! 全く、武器の整備を土壇場で持ち込んでくる馬鹿が多すぎる!」
「とにかく動くしかないよ。もう、どれだけやれば終わるとか考えない方が精神的にいい」
修理、改造予定の武器や防具が所狭しと置かれており、親方をはじめとした鍛冶屋プレイヤーが汗を大量に流しながら、それらにひたすら手を入れている光景が広がっていた。
半分以上の者の目は死んでおり、まさに地獄のようだ。
(こりゃ、邪魔にならないうちに撤収した方が良いな)
親方に挨拶の一つでもしようと思っていたが、できる状態じゃない。
作業の邪魔をしないように早々に出ていこうとしたのだが、鍛冶場のドアがこういう時に限ってギィ……という音を立ててくれちゃった。
「誰だ? 依頼ならもういっぱいいっぱいだから他を当たってく――って、もしかしてアースか!? ちょうどいい、修理を手伝ってくれ! もうここにいる連中もへとへとなんだ。頼む、今日一日だけでもいい!」
音を聞いて振り返った親方が、すぐさまそう話を振ってきた。
ここで「きつそうだからやめておきます」と言って出ていく事は、自分にはできなかった。無言でローブを脱ぎ、鎧もアイテムボックスにしまってインナー姿になる。
「おい、今一瞬見えたあの鎧……」
「ああ、スケイルメイルだ。でも、あれって……」
「あの輝き、普通のモンスターからとれる鱗じゃないぞ」
ち、さすが鍛冶屋プレイヤー。一瞬しか見えなかったはずなのに目ざとく気が付く。でも、そういう声はすべて無視する。
「で、親方。修理しなきゃいけない装備で自分でもできる奴はどの辺です?」
「ああ、ここから先だ。できる範囲でいい、やってもらえるだけで助かる。もちろん報酬は出す」
そこには袋に詰められた大量の武器や鎧が並んでいた。破損具合を調べるが、うん、これぐらいなら自分でもやれる。
クラネス師匠に鍛えてもらった今の自分なら完全に綺麗に直せる範疇だ。
「了解しました、ではさっそく始めます」
「頼む、俺も弟子達もヘロヘロでな。一息入れないとマジでぶっ倒れちまう。お前達、今のうちに水分を取れ。そうしねえと脱水症状で鍛冶場内でデスペナ食らうぞ」
「「「はい!!」」」
へえ、鍛冶場内でもそんな形で死ぬシステムがあったんだ。多分親方か誰かがそれでぶっ倒れたんだろうな……変なところまで作りこまなくていいのにと思うが、「ワンモア」だしなぁ。
嫌らしいところで、ひたすら現実味を出すべくやるからねぇ。ほんと良い性格をしている開発陣だと思うよ。
とにかく、やるべき事ができたのはある意味ちょうどよかった。
アクアのいない寂しさも、これだけの鍛冶作業をやっていればずいぶんと紛れてくれるだろう。
早速作業に取りかかろうか。
ふと時間を確認したら三十分ほど経過していた。
修理できた数は三十ぐらい。一つ一分ペースか……速いのか遅いのかよう分からんが、それでも親方や弟子の皆さんの負担が減るならそれでいい。
「アース、大丈夫か? 水はこまめに取れよ?」
そう親方に言われたのでステータスを確認したが、これといった異常は見つからなかった。でも親方が言う以上、何かしらの状態異常が発症する直前かもしれないので、手持ちの中にあった水系のアイテムを口に含んでおいた。その冷たさがなかなか心地よい。
ふう、とため息が出たので、結構疲れていたのかもしれない。
「熱中症になった後に休まないでいると脱水症状が発症するんだがな。その状態になると仕事にならねえだけじゃなく、すさまじい勢いでHPが削られるシステムになってるらしい。だからちょくちょく水を飲んでおかないと、鍛冶場ですっ転がる羽目になる。俺達も以前何度かそれで死んでな……デスペナルティによる能力低下で、仕事が滞っちまう事があったからよ、お互いに水を取るように声をかけるようにしてんだ」
うっわ、それはえぐい。以前はそんな状態異常はなかったはずだから、プレイヤーに知らせずに実装するサイレンス実装という奴で追加されたんだろう。もしこれが最初からあったら、過去に溶岩地帯周辺での冒険をしている時に発症していたはずだ。以前そんな場所に行った時に、熱中症とかにかかった記憶はない。
「そんな状態異常が……教えてくれて助かります。適度に水分を取るようにします」
手伝っているのにぶっ倒れて迷惑をかけるような事をやらかしたらかえって邪魔になるから気を付けないとな。それにここにある武具の数からいって今日明日に終わる量じゃないし、明日もここに来よう。来る前に飲み物をいくつか作ってアイテムボックスに入れておくか……冷たいオレンジジュースとかが良いかな?
「作業に夢中になっているといつの間にか発症しててそのままダウンという事もあるからな、誰でもいいから気が付いた時に声をかけるという事になっている。アースも作業の合間にちょっとでもおかしいと思ったら大声を出して水分を取るように言ってやってくれ。冗談抜きで今抱えている仕事量をこなすには誰か一人でもダウンしたらまずいんだ」
まあ、親方がそういうのも分かる。まだまだ修理しなきゃいけない武具は山とある。しかし、いくらなんでも親方達に仕事を振りすぎではないか? 鍛冶屋プレイヤーやこちらの世界の職人達だっているだろうに。
「その表情は、なんでこんなに仕事を押し付けられてるんだって考えてるな? 俺達だけじゃないぞ。他の場所、ネクシアやサードも鍛冶場はこういう状況だって話だ。今まで塔の攻略に向けてスキルアップを図ってきた連中が、一斉に装備の修繕を頼んできたからこうなっちまってる。もうちょっと時間をずらしてくれればここまでの事態にゃならなかったんだが、愚痴っても始まらねえしなぁ」
考えが同じになったので、修繕に出すタイミングもまた同じになったというわけね……
「そいつら、早く直せってこちらをせっつくばっかりでよ……だったらもっと早めに持ってこいってんだ」
「ああ、損傷が軽めなら修理も早くできるんだが、たいていやばくなる寸前まで粘ってから出しやがる」
「そこまで行ったら修理にかかる時間と素材の量が跳ね上がるってのによ……親方、そろそろ俺素材調達に行ってきますわ。このままじゃ今日の分が持たんでしょ」
弟子の皆さんも、戦闘系プレイヤーに思う処が多々あるようで。親方の言葉に続いてそれぞれやいのやいの文句を口にする。
確かに、あまり傷まない程度で持ってきてくれれば修理もたやすいんだよね。一日狩りしたら預けに来るとかの感じで。でも数日続けて狩りをすると、武器や防具はかなり傷む。自分の装備は色々と特殊だからそういう事はないが、一般的な奴はそうなる。
で、傷めばその分修理に手間がかかるんだよね。最悪一回ばらしてパーツ交換のためのパーツを作ったりしなきゃならなくなったりするから、ただ補修材をあてて修繕すればいいっていうだけには収まらない。
で、親方がやってる修理ってのがこの面倒な奴ばっかり。だから親方の腕があってもなかなか修理が進まない。一方で自分がやってるのは簡単な奴ばっかりなので、修理速度が速いんだが。
「まあ、あと一週間で落ち着くはずだ。無理しねえ程度に頑張ってくれ」
「「「「はい!」」」」
残り時間は、親方を少しでも手伝おう。この状況では、さすがに見て見ぬふりはできない。
2
そしてそのまま毎日親方やお弟子の皆さんの仕事を手伝うようになって三日後の事だった。
その日も前日と同じように装備の修理を皆で分担して行っていた。すると突如鍛冶場の扉が蹴破られたような派手な音を立てながら開けられ、ある集団が鍛冶場に姿を見せた。
「親方ー、これの修理、明日までにちょっぱやでよろー」
集団の一人がそう言うが早いか、でかい袋を五つほど投げつけるかのように置いてすぐさま出ていこうとする。自分や弟子の皆さんは状況が汲み取れず硬直していたが、親方だけは違った。
「無理だ! お前達の依頼は受けれん! 今すぐそこに投げた装備を持ってここから出ていけ!」
親方の叫びに出ていこうとした集団が足を止め、振り向く。皆一様に不満げな表情を浮かべている。
「なんでだよ、俺達依頼する側、つまりお客様よ? お客様の依頼をこなすのが職人って奴じゃねえの? 違う?」
煽るような声色で、親方にそんな言葉をぶつける集団の一人。だが、親方はすぐさま首を振る。
「悪いが、もうすでに修理の予約はいっぱいでこれ以上は受けられん。表にも看板を出しておいたはずだぞ、修理や装備の製作は当分受ける事はできないと!」
これは親方の言う通りだ。あまりにも修理予約がいっぱいすぎて、キャパオーバーなので二日前から「もう注文はお受けできません、どうかご理解のほどを」と記載した看板を表に出してある。なお、相当でかく作ったので見落とすという可能性はない。あれを見落とすと言い張るなら、お前の目はガラス玉だなと反論できる。
「は? そんな看板あったっけか? お前ら見たか?」
「見てねえっす」
「なかったぜ」
「ないない、気のせいじゃなくなかったよ」
そう言って笑う連中だったが、自分をはじめお弟子さんの方々はもう気が付いている、連中の鎧などに木くずが多数付いてることに。当然、お弟子さんの一人がそこを問い詰める。
「へえ、ところでその身に着けている立派な鎧やブーツに木くずがいくつも付いているようだが、それはどうしたんだい?」
このお弟子さんの一人の言葉にムッとした表情を浮かべた女性プレイヤーがこう言い放った。
「ちょっと訓練していた先で付いただけよ、それが何か?」
だが、この言葉に別のお弟子さんがすぐさま反論した。
「ほー、なおお前達が最後の訓練場として選んだのは魔王領にある溶岩が噴き出すダンジョンだったはずだがな? ええ『飛天の紅』さん御一行様よ。馴染みの連中からも昨日お前達がそこで狩りをやっていたという話を聞いているぜ? なんで溶岩地帯で木くずが付くんだ? おかしいよな?」
ああ、この一団はそういうギルドの集まりなのか。そして、痛いところを突かれた事で、先ほど訓練していた先で付いたと口にした女性プレイヤーは押し黙る。次に口を開いたのは、別の『飛天の紅』所属の男性プレイヤーだ。
「そんなのどうでもいいじゃねえか、さっさとお前達は俺らの装備の修理をすればいいんだよ。簡単な事じゃねえか」
正直、この手の連中がまだこうして存在していたことにも驚きだが……まあ今まではここまで修理依頼が集中する事がなかったから、親方達も依頼を請け負っていたんだろう。対価を踏み倒すという真似はさすがにしていないだろうし。しかし、今は事情が異なる。ここにいるお弟子さん達はログインするとすぐさまここに来てひたすら鍛冶場で修理をする。途中で水分補給と食事を取りはするが、基本的には働き続けるだけで一日が終わる。
そんなフル回転状態でも、依頼された武具の数が多すぎて注文をストップさせなきゃいけない状態だ。間違いなく『簡単な事』の一言で片づけられる話ではない。だから当然お弟子さんから反論が出る。
「ふざけんな、こっちはログイン時間のほとんどを費やして親方や仲間と一緒に修理作業に当たっている状態だ! それでもいっぱいいっぱいだってのに、さらに追加だ? さらにちょっぱやで? お前達はお客様じゃねえ、ただの邪魔ものだ! こうして話をしているだけで作業が止まって他の人に迷惑がかかってんだ! さっさと帰れ!」
このお弟子さんの言葉に、他のお弟子さん達も「その通りだ、さっさと出ていけ!」「こっちの邪魔をこれ以上すんな!」「他を当たれよ!」と声を上げる。
当然の反応だな、そして皆口には出していないが、目の前にいるこいつらは看板をぶっ壊して入ってきたと確信しているはずだ。そんな連中の依頼なんか、この状況で受けようと考えるはずもない。
「お前ら、お客様は神様だって言葉を知らねえの?」
「それは店側の考え方の一つであり、客側が口にしていい言葉ではない! それに神であってもその神に従うか否かは個人の意思次第だ!」
ついに連中がお客様は神様だというフレーズを持ち出してきたので、自分はすぐさま反論を行った。そう、それは店の考え方の一つであって客側がそう考えて良いというわけではないのだ。それに前にも上げたが、最近ではお客様は王様だって考えもある。王様だから失礼な事がない限りは丁寧に接するが、理不尽なことをされれば革命を起こして追い出せばいいという考えだ。
「てめえら、何か生意気じゃね? お前らの悪評を流して何もできなくしたっていいんだぜ?」
「構わん、今すぐやってみろ。金はもう十分稼いだ。鉄も十分に打った。残り一年は護衛を雇って世界をのんびり回ってみるのも良いと考えている。今任された仕事が終わったら、看板を下ろすことになっても俺や弟子達は何にも困りはしねえぞ?」
『飛天の紅』側から出た脅しの言葉に、親方はドスを利かせた口調であっさりとそう反論した。さらに――
「このやり取りは、現在進行形で専用の場所にネットで流れている。元々は修理の進み具合と修理が済んだ人への受け渡しの連絡を行うことが主な役割だったが……お前のような奴が来てこっちを脅してくるのは今に始まったことじゃない。それなりの防衛策は取らせてもらっているというわけだ。言っておくが、今の状況を知った俺達に注文をくれた皆からはお前達に対して怒りの声が多数上がっているぞ」
親方がそう喋った直後、再び大きな音とともに鍛冶場の扉が開かれた。
「親方達の仕事の邪魔をしている阿呆がいるのはここか!」
「『飛天の紅』、またお前達かよ! いったい何回、何人もの間で揉め事を起こせば気が済むんだ!」
「この世界はお前達の都合だけで動いているわけじゃねえ! そういう世界が好きならオフラインのゲームだけやってろ!」
大勢のプレイヤーが、ここに押し寄せてきたのである。そして『飛天の紅』のメンバーを強引にひっつかんで鍛冶場から追い出していく。抵抗する『飛天の紅』メンバーだが、数が違いすぎる。何せ塔の解放日があと四日後に控えているから、それだけ大勢のプレイヤーがファスト周辺にいる。こんな騒ぎを起こせば、それを止めるべく動くプレイヤーも当然いるのだ。
「お前達を拘束させてもらう!」
「ふざけんな、何の権利があって――」
「私はこの街の警備を取り締まっている者だ! お前達の恐喝、並びに器物破壊行為は確認が取れている! 悪質だからな、連行させてもらうぞ! ただでさえ最近は忙しいのにこんな騒ぎを起こしおって、ただでは済まさんぞ!」
どうやら、ファストの警備員の方々まで出張ってきたらしい。多分この状況を知ったプレイヤーが通報したんだろう。そんな方々に手錠らしきものをつけられて引っ張られていく『飛天の紅』のメンバー。逃げようとした者も当然多くいたが、それを他のプレイヤーが許すわけもない。きっちり全員が引っ張られていく事になった。
「親方、これで多分静かになる。仕事に集中してくれ」
「ありがとうよ、来てくれて助かった。お前らから請け負った仕事はきっちりこなす事で礼とさせてくれ」
多くのプレイヤーが協力してくれたおかげで、作業が中断された時間はあまり長くならずに済んだ。とはいえタイムロスであることに変わりはない。その遅れを取り戻すべく、また皆で槌を振るって修繕作業に戻る。全く、邪魔をしてくれちゃって……納期直前に横やりを入れられた時の腹立たしさと同じぐらいにはむかついた。
さてと、そんな心を早く静めて目の前の作業に集中しないと……
◆ ◆ ◆
そしてさらに時間が経過して、塔の解放があと二日後に迫ったこの日……親方が最後の一つの装備の修理を行っていた。
そして最終チェックを行い、そっと握り続けた槌から手を離した――
「お前達、本当によく頑張った! そして途中からこの鍛冶場にやってくる馬鹿共から我々を守ってくれた皆にも、心から感謝する! 全ての仕事が終わった、今日はこれから宴会だ! 今日だけは好きなだけ食い好きなだけ飲め! 他者に迷惑をかけない範囲でなら俺が許す! すべて俺のおごりだ! 金の心配はいらねえ!」
「「「「「うおおおおおおー!!!!!」」」」」
ついに、全ての装備品修理が終わった。長かった……本当に。しかも、『飛天の紅』の後に同じような事をこちらにやらせようとする連中が三回来たからなぁ……なので、そういう連中の出入りをさせないために、この鍛冶場の前に複数のギルドが常駐する羽目になってしまったのだ。
まあそんな彼らのおかげで、それ以降は一切の妨害なく修理作業に打ち込めたので非常に助かった。そんな協力してくれた彼らにも親方はおごると言ったのである。
「やっと終わったねえ」
「ああ、本当に終わったんだって実感してる」
「あーきつかった。まあ、あとは一年ほど、親方と一緒に世界を見て回るのんびりした時間を過ごすだけだ」
「純生産職だと、そういう事もなかなかできなかったからねえ」
お弟子さん達もここ数日の忙しさからついに解放されたという事で、お互いにねぎらいあっていた。あと、親方が残り一年は世界を見て回る旅を優先することも宣言しており、当分の間槌を握る事はないそうだ。当初はある程度塔を上っている連中の支援もするつもりだったらしいが、この忙しかった数日中に邪魔をしてくる連中が何度も現れたことで方針を転換した。
「アースも来てくれて助かった。お前がいなければまだ修理作業は終わっていなかっただろう」
「自分の力が少しでも役に立ってくれたのであれば、それでいいですよ」
親方から、自分にもねぎらいの言葉がかけられた。ここ数日、自分もそれなりの武具の修理をこなしたからなぁ……自分がいなければ、まだ親方達は仕事の真っ最中だっただろう。残念なことに鍛冶のスキルは一つも上がらなかったが、これは難度の低い修理ばっかり回されていたので仕方がないだろう。あくまで今回は親方達の手伝いができれば良かったのだ。そこを忘れてはいけない。
「さあ、街に繰り出すぞ! ただし街の人々に迷惑だけはかけるなよ!」
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