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30巻
30-3
【ああ、そこら辺の割り振りはすべて終わった。アースも知っていると思うが、大勢の鍛冶屋が塔に登る人を支援しないと宣言した。で、俺達のギルドの中にいる鍛冶屋プレイヤーにも、俺達ギルドメンバー以外の装備の修理などはやらなくていいって事にしてある。ただ、そこに例外枠を作っておいた、もちろんそこにアースも入れてあるぜ】
む、そういう事か。気を使わせてしまったようだ。
【もちろんアースが鍛冶をやれるってのは知ってるが、それでもどうしようもない状態になるかもしれないだろ? そういう時なんかに頼れるようにしておいた。鍛冶屋プレイヤーにはお前の顔なんかは覚えてもらったから、遠慮せずに頼ってくれ。まあ、その、さすがに無料というわけにはいかねえけどさ】
いやいや、きちんとした仕事にはちゃんと対価を渡すってのは基本中の基本でしょう。自分ができないこと、できても手間な事をやってもらうんだから、相応の見返りを渡すようにしなきゃ生まれてくる不満から何もかもが立ち行かなくなってしまうよ。
そうなって先日潰れたブラック企業があったっけなぁ。今裁判でつるし上げられているが、可哀そうとは思わん。従業員に碌な待遇を与えず酷使したんだから相応の結果がやってきたにすぎん。
【ありがたい話だ。どうしようもなくなったときは頼らせてもらうのでよろしくと、鍛冶屋の皆に伝えておいてほしい】
【ああ、分かった。まあ、鍛冶屋に無茶な注文を付けまくった馬鹿な連中がいなければこんな問題は起きていなかったんだが……あいつらのような人間はどこにでもいるんだよな。リアルでも最近までいたんだ。近所で夜遅くに爆音を立てて、何が面白いのか奇声を上げて笑う男女の連中が。ある日突然いなくなって静かになったからいいけどよ】
ある日突然いなくなった――まさか、まさかね。六英雄でもさすがにそこまで……やってもおかしくないな。あの人達、凄まじい金を持っているから……
よっぽどおかしい事でない限りはどうにかできてしまいそうだし。私兵を送り込んで、ツヴァイに迷惑をかけていた連中を連行するぐらいはやりかねない。
【どうしたアース? 急に無言になっちまって】
【あ、ああ、いやなんでもない。さっきツヴァイが口にした鍛冶屋の皆さんを酷使した連中の事を思い出していたんだ。実はこういう事があってな――】
親方の手伝いをしていた時に来た『飛天の紅』の話をすると、ツヴァイもあきれ返ったようだ。
【あっちこっちでやらかした連中は本当に多かったって事を思い知ったぜ……もちろん大半はちゃんとしていたんだろうが。いや、だからこそそういう馬鹿が目立ったのか】
ツヴァイの言う通り、大半のプレイヤーはきちんと鍛冶屋プレイヤーと話し合って無茶をさせないようにしていたはずだ。だが、そういう事を考えない一部のせいで全体が振り回されてしまった。
悲しいけど、こういう事はリアルでもよくあるんだよな。
【俺の方でも鍛冶屋プレイヤーに無茶を言う奴らを止めてたんだが、手が足りなかった。プレイヤーじゃない、こちらの世界の鍛冶屋にも無茶を言ってやがったから、そっちの方にも戦力を割かなきゃいけなくてな】
ツヴァイの方もかなり大忙しだったらしい。
ツヴァイのように動くプレイヤーもかなり多かったようで、塔での修理を請け負う事を決めた数少ない鍛冶屋達は、こういう助けてくれたプレイヤーにしか槌を振るわないと宣言している。
【そいつは大変だったな】
【全くだぜ。最後のダンジョンとなる塔へのアタックについて考える時間が大きく削られた。あいつらは碌でもない目にあえばいいさ】
ツヴァイも結構黒く染まってるな。その気持ちは分かるさ、自分だって結構黒い事をあいつらに対して考えた事など数え切れないほどある。
【ま、あいつらにはまともな塔攻略はできんだろ。残り一年を棒に振るだけだ】
【だろうな。まああいつらが自分で選んだ結果なんだから受け入れるしかないさ。まさに因果応報って奴だろ】
ツヴァイはそう言い捨てた。彼らが相応の結末を迎えるのは当然の事なので、自分もカバーする気はない。
【何にしろ、そちらの鍛冶屋の助力を受けられるのは助かった。明日から攻略を頑張ろう】
【ああ、お互いにな。じゃあまたな】
ツヴァイからのウィスパーも切れた。
さてと、あとは最終チェックが終わったら今日は寝よう。
明日からはついに塔へのアタック開始だ。
3
翌日夜の八時、自分は「ワンモア」にログインした。塔は今日の午後五時から解放されているらしいので、食事などの用事を済ませて待機していたガチ勢はもうかなり先に進んでいると思われる。
宿屋を後にして、塔に向かう。大勢のプレイヤーが集まってきているのでかなり混雑する……という事はなかった。列は五つあり、進みも早いため塔に入るまでに大した時間はかからなそうだ。
そして自分の番が来たわけだが。
「ようこそ、挑戦者様。ですが最初に確認を取らせていただきます。一度挑戦者として塔に入られますと、二度とこちらの世界に戻ってくることはできません。それをご理解いただけたうえで挑戦する意思が変わらないのであれば、どうぞお進みください」
案内をしてくれたのはウンディーネ? とでもいうような液体が人の姿を取った新種族だった。
ウンディーネと違うのは男性らしき外見の者も多くいる事だろうか。
自分の案内をしてくれたのは、ややロリっぽい女の子の姿をしている。
「はい、理解しています。そのうえで挑戦します。このことに後から不満や異議を唱えるような事はしません」
自分の言葉に満足げに頷いた案内役の子は、どちらの塔に入りたいのかを聞いてくる。事前情報通り、五階ごとにお互いの塔を行き来できるようになっているため、悩む必要はないとの事。
まあ、自分は予定通り白を選択する。
「それでは、ご武運を。あなたが到達者の一人となれる事を祈っております」
そんな言葉とともに見送られ、白の塔の中に入ると……広い。
床は大理石のような感じだな……でもつるつると滑ったりはしない。壁や天井は白く輝く素材でできているようだ。少し触ってみたが、素材が分からない。その白い壁に、多少の金の装飾が施されている。これは花であったり、模様であったり……そこに、足音が聞こえてきたので周囲をうかがうのをやめて足音がする方に意識を向ける。
「ようこそ、塔へ。挑戦者様が迷わずに済むよう、一階から五階までは塔の登り方を教えるエリアとなっております。私はその案内役。五階まで同行させていただきます。よろしくお願いいたします」
現れたのは、塔の前の案内役と同じ外見で、見た目は二十歳前後、ロングヘアの女性と思われる姿をした存在だった。
「分かりました、案内をよろしくお願いいたします」
敵意はないようなので、そう言葉を返した後にお辞儀をしておく。事前情報とはまた変わっている可能性もあるし、ちゃんと話を聞いておく方が良いだろう。
「では、こちらへ。歩きながら塔の進み方をご案内いたします。すでにある程度の情報は意図的に流しておりますが、確認も兼ねておりますので説明が重複する点がありましてもお気になさらないでください」
そうして説明を受けるわけだが、塔の最上階が一千階であるだとか、そこら辺の情報に変更はなかった。なので話は塔の進み方に移るわけだが。
「こちらをご覧ください。塔の中には必ずどこかに鉄の扉があります。この鉄の扉を開けて中に入りますとポータルがございます。そのポータルに入られましたら、次の階へと転送される仕組みとなっております。実際に中に入り、二階へと向かってみましょう」
鉄製の扉は自分が軽く押すとすんなり開き、中には青く輝く円状のものが地面に配置されていた。
これが移動用のポータルって奴らしい。自分と案内役が上に乗ると、五秒後に次の階へと転送しますという文字が目の前に浮かび上がった。
きっかり五秒後、多少の浮遊感を味わった後に自分と案内役は別の場所へ移動させられていた。
「これを繰り返し、先に進むのが基本的な流れですね。なお、イミテーションとなりますが、説明のために用意した扉がこちらにございます。銀と金の扉ですね。銀の扉の先にあるポータルは一気に三階先に進み、金の扉の先にあるポータルは六階先へと移動します。そうそう見つかる扉ではありませんが」
へえ、ショートカットのようなものもあるのか。でも、こんなショートカットを用意したら、一千階の塔といえど半年かからず制覇されちゃうのでは? ガチ勢のやりこみはすさまじいから、たとえショートカットがなかったとしても、半年ぐらいでクリアしてしまいそうだ。
「ですが、当然楽に進むことができるものばかりではございません。この塔には二十階ごとに試練が待っています。この試練ですが、白の塔でその内容を発表するのは同族の者であり、どのような試練を出すのかは私も全く分かりません。一方、黒の塔では強力な魔物と戦い、戦闘終了時に生き残っていた人のみが先に進めるようになっております」
生き残っている人だけってのが嫌らしいな。パーティで誰かがやられてしまった後にクリアしたらもめそうだ。
「それと参考までにですが、白の塔の試練におきましては、今までの生き方に難易度が左右される可能性が高いという事だけはお伝えしておきます。これ以上の事は私としても一切教えられておりませんので、教えようがありません」
カルマみたいなものを測られるって事かな? それならまああくどい事はそんなにしてきた記憶はないから、多分ひどい事にはならないと思うけれど。
そんな話をしているうちに、三階へ移動するポータルに到着したので移動。
「三階ではどのような障害が実際にあるのかを体験していただきます。白の塔におきましては魔物と罠の割合が、挑戦者様の能力によって自動で割り振られます。戦闘力が高い方であれば魔物の割合が、手先が器用で魔物との戦いをできるだけ回避なさる方であれば罠の比率が上がります」
なるほど、ステータスやスキルによる詰みを回避するための調整なんだろう。どんなステータスのプレイヤーが来てもクリアできない仕様にはしない、という事を目的としているようだ。
「それでは、ここから先は実際に体験していただきます。私は後ろをついていきますが、この階の魔物が私を襲っても簡単に返り討ちにできますので、意図的に擦り付けるような真似さえしないでいただければ問題はありません」
なるほど、気にせず戦っていいと。それならば、さっそく実習といこう。どうやら三階は少し進むと簡単な迷宮になっているようで、罠の反応やモンスターの反応が確認できた。とりあえずモンスターを確認すると……うん? 強さ的にもファストの街周辺にいるレベルのモンスターしかいない。ほとんどがノンアクティブなので、こちらが手を出さなきゃ襲ってこない。
罠も複数あったが、なんと言うか……小さいでっぱりが出てきてこちらを転ばす罠とか、先端が丸い矢を撃ちだす罠とか、それ単体では殺傷力が低いものしかなかった。
罠自体の連携もなく、ただ人が通りそうなところに適当に配置したという感じで、解除する必要性も感じない。ただ罠を避けて歩けばいいだけである。
四階に続くポータルもすぐに見つかった。まあこれはどのような仕組みになっているのかを学ばせるためのもの。本格的な探索は六階以降で存分にやれるだろう。
「大体の仕組みは分かっていただけましたでしょうか?」
「はい、なんとなく掴めました」
「結構です。では次の階へと向かいましょう」
やってきた四階は……色とりどりの果実がなる木が生えている場所だった。果実の外見は、ミカンが一番近いだろう。ただし色は赤だったり青だったりするが。
「このように、塔の途中では運が良ければこのような休息が取れる場所に出合う事があります。あの果実を一つ食べれば、あなたの生命力や魔力が完全に回復し、しばらくの間普段よりも大きな力を得る事ができるでしょう。ただし気をつけてください。あの果実を同じ場所で二つ食べてはいけません。また、果実を持ったまま次の階へ向かおうとしてもいけません。お試しになられるのは自由ですが、その結果は自分がもたらしたものであると理解したうえでお願いします。私は、お勧めいたしませんが」
複数食べたら逆に弱体化したり、持ち出そうとしたらトラップが起動するって感じかな? お勧めしないという言葉を信じるならばそんなところだろう。
うん、素直に言葉に従ってそういう事はしない方が良いな。
「それでは、次の階で案内は最後になります。あと少しだけお付き合いください」
移動した五階では、鉄の扉とガラスの扉の二つが並んでいた。そして非常に大きな球体が浮かんでいる。球体はうっすらと虹色に輝いているようだ。
「この球体は五階ごとに存在しており、触れる事でここにやってきたという記録が残ります。早速触れてみてください」
言われた通りに手を伸ばして球体に触れると、波紋が起きる。
これでよいのだろうか?
「はい、その波紋がたてば触ったという事になります。触っても波紋が出なかった時はもう一度触り直してください。この球体に触れておけば、塔の中で力尽きてもこの球体前で復活し、探索を続ける事が可能となります。逆に言えば、触り忘れた場合は力尽きた際、かなり前に戻されることになる可能性があります」
セーブし忘れによるやり直しか……レアなアイテムが出た後、その嬉しさに舞い上がってセーブを忘れてた事が原因で記録の多くを失ったとか言ってた知り合いが過去にいたような。
まあ、この球体がある場所に来たら真っ先に触ってセーブしておけって事ですな。
「あちらの二つの扉ですが、鉄の方は今まで通り次の階へ行くためのポータル。ガラスの方は唯一塔の外に出て外部の者と交流したり、宿で休めたり、消耗品などを購入できたり、白の塔と黒の塔を行き来できる場所へと繋がっています。そちらの説明が終われば、私の話は終わりとなります」
ならばさっそくというわけで、ガラスの扉を開けると……二つの塔を繋ぐ通路の真ん中にでかい広場が存在し、そこにはいくつものお店が立ち並び、公園が存在し、たくさんの人で賑わっていた。
どうやら、お店の店主はウンディーネっぽい種族で固められているようである。
「なるほど、ここで各種準備を整えたり休息を取りつつ、先に進みなさいという事ですか」
「はい、そうなります。ですので、そろそろつらいなと思った場合は無理せずここで休息を取る事をお勧めします。進んでしまえば力尽きるか、五の倍数の階層にたどり着くまで休めませんから」
もっともな話だ。
すぐに戻れない以上、まだいけると思ったタイミングで休息を取った方が良いだろうな。
「では最後に、質問があれば受け付けます」
「では一つだけ。ここに来る前にイミテーションとはいえ銀と金の扉を見せていただきましたが、あの扉の移動を利用して、試練があるという二十の倍数の階を飛ばしてしまった場合はどうなるのでしょう?」
説明を受けてここが気になった。そうそう見つかるものではないとはいえ、試練をスルーできるのであれば誰もが二十階前後になったら探す事になるのではないだろうか? と。
「ここからは独り言になります。あー、試練を楽したいと考えるのは分かるけどなー。飛ばせば飛ばすほどにひどい事になるんだけどなー」
超絶棒読みっ!? だが、言わんとする事は分かった。
おそらく飛ばしまくれば、その分難度が増すんだろう。試練の内容なのか、それとも塔の難易度そのもののどちらなのかまでは分からないが……試練は素直に受けておいた方が良いですよと教えてくれたのだ。
「よく分かりました、ありがとうございます」
「それでは、私はここで失礼させていただきます。あなたが塔の頂上に立たれる事を期待しております」
さて、期限は一年。それまでに天辺に到着できるように突き進まなければならない。頑張らねば。
4
さすがに五階まで上がってきた程度では大して時間を使っていないので、先に進む。出てくるモンスターは相変わらずファスト周辺に出てくるような、今となっては相手にする理由がない面子ばっかりなので全部スルーして進む。
罠の方も内容は変わり映えせず……当然これもすいすい避けて先に進む。六階からは本格的な迷宮になっているので、出口を探し当てるまでにかかる時間だけが問題といったところか。
六階、七階、八階を次々と踏破し、今は九階。ここでモンスターがちょっとだけ強くなってきた。
罠の方も踏めばダメージを受けるというレベルに。まあ、まだまだ発見しづらいという事もなく、解除しにくいという事もない。ただ、強化されるペースが速い。個人的には二十階ごとに強くなっていくものだと勝手に予想していたのだが、そうじゃなかったらしい。
(それに、きっちり九階ごとって事も多分なさそう。こんな中途半端な階数で強化が入ってくるなら、何階ごとに強くなるという考え方は捨てた方が良いな)
最悪一階ごとに強化されるという展開を迎える場所もありそうだ。一年も時間を与えたのだから少々えぐい強化が入る階層があっても大丈夫だよね? と、塔の主は考えている可能性がある。
その時の対策は――その階層にたどり着いてから考えよう。
今からあれこれ考えてもしょうがない。
問題なく十階に到達。球体に触れて波紋が出る事を確認。これでこの階層に来た事がセーブされただろう。時間は……まだ一時間以上ログインを続けられるな。よし、あと五階登ってしまおう。
後半戦は間違いなく足止めを食らう展開を多く迎える可能性が高いはずだから、前半で少しでも稼いでおかないと。
そうして登った十一階であったが……今度は迷宮ではなく森が広がっていた。なるほど、こういうパターンもあるのね……獣道らしきものがいくつか延びていて、木はうっそうと茂って見通しが悪い。モンスターにとっては不意打ちを仕掛けやすい場所だろうな……こちらには《危険察知》があるので、《隠蔽》系統のスキルが高いモンスターじゃない限り見破れるから恐怖心はないが。
森の合間をしばらく歩いていると、予想通りに木と木の合間から複数のモンスターが自分に不意打ちをかけてきた。モンスターはサルをちょっと大きくした感じの奴で、名前が分からない。
ただ、手を器用に使って木と木の間を飛び移れるようで、そこそこスピードがある。でもね。
「そりゃ」
「ギャ!?」
脆い。レパードでちょっと触れただけであっさり真っ二つになって消滅した。こんな低階層で、スピードがあるモンスターって事はそれ以外が弱いと思ったんだ。そしてその通りあっさりと一撃で沈んだ。大して力も入れてない、文字通りの撫でるような一撃でだ。当然残りの連中も同じように始末する。いまさらこの程度のスピードでは、攪乱されるはずもない。
(もっと速い相手なんてこれまで戦ってきた中にいくらでもいた。さっきのサル型モンスターなんかと比べたら失礼が過ぎるって話だ)
《危険察知》先生によって、他にも自分に対して接近してきているモンスターがいる事を知っていたが、そいつらはすぐさま自分から距離を取った……というよりは逃げ出したのだろうか? ちょっかいを出しちゃいけない相手だと認識されたのか? それならばそれでいいんだが――
(罠か、踏むと周囲に生えている木のいくつかが倒れてきて圧し潰そうとしてくるようだ。ふむ、罠の殺意が上がるペースが速すぎる気がするけど……これは自分が〈盗賊〉系統のスキルをそれなりに高いレベルで持っているからなのかもしれないな)
罠の位置もバレバレなので、戦闘中でない限り踏む心配はない。さっさと通り過ぎて先に進む。時々モンスターにちょっかいを出されるが、全てHPを一ミリも減らされることなく退けた。ただ、数がやたらと多いんだよなぁ。逃げたと思った連中は、援軍を呼びに行っていただけだったのかもしれない。
その結果、大量の死体を生産することになったわけだが。「ワンモア」がリアルの世界だったとしたら、山ほどのサル型モンスターの死体があちこちに積み重なっているだろう。リアルじゃなくてよかったよ……また来たか。
(こいつら、なんでこうも執拗に……襲ってこなければこっちも手を出さないんだが。それともなんらかの目的があるのか? 某ファンタジーゲームのように、やられた数が多いほど強くなるような技を持っている奴がいるとか? しかし、そのためだけにこうも自分に襲ってくるとは思えないんだよなぁ……だからって負けてやるわけにはいかないが)
倒しても際限なく襲ってくる猿達を張り倒しながら進むと、ようやく森には場違いな鉄の扉が見えてきた。だが、その扉の前に体長五メートル以上はあるバカでかいボス猿とでも言うべき存在が腕組みをしながら立っていた。そして自分の姿を確認すると、鼻で笑った。なんで初めて見た奴に鼻で笑われなくちゃならんのだ。ちょっとだけイラッとしたぞ。
「キッキッキッキ! ウキッキ、キッキ!(読者の皆様にのみ特別翻訳:よく来たな、小さきもの! 俺の部下による歓迎はどうだったかな?)」
――何かを喋っているような感じがするが、さすがに猿の言葉を理解できるようなスキルは持っていない。だが、扉の前に立つボス猿はお構いなしに話? を続けるようだ。
「キーッキッキッキ! ウッキ、キーッキウッキイイイ!(特別翻訳:多くの部下を相手にしてお前はすでに疲れ切っているだろう。さらに、部下達の怒りを受け取った事で俺はより強くなった。お前はここで死ぬのだ! ガッハッハッハ!)」
喋っている内容は分からないし、さっさと先に進みたいし、もういいだろう。これ以上話に付き合う理由も一切ないし――レパードの刀身をスネークソードモードにしてボス猿の首を狙った。
「キーキーッキー――(特別翻訳:さあ、お前が死のダンスを踊る舞台がここに開幕――)」
狙い通りにレパードの刃はボス猿の首を切り落とした。いったいこいつは何をしたかったんだ? なんだか知らないがキーキー叫んでいるだけだったような。まあ、いいや。先に進みましょう。
む、そういう事か。気を使わせてしまったようだ。
【もちろんアースが鍛冶をやれるってのは知ってるが、それでもどうしようもない状態になるかもしれないだろ? そういう時なんかに頼れるようにしておいた。鍛冶屋プレイヤーにはお前の顔なんかは覚えてもらったから、遠慮せずに頼ってくれ。まあ、その、さすがに無料というわけにはいかねえけどさ】
いやいや、きちんとした仕事にはちゃんと対価を渡すってのは基本中の基本でしょう。自分ができないこと、できても手間な事をやってもらうんだから、相応の見返りを渡すようにしなきゃ生まれてくる不満から何もかもが立ち行かなくなってしまうよ。
そうなって先日潰れたブラック企業があったっけなぁ。今裁判でつるし上げられているが、可哀そうとは思わん。従業員に碌な待遇を与えず酷使したんだから相応の結果がやってきたにすぎん。
【ありがたい話だ。どうしようもなくなったときは頼らせてもらうのでよろしくと、鍛冶屋の皆に伝えておいてほしい】
【ああ、分かった。まあ、鍛冶屋に無茶な注文を付けまくった馬鹿な連中がいなければこんな問題は起きていなかったんだが……あいつらのような人間はどこにでもいるんだよな。リアルでも最近までいたんだ。近所で夜遅くに爆音を立てて、何が面白いのか奇声を上げて笑う男女の連中が。ある日突然いなくなって静かになったからいいけどよ】
ある日突然いなくなった――まさか、まさかね。六英雄でもさすがにそこまで……やってもおかしくないな。あの人達、凄まじい金を持っているから……
よっぽどおかしい事でない限りはどうにかできてしまいそうだし。私兵を送り込んで、ツヴァイに迷惑をかけていた連中を連行するぐらいはやりかねない。
【どうしたアース? 急に無言になっちまって】
【あ、ああ、いやなんでもない。さっきツヴァイが口にした鍛冶屋の皆さんを酷使した連中の事を思い出していたんだ。実はこういう事があってな――】
親方の手伝いをしていた時に来た『飛天の紅』の話をすると、ツヴァイもあきれ返ったようだ。
【あっちこっちでやらかした連中は本当に多かったって事を思い知ったぜ……もちろん大半はちゃんとしていたんだろうが。いや、だからこそそういう馬鹿が目立ったのか】
ツヴァイの言う通り、大半のプレイヤーはきちんと鍛冶屋プレイヤーと話し合って無茶をさせないようにしていたはずだ。だが、そういう事を考えない一部のせいで全体が振り回されてしまった。
悲しいけど、こういう事はリアルでもよくあるんだよな。
【俺の方でも鍛冶屋プレイヤーに無茶を言う奴らを止めてたんだが、手が足りなかった。プレイヤーじゃない、こちらの世界の鍛冶屋にも無茶を言ってやがったから、そっちの方にも戦力を割かなきゃいけなくてな】
ツヴァイの方もかなり大忙しだったらしい。
ツヴァイのように動くプレイヤーもかなり多かったようで、塔での修理を請け負う事を決めた数少ない鍛冶屋達は、こういう助けてくれたプレイヤーにしか槌を振るわないと宣言している。
【そいつは大変だったな】
【全くだぜ。最後のダンジョンとなる塔へのアタックについて考える時間が大きく削られた。あいつらは碌でもない目にあえばいいさ】
ツヴァイも結構黒く染まってるな。その気持ちは分かるさ、自分だって結構黒い事をあいつらに対して考えた事など数え切れないほどある。
【ま、あいつらにはまともな塔攻略はできんだろ。残り一年を棒に振るだけだ】
【だろうな。まああいつらが自分で選んだ結果なんだから受け入れるしかないさ。まさに因果応報って奴だろ】
ツヴァイはそう言い捨てた。彼らが相応の結末を迎えるのは当然の事なので、自分もカバーする気はない。
【何にしろ、そちらの鍛冶屋の助力を受けられるのは助かった。明日から攻略を頑張ろう】
【ああ、お互いにな。じゃあまたな】
ツヴァイからのウィスパーも切れた。
さてと、あとは最終チェックが終わったら今日は寝よう。
明日からはついに塔へのアタック開始だ。
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翌日夜の八時、自分は「ワンモア」にログインした。塔は今日の午後五時から解放されているらしいので、食事などの用事を済ませて待機していたガチ勢はもうかなり先に進んでいると思われる。
宿屋を後にして、塔に向かう。大勢のプレイヤーが集まってきているのでかなり混雑する……という事はなかった。列は五つあり、進みも早いため塔に入るまでに大した時間はかからなそうだ。
そして自分の番が来たわけだが。
「ようこそ、挑戦者様。ですが最初に確認を取らせていただきます。一度挑戦者として塔に入られますと、二度とこちらの世界に戻ってくることはできません。それをご理解いただけたうえで挑戦する意思が変わらないのであれば、どうぞお進みください」
案内をしてくれたのはウンディーネ? とでもいうような液体が人の姿を取った新種族だった。
ウンディーネと違うのは男性らしき外見の者も多くいる事だろうか。
自分の案内をしてくれたのは、ややロリっぽい女の子の姿をしている。
「はい、理解しています。そのうえで挑戦します。このことに後から不満や異議を唱えるような事はしません」
自分の言葉に満足げに頷いた案内役の子は、どちらの塔に入りたいのかを聞いてくる。事前情報通り、五階ごとにお互いの塔を行き来できるようになっているため、悩む必要はないとの事。
まあ、自分は予定通り白を選択する。
「それでは、ご武運を。あなたが到達者の一人となれる事を祈っております」
そんな言葉とともに見送られ、白の塔の中に入ると……広い。
床は大理石のような感じだな……でもつるつると滑ったりはしない。壁や天井は白く輝く素材でできているようだ。少し触ってみたが、素材が分からない。その白い壁に、多少の金の装飾が施されている。これは花であったり、模様であったり……そこに、足音が聞こえてきたので周囲をうかがうのをやめて足音がする方に意識を向ける。
「ようこそ、塔へ。挑戦者様が迷わずに済むよう、一階から五階までは塔の登り方を教えるエリアとなっております。私はその案内役。五階まで同行させていただきます。よろしくお願いいたします」
現れたのは、塔の前の案内役と同じ外見で、見た目は二十歳前後、ロングヘアの女性と思われる姿をした存在だった。
「分かりました、案内をよろしくお願いいたします」
敵意はないようなので、そう言葉を返した後にお辞儀をしておく。事前情報とはまた変わっている可能性もあるし、ちゃんと話を聞いておく方が良いだろう。
「では、こちらへ。歩きながら塔の進み方をご案内いたします。すでにある程度の情報は意図的に流しておりますが、確認も兼ねておりますので説明が重複する点がありましてもお気になさらないでください」
そうして説明を受けるわけだが、塔の最上階が一千階であるだとか、そこら辺の情報に変更はなかった。なので話は塔の進み方に移るわけだが。
「こちらをご覧ください。塔の中には必ずどこかに鉄の扉があります。この鉄の扉を開けて中に入りますとポータルがございます。そのポータルに入られましたら、次の階へと転送される仕組みとなっております。実際に中に入り、二階へと向かってみましょう」
鉄製の扉は自分が軽く押すとすんなり開き、中には青く輝く円状のものが地面に配置されていた。
これが移動用のポータルって奴らしい。自分と案内役が上に乗ると、五秒後に次の階へと転送しますという文字が目の前に浮かび上がった。
きっかり五秒後、多少の浮遊感を味わった後に自分と案内役は別の場所へ移動させられていた。
「これを繰り返し、先に進むのが基本的な流れですね。なお、イミテーションとなりますが、説明のために用意した扉がこちらにございます。銀と金の扉ですね。銀の扉の先にあるポータルは一気に三階先に進み、金の扉の先にあるポータルは六階先へと移動します。そうそう見つかる扉ではありませんが」
へえ、ショートカットのようなものもあるのか。でも、こんなショートカットを用意したら、一千階の塔といえど半年かからず制覇されちゃうのでは? ガチ勢のやりこみはすさまじいから、たとえショートカットがなかったとしても、半年ぐらいでクリアしてしまいそうだ。
「ですが、当然楽に進むことができるものばかりではございません。この塔には二十階ごとに試練が待っています。この試練ですが、白の塔でその内容を発表するのは同族の者であり、どのような試練を出すのかは私も全く分かりません。一方、黒の塔では強力な魔物と戦い、戦闘終了時に生き残っていた人のみが先に進めるようになっております」
生き残っている人だけってのが嫌らしいな。パーティで誰かがやられてしまった後にクリアしたらもめそうだ。
「それと参考までにですが、白の塔の試練におきましては、今までの生き方に難易度が左右される可能性が高いという事だけはお伝えしておきます。これ以上の事は私としても一切教えられておりませんので、教えようがありません」
カルマみたいなものを測られるって事かな? それならまああくどい事はそんなにしてきた記憶はないから、多分ひどい事にはならないと思うけれど。
そんな話をしているうちに、三階へ移動するポータルに到着したので移動。
「三階ではどのような障害が実際にあるのかを体験していただきます。白の塔におきましては魔物と罠の割合が、挑戦者様の能力によって自動で割り振られます。戦闘力が高い方であれば魔物の割合が、手先が器用で魔物との戦いをできるだけ回避なさる方であれば罠の比率が上がります」
なるほど、ステータスやスキルによる詰みを回避するための調整なんだろう。どんなステータスのプレイヤーが来てもクリアできない仕様にはしない、という事を目的としているようだ。
「それでは、ここから先は実際に体験していただきます。私は後ろをついていきますが、この階の魔物が私を襲っても簡単に返り討ちにできますので、意図的に擦り付けるような真似さえしないでいただければ問題はありません」
なるほど、気にせず戦っていいと。それならば、さっそく実習といこう。どうやら三階は少し進むと簡単な迷宮になっているようで、罠の反応やモンスターの反応が確認できた。とりあえずモンスターを確認すると……うん? 強さ的にもファストの街周辺にいるレベルのモンスターしかいない。ほとんどがノンアクティブなので、こちらが手を出さなきゃ襲ってこない。
罠も複数あったが、なんと言うか……小さいでっぱりが出てきてこちらを転ばす罠とか、先端が丸い矢を撃ちだす罠とか、それ単体では殺傷力が低いものしかなかった。
罠自体の連携もなく、ただ人が通りそうなところに適当に配置したという感じで、解除する必要性も感じない。ただ罠を避けて歩けばいいだけである。
四階に続くポータルもすぐに見つかった。まあこれはどのような仕組みになっているのかを学ばせるためのもの。本格的な探索は六階以降で存分にやれるだろう。
「大体の仕組みは分かっていただけましたでしょうか?」
「はい、なんとなく掴めました」
「結構です。では次の階へと向かいましょう」
やってきた四階は……色とりどりの果実がなる木が生えている場所だった。果実の外見は、ミカンが一番近いだろう。ただし色は赤だったり青だったりするが。
「このように、塔の途中では運が良ければこのような休息が取れる場所に出合う事があります。あの果実を一つ食べれば、あなたの生命力や魔力が完全に回復し、しばらくの間普段よりも大きな力を得る事ができるでしょう。ただし気をつけてください。あの果実を同じ場所で二つ食べてはいけません。また、果実を持ったまま次の階へ向かおうとしてもいけません。お試しになられるのは自由ですが、その結果は自分がもたらしたものであると理解したうえでお願いします。私は、お勧めいたしませんが」
複数食べたら逆に弱体化したり、持ち出そうとしたらトラップが起動するって感じかな? お勧めしないという言葉を信じるならばそんなところだろう。
うん、素直に言葉に従ってそういう事はしない方が良いな。
「それでは、次の階で案内は最後になります。あと少しだけお付き合いください」
移動した五階では、鉄の扉とガラスの扉の二つが並んでいた。そして非常に大きな球体が浮かんでいる。球体はうっすらと虹色に輝いているようだ。
「この球体は五階ごとに存在しており、触れる事でここにやってきたという記録が残ります。早速触れてみてください」
言われた通りに手を伸ばして球体に触れると、波紋が起きる。
これでよいのだろうか?
「はい、その波紋がたてば触ったという事になります。触っても波紋が出なかった時はもう一度触り直してください。この球体に触れておけば、塔の中で力尽きてもこの球体前で復活し、探索を続ける事が可能となります。逆に言えば、触り忘れた場合は力尽きた際、かなり前に戻されることになる可能性があります」
セーブし忘れによるやり直しか……レアなアイテムが出た後、その嬉しさに舞い上がってセーブを忘れてた事が原因で記録の多くを失ったとか言ってた知り合いが過去にいたような。
まあ、この球体がある場所に来たら真っ先に触ってセーブしておけって事ですな。
「あちらの二つの扉ですが、鉄の方は今まで通り次の階へ行くためのポータル。ガラスの方は唯一塔の外に出て外部の者と交流したり、宿で休めたり、消耗品などを購入できたり、白の塔と黒の塔を行き来できる場所へと繋がっています。そちらの説明が終われば、私の話は終わりとなります」
ならばさっそくというわけで、ガラスの扉を開けると……二つの塔を繋ぐ通路の真ん中にでかい広場が存在し、そこにはいくつものお店が立ち並び、公園が存在し、たくさんの人で賑わっていた。
どうやら、お店の店主はウンディーネっぽい種族で固められているようである。
「なるほど、ここで各種準備を整えたり休息を取りつつ、先に進みなさいという事ですか」
「はい、そうなります。ですので、そろそろつらいなと思った場合は無理せずここで休息を取る事をお勧めします。進んでしまえば力尽きるか、五の倍数の階層にたどり着くまで休めませんから」
もっともな話だ。
すぐに戻れない以上、まだいけると思ったタイミングで休息を取った方が良いだろうな。
「では最後に、質問があれば受け付けます」
「では一つだけ。ここに来る前にイミテーションとはいえ銀と金の扉を見せていただきましたが、あの扉の移動を利用して、試練があるという二十の倍数の階を飛ばしてしまった場合はどうなるのでしょう?」
説明を受けてここが気になった。そうそう見つかるものではないとはいえ、試練をスルーできるのであれば誰もが二十階前後になったら探す事になるのではないだろうか? と。
「ここからは独り言になります。あー、試練を楽したいと考えるのは分かるけどなー。飛ばせば飛ばすほどにひどい事になるんだけどなー」
超絶棒読みっ!? だが、言わんとする事は分かった。
おそらく飛ばしまくれば、その分難度が増すんだろう。試練の内容なのか、それとも塔の難易度そのもののどちらなのかまでは分からないが……試練は素直に受けておいた方が良いですよと教えてくれたのだ。
「よく分かりました、ありがとうございます」
「それでは、私はここで失礼させていただきます。あなたが塔の頂上に立たれる事を期待しております」
さて、期限は一年。それまでに天辺に到着できるように突き進まなければならない。頑張らねば。
4
さすがに五階まで上がってきた程度では大して時間を使っていないので、先に進む。出てくるモンスターは相変わらずファスト周辺に出てくるような、今となっては相手にする理由がない面子ばっかりなので全部スルーして進む。
罠の方も内容は変わり映えせず……当然これもすいすい避けて先に進む。六階からは本格的な迷宮になっているので、出口を探し当てるまでにかかる時間だけが問題といったところか。
六階、七階、八階を次々と踏破し、今は九階。ここでモンスターがちょっとだけ強くなってきた。
罠の方も踏めばダメージを受けるというレベルに。まあ、まだまだ発見しづらいという事もなく、解除しにくいという事もない。ただ、強化されるペースが速い。個人的には二十階ごとに強くなっていくものだと勝手に予想していたのだが、そうじゃなかったらしい。
(それに、きっちり九階ごとって事も多分なさそう。こんな中途半端な階数で強化が入ってくるなら、何階ごとに強くなるという考え方は捨てた方が良いな)
最悪一階ごとに強化されるという展開を迎える場所もありそうだ。一年も時間を与えたのだから少々えぐい強化が入る階層があっても大丈夫だよね? と、塔の主は考えている可能性がある。
その時の対策は――その階層にたどり着いてから考えよう。
今からあれこれ考えてもしょうがない。
問題なく十階に到達。球体に触れて波紋が出る事を確認。これでこの階層に来た事がセーブされただろう。時間は……まだ一時間以上ログインを続けられるな。よし、あと五階登ってしまおう。
後半戦は間違いなく足止めを食らう展開を多く迎える可能性が高いはずだから、前半で少しでも稼いでおかないと。
そうして登った十一階であったが……今度は迷宮ではなく森が広がっていた。なるほど、こういうパターンもあるのね……獣道らしきものがいくつか延びていて、木はうっそうと茂って見通しが悪い。モンスターにとっては不意打ちを仕掛けやすい場所だろうな……こちらには《危険察知》があるので、《隠蔽》系統のスキルが高いモンスターじゃない限り見破れるから恐怖心はないが。
森の合間をしばらく歩いていると、予想通りに木と木の合間から複数のモンスターが自分に不意打ちをかけてきた。モンスターはサルをちょっと大きくした感じの奴で、名前が分からない。
ただ、手を器用に使って木と木の間を飛び移れるようで、そこそこスピードがある。でもね。
「そりゃ」
「ギャ!?」
脆い。レパードでちょっと触れただけであっさり真っ二つになって消滅した。こんな低階層で、スピードがあるモンスターって事はそれ以外が弱いと思ったんだ。そしてその通りあっさりと一撃で沈んだ。大して力も入れてない、文字通りの撫でるような一撃でだ。当然残りの連中も同じように始末する。いまさらこの程度のスピードでは、攪乱されるはずもない。
(もっと速い相手なんてこれまで戦ってきた中にいくらでもいた。さっきのサル型モンスターなんかと比べたら失礼が過ぎるって話だ)
《危険察知》先生によって、他にも自分に対して接近してきているモンスターがいる事を知っていたが、そいつらはすぐさま自分から距離を取った……というよりは逃げ出したのだろうか? ちょっかいを出しちゃいけない相手だと認識されたのか? それならばそれでいいんだが――
(罠か、踏むと周囲に生えている木のいくつかが倒れてきて圧し潰そうとしてくるようだ。ふむ、罠の殺意が上がるペースが速すぎる気がするけど……これは自分が〈盗賊〉系統のスキルをそれなりに高いレベルで持っているからなのかもしれないな)
罠の位置もバレバレなので、戦闘中でない限り踏む心配はない。さっさと通り過ぎて先に進む。時々モンスターにちょっかいを出されるが、全てHPを一ミリも減らされることなく退けた。ただ、数がやたらと多いんだよなぁ。逃げたと思った連中は、援軍を呼びに行っていただけだったのかもしれない。
その結果、大量の死体を生産することになったわけだが。「ワンモア」がリアルの世界だったとしたら、山ほどのサル型モンスターの死体があちこちに積み重なっているだろう。リアルじゃなくてよかったよ……また来たか。
(こいつら、なんでこうも執拗に……襲ってこなければこっちも手を出さないんだが。それともなんらかの目的があるのか? 某ファンタジーゲームのように、やられた数が多いほど強くなるような技を持っている奴がいるとか? しかし、そのためだけにこうも自分に襲ってくるとは思えないんだよなぁ……だからって負けてやるわけにはいかないが)
倒しても際限なく襲ってくる猿達を張り倒しながら進むと、ようやく森には場違いな鉄の扉が見えてきた。だが、その扉の前に体長五メートル以上はあるバカでかいボス猿とでも言うべき存在が腕組みをしながら立っていた。そして自分の姿を確認すると、鼻で笑った。なんで初めて見た奴に鼻で笑われなくちゃならんのだ。ちょっとだけイラッとしたぞ。
「キッキッキッキ! ウキッキ、キッキ!(読者の皆様にのみ特別翻訳:よく来たな、小さきもの! 俺の部下による歓迎はどうだったかな?)」
――何かを喋っているような感じがするが、さすがに猿の言葉を理解できるようなスキルは持っていない。だが、扉の前に立つボス猿はお構いなしに話? を続けるようだ。
「キーッキッキッキ! ウッキ、キーッキウッキイイイ!(特別翻訳:多くの部下を相手にしてお前はすでに疲れ切っているだろう。さらに、部下達の怒りを受け取った事で俺はより強くなった。お前はここで死ぬのだ! ガッハッハッハ!)」
喋っている内容は分からないし、さっさと先に進みたいし、もういいだろう。これ以上話に付き合う理由も一切ないし――レパードの刀身をスネークソードモードにしてボス猿の首を狙った。
「キーキーッキー――(特別翻訳:さあ、お前が死のダンスを踊る舞台がここに開幕――)」
狙い通りにレパードの刃はボス猿の首を切り落とした。いったいこいつは何をしたかったんだ? なんだか知らないがキーキー叫んでいるだけだったような。まあ、いいや。先に進みましょう。
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