とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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31巻

31-2

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「とりあえず、一発目は俺が行くわ。一発でクリアするつもりだが、どういう感じなのかをちゃんと見て学んでくれ。じゃあ、行ってくるぜ」

 そう言い残し、短弓使いの男性プレイヤーがアスレチックエリアに足を踏み入れた。そこそこやれると言っていた彼だったが、そこそこという表現は当てはまらないな。身軽に、しなやかに頼りない足場を次々とスムーズに渡っていく。

「調子、良さそうでござるな。あれならば一発でクリアするでござろう」

 ニンジャの男性プレイヤーの言葉に、自分達は頷いた。すでに終盤に差し掛かっているようだが、その進みにかげりは見られない。足場を次々と渡り歩き、ゴールへと順調に歩を進めている。

「よし、そのままだ。そのまま行ってくれ」

 タンカーの女性プレイヤーが、祈りをささげる格好でしぼり出すように口にしていた。自分の番が回ってくること自体が、もうすでにトラウマになっていそうである……そんな彼女の祈りが通じたのかどうかは不明だが、短弓使いの男性プレイヤーは、見事一発でアスレチックエリアをクリアした。すると、自分達全員がゴールエリアに一瞬で転移させられる。

「と、こんな感じだ。雰囲気はわかってもらえたか?」
「よくわかりました、問題はないですよ」

 短弓使いの男性プレイヤーに、自分はそう返した。全体的に見て、アスレチックの難度はかなり高い。高低差があるし、左右に揺れることで不安定さも増している。

「いい動きでした、次も頼みます」
「おう、任された」

 タンカー女性の言葉に右手を挙げてこたえる短弓男性プレイヤー。そこには信頼が感じられた。即席のパーティでは絶対出ない雰囲気だ。彼らは長い時間、一緒にこの世界を歩いてきたということがわかる瞬間だった。
 さて、そんな彼らがここで詰まり続ける事態は終わらせたい。積極的に協力していかないとな。



 3


 アスレチックエリアを抜けると、また島を渡り歩く形となった。迷う心配がないのは良いのかもしれないが、このエリアは純粋に強襲されても対処できるか、アスレチックをクリアできるかの二点に目的を絞っているような印象を受ける。
 やがて鉄の扉が見えてきた。島の上にぽつんと何の支えもなく鉄の扉が立っている光景は珍妙ちんみょうすぎる。

「お、やっと扉があったな。まずは一階クリアか」
「これをあと四回やらなきゃならないんだよな……変な難度を引かないように祈るしかないなぁ」

 同行しているパーティメンバーはそんなことをつぶやきながら扉をくぐり、ポータルに入る。なお、鉄の扉を開けると別の空間があって、ポータルはそこにあった。どういう仕組みなのかはもう考えていない。わなでなければそれでいい……
 二階へとやってきた自分達だったが、この階層も一階と変わりないようだ。
 モンスターの反応も近くにはなく、とりあえず奇襲を受ける心配はない。
 進み始めて数分後、今回は早めにアスレチックエリアが姿を見せる。難度は……たぶん一階にあった奴と大差ない。つまり結構厳しめということである。

「いきなりアスレチックでござるか……ならば、今回は拙者が先に行くでござる」
「おう、頼んだ」

 そうして、ニンジャの男性プレイヤーがアスレチックに挑む。彼もまたなかなかの身のこなしを見せ、アスレチックエリアを軽快に進む。
 だが、そこですんなりと行かせてくれないのが「ワンモア」。後半に入ったら、アスレチックエリアの足場となる島やリフトが突如半分の大きさになった。

流石さすがにこれはひどくない!?」

 大剣持ちの女性プレイヤーの言葉に、皆が同意しただろう。一番そう思ったのは現在挑んでいるニンジャの男性プレイヤーだろうが――彼はその突然の変化に対応しきれず、ゴールの数歩手前で足を踏み外して落水。そのまま沈んでいった。彼のミスではなく、仕掛けの悪辣あくらつさが失敗の原因であることは間違いない。

「二回目でもうこんなえぐすぎる仕掛けが出てきたのか……まずいな。次、誰が行く?」
「なら、自分が」

 同行パーティがどうしようか? となやみ始めたので自分が立候補した。ここのアスレチックエリアにはモンスターは出ないようだし、武器は全部収めて、いざとなったら【真同化まどか】を使おう。
【真同化】の能力はほぼ失われているけど、ワイヤーのようなものの先端をくっつけてそこに移動する力は今でも使える。

「頼めるか?」
「ええ、ああいう仕掛けがあると見せてもらえたんですから、あとは何とかします」

 ニンジャな男性プレイヤーが見せてくれたおかげで、心構えはできた。初見だったらつらすぎるが、そういうことをやってくるとわかってしまえば対応はできる。
 見送られてアスレチックエリアに入る。最初は比較的難度が低く、そこそこの距離がある島をジャンプでぽんぽんと渡り歩いて突破。中盤からは高低差や左右のブレがある島やリフトを乗り継いでいく。

(さて、そろそろかな)

 リフトからリフトに飛び移ると、後半戦へ突入。そして足場として使える場所の大きさが突如半分ほどに縮んだ。これを初見突破するのはかなり苦しいだろうな。初手はそこそこやれる人を投入してこういった仕掛けを暴かせろってな考えなのかね? そうだとしたら悪辣だろう……戦闘ではなく、こういったアスレチックに対応できるプレイヤーはあまりいないのに。

(だからこそ、このパーティの試練がこうなったのか? 体術にけたプレイヤーが二人いるから。それでも、こうして自分という援軍を必要とする事態になったというのであれば、さじ加減を間違えている気がするんだが。こんなトラップまで仕掛けてるからなおさらな……)

 一応いつでも【真同化】を使えるようにしながら、狭くなった足場を乗り継いでゴールを目指す。
 さらに何らかの嫌がらせを仕掛けてくる可能性もあるからな……いろんなパターンを考えて警戒しながら進む。
 それが良かったのだろう。ゴール一歩手前のリフトが、ジャンプする直前左右に分かれるというトラップがあった。リフトがあった場所に飛ぼうとする寸前に発動する、その悪辣さ。
 当然自分はすでにジャンプの体勢に入っており、止めることはできない。だが、ここは風魔術の《フライ》を発動して、疑似的ぎじてきな二段ジャンプで乗り越える。
 そしてゴール。自分が到着すると、同行メンバー全員がゴールエリアに引き寄せられた。もちろん海中に落ちてしまったニンジャな男性プレイヤーも含めて、である。

「クリアできましたよ」
「マジで助かった! 最後にあんな仕掛けがあるとか、俺だったら対応できずに落とされてたな……魔法はからっきしだからなぁ」

 短弓の男性プレイヤーが自分にそう言いながら肩をたたく。力がかなり入っていて、回ってこなくてよかったと本気で思っていると伝わる。それともう一人――タンカーの女性プレイヤーは自分を神様のように拝んでいた。
 とまあ、いきなりアスレチック&鬼畜な罠がお出迎えしてくれたわけだが……その一方でこの階では島の周囲に潜み一気に強襲を仕掛けてくるモンスターはいなかった。
 ならばきついのは最初だけでその後は楽だったの? ということにはならなかった。なぜなら、今我々の目の前にはこの階二つ目のアスレチックエリアがあるのだから。

「一階に二つもあるとか……神は残酷ざんこくです」

 おい、タンカーの女性プレイヤーさん、神様が怒るようなことを口にしないで。他のメンバーもマジかよって感じの表情を浮かべているけどさ。
 ただ、ゴールに鉄の扉があるからここを乗り越えればこの階層をクリアできるのも事実だ。挑戦するしかない。しかし、挑戦者の立候補がないな。ならば自分が行くか。

「じゃあ、自分が行って――」
「待ってくれ」

 自分を止めたのは、金色の杖を持っている男性プレイヤーだった。ふむ、何か引っかかることがあったのだろうか?

「アンタは初手で出していい人じゃない。俺達がある程度アスレチックの罠をあばいてから出すべきだ。さっきのアスレチックでも、最後の初見殺しに対して焦らずに対応したことから、俺達にはない経験を山ほど積んできたと判断した。そんな切り札をいきなり切るのはあまりにも愚策ぐさくって奴だろ?」

 ふむ、どうやら彼は自分をそれなりに買ってくれたということか。

「初手は俺が行こう。だが、流石に身のこなしがいい連中に比べれば数段落ちるから魔法を併用する……たぶんゴールまでMPは持たない。だから、このアスレチックに仕掛けられているトラップを暴くことに専念する。そうすれば、あとから挑戦する面子めんつの成功確率が上がるはずだ。それに、あんたにおんぶにだっこでクリアしたなんて、情けなすぎる」

 ――なるほど、援護に来てくれた人に頼りきりでクリアするなんて情けないというプライドは理解できる。それに協力し合ってクリアしたならまだしも、きつい所をすべて任せて終わらせたとなれば、この先自力でクリアしようという意思が弱まってしまう。
 一度楽を覚えて、そのあともう一度厳しさに立ち向かえるか……これは難しいと言わざるを得ないだろう。たとえゲームであっても、やっているのは人間だ。

「わかった、じゃあ初手はお任せします」
「おう、少しでも暴けるようぎりぎりまでねばってくるぜ」

 そう言って、彼はアスレチックに挑んでいった。自分はそんな彼の挑戦を無駄にしないよう、彼とアスレチックエリアの動きをよく見て、クリアに繋げなければ。



 4


 魔法使いの彼の動きは、決して悪いものではなかった。だが、短弓使いやニンジャさんと比べれば明らかに数段落ちるし、さらに急加速や空中での減速など不自然な動きが多々見受けられ、かなり魔法を駆使くしさせられていることが窺えた。
 だが、それは無理もない。何せ先のアスレチックでは後半からだった足場の縮小が、今回は中盤から投入されてきたのだ。しかも、すべての足場が変化するわけではなく、近づかないと縮小するのかどうか見切りづらい。足を踏み外しそうになる度に魔法で何とかしているようだが、あれではどれだけMPがあっても持たないだろう。
 結局彼は終盤に差し掛かるあたりでMPが切れたのだろう。足場の縮小に引っかかってしまい、リフトに届かず海に落ちてしまった。だが、彼は素晴らしい仕事をしてくれた。あれだけ罠を見せてくれたのだ、これはかなり大きい。

「複合型がもう出てきたのかよ……一つの階に二つ目のアスレチックが来たって時点で嫌な予感はしてたが」

 魔法使いの彼のチャレンジが終わった後に、短弓使いの男性プレイヤーが口にした言葉に、自分以外の全員が頷いていた。そうか、一つの階層にアスレチックエリアが複数出ると、難度が大きく上がった奴が来るという法則があるんだな。これは確かに厄介だ。

「次は俺が行く、あいつの頑張りを無駄にはしねえ」

 ということで、次の挑戦者は短弓使いの男性プレイヤー。その言葉通り、中盤途中まではスムーズに進んだ。だが、中盤の終わりあたりからは縮小する足場としない足場がより一層入り乱れるうえに、足場間の距離がそこそこある。そのため、厄介な足場を飛ばして先の足場まで飛ぶには魔法や特殊な道具を持っていないと難しい。
 それでも彼は時間こそかけはしたものの中盤も乗り切った。しかし、後半はさらに陰湿いんしつかつ嫌らしい足場が待っていた。乗ると二秒くらいで割れて落下する足場&一定時間で出たり消えたりする足場の組み合わせだ。
 中盤最後の足場から飛び出したら最後、そこからはタイミングを間違えれば一発アウトである。

(空を自由に飛べれば楽なんだろうが……そういうことができるプレイヤーには、こういう試練を出さないだろうな)

 コンシューマーのアクションゲームなら、まず間違いなく空を飛んで移動できるサポートアイテムやお助けキャラを使うべき場所だろう。しかし、そんなものは挑戦している彼にはないようで……しばしの躊躇ちゅうちょの後、覚悟を決めた彼は飛び出していった。

「頑張ってー!」
「いいぞー!」

 同行パーティからは応援の声が飛ぶ。その声に後押しされるかのように、彼は厄介極まりない足場を必死で渡っていく。うまい。タイミングも合っているし体勢も崩れていない。後半戦を一発クリアしてくれるかもしれない。

「そのまま行けー!」
「もう半分は切ったぞ、クリアできるぞー!」

 ますます声援が大きくなる。すごい、足場を飛び移る速度がおとろえない。出たり消えたりするブロックのタイミングを見計らって、二秒ぎりぎりまで留まる度胸も素晴らしい。先に挑戦した魔法使いの頑張りを無駄にはしないという言葉通りの活躍だ。

(あと距離的に二十ブロック前後。この調子ならクリアしてくれる)

 残りもあと僅か。そのまま突っ走ってくれるだろう……自分を含めた誰もがそう思った。
 しかし! 運営の意地の悪さを自分は見誤っていた。
 それは、あと数ブロックでクリアという所まで短弓使いの彼が迫った時に起こった。割れる足場からジャンプした直後……突如、そのジャンプの軌道きどう上にリフトが姿を現した。
 そのリフトに頭をぶつけてしまった彼の足が次の足場に届くことはない。彼は必死に次の足場に向かって手を伸ばすが、むなしくくうを切る。彼が海に落ちる前に大声で叫んだ――

「おのれこーめいいいいいいい!!!」

 有名なアクションゲームをやったことがある人なら経験があるだろう。目には見えないブロックの存在を。それらは今回のようにジャンプを邪魔じゃまし、奈落にたたき落とすために隠されていることもある。
 それは誰が言い出したのか、三国志の登場人物で軍師である諸葛亮孔明しょかつりょうこうめいから引っ張ってきて「孔明の罠」と称されるようになっている。孔明さんからしてみればとんだ言いがかりなのだが、底意地の悪さを感じられる即死罠なので、数々の策で相手を苦戦させたことを連想させるのかもしれない。

「あそこで孔明の罠を仕掛けるか? 運営鬼畜すぎるだろ……」
「ひ、ひどすぎる。流石にこれは禁じ手でしょう!?」

 他のプレイヤー達も憤慨ふんがいしている。あのまま行けば、彼がクリアしてくれた可能性は非常に高かっただけに、なおさら運営と開発に殺意を抱く結果となっているのだろうな。気持ちはよくわかる。流石にこれはない。

「しかし、彼は素晴らしい攻略を見せてくれたでござる。ならば、次は拙者が行かせてもらうでござる。先の二人の頑張り、決して無駄にはせぬ!」

 と、ニンジャさんが次の挑戦者として名乗り出た。やる気がみなぎっているのがわかる。こういう気合が良い感じで入っている人ってのは、素晴らしい結果をたたき出すことが多い。
 リアルで働いている工場でもそうだった。新製品の案を出し合う時、長く売れるいい商品の原案を出す人ってのは、こういうオーラみたいなものを纏っている。

「了解、今のあなたなら行けるって感じがする」
「頼んだぞ!」

 女性プレイヤー二人からの言葉に、強く頷いてからニンジャさんはスタート位置に移動した。開始、そして――やっぱりいい。
 最初のアスレチックで見せてくれた動きよりもさらにスムーズかつ速い。すでに序盤を越え、中盤へ。足場のサイズが頻繁ひんぱんに変わるその中盤すらも、まるで普通の地面を走るように次々と乗り越えていく。

(まさにニンジャだな。美しさすら感じる……すべるような動きで、あの難所を次々と越えるか)

 後半戦直前、最後の足場でニンジャが呼吸を整えているのがわかった。そして、静かにタイミングを見計らい始める。その緊張感がこちらにも伝わってきて、誰もが口を閉ざして静かになった。
 ややあって、ニンジャさんが一気に後半戦エリアに突入した。
 速い。短弓使いのプレイヤーよりもはるかに速い。
 現れたり消えたりを繰り返す足場が、まるでニンジャさんの移動に合わせて現れているような錯覚さっかくすら覚える。実際はニンジャさんが移動速度を調節してタイミングを合わせているからなんだが、その合わせ方が完璧と言っていい。

(あと少しで例の罠があった場所だ。ニンジャさんはどう対処する?)

 そんな自分の内心の問いかけに対するニンジャさんの答えは――極力上に飛ばないようにする、だった。本当に走っているかのような感じでほぼまっすぐに飛び、頭上に隠してあるリフトに引っかからないようにしたのだ。確かにあの動きなら頭をぶつける心配はない。

「あとちょっと!」
「いいぞー!」

 罠の場所を越えたことで、一転して声を出し始める同行パーティのメンバー。その声に押されるかのようにニンジャさんは見事アスレチックを走り切り、ゴールに到着した。
 瞬時に他の全員がゴールへと移動させられる。これでこの階層もクリアだ。

「先に挑んでくれたお二人のおかげでクリアできたでござる。本当の貢献者こうけんしゃは先に罠を暴いてくれたお二人でござる」

 ニンジャさんは先に挑んだ二人をたたえた。異論はない。先の二人が見つけてくれなければ、ニンジャさんもあのような動きはできなかっただろう。

「でも、ニンジャさんの動きもすごくよかったよ。今までの中で、一番えてた!」

 大剣持ちの女性プレイヤーの言葉に全員で頷く。

「今日こそ、この試練を越えられそうって気がするな。残り三階層、絶対に突破するぞ」

 二杖流の魔法使い男性プレイヤーの言葉に、全員で「「「「「「おう!」」」」」」とこぶしを突き上げる。
 よし、次の階層へ向かおう。次はどんな仕掛けがあるやら……



 5


 皆で気合を入れて向かった次の階層なんだが……何というか、拍子抜ひょうしぬけだった。アスレチックエリアがなかったうえに、モンスターの大量強襲もなく。前の階層がきつすぎたことに対するバランス調整とでも言おうか……とにかく非常に簡単だった。
 当然そんなレベルで止まる面子ではないため、三階層は数分でクリアしてしまった。

「なんか、簡単すぎない?」
「前の階がきつすぎたから、この階は手を抜いたのかもな」

 そんな軽口を皆でたたき合った後に、次の階層へ転送される。残りは二階層、クリアが見えてきた。
 そうしてやってきた第四階層。今度は一転してモンスターの反応がかなり多い。そのことを同行しているパーティへと伝えた。

「やっぱり三階層目はひと休みにすぎなかったというわけだな。だが、休めたおかげで気力は充実している。役目は十分に果たせるだろう」

 タンカーの女性プレイヤーの表情には余裕がある。アスレチックエリアでなければ、彼女は十分な腕があるともうわかっている。だから、この発言は信用していい。

「モンスターの場所さえわかれば、また俺の雷魔法をお見舞いしてモンスターを一気に弱らせられる。だから、場所の特定は頼んだ」

 二杖流の男性プレイヤーの言葉に、自分は頷く。彼は詠唱時間が長い代わりに、高火力&広範囲の魔法を多く習得しているそうだ。もう一人の金の杖を持った魔法使い男性プレイヤーの方は、便利系、詠唱短め中火力な魔法がメインらしい。そうやってお互いの強みを活かしているのだろう。

「とりあえず、最初の山場は二つ島を移動した先ですね。そこに潜んでいます」

 数は五十ほど。不意打ちされたらかなり厳しい数だが、こちらがすでに見破っているなら、むしろ仕掛けられる。
 その島の前まで来たところで、今回も雷魔法で感電させて弱らせる作戦を実行。
 魔法が詠唱され、電撃魔法が海を走った。そしてモンスターが浮かび上がってきたわけだが……感電して動けない、あるいは弱っているモンスターは全体の半分ほどに留まった。もう半分は大したダメージを負っていない様子であり、怒り心頭といった表情を浮かべながら次々と首を出してきた。

「何だこいつら!? あの雷魔法を食らってこんなに軽傷で済んでいるっておかしいだろ!?」
「絶縁体持ちなのかもしれない! それでも数は当初に比べればかなり減っている。あとは実力で倒すしかない!」

 自分はそう予測を返しながら目についた一体の首長竜もどきに対して矢を射かける。とりあえず様子見を兼ねて五割ぐらいの力で放ったんだが、矢は突き刺さることなく勢いを殺されて海に落ちる。


「ゴムのような体質か! だから雷魔法の効きが悪かったっていう理屈か!」

 五割ほどの威力とはいえ、【八岐やまたつき】から放った矢を通さなかったあのゴムのような皮膚ひふは馬鹿にできない。タンカーの女性プレイヤーがタウント系のアーツを放って、モンスター集団の目を一気に引いた。その隙に大剣使いの女性プレイヤーが近くにいた首長竜もどきに対して剣を振るったのだが、刃が通っていない。

「間違いない、こいつらゴムみたいな体をしてる! エンチャントちょうだい。切れ味がとにかくするどくなる奴!」
「任せろ、そう来ると思って用意は済んでいる、掛けるぞ!」

 大剣使いの女性プレイヤーの呼びかけに対し、すぐさま魔法を発動したのは金の杖を持っていた男性魔法使いプレイヤー。彼の魔法が発動するとほぼ同時に、前衛の女性プレイヤー二人の得物が激しく銀色に輝いた。

「ダメだ、短弓じゃ火力が足りねえ! 全力で弦を引き絞って撃っても矢が刺さらねえ!」
「一番値が張る投刃しか刺さらないでござる! しかし、拙者特製の毒をっているゆえ、しばし後に動きがにぶるはずでござる! それまで耐えてほしいでござる!」

 自分は七割ほど引き絞ればゴムのような皮膚を貫けたので、次々とモンスターの目や首を狙った射撃を行う。

「雷が効かなくても、生物であることに変わりはないはず。ならば《ナイトメア・ブリザード》!」

 広範囲氷系の上位魔法である《ナイトメア・ブリザード》が発動された。恐らく発動したのは二杖流の方の魔法使い男性プレイヤー。強烈な冷気で範囲内のターゲットに持続的な大ダメージを与え、その急激な温度低下で眠りを誘う効果もある相当な上位魔法だったと記憶している。目の前にいるモンスター達に、その強烈な吹雪ふぶきが襲いかかった。
 この猛吹雪を受けながら攻撃できるような個体はいなかったらしい。なので自分とニンジャさんの二人は吹雪の影響で影しか見えないモンスターに対して遠距離攻撃を続行。タンカーの女性プレイヤーはいつ何が起きてもいいように盾を持って構え、大剣持ち女性プレイヤーは遠距離攻撃ができるアーツをほどほどに発動し攻撃。短弓男性プレイヤーは、完全に観測役に回っていた。

「攻撃は効いているぞ、反応が確実に減っている! そのまま攻撃を続行してくれ!」
「投刃の数が心もとないでござる! ううっ、もう一回作るのに高価な素材が飛ぶでござるぅ!」

 自分の《危険察知》でもモンスターの数が確実に減っているのがわかる。《ナイトメア・ブリザード》の影響もあってか、モンスターの動きが大きく鈍っており、攻撃を当てるのは容易い。
 ただ、それでも四匹ほど動きが鈍らない奴がいる。そいつらはニンジャさんの投刃を避けているので、自分が矢を突き立てるが……まだ倒せない。かなりタフだな。
 やがて猛吹雪が収まると、モンスターは残り三匹となっていた。動き回っていた四匹のうちの一匹は、自分が与えたダメージと魔法による冷気ダメージで沈んだようだ。
 さて、生き残った残り三匹だが……自分の矢がいくつも首や頭に突き刺さっているものの、まだまだ体力があるようでブレスを吐いてきた。
 ブレスの内容は、毒と電撃と水。それらがターゲットを取っていたタンカーの女性プレイヤーに降り注いだ。普通のタンカーなら、電撃で感電して動けなくなり、水のブレスで電撃ダメージがより増加し、毒であっという間に体力をけずられるという極悪な組み合わせ。まさにタンカーを殺すための攻撃だ。
 しかし、彼女は普通のタンカーではない。すべてのブレスを盾だけに集中させて、体への影響をほぼカットしていた。あれなら大したダメージは受けずに済む。逆にブレスを吐いた首長竜もどき達にとっては想定外だったようで、混乱して動きが鈍る。


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