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朝比奈は僕と雨霧について、どうやら聞きたいようだ。
僕は確かにわからない。あれは、綺麗な女の人のようにも見えた。僕を殺した、心臓を抉り取った、その何かは、わからないままだ。
だけれど、雨霧は違う。
雨霧のそれは明確な何かである。
「お前は、ロンドンと言われたら、何を想像する?」
「そうね、ビッグベン辺りかしら」
「まあ、有名どころだな。じゃあ、ロンドンの殺人鬼と言えば?」
「切り裂きジャック」
「正解」
「ねえ、私を馬鹿にしているの? あなた如き偏差値で私を測ろうなんて、死になさい」
どうして、僕はこいつにこう、何度も死ね死ね言われなければならないんだ?
朝比奈はハッキリと言わない僕に対して、結構割とマジで怒っていた。
「僕の偏差値を馬鹿にされているのには触れないでおくが、まあそういうことだよ」
「は?」
「雨霧は──切り裂きジャックなんだよ」
「ちょっと、それ、どういうこと」
雨霧天は切り裂きジャック。
まあ、厳密には、切り裂きジャックの亡霊に憑りつかれた女。
雨霧天は、家庭内の問題に晒されていた。両親からの酷い暴力に、彼女が中学校に上がった頃、父親が経営している会社が倒産したそうで、そこから父親は酒に溺れ、次第に娘である雨霧に暴力を振るうようになったらしい。
その頃は唯一母親だけは、雨霧の味方をしてくれていたらしいのだが、雨霧だけでは飽き足らず、母親にまで父親の暴力は行き届いてしまった。
母親はその恐怖に打ち勝てず、雨霧に対して、母親も暴力を振るうようになった。
それでも雨霧は耐え続けた。いつか、昔の優しい両親に戻ってくれると信じて。
そんなある日、事件は起きた。
それは、今年のゴールデンウイークのことだった。
雨霧が高校から帰宅をすると、父親はいきなり雨霧を寝室に無理矢理連れて行き、あろうことか性的な暴力を振るおうとした。
実の娘に対して、だ。
その行いに雨霧は全力で抵抗をした。そして、今までの我慢が限界を迎えた。
その後、雨霧は自宅を飛び出し一人、人気のない裏路地に歩いていた。
雨霧はそこで、ある願いを抱いてしまった。
それは──こんな家族居なくなればいいのにと……。
雨霧の願いは聞き届けられた。いや、届けられてしまったというのが正しいのだろう。雨霧の願いは切り裂きジャックの亡霊がその願いを叶えるために、雨霧に憑りつき、自身の両親を切りつけた。
幸い、両親の命に別状はなかったらしいが、かなりの重症だった。
雨霧の願いは完全には叶うことはなかった。それが、起因して雨霧はそのまま自我を失いながら、人を切りつける切り裂きジャックへと成り代わった。
この結末は後日語るとしよう。
こんな話を朝比奈にして良いとは思わないし、何より、これは雨霧の個人的な話になる。それを踏まえても僕が安易に語るべきではないだろう。
「だから、雨霧は運の悪いことに切り裂きジャックの亡霊に憑りつかれたっていうことだよ」
「ふうん」
朝比奈はあまり僕の話を信じてはいなさそうだった。無理もない、僕は人に何かを伝えるという行為が苦手だ。つまり、国語が苦手。得意な科目はせいぜい、体育くらいだ。なんせ、少し力を入れれば人間のそれを軽く超える身体能力を発揮するのだから。
朝比奈への説明はなんとか、誤魔化せたが、これからどうしたものか。
「雨霧さんもあの人が解決したの?」
「ん? あぁ、まあ、そうだな。一応あの人が解決した」
あれが解決と呼んで果たしていいものなのかはわからない。けれど、雨霧自身がそうだと言うなら、そうなのだろう。
「あなたは、あの人の何なのかしら?」
「あん?」
あまりにも唐突な質問に思わず首を傾げてしまった。
「だから、あなたは八百万さんの何なの?」
「僕は……あの人の所謂、奴隷みたいなもんだよ。僕はあの人に命を救われたんだから、その恩は返しきれない」
僕は八百万に命を救われた。
与えられた。
その事実だけが真実で、後のことはどうでもいいと思っている。
「あなたには、何ができるの? これから、私はどうなるの?」
「僕には、特に何もできないよ。これから、お前は──助かるだけだ」
あの人が手を貸す以上。
手を出す以上。
動く以上、助かるとしか、僕には言えない。それしか伝えられない。だって僕には──あの人が失敗することなん
て想像が付かないのだから。
「やっぱり、不安か?」
先程から質問攻めばかりする朝比奈が気になって、そんな、当り前の質問をしてしまった。
「そうね、不安じゃないと言えば嘘になるかしらね。でもね、何故かあなたが居ると不安は和らいでしまうの、不思議でしょ?」
「そんなに期待されて凄く光栄なんだけど、そんなに僕に期待しないでくれよ。できることがあっても、せいぜい壁になるくらいのものだよ」
「やっぱり、そういう危険な目に遭わされるのね、私」
……あ、不覚だった。というより、誘導された。この女、誘導尋問を心得ていやがる。
「お前、謀りやがったな!」
「何よ、恨むならあなたの頭の悪さを恨みなさい」
くっ……、何にも言い返せない。これだから、頭のいい奴は苦手なんだよ。
そこで、朝比奈は満足したのか黙々と衣服を着始める。そして、やっと、目の行き場に困らないようになった。
「この件が無事に解決した暁には、遊園地に行きましょう」
「はあ? 何で遊園地に?」
「私の体が、元通りになったら、絶叫マシンにも乗れるじゃない」
「あぁ、そういうことね。いいんじゃねえの? 行って来たら」
「何を言っているの? あなたも行くのよ」
「何で、僕が一緒に行くんだよ」
「あなたのような、寂しい人間には、遊園地何て縁も所縁もない所でしょう? だから、私が連れて行ってあげる」
そうして、ハニカム様な笑顔を向けて、僕たちは八百万の待つ、あのビルへと向かった。
僕は確かにわからない。あれは、綺麗な女の人のようにも見えた。僕を殺した、心臓を抉り取った、その何かは、わからないままだ。
だけれど、雨霧は違う。
雨霧のそれは明確な何かである。
「お前は、ロンドンと言われたら、何を想像する?」
「そうね、ビッグベン辺りかしら」
「まあ、有名どころだな。じゃあ、ロンドンの殺人鬼と言えば?」
「切り裂きジャック」
「正解」
「ねえ、私を馬鹿にしているの? あなた如き偏差値で私を測ろうなんて、死になさい」
どうして、僕はこいつにこう、何度も死ね死ね言われなければならないんだ?
朝比奈はハッキリと言わない僕に対して、結構割とマジで怒っていた。
「僕の偏差値を馬鹿にされているのには触れないでおくが、まあそういうことだよ」
「は?」
「雨霧は──切り裂きジャックなんだよ」
「ちょっと、それ、どういうこと」
雨霧天は切り裂きジャック。
まあ、厳密には、切り裂きジャックの亡霊に憑りつかれた女。
雨霧天は、家庭内の問題に晒されていた。両親からの酷い暴力に、彼女が中学校に上がった頃、父親が経営している会社が倒産したそうで、そこから父親は酒に溺れ、次第に娘である雨霧に暴力を振るうようになったらしい。
その頃は唯一母親だけは、雨霧の味方をしてくれていたらしいのだが、雨霧だけでは飽き足らず、母親にまで父親の暴力は行き届いてしまった。
母親はその恐怖に打ち勝てず、雨霧に対して、母親も暴力を振るうようになった。
それでも雨霧は耐え続けた。いつか、昔の優しい両親に戻ってくれると信じて。
そんなある日、事件は起きた。
それは、今年のゴールデンウイークのことだった。
雨霧が高校から帰宅をすると、父親はいきなり雨霧を寝室に無理矢理連れて行き、あろうことか性的な暴力を振るおうとした。
実の娘に対して、だ。
その行いに雨霧は全力で抵抗をした。そして、今までの我慢が限界を迎えた。
その後、雨霧は自宅を飛び出し一人、人気のない裏路地に歩いていた。
雨霧はそこで、ある願いを抱いてしまった。
それは──こんな家族居なくなればいいのにと……。
雨霧の願いは聞き届けられた。いや、届けられてしまったというのが正しいのだろう。雨霧の願いは切り裂きジャックの亡霊がその願いを叶えるために、雨霧に憑りつき、自身の両親を切りつけた。
幸い、両親の命に別状はなかったらしいが、かなりの重症だった。
雨霧の願いは完全には叶うことはなかった。それが、起因して雨霧はそのまま自我を失いながら、人を切りつける切り裂きジャックへと成り代わった。
この結末は後日語るとしよう。
こんな話を朝比奈にして良いとは思わないし、何より、これは雨霧の個人的な話になる。それを踏まえても僕が安易に語るべきではないだろう。
「だから、雨霧は運の悪いことに切り裂きジャックの亡霊に憑りつかれたっていうことだよ」
「ふうん」
朝比奈はあまり僕の話を信じてはいなさそうだった。無理もない、僕は人に何かを伝えるという行為が苦手だ。つまり、国語が苦手。得意な科目はせいぜい、体育くらいだ。なんせ、少し力を入れれば人間のそれを軽く超える身体能力を発揮するのだから。
朝比奈への説明はなんとか、誤魔化せたが、これからどうしたものか。
「雨霧さんもあの人が解決したの?」
「ん? あぁ、まあ、そうだな。一応あの人が解決した」
あれが解決と呼んで果たしていいものなのかはわからない。けれど、雨霧自身がそうだと言うなら、そうなのだろう。
「あなたは、あの人の何なのかしら?」
「あん?」
あまりにも唐突な質問に思わず首を傾げてしまった。
「だから、あなたは八百万さんの何なの?」
「僕は……あの人の所謂、奴隷みたいなもんだよ。僕はあの人に命を救われたんだから、その恩は返しきれない」
僕は八百万に命を救われた。
与えられた。
その事実だけが真実で、後のことはどうでもいいと思っている。
「あなたには、何ができるの? これから、私はどうなるの?」
「僕には、特に何もできないよ。これから、お前は──助かるだけだ」
あの人が手を貸す以上。
手を出す以上。
動く以上、助かるとしか、僕には言えない。それしか伝えられない。だって僕には──あの人が失敗することなん
て想像が付かないのだから。
「やっぱり、不安か?」
先程から質問攻めばかりする朝比奈が気になって、そんな、当り前の質問をしてしまった。
「そうね、不安じゃないと言えば嘘になるかしらね。でもね、何故かあなたが居ると不安は和らいでしまうの、不思議でしょ?」
「そんなに期待されて凄く光栄なんだけど、そんなに僕に期待しないでくれよ。できることがあっても、せいぜい壁になるくらいのものだよ」
「やっぱり、そういう危険な目に遭わされるのね、私」
……あ、不覚だった。というより、誘導された。この女、誘導尋問を心得ていやがる。
「お前、謀りやがったな!」
「何よ、恨むならあなたの頭の悪さを恨みなさい」
くっ……、何にも言い返せない。これだから、頭のいい奴は苦手なんだよ。
そこで、朝比奈は満足したのか黙々と衣服を着始める。そして、やっと、目の行き場に困らないようになった。
「この件が無事に解決した暁には、遊園地に行きましょう」
「はあ? 何で遊園地に?」
「私の体が、元通りになったら、絶叫マシンにも乗れるじゃない」
「あぁ、そういうことね。いいんじゃねえの? 行って来たら」
「何を言っているの? あなたも行くのよ」
「何で、僕が一緒に行くんだよ」
「あなたのような、寂しい人間には、遊園地何て縁も所縁もない所でしょう? だから、私が連れて行ってあげる」
そうして、ハニカム様な笑顔を向けて、僕たちは八百万の待つ、あのビルへと向かった。
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