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プロローグ
しおりを挟む「ええ……この縁談は進めていきましょうか。それから絢音さんには私の秘書をしてもらいましょう」
AMTコーポレーションの社長である黒崎はパタンと渡された書類を閉じた。絢音はびっくりして目を丸くしてしまった。目の前の黒崎は絢音の実家の会社を買収した張本人であり、そして黒崎からしてみたら絢音は子供でしかない。大学を卒業したばかりの絢音と、三十路を過ぎた黒崎ではだいぶ年が離れている。
「結婚式の日取りなどはまた後日話し合うとして、明日から私のマンションで同棲をしましょう。そうすれば、お互いのこともわかるはずです」
黒崎は淡々と話し、絢音は無表情で「はい」と頷いた。
企業が買収されてから両親はどこかに消えてしまい、絢音だけが残されてしまった。だから、絢音は黒崎には逆らうことができるはずもない。それにもう精神的に疲れてしまったから、流れに身を任せたいとすら絢音は思っていた。
「所詮、契約結婚です。私とあなたは形だけの夫婦でしかない」
絢音は目を丸くした。望まない結婚に加えて、そこには愛がないのかと思うと絢音には自嘲的な笑みが浮かんでしまった。黒崎の鋭い瞳が絢音に向けられると、絢音は伏し目がちに「そうですか」とだけ答えた。そして、少しだけ考えたのちに絢音は口を開いた。
「この結婚が契約結婚ならば、私はそれでいいです」
そんな言葉を聞いた黒崎はどこか苛立ち始めた。しかし、絢音はどうして彼が苛立ち始めたのか理解が出来ずに戸惑っていた。
「いいや……最初からそういう態度ならいいんです。そのほうが面白いですからね」
「えっ」
「いえ、こちらの話ですよ。では、絢音さん、明日からよろしくお願いしますね」
黒崎は笑顔で部屋から出ていったが、その笑みは作り笑顔でしかなくて絢音はぞっとしてしまった。
(明日から同棲だなんて大丈夫かしら)
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