たいまぶ!

司条 圭

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第一章 狩野姉妹 ~ティターン討伐録~

第8話 退魔部のお仕事

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 翌日から、私は、毎日退魔部に通うことになった。
 放課後になって、毎日みんなに迎えられることがとても嬉しくなっている。

 前の「バルティナの歪み」から3日。
 以来、露草先輩と森川先輩の関係はギクシャクしている感は否めない。
 でも、そこは大人というか、
 私情を持ち出してまで退魔部の活動を阻害する気は無いようだった。

 今日も今日とて部室のドアを潜ると、森川先輩だけが居なかった。
 どうやら「討伐」に向かっているらしい。

 退魔部の活動は主に2つ。

 1つは、先日体験した「バルティナの歪み」における、
 ハデスゲートを閉じること。
 併せて、この世界と魔界から出入りする悪魔を倒すこと。

 もう1つは、この世界に侵入してしまった悪魔たちを倒すこと。

 「バルティナの歪み」で出て行く悪魔を倒すのは絶対条件にしても、
 あの鉄壁の構成を持ってしてなお、
 出て行く悪魔のすべてを倒すことは出来ていない。
 だから、今度はこちらから出向き、
 この世界に散らばった悪魔を少しでも退治する。
 それが「討伐」
 
 実はもう1つあるらしいのだけれど、まだ教えてくれなかった。

 それはともかく、私が来てからは、討伐はひとまず森川先輩にお願いし、
 他の皆さんによる、雑談という名の講義が繰り広げられている。
 露草先輩は、いつもの真ん中の席に座っており、
 私はその向かいでパイプ椅子に座っている。
 ちょっとだけではあるけど、裁判所での被告人のような感じがしなくもない。

 その裁判長の位置にいる先輩が、今、講義をしてくれている。

「私たち「見える人」っていうのは、
 こっちの業界では「キーパー」って呼ばれているの。
 不思議なものでね、ハデスゲートのキーパーを務められるのは、
 早い人は15歳から、長くても20歳くらいの間だけ。大抵は16歳からで、
 19歳になるとキーパーとしての能力は消えてしまう傾向があるの。
 それでいて、極一部の人間に限られる。
 そんな人間がただ偶然に集まってゲートを守るなんていうのは、
 不可能に等しいわ。
 だから、この学校……最もハデスゲートに近い場所に退魔部を創設した。
 全国各地から呼びかけを行って、ようやくこの人数が揃ったわけ」

「そういう意味じゃ、あたしたちは、エリートさんなんだぜ。えっへん」

 得意げな顔をして京さんが言う。

「京ちゃん、それはちょっと違う気がする」

「そんなことないさ。れっきとした才能さ!」

「その通りでーす! そして、たくさんの人を救うでーす!」

 意気投合する京さんと樫儀さん。
 ハイタッチも見事に決まった。
 愛さんは、それに呆れつつも、私の方を向いて話を続ける。

「もう、京ちゃん、程々にね。私たちは見える分、
 悪魔たちにも狙われやすいんです。
 特に、ディアボロスたちは、執拗に狙ってきますよ」

「ディアボロス、ですか……?」

「あ、そうか。まだディアボロスについては説明してなかったですね」

 露草先輩から少し離れて座っていた愛さんが、私の近くまで来た。
 不謹慎かもしれないけれど、すごくいい匂いがする。
 そんな私の思考など気に留めるはずもなく、愛さんは続ける。

「ディアボロスというのは、成長した悪魔たちのことを言います。
 普通の悪魔たちは、こちらの世界には長くとも6日しか居られません。
 中には、4日目くらいには消えてしまうのもいますね。
 つまり、一度ゲートから出たら「バルティナの歪み」の日には戻らないと、
 消滅するのです。ですが、ディアボロスたちは違います。
 一度ゲートから出れば、いつまでも居られるようです。
 そして、人間以上に知恵をつけて、悪どく願いを叶えようとしてきます」

「人間以上の知恵、ですか……」

「まぁ、個人差はありますけどね」

 愛さんは、自分の鞄から一冊のノートを取り出す。
 そして、あるページを開いた。
 そこには、綺麗な絵と、注意書きのようなものが書かれている。

「わぁ、愛さんって絵がすごく上手なんですね!」

「あ、ありがとうございます」

 顔を真っ赤にして俯く。
 一つ、咳払いをしてから、顔は赤くしつつ、説明を続けてくれる。

「え、えっと。今のところ、確認出来てるディアボロスは4体。
 そして、おそらくはこれしかいないと思われます」

 一つ一つの挿し絵に指差しつつ、説明をしてくれる。

「足の早さに加えて雷を自在に操る「ケルベロス」。
 凄まじい怪力の持ち主「ティターン」。
 鉄壁の守りを誇る「ユニコーン」。
 そして、恐らくは最強と謳われる「ローレライ」。
 これら4体です」

 それにしても……
 挿し絵を見る分には、人間にメイクをしたようにしか見えない。
 何というか、映画に出てくる人間型の悪魔というか。
 つまりは、基本は人間なのだ。
 想像するような山羊頭でも無ければ、明らかに化け物という感じは無い。
 ハロウィンの仮装でも充分見れそうな容姿ばかりだ。

「ディアボロスは、もうどんな願いでも叶えられると思って良いです。
 宝くじを拾ったホームレスの人が、1等大当たりが当たったなんていう噂話も、
 恐らくは事実でしょう。それはきっとディアボロスの仕業です。
 そして、どれだけカルマを汚染されたのかは、想像もつきません」

 確かに、宝くじが当たった後に、
 悲惨な人生を送っているなんていう話しはよく聞くもの。
 これらにも、悪魔が絡んでいるとしたら。
 宝くじが当たることは嬉しいかもしれないけれど、
 カルマを汚されて当たったとするならば…………
 その後の未来のことを思えば、当たらないほうが幸せかもしれない。

 それを、事前に守ることが出来るのなら。
 たとえ大金を得られることが出来ると言えども、迷うこと無く、
 ディアボロスを倒すべきなのだろう。

「それと、ディアボロスがキーパーの願いを叶えてしまった場合、
 とても大変なことが起きるとされています。
 だから、朝生さんには退魔部に入って欲しかったんです。
 もし、朝生さんがディアボロスに願いを持って行かれた時の緊急性は、
 それは大変なものですから」

「そうなんですか……
 ところで、キーパーの願いを叶えると、どうなるんですか?」

「それが……詳しくは分かりません」

「えっ、分からない?」

「はい。何分、キーパーが願いを叶えられてしまったその年代の人達は、
 全滅しているので……」

「全滅……」

 つまり、それによってどんなことが起きてしまうのか、
 語り継ぐ人がいなかったということだ。

 なるほど。
 退魔部に入るか迷っている私に対して見せた、森川先輩の剣幕も頷ける。

 キーパー候補生である私が、ただの危険因子になるだけなのだから。
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