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第一章 狩野姉妹 ~ティターン討伐録~
第10話 幽体はイメージから
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今、私たちは学校のグラウンドにいる。
陸上部を始めとして、たくさんの部が所狭しとグラウンドを使っている。
活気あふれるトラックを、
私たちは幽体のままで陸上部の人たちと一緒に走っていた。
ここ、雄葉高校は部活動も盛んだ。
主立った部はインターハイの常連。
陸上部はというと、
世界を舞台にしているオリンピック選手も数多く輩出しているほど。
そんな選手たちの練習に、私たちは簡単について行っている。
彼らと平行しながら、樫儀さんの講義が開始される。
「このように、幽体では現実の身体能力よりもずっと凄いです。
当然、肺なんて無いですから、息が切れることも無いです。
幽体の時は、とにもかくにも、大事なのはイメージでーす!
イメージさえ出来れば、大抵のことはこなすことが出来るですよ」
「そうなんだ。じゃあ、空を飛ぶことも?」
「もちろんでーす。まぁ、私たち、すでに少し浮いてるですけどね」
そういえば、幽体離脱した時点で浮いてるんだった。
「あれ、でも空は飛べてないよね……」
「それはイメージするです。例えばこうやって」
樫儀さんが更に速度を上げる。
そして、階段を駆け上がるように宙に浮いていった。
「こんな感じですねー!」
「な、なんかイメージと違うね」
「これが私なりの「空を駆ける」っていうイメージです。
空を飛ぶにしても、みんな違うですよ。十人トイレね!」
十人十色のことだろう。
あえて突っ込まない。
「じゃあ私もやってみようっと」
「ふふーん。一子に出来るか、見物でーす」
イメージしてみる。
空を飛ぶというと、どんな感じだろう。
やっぱり鳥が飛ぶイメージだろうか。
飛行機も飛んでる。
虫も飛んでる。
あれ、ロケットも飛ぶんだ。
ビニール袋だって、風にあおられて飛んでるよね。
いや、吹き飛んでるって言うのかな。
吹き飛ぶ。
吹っ飛ぶ?
布団が吹っ飛んだ?
吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ…………
「あれ~~~~~~!?」
私は吹っ飛んでいた。
何を言っているのか、よく分からないと思うけど、
とにかく私は吹っ飛んでいた。
さながら、台風の日に飛ばされるビニール袋のごとく。
風が吹いているわけでもないのに、台風に吹かれるかのごとく飛んでいく様は、
樫儀さんを笑わせるには十分な滑稽さだった。
「あはははっ! 一子、凄い飛び方するですねーっ! 何をイメージしたですか?
タコさんですか? コイノボリさんですか? コニシキさんですか?」
樫儀さんが私を捕まえる。
見事、お姫様抱っこされて捕まえられてもなお、笑い続けている。
これだけ笑い続けられると、こっちとしては閉口してしまう。
でも、せめてこれだけは…………
「こ、コニシキは空飛ばない……」
「あら、そうでしたかー」
そんな指摘などどこ吹く風と、心の底から笑っている。
そんな天真爛漫な笑顔を見ていると、何だかどうでもよくなってくる。
「それにしても、一子すごいですねー」
「えっ、何が?」
「空、飛んじゃったですよ。しかも初日でっ! これはすごいことなのです」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうでーす。私なんて、空を駆けられるようになったのは最近です」
何というか。
すごい飛び方をしたと言ってバカにされると思ってただけに、
その意外さは一層だった。
「で、でもさ。空を飛ぶのって、やっぱりイメージしやすいほうなんじゃ」
「ううん、そんなことないです。
現実の身体もそうですが、イメージ出来ないことを、
実際に身体で再現して動かすことは出来ないです。
幽体になったと言えども、それは同じことで、具体的にイメージ出来ないことは
やっぱり出来ないです。
人間にとって、空を飛ぶ感覚というのは、曖昧にこそ想像出来るですが、
具体的にはやっぱり出来ないですよ。例えばほら」
私を抱えながら、なおも空中を駆け抜ける樫儀さん。
でもそれは、やっぱり空を飛ぶというより……
「私もほら、鳥が飛ぶみたいには飛ばずに、
空中の階段を駆け上がるように行くでしょう?
それだけ、宙を浮くっていうイメージが出来てないのです。
そして今も、宙を浮くっていうよりは、
透明な建物の上にいるっていう感じなのです。
でも、一子は宙を浮くものをイメージして、きちんと宙を舞った。
これはアンビリーバボーなことですよ!」
「そ、そうなんだ」
何だか実感が湧かない私。
でも、確かにその通りだ。
イメージ出来ないことは、実際に身体を動かせない。
空を飛ぶ、というイメージは、容易いようで、実はとても難しいものだ。
そう思うと、樫木さんの、透明な建物や階段を駆け上がる、というほうが、
余程イメージがしやすいだろう。
きっと悩ましい表情をしているであろう私に、意地悪な顔を浮かべる樫儀さん。
「…………一子、ここに立ってくださーい!」
抱えていた私を、突然足場のない空中に、立たせるように置く。
「え、あ、ちょ……」
心の準備をしていない私は、ニュートンのリンゴよろしく自由落下していった。
陸上部を始めとして、たくさんの部が所狭しとグラウンドを使っている。
活気あふれるトラックを、
私たちは幽体のままで陸上部の人たちと一緒に走っていた。
ここ、雄葉高校は部活動も盛んだ。
主立った部はインターハイの常連。
陸上部はというと、
世界を舞台にしているオリンピック選手も数多く輩出しているほど。
そんな選手たちの練習に、私たちは簡単について行っている。
彼らと平行しながら、樫儀さんの講義が開始される。
「このように、幽体では現実の身体能力よりもずっと凄いです。
当然、肺なんて無いですから、息が切れることも無いです。
幽体の時は、とにもかくにも、大事なのはイメージでーす!
イメージさえ出来れば、大抵のことはこなすことが出来るですよ」
「そうなんだ。じゃあ、空を飛ぶことも?」
「もちろんでーす。まぁ、私たち、すでに少し浮いてるですけどね」
そういえば、幽体離脱した時点で浮いてるんだった。
「あれ、でも空は飛べてないよね……」
「それはイメージするです。例えばこうやって」
樫儀さんが更に速度を上げる。
そして、階段を駆け上がるように宙に浮いていった。
「こんな感じですねー!」
「な、なんかイメージと違うね」
「これが私なりの「空を駆ける」っていうイメージです。
空を飛ぶにしても、みんな違うですよ。十人トイレね!」
十人十色のことだろう。
あえて突っ込まない。
「じゃあ私もやってみようっと」
「ふふーん。一子に出来るか、見物でーす」
イメージしてみる。
空を飛ぶというと、どんな感じだろう。
やっぱり鳥が飛ぶイメージだろうか。
飛行機も飛んでる。
虫も飛んでる。
あれ、ロケットも飛ぶんだ。
ビニール袋だって、風にあおられて飛んでるよね。
いや、吹き飛んでるって言うのかな。
吹き飛ぶ。
吹っ飛ぶ?
布団が吹っ飛んだ?
吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ…………
「あれ~~~~~~!?」
私は吹っ飛んでいた。
何を言っているのか、よく分からないと思うけど、
とにかく私は吹っ飛んでいた。
さながら、台風の日に飛ばされるビニール袋のごとく。
風が吹いているわけでもないのに、台風に吹かれるかのごとく飛んでいく様は、
樫儀さんを笑わせるには十分な滑稽さだった。
「あはははっ! 一子、凄い飛び方するですねーっ! 何をイメージしたですか?
タコさんですか? コイノボリさんですか? コニシキさんですか?」
樫儀さんが私を捕まえる。
見事、お姫様抱っこされて捕まえられてもなお、笑い続けている。
これだけ笑い続けられると、こっちとしては閉口してしまう。
でも、せめてこれだけは…………
「こ、コニシキは空飛ばない……」
「あら、そうでしたかー」
そんな指摘などどこ吹く風と、心の底から笑っている。
そんな天真爛漫な笑顔を見ていると、何だかどうでもよくなってくる。
「それにしても、一子すごいですねー」
「えっ、何が?」
「空、飛んじゃったですよ。しかも初日でっ! これはすごいことなのです」
「えっ、そ、そうなの?」
「そうでーす。私なんて、空を駆けられるようになったのは最近です」
何というか。
すごい飛び方をしたと言ってバカにされると思ってただけに、
その意外さは一層だった。
「で、でもさ。空を飛ぶのって、やっぱりイメージしやすいほうなんじゃ」
「ううん、そんなことないです。
現実の身体もそうですが、イメージ出来ないことを、
実際に身体で再現して動かすことは出来ないです。
幽体になったと言えども、それは同じことで、具体的にイメージ出来ないことは
やっぱり出来ないです。
人間にとって、空を飛ぶ感覚というのは、曖昧にこそ想像出来るですが、
具体的にはやっぱり出来ないですよ。例えばほら」
私を抱えながら、なおも空中を駆け抜ける樫儀さん。
でもそれは、やっぱり空を飛ぶというより……
「私もほら、鳥が飛ぶみたいには飛ばずに、
空中の階段を駆け上がるように行くでしょう?
それだけ、宙を浮くっていうイメージが出来てないのです。
そして今も、宙を浮くっていうよりは、
透明な建物の上にいるっていう感じなのです。
でも、一子は宙を浮くものをイメージして、きちんと宙を舞った。
これはアンビリーバボーなことですよ!」
「そ、そうなんだ」
何だか実感が湧かない私。
でも、確かにその通りだ。
イメージ出来ないことは、実際に身体を動かせない。
空を飛ぶ、というイメージは、容易いようで、実はとても難しいものだ。
そう思うと、樫木さんの、透明な建物や階段を駆け上がる、というほうが、
余程イメージがしやすいだろう。
きっと悩ましい表情をしているであろう私に、意地悪な顔を浮かべる樫儀さん。
「…………一子、ここに立ってくださーい!」
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