たいまぶ!

司条 圭

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第一章 狩野姉妹 ~ティターン討伐録~

第16話 開戦ティターン戦

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「すごい……」

 目の前に繰り広げられる景色に、思わず息を飲んでしまう。

 迎撃戦と比べると、その数は確かに少ない。
 それでも、その黒さは、やはり身の毛のよだつものだ。

 だが、そんな黒い集団が、露草先輩の護方結界により消滅していく。
 それも、今のところ一匹とて通していないのか。
 樫儀さんも、森川先輩すらも動く気配が無い。

 後ろを見れば、少しずつ閉められていく扉。
 やはり出てくる悪魔がいないと楽なのか。
 迎撃戦よりも、早いペースで扉を閉めている気がする。

「このまま終わるといいですけどねー……」

 弓を構え、目を皿にして悪魔を探している樫儀さんが、心底から言う。

「そういうのは、フラグが立つ、と言うんだ」

「えっ……蛙が立つですかー?」

「フロッグじゃない。フラグだ」

「なるほど、ありがとうございまーす。あとで辞書引きますねー」

「……辞書に載ってるかな」

「まぁ、このまま終わるのを待つばかりでーす」

「だから、それを言うなと……」

 そんなやりとりをしていると。


 前の方から聞こえる、ミシミシと少しずつ何かが切れる音。
 障子に少しずつ力を加えて破いていくような、
 そんな破壊音がこの空間に響きわたる。

 目に見える光景。

 それは、異様。

 露草先輩が展開している護方結界。
 通常ならば、まっすぐに展開されている結界。

 それが、思い切り突き破られようとしていた。
 風船ガムが人型になって膨らんでいるかのように。
 強行突破するつもりのようで、今も音を立てて破られようとしている。

 そしてその大きさ。
 
 ティターンというのは、ギリシャ神話に出てくる巨体の神。

 その巨体は、討伐の時に見た時も大きかった。
 それなのに、今現れているその姿は、
 その時とは比べものにならないほど膨れ上がっていた。
 あの高層ビルにも匹敵しそうな高さのハデスゲートでさえも、
 何とか収められるだろうほど。

 そんな不気味な巨人が、ゆっくりとこちらに迫りつつある。

「もう持たないわっ!」

 その叫びが口火を切った。
 ついに護方結界が崩れ、ティターンが姿を現す。

 容姿はあの時と変わらなかった。

 重厚な全身を覆う鎧。
 兜が頭を全て覆い尽くし、まさに鉄壁の防御。

 だが、その身体の大きさは、やはり異常としか言えない。

 こんなものを倒せるのだろうか。
 見ているだけで、私の戦意は既に喪失してしまっていた。

「樫儀さん、しばらく頼むわよ!」

「わかってまーす! 任せてちょんまげーです!」

 露草先輩が、こちらを向いた。
 いつもならば結界を張り続けるように動く先輩。

 でも、今回は違った。
 なんと、私たちのいる場所まで後退してきた。
 樫儀さんの少し前に立ったその瞬間には、右手に剣を持っていることに気付く。

 その剣は異様な形をしている。

 一振りの剣に、左右チグハグに3本ずつ刃が出ており、
 真ん中に1つ、左右6つの、合計7つの刃があった。
 まるで木のような形をしたその剣の名前は、歴史の教科書にも載っているもの。

「七支刀……?」

「よく知っているな」

 私が呟いた言葉を、森川先輩が拾う。

「神道の名家、早露家の神器が一つ、七支刀。
 まぁ、イミテーションではあるが、五十鈴の最終奥義ってところだ」

 露草先輩が、七つの刃がある刀を大きく左から右に振る。
 そして左へ。
 すると、刀身に光が帯びる。
 僅かに見えたその光は、だんだんと輝きを増していく。

「ただ、草を薙いだだけで伝説になろうはずもない。
 伝説になるは、一太刀で草原の草を全て凪いだが故。
 今、その力をここに顕現せん」

 七つの刃を持ち、光り輝くその剣を、勢いよく右に払った。

「奥義……草薙!」

 剣の動きに合わせて、放たれる光。
 右へ凪ぎ払った後には、目の前には扇状に広がる光の波が悪魔たちを襲う。
 
 森川先輩のシングメシアは、広範囲に渡る大軍向けの攻撃のようなイメージ。
 対して露草先輩の草薙は、確かに広範囲に及ぶものであっても、
 一撃の鋭さがあるように思える。
 どちらかというと、個体向けの攻撃で、範囲はおまけのようなイメージだ。

 だけど、例えおまけであっても、触れれば消滅。
 この一撃で、目に見える悪魔という悪魔は消し飛んでいた。


 ただ、一体を除いて


 ティターン。

 巨人の悪魔は、相変わらず歩き続けていた。
 今の一撃で、胴体が半分になっている。

 だが、足は歩みを止めていない。
 落ちた上半身も、匍匐前進するように腕で前進を続けている。

 何という生命力なんだろう。

 今までティターンを倒せなかったという理由が分かる気がした。
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