たいまぶ!

司条 圭

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第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録

第25話 作戦会議

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 退魔部にも、休息の時期というのがある。

 迎撃戦を終えたあと……
 つまりハデスゲートから出てきた悪魔を迎え撃った後は、
 世界に散った悪魔たちを「討伐」しに行く。

 だが、殲滅戦、つまりゲートに戻ろうとした悪魔を倒し終えた後というのは、
 現世界に悪魔たちがいないことから、討伐に出る意義は無く、休息週となるのだ。

 ただ、それでも行うことが一つ。
 それが「探索」。

 基本的に、悪魔は6日間、こちらの世界にいると消滅してしまう。

 ただ、その中にも突然変異みたいなものがいて、時折残っている個体がある。
 その悪魔は、ディアボロスの卵とも言える存在なのだ。
 その芽を摘むのが探索。
 丁度、私と森川先輩が出会ったのは、この探索を行っていたからだった。

 しかし、今回は現世界にユニコーンがいるため、
 散り散りになってディアボロス候補生を追いかけるのは、
 危険というよりも自殺行為に等しい。
 討伐で本格的に力を出せない状態で戦いを挑むのも、また得策とは言い難い。

 故に、探索は出ないことになる。

 そんな中での、退魔部の活動は。

「いいねいいね、これならもっと早く閉められるようになるかもしれないよっ!」

「そうですか? 嬉しいです!」

 幽体離脱をしての「バルティナの歪み」の練習。
 ただし、力を使いすぎないようにすること。
 
 私達の、魂を削って悪魔たちを倒す力は、
 ほぼ空の状態から完全に回復するまでおよそ3日ほどかかるという。
 故に、無駄に力は消費しないようにする必要がある。
 
 今、私は京さんと息を合わせる練習をしている。
 京さん曰く。

「バラバラに力を入れてもダメ。やるなら、一緒に力を込めないと。
 綱引きだって、1人が休んで1人が引っ張るより、
 2人が同時に引っ張った方が強いのと同じ。
 ゲートを閉めるスピードが速まれば、その分だけ有利になるから、
 一緒に頑張ろうず!」

 京さんの言ってることは全くその通りで、
 閉める時間が短ければ短いほど「バルティナの歪み」の時間は短くなる。
 それはつまり、露草先輩や森川先輩たち、みんなの負担軽減に繋がる。

 だからこそ、頑張らないといけない。
 それが、私に出来ることなんだから。


 一方の先輩2人は、難しい顔をしている。

「五十鈴、やはり難しいか?」

「残念だけど、そうね……私よりは、樫儀さんを頼るべきかも」

 私と愛さん、京さんの3人は、やることは同じ。
 私と京さんが力を合わせてゲートを閉め、それを愛さんが守る。
 
 一方の攻撃陣である先輩たちは、
 今回相手にしなければならないユニコーン対策を話し合っていた。

「ユニコーンは、堅牢な守りだけでなく、素早さもある。
 それだけでなく、白兵戦も出来るからな」

「まあ、対峙出来るのは厘さんと京さんだけね」

「えぇ、京先輩ってそんなにすごいですかー!」

「ウ・ソ♪」

 驚いていた樫儀さんの顔が、一転して、
 期待を裏切られた子供よろしく酷い顔になる。
 そんな樫儀さんを横目に、森川先輩が咳払い一つして続ける。

「まぁ、何だ。ユニコーンに遠距離攻撃は通用しない。
 それは千里も知っておいて欲しい」

「そうですねー。矢はさっぱり当たらなかったでーす」

 口惜しい口調の樫儀さん。
 それを見た森川先輩が、宥めるように頭を撫でると、
 樫儀さんの顔に笑顔が戻った。

「しかし、どうしたものか。ユニコーンの隙は見いだせるが、決定打が無い」

「ユニコーンの隙って何でーすか?」

「おいおい、さっき話したろう。
 私のそれなりに力を加えたシングメシアなら、
 ユニコーンのバリアを一時的に破ることが出来るんだと」

「あ、そうでしたー! ……それで?」

「それでって、お前……」

「つまり、厘さんの渾身のシングメシアでバリアを破った後であれば、
 私たちの攻撃は通じる。ただ、その時間も短いのよ。
 時間的には30秒ほどでしょう。
 その間にシングメシアが撃てればいいけど、
 残念ながら相当な力を使った後の厘さんには頼れない。
 返し刃であるリバーサル・カデンツァは、
 バリアを破られたユニコーンも警戒しているだろうから、
 期待は薄い。となれば」

「露草先輩の草薙があるでーす!」

「と、言いたいところなんだけどね。
 私の草薙は、軌跡が単純だから、ユニコーンの直感とスピードがある限り、
 やっぱり避けられる可能性が非常に高いのよ。
 ユニコーンの防御力は、そのバリアだけじゃないってことね」

「なるほど。そっちを立てればあそこが立たない、というやつですね」

 かなり危うい慣用句を言う樫儀さん。
 これには先輩たちも思わず苦笑い。
 その流れを断つべく、露草先輩が咳払い一つ。

「となると、
 やっぱり、樫儀さんには、早くも本気を出してもらう時が来たわけね」

「その手があるか。だが…………」

「あまり自信無いでーす」

 あっけらかんと言う樫儀さん。
 それに、先輩2人はため息をつくでもなく、首を縦に振る。

「そうだろうな。無理にやる必要は無い。何とか別のやり方で作戦を立案しよう」

「そうね。とりあえず、今日はもうお開きにしましょうか」

 私たちは、露草先輩たちに呼ばれると、解散を言い渡された。
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