28 / 88
第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録
第28話 友人宅訪問……という名の遠征
しおりを挟む
日もすっかり落ちて、周囲も黒ずんだ中、
オンボロな建物の前に、私と樫木さんがいる。
その建物は、てっぺんに据え付けてある十字架があることで、
何とか教会だと認識出来た。
その横には、やっぱりオンボロな住居が並んでいる。
それを見て愕然としつつも、樫儀さんに、ケーキを奢れ、
などと軽口を叩いたことを後悔する私。
そんな私を横目に、樫儀さんは扉を開けて一言。
「ただいまでーす!」
と元気に入っていった。
マロンドを出る時のこと。
先輩たち2人はまだしばらく居るとのことで先に会計を済ませることになった。
露草先輩の、ゲーム機を叩く嵐のごとく指捌きと、
森川先輩の見たことのない幸せそうな顔は、もう忘れることは出来そうにない。
それはともかくとして、レジに来て、樫儀さんが一言。
「ごめんです、一子。100円貸してくれないですか?」
「え、うん。別にあげるけど、足りなかった?」
「50円玉2枚だと思ってたのが5円玉2枚だったです……」
レジに出された皿の上には、大量の小銭。
900円払うのにこれはちょっと迷惑な気もするけど……
店主さんの、心の底からにじみ出る笑顔を見るに、特に咎める必要は無さそう。
そして、小銭を数えてみると、確かにあと90円足りない。
私は、5円を取って100円を差し出すと、店主さんがレジを打つ。
「ありがとうございます。またのお越しを」
「はい、おいしかったです」
「でーす!」
警報と共に跳ね橋を下ろしてもらい、外へ出ると、樫儀さんが前に来て頭を下げた。
「ごめんです、100円は明日返すですね」
「あ、ううん、いいよ。
やっぱり奢ってもらっちゃうのも悪いし、100円くらいは出させて」
「そういうわけにはいかないです。女に二言は無いでーす」
そう言われると、ちょっと困る。
どうしようか考えていると、何故かこう口走った。
「じゃあさ、取りに行くよ。友達の家がどこにあるかも知りたいし」
何が、じゃあ、なのかもよく分からない。
ただ、その時の混乱した頭では、それが名案と言わんばかりに言っていた。
一方の樫儀さんも、混乱した様子。
「……別に私、押し倒す気は無いでーすよ?」
「えっ!?」
突然の爆弾発言に素っ頓狂な声をあげてしまったが、
借金を「踏み倒す」気がない、と咄嗟に変換する。
「えっと、何て言うのかな。
奢って貰っちゃってやっぱり悪いかなーなんて思っちゃって。
悪いついでに、お友達の家に行ってみたいなー、なんて」
実の所、これが本音だったりする。
家は遠いみたいだけど、歩いてきているくらいだから、
それほどではないはずだろうし、
高校生になって初めてのお友達の家に行ってみたい。
「ダメかな?」
「うーん、ダメでは全然無いですけどー」
何か話を濁らせている。
これは変に突っ込まないほうがいいのかな。
「あ、無理言ってごめんね。じゃあ、また今度にするね」
「いえ、全然無理じゃないどころか、私は大歓迎でーす!
ただ、私の家は本当に遠いですよ?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうですか。では、行きましょうー!」
そうして私達は、樫儀さんの家に向かっていった。
これが、遠征になるとも知らずに。
マロンドを出たのが5時は過ぎていない頃。
私と樫儀さんは、既に7時を過ぎた頃なのに、まだ歩いている。
「ね、ねぇ、樫儀さん……まだ?」
「もう少しでーす!」
このやりとりは、覚えているだけで13回。
樫儀さんの言葉を信じて歩いていたけど、よもや限界が近づきつつある。
中学でやっていた吹奏楽部。
吹奏楽と聞くと、おとなしいイメージかもしれないけれど、
それは大間違い。
文化系の運動部とも言われる部活であり、
基礎体力は下手な運動部よりも自信がある。
その吹奏楽部で培った体力が、ジワジワと削り取られて、今や限界。
というか、2時間以上の徒歩だけでも相当な運動なのに、
樫儀さんの歩くペースが想像以上に早い。
競歩でもやっているかのようだ。
最初こそ余裕で並進していたはずなのに、
次第についていくのがやっとという状態。
今となっては、息が切れ、足が悲鳴をあげ、
立ち止まれば膝が笑ってしまう。
入学時に買ったはずの新品のローファーが、
もう長年連れ添ったかのように、良い皺が出来ていた。
そして今更ながらに気づく。
さっきからのやりとりである、
「もう少しでーす!」
は、私の気持ちを折れさせないための言葉なのだと。
それでも、大分気持ちが折れてきた。
もうこれ以上は歩けない。
そう弱音を吐いて倒れそうになったとき。
「着いたでーす!」
その言葉に、思わず涙が出そうになった。
そして、目の前を見て愕然とする。
目の前にあるオンボロな建物は、
てっぺんに据え付けてある十字架があることで、
何とか教会だと認識出来た。
その横には、やっぱりオンボロな住居が並んでいる。
樫儀さんは、その住居の入り口に慣れた様子で目の前に立ち、
鍵を開けると。
「ただいまでーす!」
と元気に入っていった。
オンボロな建物の前に、私と樫木さんがいる。
その建物は、てっぺんに据え付けてある十字架があることで、
何とか教会だと認識出来た。
その横には、やっぱりオンボロな住居が並んでいる。
それを見て愕然としつつも、樫儀さんに、ケーキを奢れ、
などと軽口を叩いたことを後悔する私。
そんな私を横目に、樫儀さんは扉を開けて一言。
「ただいまでーす!」
と元気に入っていった。
マロンドを出る時のこと。
先輩たち2人はまだしばらく居るとのことで先に会計を済ませることになった。
露草先輩の、ゲーム機を叩く嵐のごとく指捌きと、
森川先輩の見たことのない幸せそうな顔は、もう忘れることは出来そうにない。
それはともかくとして、レジに来て、樫儀さんが一言。
「ごめんです、一子。100円貸してくれないですか?」
「え、うん。別にあげるけど、足りなかった?」
「50円玉2枚だと思ってたのが5円玉2枚だったです……」
レジに出された皿の上には、大量の小銭。
900円払うのにこれはちょっと迷惑な気もするけど……
店主さんの、心の底からにじみ出る笑顔を見るに、特に咎める必要は無さそう。
そして、小銭を数えてみると、確かにあと90円足りない。
私は、5円を取って100円を差し出すと、店主さんがレジを打つ。
「ありがとうございます。またのお越しを」
「はい、おいしかったです」
「でーす!」
警報と共に跳ね橋を下ろしてもらい、外へ出ると、樫儀さんが前に来て頭を下げた。
「ごめんです、100円は明日返すですね」
「あ、ううん、いいよ。
やっぱり奢ってもらっちゃうのも悪いし、100円くらいは出させて」
「そういうわけにはいかないです。女に二言は無いでーす」
そう言われると、ちょっと困る。
どうしようか考えていると、何故かこう口走った。
「じゃあさ、取りに行くよ。友達の家がどこにあるかも知りたいし」
何が、じゃあ、なのかもよく分からない。
ただ、その時の混乱した頭では、それが名案と言わんばかりに言っていた。
一方の樫儀さんも、混乱した様子。
「……別に私、押し倒す気は無いでーすよ?」
「えっ!?」
突然の爆弾発言に素っ頓狂な声をあげてしまったが、
借金を「踏み倒す」気がない、と咄嗟に変換する。
「えっと、何て言うのかな。
奢って貰っちゃってやっぱり悪いかなーなんて思っちゃって。
悪いついでに、お友達の家に行ってみたいなー、なんて」
実の所、これが本音だったりする。
家は遠いみたいだけど、歩いてきているくらいだから、
それほどではないはずだろうし、
高校生になって初めてのお友達の家に行ってみたい。
「ダメかな?」
「うーん、ダメでは全然無いですけどー」
何か話を濁らせている。
これは変に突っ込まないほうがいいのかな。
「あ、無理言ってごめんね。じゃあ、また今度にするね」
「いえ、全然無理じゃないどころか、私は大歓迎でーす!
ただ、私の家は本当に遠いですよ?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうですか。では、行きましょうー!」
そうして私達は、樫儀さんの家に向かっていった。
これが、遠征になるとも知らずに。
マロンドを出たのが5時は過ぎていない頃。
私と樫儀さんは、既に7時を過ぎた頃なのに、まだ歩いている。
「ね、ねぇ、樫儀さん……まだ?」
「もう少しでーす!」
このやりとりは、覚えているだけで13回。
樫儀さんの言葉を信じて歩いていたけど、よもや限界が近づきつつある。
中学でやっていた吹奏楽部。
吹奏楽と聞くと、おとなしいイメージかもしれないけれど、
それは大間違い。
文化系の運動部とも言われる部活であり、
基礎体力は下手な運動部よりも自信がある。
その吹奏楽部で培った体力が、ジワジワと削り取られて、今や限界。
というか、2時間以上の徒歩だけでも相当な運動なのに、
樫儀さんの歩くペースが想像以上に早い。
競歩でもやっているかのようだ。
最初こそ余裕で並進していたはずなのに、
次第についていくのがやっとという状態。
今となっては、息が切れ、足が悲鳴をあげ、
立ち止まれば膝が笑ってしまう。
入学時に買ったはずの新品のローファーが、
もう長年連れ添ったかのように、良い皺が出来ていた。
そして今更ながらに気づく。
さっきからのやりとりである、
「もう少しでーす!」
は、私の気持ちを折れさせないための言葉なのだと。
それでも、大分気持ちが折れてきた。
もうこれ以上は歩けない。
そう弱音を吐いて倒れそうになったとき。
「着いたでーす!」
その言葉に、思わず涙が出そうになった。
そして、目の前を見て愕然とする。
目の前にあるオンボロな建物は、
てっぺんに据え付けてある十字架があることで、
何とか教会だと認識出来た。
その横には、やっぱりオンボロな住居が並んでいる。
樫儀さんは、その住居の入り口に慣れた様子で目の前に立ち、
鍵を開けると。
「ただいまでーす!」
と元気に入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる