たいまぶ!

司条 圭

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第二章 樫木・ランバ・千里 ~ユニコーン討伐録

第39話 覚醒

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「さて、残ったのは君たちだけだね。
 本当は騎士姉ちゃんと戦いたかったけど……
 まぁ、年少者たるもの、年長者には順番を譲らないとね」

 笑顔で少しずつ距離を狭めてくるユニコーン。

 対して、私たちは、じりじりと後退するしかない。
 愛さんを前にして、京さん、私、千里の順番に並んでいる。

 ユニコーンが前に来ては、私たちの集団が後ろに下がる。
 それを6回ほど繰り返す。

「ちぇっ、やっぱり残りカスはつまんないや。
 逃げることしか出来ないんじゃないか。
 騎士姉ちゃんは、あんなにすごかったのになぁ」

 好き勝手言われようと、こればかりは耐えるしかない。
 
 ユニコーンの言っていることは事実だ。

 愛さんは守りの力だし、私と京さんは閉める力。
 唯一、千里が戦闘能力に秀でているけれど、
 ユニコーンと戦えるだけの技量は、恐らく無い。

 結論としては、逃げるのが最善の手段だ。

「あっ、そうだ! そこの金髪新人さん。謝っておかないとね。
 ごめんよ、お金はちょっと工面出来そうにないよ。
 だって、君らがゲート閉めちゃうんだもん。
 でも、今度は必ず用意しておくから、もう少し待っててね!」

「勝手に言ってるがいいです」

「強がりは言わないほうがいいって。楽になりなよ。
 お金があれば、君の大事な教会は建て直せるんだ。
 建物も綺麗になるし、言うこと無いじゃない?」

「黙るといいです!」

 いつの間にか、剣を右手に突撃する。

 ユニコーンに斬りかかるも、剣は届かない。
 張られたバリアによって、数10センチ離れた場所で静止している。
 そうなることが分かっているかのように、
 ユニコーンは避ける動作もすることなく、直立したままでいた。

「騎士姉ちゃんよりも随分劣化してるね。
 バリアなんてかすり傷もついてないよ。見よう見まね?」

「……黙るです」

「あはは! 図星かな?
 やっぱり君の姿は、あの騎士姉ちゃんを模倣しただけなんだ!」

 ケラケラと笑うユニコーン。

 悔しさに肩を震わせ、剣に力を込める千里。
 しかし、無情にも、剣は一切ユニコーンに斬り込めていなかった。

「残念だけど、君には騎士姉ちゃんの真似なんて到底出来やしないよ!
 君には力が足りなすぎる。そんな力じゃ、僕には絶対に勝てない!」

「黙るです! 黙るです!」

 涙を浮かべてバリアを叩く。

 そう、きっと千里が一番分かっている。
 この程度では、ユニコーンを倒せない。
 
 森川先輩を、無様に模しただけでは勝てない。

 握っている剣は、シングメシアに似ているようで、全くの偽物。
 誰から見ても、イミテーションにもなっていない。

 悔しさと。
 情けなさと。

 そして己の無力さを思うが故の涙。

 バリアを叩くのは、駄々っ子のように、いたずらにぶつけているに過ぎない。

 一生懸命やっているのに。
 負けないように、頑張っているのに。
 負けられない戦いだと分かっているのに。

 力が及ばない。

 その思いが、今の千里の頬を伝う涙となっている。



 気づけば私も泣いていた。

 己の無力さもそうだけど。
 それ以上に、友達がこれほど貶されているのに、
 何も出来ない自分が嫌だった。

 何か声を掛けられればいいのに。
 せめて、ユニコーンの言葉を否定してやれればいいのに。

 何も言い返せない自分がいる。

 友達に、何も返せない自分が、とても卑しい存在に思えた。

 千里は、こんな短い間に、私にたくさんのものを与えてくれた。
 それなのに、いざお返ししようと思っても、その力が無い。

 それがとても悔しくて。
 ただひたすらに口惜しく。

 ただただ、自然に涙が溢れていた。

「あはは、滑稽滑稽! 楽しくて仕方ないよ。
 どれだけやっても、無駄は無駄。所詮、君はその程度なんだよっ!」

 ついにユニコーンが攻勢に出る。
 一瞬の隙を突いて、千里の持つ剣を頭の角で弾き飛ばしたかと思うと、
 即座に千里の胸を狙う。

「今度こそ、さようなら、新人さん!
 お父さんには、しっかりお金を残してあげるから安心してよ。
 君の命でね!」

 このままでは、本当に千里が死んでしまう。

 結局、何も出来ないのだろうか。

 諦める?

 嫌だ。
 そんなことは絶対にしたくない。

 友達を…………
 千里を見殺しになんてしたくない。

 それなら、力を得よう。

 どんな力?

 何でもいい。

 一番、イメージしやすい力を。

 今、私の中で最も「強い」というイメージ。

 イメージ。

 イメージ。
 イメージ。

 イメージ……
 イメージ…………

 イメージ!






「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 剣を握りしめ、吶喊する。

 まず狙うのは角だ。

 千里を狙う、邪な角。
 軽く払って、千里を助けないといけない。

「何っ!?」

 余裕の表情を浮かべていたユニコーンが、
 驚きの声を上げ、思わず飛び退き、距離を取った。
 おかげで剣は空振りになったけど、
 結果として千里を助けられたんだから、良しとするべきだ。

「い、一子……?」

「え、えっと……いっちゃん、なの?」

「……朝生さん?」

 驚愕するあまり、声が出ない3人。

 それは、無理からぬこと。
 私の容姿は、一変していた。

 部分鎧という、胸から胴、肩しか無い鎧。
 手には、肘あたりまでを守る大きな小手。
 細い金属を編み込んだ、長いスカート。

 そして、銀髪。

 ただ、少しだけ自分らしさを出すために、髪はショートにしているのはご愛敬。

 私は今、森川先輩に成りきっている。

「千里……ユニコーンを倒そう。
 一生懸命を笑い、貶し、落としめ、嘲罵して、笑い者にする奴を……
 私は許せない!」

「で、でも一子。やっぱり私には、力が足りないです……」

「それを言うなら私だってそうだよ」

「一子……」

 千里の瞳を覗く。

 そこに、自信は見えなかった。
 ユニコーンに貶められ、普段は輝いている千里の瞳から光が消えていた。

 私は、千里の肩に手を置いて、ゆっくり語りかける。

「大丈夫、私たちならやれる。
 それに、私はまだ、森川先輩の真似しか出来ないけど、
 千里なら、もっと自分らしく戦えると思うよ」

「私らしく……?」

「うん。森川先輩の真似じゃなく……千里は、もっと千里らしく。
 その方が、きっと、もっと強くなれる気がする」

 剣を握りしめる手に力が籠もる。

 見据える先は、ヘラヘラと笑うユニコーン。

「あははっ! みんな、真似っこが好きだね。
 でも、本物の騎士姉ちゃんならまだしも、偽物相手に、僕は負けないよ!」

 突撃してくるユニコーン。
 そして、角の攻撃が繰り出された。
 こうして対峙すると、本当に信じられないスピードで角を突き出してくる。

 だが、それを軽く剣でいなす。

「へぇ、すごいね。太刀筋まで似てるよ。
 本当に、君はどこまで自分を持たずに、人真似ばかりしてるんだい?」

「そんなことに恥を知ることは無いわ。
 事実、その猿真似に追い込まれてるのは、あなたよ、ユニコーン」

「あはは! そんなこと言われるのは心外だなぁ。
 僕は、ほんの少しも追い込まれてなんていないよ!」

 その言葉を体現するように、まるでマシンガンのごとく、繰り出される突き。

 がむしゃらに放たれているように見えるそれは、
 一発一発の速度、重さ、共に次第に増している。

 攻撃を捌いている剣には、その力が伝わっていた。

 まるで、私の力量を試している……
 いや、遊んでいるようだった。

 それでも、繰り出される突きは、
 気を抜けば、それこそ一瞬の内に私の心臓を貫くだろう。

 正直に言えば、さっきの私の言葉ははったりだ。
 ユニコーンの言うとおり、追い込んでなどいない。
 むしろ私が追い込まれているのが笑えない。

 私では適わない。
 それは重々承知だ。

 だからこそ。

「もらったでーす!」

 油断しているユニコーンにクリーンヒットするのは、千里の剣。
 ただ、当たったのは、ユニコーンのバリアだった。

「ダメダメ、君じゃ力が足りないって言ったじゃない。
 それこそ、そこの偽騎士姉ちゃんよりもダメダメだよ!」

「う……」

「千里はダメじゃないっ!」

 意気消沈する千里を、励ますように剣を切りつける私。
 かく言う私の攻撃も、バリアに阻まれていた。
 それでも、何度となく叩きつける。
 同じ結果が続いても、攻撃の手を休めたりしない。

「もっと……もっと自分を信じてっ!」

「一子……」

「千里の……ううん、私たちの中には、もっと無限の可能性が眠ってる!
 そして、それは、自分を信じてあげないと、決して発現しないものなの!
 お願い千里……自分を信じて!」

「私を……信じる」

 刻みつけるように、ゆっくりと口にする千里。

 その千里に変化が表れる。

「私は、樫木・ランバ・千里。
 私は、大好きな教会の跡を継ぐのです。
 パパの時みたいに……ううん、それ以上に素敵な教会にするです。
 こんなところでへこたれてなんていられないです!」

 千里が手に持っている剣。

 それが、シングメシアではなくなっていた。

 見たことのない剣。
 でも、その剣の形状。
 刃の美しさ。
 そして、光の輝きは、とても神々しい。

「ありがとう、一子。私、やるですよ。
 だからお願いです、力を貸してくださいでーす!」

「うんっ! 行こう、千里!」

 手を取り、一緒に立ち向かう。

 目の前にいる脅威を倒すために。
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