たいまぶ!

司条 圭

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第五章 朝生一子 ~私に出来ること~

第83話 バルティナの歪み

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 翌日。

 放課後になり、私達は退魔部の部室にいた。
 私達、というには少ないかもしれない。

 だって、そこにいるのは、やっぱり2人だから。

 今日も、露草先輩は呆けている。
 頬杖をつき、今日何度目か分からないため息をつく。

 目は焦点が合わず、遠いところを見続ける。

 きっと、待っているんだ。
 みんなの帰りを。
 こうして待っていれば、いつか来てくれるんじゃないか。

 そんな夢想……
 いや、妄想の中にいる。




 私も、昨日はほとんど変わらない状態だった。

 病院から離れ、家にフラフラとたどり着き、そのままベッドに入ると、ひたすら泣いた。

 まるで赤ん坊のように。
 友達を悼むように。
 無くしたものの大きさを嘆くように。
 何かを与えて欲しいように。
 誰かに助けて欲しいように。

 ひたすら泣き続けていた。

 泣き疲れて寝ることもなく。

 ずっと布団に見守られ、泣いていた。



 しばらくして、無限と思っていた涙が枯れ果てた頃。

 頭が冷静になっている自分に驚いていた。

 そして、千里の言葉を思い出していた。

 千里が、私に残してくれた言葉。
 その一つ一つを噛みしめ、整理していく。

 そうしていくうちに、それは、私の希望となっていた。

 いや、私だけの希望じゃない。

 私達の希望にするんだ。

 退魔部員としての。
 キーパーとしての。

 そして、何より1人の人間としての。

 千里が、私に託してくれた希望を……

 絶対に無駄にはしない。




「あの、露草先輩……」

 言い掛けたところで、突然、魔刻の砂時計が鳴り出した。

 唐突なことに、私の心臓が思わず躍った。

「……もう、耐えられなくなってしまったのね」

 ポツリと呟く露草先輩の言葉。

 理解しかねていると、やはり呆けたままの露草先輩が補足してくれる。

「愛さんの人身御供はね、一時的に閉めるだけなの。だから、6日という間は置かず、いつしか開いてしまうのよ。私が常に部室にいたのは、それが何時来るか分からなかったから……」

「そうなんですね……」

 それを聞いて、実はちょっと安心している自分がいる。

 露草先輩は、ただ、無気力でいたわけじゃなかった。
 ちゃんと退魔部の部長として頑張ってくれていた。
 そして、それを私に話さなかったのは、きっと余計な負担を掛けたくなかったからなのだろう。

 露草先輩は、そういう人だ。

「…………とにかく、行きましょう。私達だけで、やれることをやるしかないわ」

「はい……頑張りましょう、先輩」

 私達は、暗室へ向かった。





 目の前に見える巨大な扉。

 もう何回見ただろうか。
 数えられるほどしか見ていないはずなのに、見飽きているほど見ている気がした。

 近いうちに開くだろう扉。
 それを目の前にして、露草先輩の顔色は決して良くはなかった。

「……まぁ、作戦も何もないわよね。私が前で護方結界を張るから、朝生さんは出来るだけ早くゲートを閉めて」

「それしかないですもんね」

 露草先輩の声色に対して、私の声は明るい。
 それが気に障ったようだった。

「朝生さん、何でそんなに楽観的なの?」

 珍しくトゲトゲしい先輩の言葉。

 無理もないことだ。
 きっと、逆の立場なら同じことを言うかもしれない。

 それでも、私のトーンは変わらない。

「……私は、千里に託されたんです。希望を、そして未来を。だから、下を向いてはいけないんです」

「樫木さんに……?」

「はい。だから、今回は絶対に負けられないんです。いえ、絶対に何とかしてみせます!」

 私の言葉に気圧されたのか、少し退いてしまう露草先輩。

 そんな先輩に、笑ってみせた。
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