KAKA~アカシック・ギフト・ストーリー~

花房こはる

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1.グレートスピリット

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 草原の中で小さな女の子が、地面にいくつかまばらに咲いている白い花を興味津々と見ている。
 辺りは草ばかりの草原だが、遠くには数本の木も見える。
 おそらくここはアメリカのどこか。この少女はネイティブアメリカンの子供のようだ。

 女の子は、花と同じ白い服を着ている。
 肌は褐色で黒い瞳。
 黒い髪が肩を越えたぐらいの長さの女の子だ。
 少し離れたところに女性の大人が数名いてその女の子の様子を見ている。
 そのさらに離れた場所で、1人の女性が男性に支えられながら、今にも泣きそうな顔をしてうつむいている。
 しばらくすると、その男女は名残惜しそうにその場から去って行った。
 女の子は、花に夢中になってそんな様子に全く気付いていないようだった。
 少しして、女の子を見ていた女性の一人が女の子に声をかけた。
「カカ、行きますよ」
 女性の声にカカが顔を上げて辺りを見回す。人を探しているようだ。
「お母さんは?」
 その女性にそうカカが聞く。
 女性は少し考えてから
「あなたのお母さんは、ご用事があって、先に帰られました。カカは、私とこちらへ行きましょう」
 そう言い、カカの手を取る。
「お母さん、後で来る?」
 女性はただニコッと笑うだけで答えなかった。
 何だかよく分からない、と思いながらもとりあえずカカは、その女性に手を引かれて行った。

 カカが連れて行かれた場所は大きな岩を背に木と土をきれいに組み合わせて作られている大きな家の前だった。
「今日からここがあなたの家ですよ」

 行った先は、村の中心をまっすぐ進んだところにある聖なる場所と言われている大きな岩がある所。
 その岩の前に木と土で作られた大きな家があり、そこでは、数名の限られた女性が共に暮らしていた。
 そこの女性たちは、いわゆる「シャーマン」であり、祈り・お告げ・病気の治癒などを行っていた。
 男性は立ち入り禁止で、この地に立ち入ることを禁止されている。
 ここの女性たちは、日々、薬草やハーブを育て、催事の際には自然界に祈りを捧げ、怪我人や病人が出れば治療に当たっていた。

 筆頭にいるのは、かなりの年配の白髪の女性。
 先ほど、カカの手を引いてここまで連れてきた40-50歳くらいの女性は、長い髪を頭の高い位置でくくり、とても厳格そうな印象も感じる。
 他にも20-30歳の女性が3人ほどいて、もう一人、まだ20歳に手前の少女と合わせて、6名がここで共に暮らしている。
 カカも今日からここで暮らし始める。
 先ほど、名残惜しそうに去って行ったのは、カカの両親だ。

 カカは、他の子に比べて早く言葉を覚えてしゃべり出した。
 そしてまた、カカは天気を当てる事ができた。
 小さなカカは、
「もうすぐ、お水がお空から落ちてくるよ」
「いっぱい風が吹くの」
 と、100%の確率で天気を言い当てた。
 何年かに一人、不思議な力を持った子供が生まれる。なぜかそれは女の子に限られていた。
 そのような子が生まれると、それぞれのその者のタイミングで、このシャーマンの家に連れて来られるのだった。
 そして、2歳を過ぎたときにカカにもそのお迎えが来たのだ。

「お母さんは?ねえ?お母さんは?」
 いつまで経っても母が現れないことに不安がつのり、カカは涙目になっている。
 そして、見ている間に大声を上げて泣き始めた。
 女性たちは、特に何をするわけでもなく、ただ、カカを見守っている。
 母親はもう迎えに来ることはない。
 変えることの出来ないこの真実を2歳の小さな女の子は、自分の力で乗りこえないといけない。

 それでもたまらず女性の中でも1番若い少女が、カカのそばに行き抱きしめようとした。
 カカがそれを押しのけようとする。
 それでも少女は、諦めずにカカを抱きしめた。

 ひとしきり泣きじゃくったカカは、いつの間にか泣き疲れて眠っていた。
 少女はカカをそっとベッドに寝かしつけた。
 きっとその少女も、自分自身が初めてこの場所に来たときのことを思い出したのだろうか。

 翌朝、カカが目を覚ますと、見覚えのない部屋の中に自分が居ることに戸惑った。
 またカカが泣きそうになったとき、丁度、昨日の少女が部屋に入ってきた。
「おはよう。お腹空いてない?」
 少女の手には一皿のスープがあった。
 それから何かと、少女はカカの面倒を見てくれた。
 きっと、自分に妹が出来たように感じているのだろうか。

 カカはしばらくの間は、母親を探して泣く日々が続いたが、それも時間と共に無くなっていった。

 カカの面倒を見てくれる少女の名前は、『ラウア』。
 ラウアは、歌がとても上手かった。その歌声を聞いていると誰もが心から安らぎを感じる事が出来る不思議な響きのある歌声を持っていた。
 ラウアがここに来たのは8歳の時、それから10年近くここで暮らしている。
 シャーマンである彼女たちの1日は、空が白み始める頃から始まる。
 まず、大地に祈りを捧げる。
 日によっては身体を清めるために、泉で行水をする。
 そして皆で炊事をし、1日の過程をいただく。
 ここでは、多少の木の実など自然に出来るものは自分たちで収穫をするが、食べ物や衣服などの生活必需品のほとんどは、村の者達が用意してくれる。
 彼女たちは、聖なる存在だからだ。
 彼女たちの仕事は、グレートスピリットと繋がること。

 大地と繋がりを深めるための瞑想。
 植物のつるや鳥の羽や水晶や鉱石などを使って作る魔除け作り。
 また、年に何度か村の中央で祈りを捧げ舞を舞う祈祷も行っている。

 カカがここに来てから数日後、最高齢の女性の所に連れて行かれた。
 彼女は皆からはシーマと呼ばれている。
 カカを連れてきたラウアは、シーマの前で深々と頭を下げた。
 それを見て、カカもまねて頭を下げてみた。
「カカ、よく来たね」
 シーマの声は深みのある、聞くだけでやすらげるような響きがあった。
 シーマの横には、カカをここに手を引いて連れてきた女性が立っている。
 彼女はカリーと言う。

 しばらく、シーマはカカにたわいのない話しをした。そしてしばらくして1番聞きたかった事、本題に入った。
「カカは、天気が分かるのだろう?どういう風に分かるんだい?」
 カカは、どういう風に分かるのかなんて、今まで考えたこともなかった。
 カカが言葉に困っていると、シーマがさらに聞いた。
「声が聞こえるのかい?」
 カカは、首を横に振った。
「では、何となく分かるって事かい?」
 カカは頷いた。
 そう、いつも伝わってくる。感じるのだ。その伝わってきたものを母や周りの大人達に話していたのだった。
 シーマは、大きく息を吐くとシワシワの顔をさらにクシャッとして嬉しそうに笑った。
「この子はもう、グレートスピリットと繋がってるね」

 ここでは皆が優しかった。
 カリーは厳格そうで、たしかにとてもルールを重んじる人だが、それさえ破らなければとても優しい女性だった。
 彼女たちとの日々を過ごしていくうち、カカは、父や母のことをしだいに思い出さなくなっていった。

 それから3年が経ち、カカは、5歳になった。
 その年の春の始まりに年に何度かある村の中心で行う祈祷に初めて参加した。

 広い広場の中央に薪が組み合わされ大きな火柱が上がっていた。
 その火柱の前でシーマが祈祷をあげる。
 その後ろで他のシャーマンたちが舞を舞う。
 カカはまだ舞を舞うことは出来なかったので、シーマの隣で同じように祈っていた。
 しばらくすると祈りの儀式が終わり、シャーマンたちは用意された食事の前に座った。

 その時、ラウアは食い入るようにカカを見つめる二人の男女の視線に気付いた。
 ラウアは、すぐにその二人がカカの両親だと分かった。
 カカもその視線に気付いたのか顔をその二人の方に向ける。
 しかし、全く知らない人を見たかのようにすぐに視線をそらし、ラウアに笑顔を向けた。
 カカはもう両親のことをほとんど覚えていないのだろう。
 ラウアは、自分が8歳の時にこのシャーマンの生活に入ったので、両親のことは覚えている。たくさんの思い出もある。
 ラウアは、カカのことを思うと何とも言えない気持ちになった。

 それから季節が少し過ぎ、夏に入った。
 いつもの年なら夏の前にわずかだが雨の日がある。
 しかし、今年は一度も雨が降らない。
 このままでは、作物が枯れてしまう。
 村人たちは、シーマを頼ってきた。

 一刻後、シーマは、もう水が半分以下になった泉のそばで、祈りを捧げ始めた。
 カカを含め他のシャーマンたちもシーマの後ろで同じように祈りを捧げる。
 どのくらい時が経っただろう。
「あっ」
 と、カカが思わず小さく声を出した。
 あの、いつもの感覚、この先の天気が分かる感覚。
 ーもうすぐ、雨が降るー

 まもなく、空が暗くなり始めポツポツと、雨粒が落ちてきた。
 それはしだいに激しさを増していく。
 人々は、歓喜の声を上げた。

 自分たちの家に戻ったカカは、早速、シーマにたずねた。
「シーマ様、どうやって雨を降らしたの?」
 カカは、この先の天気がどうなるのかは分かるが、自分で天気を変える事なんて、どうやったのかとても不思議に思った。
 シーマは、ニコリと微笑んだ。
「私が雨を降らせたんじゃないよ。私はただ、グレードスピリットにお願いをしただけだよ」
「お願い?」
「そう。私たち人間のお願いなんですが、雨が降らなくて困っています。このままでは作物が枯れて育ちません。てね。後はグレードスピリットの意志におまかせするだけだよ」
 カカは、シーマの言っている意味が分かったような、分からないような気がした。
 ただ一つはっきりと感じたのは、自分もシーマのようにグレートスピリットと話が出来るようになりたい!と言う想いだった。
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