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ギャグで語る! 残念系のススメ
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「あのー……これ、何が始まりますか?」
手元のレジュメを、ペラペラさせながら友人が言う。
「よくぞ聞いてくれたな……今日のお題はーーこれだっ‼︎」
バンッッッッ‼︎
〉〉残 念 系 の ス ス メ〈〈
「えっバカなの?」
ホワイトボードを押えるポーズをとる姿を目にし、友人はそんな愚かなことを聞く。
「バカとはなんだ! こんなにも熱いパトスをほとばしらせているのに、キミが昨日『何がいいの?』って聞いたからだろう!」
「いやだってわかんないし」
今でも鮮明に思い出せる。
深夜1時の、あの、やりとりーー驚愕した。
『残念系って何がいいの?』
ナ ゼ こ の 良 さ が わ か ら な い ⁉︎
いや、違う。きっと友人は知らないのだ。
なら、知ればいいだけだな。
そう、沼に突き落とせばいいだけだ。
そう考えて、深夜にパソコンを起動し、カタカタと作り上げたわけだーーそれがこの資料ッッ‼︎
「そう……キミは『残念系』とはなんたるかを知らないーーだから分からないのだッッッッ‼︎」
「残念系の、なんたるかを」
「そうだ! これを知れば『残念系』を愛でる事ができるようになるし、自分でキャラクターを考える時の幅が広がるぞ‼︎」
「いや別に考えないんだけど」
「考えなくても知識はどこかで役に立つものだ! 知らないのは損だ‼︎」
「それは分かったけど、部屋借りてまでやる事じゃないと思うよ?」
友人の呆れ気味な声が、2人には広すぎる部屋にこだまする。
「でも今はそんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない」
「いや大事だと思うけどね?」
「これはそうーー前哨戦なのだよ」
「いや何の」
「キミを足掛けに……世界に『残念系』の良さを知らしめるという戦のな……‼︎」
そう熱く語り、勢いよくガッツポーズで拳を握りしめる。
「キミを説き伏せられないうちは、世界なんて夢のまた夢さ……」
「スケールデカいなぁ……」
「何を言うんだ‼︎ キミは好きなものを増やす事の有意義さを知らないのかっ⁉︎」
「少なくともこれでは無いなぁ」
「ばっっっか! お前! 考えてみろよっ‼︎」
想いの丈をぶつけるべくバンッッ! と机を叩く。
「どうしよう話聞いてくれない」
「好きな事が増えれば……幸せな気分になるだろう?」
「えーっと、知恵袋知恵袋……」
「幸せな気分になればっ‼︎ 大抵のことは許せるようになるだろ⁉︎」
「あ、あったあった」
「みんなが許し合える世界になればっ! 戦争なんて無くなるじゃないかッッ‼︎ 世界平和ーーそう!」
大きく息を吸い込む。
「これは世界平和を作り出すための前哨戦なんだッッッッ‼︎」
「と、も、だ、ち、が、は、な、し、を、き、い、て、く、れ、ま、せ、ん、まる、ど、う、し、た、ら「スマホを弄るんじゃなーーーーーーーーーい‼︎」」
友人の手から素早くスマホを取り上げる。
友人は「あーまだ途中なのにー」と文句を言う。なんでこの良さを話しているのに、無視するんだ‼︎
「何故私の話を聞かずに知恵袋先生を頼るっ⁉︎」
「知恵袋先生の方が話を聞いてくれるからかなぁ」
「いーから聞きなさい‼︎ この資料寝ずに作ったんだぞ‼︎ 眠いの我慢して話してるんだぞ‼︎」
もー目がしぱしぱしてるのに、この情熱だけで起きていると言っても過言ではない。
「いや寝ようよそこは……」
「というわけで講義を始めるっ‼」
「抗議したいのはこっちだよ……」
「それではレジュメを開いて下さい!」
やっと話を聞く気になったのか、友人はため息をひとつ吐いてレジュメをめくる。
【No.1】
〉〉クズと残念系は違う!〈〈
「……はいせんせー、何が違うんですかー?」
「よく聞いてくれたな生徒1!」
「生徒2も3もいないんですが」
「この2つは根本的に違うのだよ……よく知らないキミみたいな人は、混同しがちだ!」
キメ顔をして、ビッ! っと友人を指差す。
「まずクズについてだが……これは言うまでもないな。みんなが想像する通りさ」
「具体的には?」
「借金まみれなのにパチンコ行ったり、ヒモになったり、暴力で人に言うことを聞かせたり……」
「あー人間のクズ」
「その通りだ……人に頼り、考える事をやめた人間だな」
そっと目を閉じる。
こういう者にはなってはいけない。
「では残念系はというと……普通の人間だ」
「え? それ残念じゃないじゃん」
「その一点だけを見ればな」
友人の頭の上にハテナが並ぶ。
「しかし普通と違うのは……モテることにマイナス影響する何かがあると言うことだッッ‼︎」
格好をつけて、バッ! っとポーズを決める。
「彼らは‼︎ その一点においてだけ! 残念と言われる者たちなのだよっ‼︎」
「男の話なの?」
「男女どっちもです」
「どっちもですか……」
「どっちもイイので、どっちにも含まれる話をしています」
「残念、すきなんだね……ほんとに」
なんとも言えない半笑いで言われた。
当たり前だろう! じゃなきゃこんな事するか‼︎
本来徹夜できない人間なんだぞっ‼︎
「この面白さを理解すれば、キミはワンランクアップするよ」
「なんのランクなのかなぁ残念度かなぁ」
「はい、それでは2ページ目に進みます」
ペラリとページがめくられる。
【No.2】
〉〉顔は美人か普通〈〈
「あ、これ知ってる。『ただしイケメンに限る』ってやつでしょ?」
「レジュメを読んだか⁉︎ 顔は普通以上ならいいんだよ! あと男とは限らん!」
「でもイケメンとか美少女の方がいいんでしょ?」
「そりゃそうだわ! 誰だってそうだわ‼︎」
そんなん言ったら、そもそも『残念系』もといの話だ!
「ていうか、さっき言ったろ⁉︎ モテに関わりがあるって」
「あーモテにマイナスって話か」
「そうだよ! 覚えてんじゃん‼︎」
そう言えばという感じで思い出した友人に、素早く反応を返す。
もうちょっとで鳥頭って言うとこだったぞ!
「つまりこれは、そもそもプラス値がないと下げられないから必要な要素なんだよ‼︎」
「え、じゃモテるってことじゃん」
「そうだよ! だから残念なの! 『これさえなければモテるのに残念』の『残念』なんだよッッッッ‼︎」
渾身の力で訴え、はーっはーっ……肩で息をする。
「とりあえず落ち着け」
そう言って友人がペットボトルを差し出してくる。
「ありがと」
カシュッ! ゴクゴクゴクゴク……
「ぷはぁ! よし! 生き返った! 再開しよう‼︎」
「再開しちゃうのか……休んでもいいと思うけど?」
「いやいや何を言っている。まだ始まったばかりじゃないかはっはっは」
「いっそまぁ分かったし終わりでも……」
「では3ページ目にお進みください」
「デスヨネー」
まったく。なんだかの反応は! 気合が足りんぞ‼︎
そしてまた、ページをめくる。
【No.3】
〉〉何かに夢中になりすぎる〈〈
「何かって?」
「何かは何かだ……人によって違う」
「うーん、それじゃ流石にわかんないなぁ」
頬杖をつきながら、ポンとレジュメを机の上に置く友人。
「諦めんなよ! もっと熱くなれよッッ‼︎」
「いやそっちは熱すぎだからね?」
「そうだな、例を挙げるとするなら……バスケに夢中になりすぎて彼女にフラれたり、1つの魔法にこだわりすぎてそれ以外使えなかったり、研究にこだわりすぎて恋人に捨てられたり……」
「いやに具体的だな」
「最初の以外はネット小説発のだぞ。ちょっと男は思いつかなかったから、バスケ漫画から拝借した」
「読み込みが足りないんじゃない?」
く……っ! 返す言葉もない!
「でも残念な男キャラは女性ウケも狙えるんだぞ! もっと開拓すべきだ‼︎」
「いや別に書かないけど」
「書いたら読むから言ってくれ! もちろん女の子も増やしていいぞ!」
「話を聞け」
「それでは次のページへどうぞ!」
人生何があるか分からないから、そんなに恥ずかしがらなくていいんだぞ!
明日キミが小説書いてても、自分は笑わないからな!
そう思いながら次へ移る。
【No.4】
〉〉何かに囚われすぎる〈〈
「だから何かってなんだよっっ‼︎」
バンッ! と勢いよくレジュメを机に置く友人。
おいおい、行儀悪いぞ。
「何かは何かだ」
「もうそれさっきやったっ‼︎」
「はぁ。具体例をお望みか。キミはもう少し、自分で考えた方がいいぞ?」
「付き合ってやってんのにコイツ……ッ!」
ふー。やれやれだ。
何をそんなに奥歯をギリギリ噛み締めているのか。
頭の固いのは嫌われるぞ。
「まぁそうだな……例えば帰らなきゃいけない事に囚われすぎたり、騎士であることに囚われすぎたり、ネガティブな考えに囚われすぎたりかな」
「またネット小説か⁉︎」
「最後のが違う」
「お前好きならもっとネット小説読めよッッ!!」
熱いお説教を喰らいました。
いやほんとにね。その通りです。
「いや、こっちはさぁ残念の敷居が上がってんの、残念求めすぎて。だから『あ。この程度は残念じゃねーわ』ってなるって言うかさぁ」
「何様だ⁉︎」
「いやいや。個性は飛び抜けてこそ個性というものなのだよ」
噛み付いてくる友人を、しっしっとあしらう。
飛び抜けてなければ、キャラが立たなくなるんだからな。
だからこそ、『残念系』は素晴らしい付加価値なのだ。ぜひ一考して欲しい。
「はいそれじゃー次ー」
そう言って強制的にめくらせる。
【No.5】
〉〉周りが見えなくなる〈〈
「ダメじゃねーーーーーーーかッッ‼︎」
友人の雄叫びのような、心の声が口から漏れ出ている。
「当たり前だろう? 残念なのだから」
「ダメ人間じゃねーかっ‼︎」
「そうとも言う」
「認めんのかい!」
バシッとレジュメを机に投げつけられた。
レジュメが破けちゃうぞ。
まぁそれが『残念系』の真骨頂だからな。
「彼らは『何か』に熱心になりすぎるんだよ。『何か』はさっきの『何か』だよ。それを考えすぎるあまり、周りの人間を巻き込む」
「関わっちゃいけないヤツじゃん‼︎」
「キャラが立ってると言ってくれ」
「でも実際ヤバいんじゃ」
「まぁ場合による」
「否定しないんかいっ‼︎」
今日はツッコミが冴えてるなぁ。
でも正直その『何か』の規模によるからなぁ。
ま、作品で見る上では問題ないさ。
こっちに被害はないからな。
「まぁほら、キャラが薄いより濃いほうがいいだろ」
「周りめっちゃ迷惑……」
「はいはい次~」
と言う事でまたペラリ。
【No.6】
〉〉なんか煽る〈〈
「コイツヤバいヤツなのでは⁉︎」
友人が頭を抱えてそんなことを言う。
今日も元気だな。
「コイツってどいつだ」
「いや、分かんないけど……」
「分からないのなら、問題ないな?」
「問題だわ‼︎」
怒られても困るなぁ。
自分が把握してないんじゃ、こっちは分からんよ。
「まぁ本人は無意識なんだよ。その『何か』を優先させた結果、配慮が欠けてしまうんだ」
「そりゃ怒りたくなるよ……」
「そうとも限らん。怒り以外にーー呆れや諦めになる事があるぞ!」
「良いとこなくないですか……?」
「キャラが立ってて面白いだろう?」
「……。」
では大人しくなったところで次へ。
【No.7】
〉〉なぜか許される〈〈
「え、周りの人の心ひろっ!」
「いやいや、これは本人によるところが多いぞ」
「はい?」
どうも理解していない顔の友人に、心優しくも解説して差し上げよう。
「最初に言ったけれど、彼らは『普通の人』なんだ。ふつーに良い人なんだよ。でも、夢中になりすぎた時は暴走する」
「それが困るのでは」
「けれどそれに有り余る良いところがあるってことさ。まぁ、良い人じゃないときもあるかも知れないが、許せる愛嬌とかがあるんだ」
「それにしても……やっぱり周りがいい人なだけなんじゃ……」
勝手に困惑しだした、思考が固い友人は置いてペラリ。
【No.8】
〉〉とっつきやすい〈〈
「おお、初めて良いところが出た」
なんでそこで驚いてんだよ!
「初めてとは何だ! 全部いいだろう‼︎」
「そう思ってるなら病院行きな……んーでも、どういうこと? 熱中してる人って話しかけ難くない?」
「チッチッチ……そう思ううちは初心者なのだよ」
人差し指をフリフリしながら話す。
おっとそうか、友人は残念系ビギナーだったな。
「何かに熱中しているほど話しかけやすい。何故ならそれについて話せばいいからだ」
「おお……確かに?」
「自分の好きなものなら、すごく話してくれるだろう。もしそれが好きなものでない場合は、その点を避ける話ができるだろう?」
「つまり、話題が振りやすい、と」
「その通りだよ分かってきたじゃないか」
「まぁここだけは同意できるかな……」
うむうむ。納得したようだね。いい調子だよ。
「それに完璧すぎるより、少し欠けていた方が人間味があって良いだろう?」
「それは度合いによるかな」
あ。雲行きが怪しくなってきた。
指摘の雨が降る前に次に行こう。
【No.9】
〉〉全てがギャグになる〈〈
「え? あんな迷惑なので?」
「だからこそだよワトソン君」
「いつからホームズに変わってたんだ……」
ノリの悪いガキは嫌いだよ。同じ歳だけど。
もっとのってこうぜ! このビッグウェーブに‼︎
「人が必死に何かをして、それに振り回されている様は面白いんだよ。空回ってるからな」
「かわいそうじゃないかね……?」
眉を寄せてそう言う友人。
まぁ当事者じゃないからって前提もあるが。
「キミはお笑いを見たことがあるだろう?」
「うん? うん」
「基本お笑いは話が噛み合わないことが前提だ。振り回されて、空回っているのが面白い。それと一緒だよ」
「あー、それなら分かるかも……」
「そうだろうそうだろう。だからここで全ての結論だ……」
両手でバンッ! と机を叩いて言う。
「『残念系』がいるだけでその作品は面白い‼︎
素晴らしいキャラクターなのだよッッッッ‼︎ 」
つまりーー。
「いるだけで個性もギャグも生まれる……
『完 壁 な キ ャ ラ』
なのだッッッッッッッッ‼︎」
ふっ決まったな……!
これでキミもこの良さが理解できただろうっ⁉︎
「あー……なんか分かったかも」
おや素直だ。珍しいこともあったもんだな。
「ふん、これだけ講義してやったんだから当たり前「これ誰かと思ったら目の前にいんじゃん」」
………………は?
「今、なんて……」
「いや、なんか既視感あったんだよねー。納得だわ」
「な、何が……?」
「話聞かないし、顔も整ってるわりにモテないし、振り回されるし?」
「な、なな……」
「いつも面倒くさいけど、なんか面白いし許しちゃうーーあぁ、今の話録音しとけば聞き直したのに」
お前は鬼畜か⁉︎
驚愕で固まっているのに、とどめを刺す。
「レジュメより分かりやすい例が居たわ。うん、良さがわかったよ」
そう言ってレジュメをペラペラしながらこちらを見る友人はーー「ね?」と言いながら……とってもいい笑顔をしていた。
手元のレジュメを、ペラペラさせながら友人が言う。
「よくぞ聞いてくれたな……今日のお題はーーこれだっ‼︎」
バンッッッッ‼︎
〉〉残 念 系 の ス ス メ〈〈
「えっバカなの?」
ホワイトボードを押えるポーズをとる姿を目にし、友人はそんな愚かなことを聞く。
「バカとはなんだ! こんなにも熱いパトスをほとばしらせているのに、キミが昨日『何がいいの?』って聞いたからだろう!」
「いやだってわかんないし」
今でも鮮明に思い出せる。
深夜1時の、あの、やりとりーー驚愕した。
『残念系って何がいいの?』
ナ ゼ こ の 良 さ が わ か ら な い ⁉︎
いや、違う。きっと友人は知らないのだ。
なら、知ればいいだけだな。
そう、沼に突き落とせばいいだけだ。
そう考えて、深夜にパソコンを起動し、カタカタと作り上げたわけだーーそれがこの資料ッッ‼︎
「そう……キミは『残念系』とはなんたるかを知らないーーだから分からないのだッッッッ‼︎」
「残念系の、なんたるかを」
「そうだ! これを知れば『残念系』を愛でる事ができるようになるし、自分でキャラクターを考える時の幅が広がるぞ‼︎」
「いや別に考えないんだけど」
「考えなくても知識はどこかで役に立つものだ! 知らないのは損だ‼︎」
「それは分かったけど、部屋借りてまでやる事じゃないと思うよ?」
友人の呆れ気味な声が、2人には広すぎる部屋にこだまする。
「でも今はそんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない」
「いや大事だと思うけどね?」
「これはそうーー前哨戦なのだよ」
「いや何の」
「キミを足掛けに……世界に『残念系』の良さを知らしめるという戦のな……‼︎」
そう熱く語り、勢いよくガッツポーズで拳を握りしめる。
「キミを説き伏せられないうちは、世界なんて夢のまた夢さ……」
「スケールデカいなぁ……」
「何を言うんだ‼︎ キミは好きなものを増やす事の有意義さを知らないのかっ⁉︎」
「少なくともこれでは無いなぁ」
「ばっっっか! お前! 考えてみろよっ‼︎」
想いの丈をぶつけるべくバンッッ! と机を叩く。
「どうしよう話聞いてくれない」
「好きな事が増えれば……幸せな気分になるだろう?」
「えーっと、知恵袋知恵袋……」
「幸せな気分になればっ‼︎ 大抵のことは許せるようになるだろ⁉︎」
「あ、あったあった」
「みんなが許し合える世界になればっ! 戦争なんて無くなるじゃないかッッ‼︎ 世界平和ーーそう!」
大きく息を吸い込む。
「これは世界平和を作り出すための前哨戦なんだッッッッ‼︎」
「と、も、だ、ち、が、は、な、し、を、き、い、て、く、れ、ま、せ、ん、まる、ど、う、し、た、ら「スマホを弄るんじゃなーーーーーーーーーい‼︎」」
友人の手から素早くスマホを取り上げる。
友人は「あーまだ途中なのにー」と文句を言う。なんでこの良さを話しているのに、無視するんだ‼︎
「何故私の話を聞かずに知恵袋先生を頼るっ⁉︎」
「知恵袋先生の方が話を聞いてくれるからかなぁ」
「いーから聞きなさい‼︎ この資料寝ずに作ったんだぞ‼︎ 眠いの我慢して話してるんだぞ‼︎」
もー目がしぱしぱしてるのに、この情熱だけで起きていると言っても過言ではない。
「いや寝ようよそこは……」
「というわけで講義を始めるっ‼」
「抗議したいのはこっちだよ……」
「それではレジュメを開いて下さい!」
やっと話を聞く気になったのか、友人はため息をひとつ吐いてレジュメをめくる。
【No.1】
〉〉クズと残念系は違う!〈〈
「……はいせんせー、何が違うんですかー?」
「よく聞いてくれたな生徒1!」
「生徒2も3もいないんですが」
「この2つは根本的に違うのだよ……よく知らないキミみたいな人は、混同しがちだ!」
キメ顔をして、ビッ! っと友人を指差す。
「まずクズについてだが……これは言うまでもないな。みんなが想像する通りさ」
「具体的には?」
「借金まみれなのにパチンコ行ったり、ヒモになったり、暴力で人に言うことを聞かせたり……」
「あー人間のクズ」
「その通りだ……人に頼り、考える事をやめた人間だな」
そっと目を閉じる。
こういう者にはなってはいけない。
「では残念系はというと……普通の人間だ」
「え? それ残念じゃないじゃん」
「その一点だけを見ればな」
友人の頭の上にハテナが並ぶ。
「しかし普通と違うのは……モテることにマイナス影響する何かがあると言うことだッッ‼︎」
格好をつけて、バッ! っとポーズを決める。
「彼らは‼︎ その一点においてだけ! 残念と言われる者たちなのだよっ‼︎」
「男の話なの?」
「男女どっちもです」
「どっちもですか……」
「どっちもイイので、どっちにも含まれる話をしています」
「残念、すきなんだね……ほんとに」
なんとも言えない半笑いで言われた。
当たり前だろう! じゃなきゃこんな事するか‼︎
本来徹夜できない人間なんだぞっ‼︎
「この面白さを理解すれば、キミはワンランクアップするよ」
「なんのランクなのかなぁ残念度かなぁ」
「はい、それでは2ページ目に進みます」
ペラリとページがめくられる。
【No.2】
〉〉顔は美人か普通〈〈
「あ、これ知ってる。『ただしイケメンに限る』ってやつでしょ?」
「レジュメを読んだか⁉︎ 顔は普通以上ならいいんだよ! あと男とは限らん!」
「でもイケメンとか美少女の方がいいんでしょ?」
「そりゃそうだわ! 誰だってそうだわ‼︎」
そんなん言ったら、そもそも『残念系』もといの話だ!
「ていうか、さっき言ったろ⁉︎ モテに関わりがあるって」
「あーモテにマイナスって話か」
「そうだよ! 覚えてんじゃん‼︎」
そう言えばという感じで思い出した友人に、素早く反応を返す。
もうちょっとで鳥頭って言うとこだったぞ!
「つまりこれは、そもそもプラス値がないと下げられないから必要な要素なんだよ‼︎」
「え、じゃモテるってことじゃん」
「そうだよ! だから残念なの! 『これさえなければモテるのに残念』の『残念』なんだよッッッッ‼︎」
渾身の力で訴え、はーっはーっ……肩で息をする。
「とりあえず落ち着け」
そう言って友人がペットボトルを差し出してくる。
「ありがと」
カシュッ! ゴクゴクゴクゴク……
「ぷはぁ! よし! 生き返った! 再開しよう‼︎」
「再開しちゃうのか……休んでもいいと思うけど?」
「いやいや何を言っている。まだ始まったばかりじゃないかはっはっは」
「いっそまぁ分かったし終わりでも……」
「では3ページ目にお進みください」
「デスヨネー」
まったく。なんだかの反応は! 気合が足りんぞ‼︎
そしてまた、ページをめくる。
【No.3】
〉〉何かに夢中になりすぎる〈〈
「何かって?」
「何かは何かだ……人によって違う」
「うーん、それじゃ流石にわかんないなぁ」
頬杖をつきながら、ポンとレジュメを机の上に置く友人。
「諦めんなよ! もっと熱くなれよッッ‼︎」
「いやそっちは熱すぎだからね?」
「そうだな、例を挙げるとするなら……バスケに夢中になりすぎて彼女にフラれたり、1つの魔法にこだわりすぎてそれ以外使えなかったり、研究にこだわりすぎて恋人に捨てられたり……」
「いやに具体的だな」
「最初の以外はネット小説発のだぞ。ちょっと男は思いつかなかったから、バスケ漫画から拝借した」
「読み込みが足りないんじゃない?」
く……っ! 返す言葉もない!
「でも残念な男キャラは女性ウケも狙えるんだぞ! もっと開拓すべきだ‼︎」
「いや別に書かないけど」
「書いたら読むから言ってくれ! もちろん女の子も増やしていいぞ!」
「話を聞け」
「それでは次のページへどうぞ!」
人生何があるか分からないから、そんなに恥ずかしがらなくていいんだぞ!
明日キミが小説書いてても、自分は笑わないからな!
そう思いながら次へ移る。
【No.4】
〉〉何かに囚われすぎる〈〈
「だから何かってなんだよっっ‼︎」
バンッ! と勢いよくレジュメを机に置く友人。
おいおい、行儀悪いぞ。
「何かは何かだ」
「もうそれさっきやったっ‼︎」
「はぁ。具体例をお望みか。キミはもう少し、自分で考えた方がいいぞ?」
「付き合ってやってんのにコイツ……ッ!」
ふー。やれやれだ。
何をそんなに奥歯をギリギリ噛み締めているのか。
頭の固いのは嫌われるぞ。
「まぁそうだな……例えば帰らなきゃいけない事に囚われすぎたり、騎士であることに囚われすぎたり、ネガティブな考えに囚われすぎたりかな」
「またネット小説か⁉︎」
「最後のが違う」
「お前好きならもっとネット小説読めよッッ!!」
熱いお説教を喰らいました。
いやほんとにね。その通りです。
「いや、こっちはさぁ残念の敷居が上がってんの、残念求めすぎて。だから『あ。この程度は残念じゃねーわ』ってなるって言うかさぁ」
「何様だ⁉︎」
「いやいや。個性は飛び抜けてこそ個性というものなのだよ」
噛み付いてくる友人を、しっしっとあしらう。
飛び抜けてなければ、キャラが立たなくなるんだからな。
だからこそ、『残念系』は素晴らしい付加価値なのだ。ぜひ一考して欲しい。
「はいそれじゃー次ー」
そう言って強制的にめくらせる。
【No.5】
〉〉周りが見えなくなる〈〈
「ダメじゃねーーーーーーーかッッ‼︎」
友人の雄叫びのような、心の声が口から漏れ出ている。
「当たり前だろう? 残念なのだから」
「ダメ人間じゃねーかっ‼︎」
「そうとも言う」
「認めんのかい!」
バシッとレジュメを机に投げつけられた。
レジュメが破けちゃうぞ。
まぁそれが『残念系』の真骨頂だからな。
「彼らは『何か』に熱心になりすぎるんだよ。『何か』はさっきの『何か』だよ。それを考えすぎるあまり、周りの人間を巻き込む」
「関わっちゃいけないヤツじゃん‼︎」
「キャラが立ってると言ってくれ」
「でも実際ヤバいんじゃ」
「まぁ場合による」
「否定しないんかいっ‼︎」
今日はツッコミが冴えてるなぁ。
でも正直その『何か』の規模によるからなぁ。
ま、作品で見る上では問題ないさ。
こっちに被害はないからな。
「まぁほら、キャラが薄いより濃いほうがいいだろ」
「周りめっちゃ迷惑……」
「はいはい次~」
と言う事でまたペラリ。
【No.6】
〉〉なんか煽る〈〈
「コイツヤバいヤツなのでは⁉︎」
友人が頭を抱えてそんなことを言う。
今日も元気だな。
「コイツってどいつだ」
「いや、分かんないけど……」
「分からないのなら、問題ないな?」
「問題だわ‼︎」
怒られても困るなぁ。
自分が把握してないんじゃ、こっちは分からんよ。
「まぁ本人は無意識なんだよ。その『何か』を優先させた結果、配慮が欠けてしまうんだ」
「そりゃ怒りたくなるよ……」
「そうとも限らん。怒り以外にーー呆れや諦めになる事があるぞ!」
「良いとこなくないですか……?」
「キャラが立ってて面白いだろう?」
「……。」
では大人しくなったところで次へ。
【No.7】
〉〉なぜか許される〈〈
「え、周りの人の心ひろっ!」
「いやいや、これは本人によるところが多いぞ」
「はい?」
どうも理解していない顔の友人に、心優しくも解説して差し上げよう。
「最初に言ったけれど、彼らは『普通の人』なんだ。ふつーに良い人なんだよ。でも、夢中になりすぎた時は暴走する」
「それが困るのでは」
「けれどそれに有り余る良いところがあるってことさ。まぁ、良い人じゃないときもあるかも知れないが、許せる愛嬌とかがあるんだ」
「それにしても……やっぱり周りがいい人なだけなんじゃ……」
勝手に困惑しだした、思考が固い友人は置いてペラリ。
【No.8】
〉〉とっつきやすい〈〈
「おお、初めて良いところが出た」
なんでそこで驚いてんだよ!
「初めてとは何だ! 全部いいだろう‼︎」
「そう思ってるなら病院行きな……んーでも、どういうこと? 熱中してる人って話しかけ難くない?」
「チッチッチ……そう思ううちは初心者なのだよ」
人差し指をフリフリしながら話す。
おっとそうか、友人は残念系ビギナーだったな。
「何かに熱中しているほど話しかけやすい。何故ならそれについて話せばいいからだ」
「おお……確かに?」
「自分の好きなものなら、すごく話してくれるだろう。もしそれが好きなものでない場合は、その点を避ける話ができるだろう?」
「つまり、話題が振りやすい、と」
「その通りだよ分かってきたじゃないか」
「まぁここだけは同意できるかな……」
うむうむ。納得したようだね。いい調子だよ。
「それに完璧すぎるより、少し欠けていた方が人間味があって良いだろう?」
「それは度合いによるかな」
あ。雲行きが怪しくなってきた。
指摘の雨が降る前に次に行こう。
【No.9】
〉〉全てがギャグになる〈〈
「え? あんな迷惑なので?」
「だからこそだよワトソン君」
「いつからホームズに変わってたんだ……」
ノリの悪いガキは嫌いだよ。同じ歳だけど。
もっとのってこうぜ! このビッグウェーブに‼︎
「人が必死に何かをして、それに振り回されている様は面白いんだよ。空回ってるからな」
「かわいそうじゃないかね……?」
眉を寄せてそう言う友人。
まぁ当事者じゃないからって前提もあるが。
「キミはお笑いを見たことがあるだろう?」
「うん? うん」
「基本お笑いは話が噛み合わないことが前提だ。振り回されて、空回っているのが面白い。それと一緒だよ」
「あー、それなら分かるかも……」
「そうだろうそうだろう。だからここで全ての結論だ……」
両手でバンッ! と机を叩いて言う。
「『残念系』がいるだけでその作品は面白い‼︎
素晴らしいキャラクターなのだよッッッッ‼︎ 」
つまりーー。
「いるだけで個性もギャグも生まれる……
『完 壁 な キ ャ ラ』
なのだッッッッッッッッ‼︎」
ふっ決まったな……!
これでキミもこの良さが理解できただろうっ⁉︎
「あー……なんか分かったかも」
おや素直だ。珍しいこともあったもんだな。
「ふん、これだけ講義してやったんだから当たり前「これ誰かと思ったら目の前にいんじゃん」」
………………は?
「今、なんて……」
「いや、なんか既視感あったんだよねー。納得だわ」
「な、何が……?」
「話聞かないし、顔も整ってるわりにモテないし、振り回されるし?」
「な、なな……」
「いつも面倒くさいけど、なんか面白いし許しちゃうーーあぁ、今の話録音しとけば聞き直したのに」
お前は鬼畜か⁉︎
驚愕で固まっているのに、とどめを刺す。
「レジュメより分かりやすい例が居たわ。うん、良さがわかったよ」
そう言ってレジュメをペラペラしながらこちらを見る友人はーー「ね?」と言いながら……とってもいい笑顔をしていた。
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