半魔転生―異世界は思いの外厳しく―

狐山犬太

文字の大きさ
3 / 53
第一章 異世界にて編

第二話 「出だし不調」

しおりを挟む
 あっという間に時は過ぎ、俺は三歳になった。
 髪色は母親譲りのサラサラした黒髪に青の瞳、パーツは父親に似て今からでも成長すれば男前になることが予想出来る。
 そして、額には左右から生える一センチほどの角。
 やはりハーフとして生まれた以上、父グウェスの特徴も出てきている。

 すでに言葉も話せるし、歩くことも出来る。
 二歳を超えたあたりから、俺の行動範囲はグッと広まった。
 両親から話を聞き、文字を習い、違和感がない程度に会話をして情報収集をする。

 正直、全く新しい言語を一から覚えるのはとても大変なのでは? と不安に駆られていたが、転生して脳もスッキリリセットされたからか、はたまたそういう仕様に生まれ変わったのかは不明だが、一年もかければ十分に覚えることは可能だった。

 問題は会話だった。
 両親に違和感を覚えさせることなく、あくまでも幼児として振る舞って会話をする。
 これが大変だった。
 なぜそんな演技をって?

『すいません母さん。この本に書かれていることについてなのですが、イマイチ理解が及ばなくて……詳しく解説して頂けないでしょうか?』

 こんな聞き方をする三歳児がどこにいる。
 俺が親でも不気味に感じる。
 転生した以上、一番に頼れる身近な人物は両親だ。
 その二人に不審感を持たれてしまうことは避けたい。
 なので、あくまでも幼児として接し、遠回りになるが徐々に情報を聞き出すしかなかった。

 だが丸々三年間を情報収集に充てられたのは大きかった。
 家にこの世界についての伝記や歴史について記された本があったのも幸いした。

 ・時代風景は中世ヨーロッパ風。よくある転生ものの世界観だな。
 現代日本で過ごした俺には不便に感じられたが。
 ・この世界はヴァダル大陸という大きな一つの大陸と、その北端に位置する小さな島々からなる。
 ヴァダル大陸の大きさは、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸を合わせたほどの長大さを誇る。
 このヴァダル大陸を包むようにして、外縁に海が広がっている。
 ・二十年前に起こった『人魔大戦』により大陸を二つに分けあっている。
 東側が人族、西側が魔族だ。
 大戦は十年前に終戦しており、現在は和平を結ぶ形。貿易などの交流はあるようだ。
 しかし、一部地域では互いに迫害が続いている。
 ・人間は人族と呼ばれる。
 人族側の国は主にロデナス王国とアトラ王国の二国が統治している。
 ・魔族側の国は常に小国同士が覇権争いをしており、終戦後も一定の大きな国は定まっていない。
 大戦の時点では統一されていた?
 ・現在は迫害の問題もあり、許可なく国境を超えることは双方禁じられている。
 逆を言えば、許可さえあれば国境を渡ることは可能なようだ。
 ・魔術が存在する。
 グウェスが使っていたのも魔術だという。
 魔術の行使には、体に巡る魔力を使い、大気中の魔素に干渉して、現実に起こしたい事象を引き起こすのだという。

 と、これらの他にも様々な事がわかった。
 とりあえず、世界観がわかったことと、魔術の存在がハッキリと証明されたことはありがたい。
 まだまだ俺は幼い。
 これからもっと理解を深めればいいさ。

 ----

 さらに歳月は過ぎ、俺は五歳になった。

「ねぇ父さん。俺も魔術を使ってみたい!」
「…………」

 ある昼下がり、庭で農作業をしようとしていた父を呼び止め、懇願する。
 明らかに渋そうな表情だ。
 そんなに嫌なのだろうか?

「ライル。まだお前には早い」
「どうして?」
「魔術ってのは危ないんだ。簡単にいろんなことが出来るが、うまく使えないと危ない目にあう」
「父さんが教えてくれれば大丈夫でしょ?」
「ウッ……」

 ニコッと会心の笑みを浮かべる。
 たじろぐグウェス。
 ここ数年でグウェスが意外にも子煩悩だということは判明している。
 汚いが、愛息子の会心スマイルで瞬殺させてもらおう。

「ハァ……少しだけだぞ?」
「ヤッター!ありがとう!」
「あら、どうしたのライル?なにか良いことでもあったの?」

 庭の反対側でガーデニングをしていたサラがこちらに近寄って来ていた。

「あ、あぁ。ライルが魔術を使いたいというからな。少しだけ教えてやろうかと思って」
「そう……」

 グウェスの返答を聞いたサラは、どこか悲しげな表情だ。

「ねぇ、ライル。お父さんの言う事をよく聞いて、気を付けてね?」
「? うん、わかったよ!」

 しゃがんで頭を撫でながらサラが言う。
 どうしたのだろうか、魔術を習うと聞いてからのサラの様子が少し変だ。

 魔術の練習は家から少し離れた空き地で行われることになった。
 道中で、俺はグウェスにいくつか質問をしたがあまり実のある返事は得られなかった。
 グウェスは心ここにあらずといった様子だ。
 到着してすぐ、グウェスはこう言った。

「ライル、魔力を感じたことはあるか?」

 ある。
 魔術という存在を知ってから自分でも使おうとした時の事だ。 
 使い方もわからなかったが、ドラゴン◯ールの様に力を溜め込もうとしたときだ。
 風が体を包むような、はたまたシャワーを浴びた時のように雫が肌を這うような、そんな感覚だ。
 その時は何も起こらず失敗に終わってしまったが、謎の疲労感に襲われたのは覚えている。
 それからは将来魔術を使う時のため、日々こっそりと謎の修行を続けている。

「うん!ある!なんかね、体をこう、ブワーッて風が包んでるみたいなの!」
「そうか……なら話は早いな。今からその、ブワーッてできるか?」
「? うん!」

 促されるまま魔力を高める。
 全身を風のようなものが包む感覚。

「よし。もういいぞ」

 フッと力を抜いてグウェスを見る。
 見つめ返すその目は、どこか寂しさを帯びている。

「ライルは才能があるな。すごい魔力量だ。これならすぐに魔術が使えるぞ」

 ポンポンと頭を撫でられる。
 その手はほんの少し、震えていた。

「いいか? 魔術を使うには、まずは大気中の魔素に干渉して~……あー、その、魔素っていうのはだな……」

 グウェスが子どもにもわかるように言葉を選んでくれているのが伝わってくる。
 ぶっちゃけ、中身はアラサーサラリーマンなのだから気にせず続けてほしいが。

「魔素っていうのは、空気の中にある魔術を使うために必要な力を持った粉のことだ。この魔素は、魔力を目に通せば見えるようになるんだ。魔術を使うには、自分の魔力を使ってこの魔素に触れる。そして、自分が起こしたい現象をイメージして、現実に呼び込む」

 グウェスはそういって目を閉じ、手を水平にかかげて自身の前方にある岩へと向ける。

岩の槍ストーンランス

 グウェスが呟くと同時に、目前の岩の真下から、槍のように尖った岩が勢いよく突き出した。
 それは元からあった岩を粉々に砕いた後に、まるで最初からそこにあったかのようにそびえ立っている。

「すご……」

 感嘆の声をあげる。
 家の中で普段から目にしているものとは大違いだ。

「いいかライル。これが魔術だ。父さんが普段から家の中で使っているのは、あくまでも魔術の応用であって、正しい魔術ではない。魔術とは戦うために作り出されたものだ。決して安易な考えで使ってはならない。わかったな?」
「大丈夫だよ! それよりも、早く俺も使ってみていい!?」

 グウェスはハァッと一息ついて頷いた。
 もう我慢できなかった。
 早く、早く魔術を使いたい。
 待ち望んだファンタジーだ。

 グウェスが説明した通り魔力を練りあげ、瞳に集中させる。
 視界が徐々に魔力で満たされ、段々と見えていなかったものが映る。
 魔素は小さく黄色い光を放って見えた。
 視界の中で色が濃い場所と薄い場所がある。
 恐らくは密度の問題だろうか。
 とりあえず、少し離れた色の濃い場所に向かって手を向けて言い放つ。

岩の槍ストーンランス!!」

 勢いよく岩の槍が突き出る。
 ことはなかった。
 何も起きない。

「あ、あれ? えと、岩の槍ストーンランス岩の槍ストーンランス!!」

 何度唱えても何も起きない。
 それどころか唱える度に、全身を疲労感が襲う。

「ライル、もういい」

 ポンと頭に手を置かれる。
 グウェスは少し安心した顔をしてこちらを見ている。

「やっぱり少し早かったな。また練習しに来よう」

 グウェスはそう言うと俺のことを抱き上げて肩車する。
 正直、疲れた今の俺にとってはありがたかった。
 額からは汗も垂れ落ちてくる。

 悔しい。
 俺はこの世界にきて、ファンタジーのような魔術に触れて、自分もすぐに使えるものだと思っていた。
 漫画やアニメの主人公のように、自分はどこか特別だと勝手に思い込んでいたのだ。
 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。

 ----

 その日の夜、夕食を食べ終えて自室からトイレに行く途中で両親の寝室から話し声が聞こえてきた。
 どうやら俺のことのようだ。

「ライルはまだ魔術は使えなかったよ。少し、意地悪な教え方だったけどな」
「そう、それは……よかったのかしらね」
「わからない。だが、幼いあの子にはまだ早すぎると俺は思う。実際ライルの魔力量は異常だ。現時点でB級の魔術師レベルだろう。そんなあの子が魔術を使えたらどうなる? きっと戦いか、危険な冒険に出るだろう」
「そんな魔力量を? やっぱり、あなたの子なのね。魔族のあなたとの子どもだもの、覚悟はしていたわ……」

 なるほど、両親は俺に魔術を使えて欲しくないようだ。
 理由は恐らく俺が半魔族として持って生まれた素質と、その力による危険に巻き込まれることを危惧してのことだろう。

 気持ちは分からなくもない。
 自身の子どもが危険に巻き込まれることを、誰が望む?
 そんな両親の想いはよそに、気になった部分がある。

『ライルはまだ魔術は使えなかったよ。少し、意地悪な教え方だったけどな』

 グウェスは始めから俺に魔術を教える気はなかった?
 いや、ならば断ることは出来たはず。
 ようは教えはするが最良の教え方ではなく、それでマスター出来てしまえばその時は、という考えだったのだろう。

 面白い、やってやるさ。
 俺は必ず魔術を使いこなしてみせる。
 でなければ、転生した意味は無いのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

処理中です...