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第13話 メリエス様、魔王みたいなことを言う

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ともあれ、疑いが晴れ俺は自由の身となった。


マリーへの遺恨はこれからもずっと続くだろうが、俺はそれを表に出すほど子供ではないので全く問題はないだろう。多分な。


「ふっ、勇者共め。私の力に恐れたか」


変なテンションになっているメリエス様も可愛いのでプラマイ0と考えよう。


「さっきからメリエス様、勇者が勇者がって仰っていますけどまさか勇者のファンか何かですか?」


と裏切者——じゃなかったマリーがそんな事を言ってきた。

当たり前だが、この世界でも勇者は基本的に魔王とは敵対関係にある。

つまり勇者はメリエス様にとってみれば敵以外の何物でもないのだ。

案の定メリエス様はフンと鼻を鳴らすとマリーに宣言した。


「ファン? とんでもない。やつは私の宿命のライバルにして最大の敵じゃ」


冒険者が消えてから威勢が良くなったメリエス様。

なんか今まで幾度も死闘を繰り返してきたような物言いだが、メリエス様にとって勇者とは一回も会った事もなければ名を聞いただけでぷるぷるモードに移行するようなそんな相手である。


「なんかメリエス様、魔王みたいな事言いますね」


みたいなではなくメリエス様は正真正銘の魔王である。

どうせ今この場で言っても信じなさそうだし、また騒ぎになっても面倒なのだし今はまだ言わないが。


「そんな事よりもお前に話がある」


「なんでしょう?」


「ここではまずいな。ちょっと移動するぞ?」


そう言って俺はメリエス様とマリーを路地裏へと誘い込む。

別に如何わしい事をするためではない。

あ、いや、メリエス様が望むならやぶさかではないが、まぁとにかく俺の今の目的はそうではない。

そして俺は魔力探知で周囲に誰もいないのを確認してから、ちょうど3人を包み込むくらいの防音魔法を展開してからマリーに話を切り出した。


「これくらいで充分か。さて、マリー、さっきも言ったが今日お前に頼みがあってここまで来たんだ」


そうして俺がマリーに話をしようとした所に横やりが入る。


「おい、まさかこの娘を四天王に迎えるのではあるまいな?」


横やりを入れてきたのはメリエス様だった。

メリエス様はそう言うと、吟味するような視線でマリーの周囲をクルクルと回った。


「うーむ、兄上より強いようには見えんがのう。じゃが偽装魔法はなかなかじゃな。どう見ても人間にしか見えん」


それはそうでしょう。だってマリーは人間だもの。

メリエス様は未だに人間界に隠れ住む強大な魔人を四天王に勧誘しに来たと勘違いしているようだが、俺の目的は最初からB級冒険者マリーを四天王に勧誘する事なのだ。


「やっぱりメリエス様、魔王みたいなこと言いますね」


互いにトンチンカンな事を言い合うメリエス様とマリー。

このままどちらが先に気付くか観察するのも面白そうだが、あまり時間もないことだし、ネタバラシすることにした。


「メリエス様、マリーは人間です。メリエス様は聞いていなかったかもしれませんが先程言った通り冒険者協会ベーンヘルク支部所属のB級冒険者です」


俺がそう言うと「はぁ?」というメリエス様の声が聞こえた気がしたが、ネタバラシはまだ終わっていないので今度はマリーの方を向いてネタバラシを続ける。


「マリー、メリエス様は正真正銘の魔王だ。今日はお前を四天王へ勧誘する為にここに来た」


「はぁ? 何を言っているのですか? 師匠」


またもマリーは死んだゴブリンのような目で俺を見てきた。

こいつのこの目は本当に信じていない時の目だ。

ホントこいつ俺の言う事信じないな。

真実を言っているだけだというのに2人共俺の言う事を冗談か何かだと思っているようである。


(まぁメリエス様はどうとでもなりそうだからまずマリーの攻略からだな)


「マリーよ、そもそもなんだが、お前は俺の事を何だと思っている?」


「えっ? 隠居した元A級冒険者ですよね?」


「違うぞ」


そんなことは一度も言っていない。

ていうか俺はマリーに一言も「僕は人間です」と自己紹介したこともないのだ。


「マリー、人を自分の常識に当てはめるのはお前の悪い癖だ」


「じゃあ師匠はいったい何者なんですか? 何度聞いても教えてくれなかったではありませんか?」


いや、だって知り合って間もない冒険者に「魔人です」なんて言ったら絶対斬りかかってくるじゃん?

とはいえ、マリーを魔王軍四天王に勧誘しなければならないのだ。

それにマリーとは知り合ってからそれなりに時間も立っているし、飯をおごってやったりもした。

今ならば俺の正体を明かすこともできるだろう。
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