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静寂の灯火
「引き金と記憶」
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銃口が、ぶれていた。
「手を上げろ、今すぐに!」
雨が降っていた。いや、土砂降りだった。
廃工場の天井からしずくが漏れ、冷たい水がスーツの襟を伝う。
視界が滲む。手が濡れてるのか、汗なのか分からない。
犯人は、少女を盾に取っていた。
血が、彼女の白い服を赤く染めていた。
犯人の右手にはナイフ。左手で少女の首元を押さえつけてる。
「動いたら、この子がどうなるか分かってんだろ?」
ニヤついた声が耳を打った。
こっちは拳銃一丁。援護はまだ来ない。時間はない。
心臓が跳ねる。けど、俺の指は動かない。
トリガーの上に指を乗せたまま、硬直してる。
──撃て。
──今なら、まだ間に合う。
狙いはつけてある。
でも、少女が動いたら?犯人が反応したら?
……違う。
もし、俺の弾が外れたら──
「引けよ、“軍人”さんよ。正義の味方なんだろ?」
あの時、全ての音が遠のいた。
雨の音も、少女のすすり泣きも、犯人の声も、
全部、耳の奥で濁っていった。
撃てなかった。
引き金は、重すぎた。
一秒。いや、もっと短い時間だった。
犯人は背を向けて逃げた。
少女がへたり込み、ナイフが転がる音だけが残った。
俺はその場から動けなかった。
後日、犯人が別の事件を起こしたと知らされたとき、胃の奥がひっくり返るような感覚に襲われた。
被害者は二人。俺と同年代の男と女。
ニュースでは「逃亡犯の再犯」とだけ語られた。
俺の判断一つで、二人は生きてたかもしれない。
あの瞬間が、何度も、夢に出てくる。
今の俺が撃つのは、そのためだ。
迷わないように、躊躇しないように、完璧にするために。
誰も死なせないために。
だから今日も引き金を引く。
目の前に標的がなくても、
俺は何度でも、あの「一秒」を撃ち抜く練習をする。
「手を上げろ、今すぐに!」
雨が降っていた。いや、土砂降りだった。
廃工場の天井からしずくが漏れ、冷たい水がスーツの襟を伝う。
視界が滲む。手が濡れてるのか、汗なのか分からない。
犯人は、少女を盾に取っていた。
血が、彼女の白い服を赤く染めていた。
犯人の右手にはナイフ。左手で少女の首元を押さえつけてる。
「動いたら、この子がどうなるか分かってんだろ?」
ニヤついた声が耳を打った。
こっちは拳銃一丁。援護はまだ来ない。時間はない。
心臓が跳ねる。けど、俺の指は動かない。
トリガーの上に指を乗せたまま、硬直してる。
──撃て。
──今なら、まだ間に合う。
狙いはつけてある。
でも、少女が動いたら?犯人が反応したら?
……違う。
もし、俺の弾が外れたら──
「引けよ、“軍人”さんよ。正義の味方なんだろ?」
あの時、全ての音が遠のいた。
雨の音も、少女のすすり泣きも、犯人の声も、
全部、耳の奥で濁っていった。
撃てなかった。
引き金は、重すぎた。
一秒。いや、もっと短い時間だった。
犯人は背を向けて逃げた。
少女がへたり込み、ナイフが転がる音だけが残った。
俺はその場から動けなかった。
後日、犯人が別の事件を起こしたと知らされたとき、胃の奥がひっくり返るような感覚に襲われた。
被害者は二人。俺と同年代の男と女。
ニュースでは「逃亡犯の再犯」とだけ語られた。
俺の判断一つで、二人は生きてたかもしれない。
あの瞬間が、何度も、夢に出てくる。
今の俺が撃つのは、そのためだ。
迷わないように、躊躇しないように、完璧にするために。
誰も死なせないために。
だから今日も引き金を引く。
目の前に標的がなくても、
俺は何度でも、あの「一秒」を撃ち抜く練習をする。
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