灰に堕ちるその日まで

影の輪郭

沈黙の夜

任務を終えて、2人は公安本部の仮眠室の一室にいた。

部屋には、きちんと整えられた布団が二つと、無機質な机だけ。
壁際の窓には薄いカーテンがかかり、外から差し込む街灯の光が、かすかに揺れていた。

蓮は淡々と銃の手入れを始めていた。
スライドを布で丁寧に拭い、マガジンを外して中身を確認する。
その手つきは正確で、無駄がない。

一方の鴉は、布団の上に仰向けになり、天井を見つめていた。
スマホで音楽をかけようとするが、やめてスリープボタンを押す。
代わりに枕を抱き込んで、ゆっくり寝返りを打った。

テレビもラジオもない。
ただ、エアコンの古びたモーター音と、蓮が金属を拭う小さな音だけが、部屋に広がっている。

「……」

二人は何も話さなかった。

気まずさではない。
気を遣っているわけでもない。
ただ、言葉が必要な空気ではなかった。
まだ、互いにどう距離を取ればいいのか、わからないまま。

蓮は銃の手入れを終え、布団の端に腰を下ろす。
鴉の方は見ない。ただ、そこに気配があることだけを感じていた。

鴉は目を閉じたまま、静かに息を吐く。

蓮も黙って、布団に横たわった。

沈黙の夜。
同じ空間にいながら、心はまだ遠い――そんな夜だった。