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沈黙の檻
湾岸エリア・32号倉庫付近/深夜0時半
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ひび割れたコンクリートの地面を、足音が吸い込まれるように消えていく。月明かりすら届かない裏路地。廃材の山を抜けた先に、32号倉庫が黒く沈んでいた。
蓮はしゃがみこみ、赤外線ゴーグルを覗く。
「護衛、4人。表の警備が薄い。裏手に回す気か」
「もしくは自信アリってやつかもな」
隣で鴉が口笛まじりにしゃがむ。夜風に、軍用の黒コートがわずかに揺れた。
「真面目にやれ」
「だって久々の潜入任務だろ?地味に好きなんだよ、こういうの。……あと、お前と話せるの、こういう時だけだし?」
「黙れ」
「怖ッ」
蓮は無線を耳に当てながら、建物の構造を確認する。鉄製の外壁。窓はすべて溶接されており、出入り口は正面と裏口のみ。だが――
「ここが排水口か。地下につながってる。通気ダクトも併設されているな」
「じゃあ、ここが“穴”ってわけだな」
鴉は懐からワイヤーカメラを取り出し、排水口に滑り込ませる。ゴーグルに映るのは、地下に続く古びた階段。数メートル下、奥にライトのようなものが見える。
「反応……っと、いた。人影3。鉄格子の向こうにベッド。……これ、子どもだな。動きが小さすぎる」
蓮の目が鋭くなる。
「囮の可能性もある。気を抜くな」
「わーってるって」
鴉は映像を保存し、装備を戻すと、ふと蓮の横顔を見た。
「なあ、蓮。今のあんた、ちょっと“公安の顔”になってたぜ?」
「そうでなきゃ、来た意味がない」
「……だな」
2人は立ち上がり、排水口の位置を記録すると、物陰に身をひそめた。
「突入は2時。タイミングずらせば、警備のシフトが重なる。あと1時間……様子を見るか?」
鴉がふっと笑い、ジャケットのポケットから飴を取り出す。
「じゃ、作戦開始まで、静かにおやつタイムってことで」
「ふざけるな」
「はいはい、お行儀よくしまーす」
夜の闇の中、ただ1つの光のように、2人の呼吸が重なっていった。
蓮はしゃがみこみ、赤外線ゴーグルを覗く。
「護衛、4人。表の警備が薄い。裏手に回す気か」
「もしくは自信アリってやつかもな」
隣で鴉が口笛まじりにしゃがむ。夜風に、軍用の黒コートがわずかに揺れた。
「真面目にやれ」
「だって久々の潜入任務だろ?地味に好きなんだよ、こういうの。……あと、お前と話せるの、こういう時だけだし?」
「黙れ」
「怖ッ」
蓮は無線を耳に当てながら、建物の構造を確認する。鉄製の外壁。窓はすべて溶接されており、出入り口は正面と裏口のみ。だが――
「ここが排水口か。地下につながってる。通気ダクトも併設されているな」
「じゃあ、ここが“穴”ってわけだな」
鴉は懐からワイヤーカメラを取り出し、排水口に滑り込ませる。ゴーグルに映るのは、地下に続く古びた階段。数メートル下、奥にライトのようなものが見える。
「反応……っと、いた。人影3。鉄格子の向こうにベッド。……これ、子どもだな。動きが小さすぎる」
蓮の目が鋭くなる。
「囮の可能性もある。気を抜くな」
「わーってるって」
鴉は映像を保存し、装備を戻すと、ふと蓮の横顔を見た。
「なあ、蓮。今のあんた、ちょっと“公安の顔”になってたぜ?」
「そうでなきゃ、来た意味がない」
「……だな」
2人は立ち上がり、排水口の位置を記録すると、物陰に身をひそめた。
「突入は2時。タイミングずらせば、警備のシフトが重なる。あと1時間……様子を見るか?」
鴉がふっと笑い、ジャケットのポケットから飴を取り出す。
「じゃ、作戦開始まで、静かにおやつタイムってことで」
「ふざけるな」
「はいはい、お行儀よくしまーす」
夜の闇の中、ただ1つの光のように、2人の呼吸が重なっていった。
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