灰に堕ちるその日まで

静寂にしのぶ影

観る者と動く者

公安本部の資料室。
静寂の中、鴉は複数の端末と書類を前に座っていた。
蓮から受け取った資料の一部はすでにスキャン済み。今は、ユリが持っていた資料の一部とそこに散りばめられた断片情報の“重なり”を拾い上げている最中だった。

「やっぱりな……あの女が言っていたように、不自然な入出金記録が、倉庫地帯と一致してる」

彼は無言で指を動かし、地図を数点拡大。
セキュリティログ、定期点検の抜け、配送記録の時刻ズレ——
パズルのような情報が、ある一点を示していた。

『……で、鴉。どうだ？』

耳元の通信機から、蓮の声。少し息が乱れている。すでに現地に入っているようだ。

「南倉庫17番。そこが本命だ」

『了解。中に入っていいか？』

「待て。入り口の監視カメラは”オフ”になってるのに、センサーのログは生きてる。誰かが出入りしてるはずだ」

『罠ってことか』

「かもな。だが、やらなきゃ見えてこねぇ。……気をつけろよ、蓮」

通信の向こうで、蓮の足音が止まる。

『……ああ。』

数秒の沈黙ののち、彼は低く息を吐き、再び走り出す。

鴉は端末越しに、わずかな電磁ノイズの乱れを検知する。
警告も兼ねて、静かに呟く。

「——まだ、誰か“見てる”気配がある」