灰に堕ちるその日まで

静寂にしのぶ影

真壁の陰謀

立体駐車場の奥——湿った空気とひんやりした空間に、鴉の足音だけが響いていた。
蓮とは別行動。情報の裏を取りに来ただけのはずだった。なのに——

「……完全に張られてたか」

低く呟いた直後、鈍い金属音とともに背後から風を切る気配。
身を低くしてかわすも、刃先が肩口をかすめ、シャツを裂いた。

「ちっ……」

痛みは走ったが、致命傷ではない。
すぐに周囲を探る。少なくとも2人、いや——3人か。

無言のまま走る足音。視界を断つように配置された車体。
追い詰められるには十分な地の利。

だが——

「甘い」

鴉はポケットから投げナイフを抜き、反射的に照明の根本へ放つ。
小さな火花とともに場内が一瞬、真っ暗に沈んだ。

その隙に身をひるがえし、駐車中の車の影へ滑り込む。
足音を頼りに敵の位置を予測し、一人ずつ距離を詰め、制圧していく。

息を殺し、影に紛れる技術と、機転。
数分後、荒れた呼吸の中でようやく静寂が戻る。

「……蓮がいたら、もうちょい楽だったかもな」

血の滲んだ肩を押さえながら、独りごつ。

「でもまあ、独りでも充分って、証明にはなったか」

顔をしかめながらも、どこか余裕のある笑みを浮かべると、鴉は闇の中に姿を消した。