灰に堕ちるその日まで

静寂にしのぶ影

沈黙の温度

場面は、人気のない裏路地。
片付いたばかりの現場に、鴉は壁にもたれて座り込んでいた。肩に巻いた簡易包帯から、血がじんわりと滲んでいる。

沈黙の中、鴉がようやく息を整えたそのときだった。

——コツン。

背後の路地の奥。小さな小石を踏む音が響く。

鴉が、わずかに表情を引き締めた。

「……一人、残ってたか」

次の瞬間、鋭い銃声が夜を裂いた。

パァン。

その男はよろめき、音もなく地面に崩れ落ちる。
銃を構えたまま、蓮が現れた。

荒く息をつきながら駆け寄ってきた蓮は、鴉の姿を目にするなり声を荒げた。

「……何やってんだよ、なんで一人で……！」

「別に。たまたま油断しただけだ」

「そういう問題じゃないだろ……！」

そう言いながら、蓮はしゃがみこみ、乱暴な手つきで鴉の包帯を確認する。
鴉は少しだけ顔をしかめつつも、苦笑した。

「大げさだな。かすり傷だよ。お前心配しすぎじゃねぇの？」

「心配するに決まってんだろ……!」

蓮の声には怒りと焦り、そしてほんの少し、震えが混じっていた。

一瞬、風が通り抜ける。

蓮は何も言わずに、顔を上げた鴉の襟を掴むようにして、ふいに顔を近づけた。
迷いは、なかった。
ただ静かに、無言で顔を寄せる。

唇が、触れた。

鴉はその目を見つめ、静かに口を開いた。

「……悪かった。ありがとう、来てくれて」

その言葉に、蓮は少しだけ顔をそむけた。

「別に……怒ってるわけじゃない。ただ、お前が……いなくなるのは……」

一瞬の静寂。
鴉の唇が、わずかに緩んだ。

「……そうか」

風が通り抜ける路地の中で、ふたりはしばし、ただ黙って並んでいた。
蓮の横顔にはまだ怒りが残っていたが、その手はしっかりと鴉の肩を支えていた。