灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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空白を超えて

灯りの中で

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薄暗い部屋の中、窓の隙間から静かな月光が差し込んでいた。
鴉はベッドに横たわったまま、黙って天井を見つめている。蓮が戻ってきた気配に、わずかに目を細めた。

「まだ痛むか」

蓮が静かに声をかける。
鴉はわずかに眉を寄せたまま、頭を横に振る。

「痛みなんかより……お前の目が、まっすぐすぎて、厄介だ」

「……それは、お互い様だろ」

蓮は鴉の隣に腰を下ろした。
ふたりの間には、かつての敵意も、緊張も、言い訳もなかった。ただ、押し殺した感情と、残された体温だけが残っていた。

「……今だけでいい。何も聞かない。何も言わなくていいから」

蓮の囁きに、鴉は何も言わず、ゆっくりと彼の首元に手を伸ばした。
触れた指先が熱を帯び、沈黙のまま、唇が重なる。

優しさよりも、渇望だった。
確かめるように、絡み合う指と指。
蓮の手が鴉の頬を撫で、鴉の指が蓮のシャツの裾を掴んだ。

乱れた呼吸が静けさを破り、ベッドの軋む音が夜に溶ける。
言葉にできなかった想いが、肌と肌の間で交わされていく。

「……お前以外は全部、失ってもいいって思った。お前だけは、俺の手から離れないでくれって」

蓮の声が、震えていた。
鴉は一瞬、言葉を飲み込んだまま、蓮の胸に額を押しつけた。

「俺は……もう、何も信じてない。でも、お前のことだけは……」

蓮がその言葉の続きを聞く前に、鴉は再び唇を重ねた。

「蓮。ひとつだけ、言っておく……俺の、本当の名だ」

「……え?」

「……誰にも言ったことはなかった。“鴉”はただのコードネームだ。けど、もう隠す理由もねぇ」

「──澪って言うんだ。天城澪。」

蓮が小さく目を見開く。

「いい名前だな」

「気安く呼ぶなよ」

「じゃあ、特別に“お前の名前”を呼びたいときだけにしておく」

夜が深まるたび、ふたりの距離は確かに近づいていた。
世界がどうあれ、この瞬間だけは、ふたりだけの場所だった。
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