灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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空白を超えて

かすかな灯火

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崩れた廃工場の非常階段を、蓮はゆっくりと降りていた。背には鴉の体重がずしりとのしかかる。

「……毎度毎度怪我ばっかして、悪いな」

鴉が低く言った。息が乱れている。

「今さら謝るくらいなら、最初から撃たれるな」

蓮は淡々と返しながらも、足元に気を配りつつ鴉の身体をしっかりと支えていた。

雨に濡れた床が滑りやすく、彼の体温だけがやけに熱く感じる。鴉の血が蓮の服を濡らしていく。

「本当に、離れるつもりだったのか」

問いかけは届いているのかどうか。鴉は答えなかった。ただ目を伏せたまま、蓮の肩に額を預ける。

「……まだ終わってない。終わってないから、まだ、あいつの元にいたんだろ」

「……」

「言わなくていい。おまえの考えくらい、もう大体わかってるつもりだ」

建物の外に出ると、夜の風が傷口に触れて鴉の体が小さく震えた。

蓮は立ち止まり、そっと自分のジャケットを脱いで鴉の肩にかけた。

「帰ろう。まずは、身体を治せ。……決着をつけるのは、それからだ」

その言葉に、鴉はほんの一瞬、微かに息を呑んだ。だが次の瞬間、何事もなかったように目を伏せる。

「……ったく、面倒な男に惚れられたもんだ」

「なにか言ったか?」

「さあな」

ふたりの足音が夜の静けさの中に消えていった。
その背には、痛みと未練、そして一縷の希望が重なっていた。
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