灰に堕ちるその日まで

空白を超えて

終幕への誘い

夜。
雨上がりの路地に、ぽたりと水滴が落ちる音だけが響く。蓮は張り詰めた表情で、スマートフォンの画面を睨んでいた。
不意に、それが震えた。通知には、見覚えのある番号。真壁だ。

「……久しぶりだな、蓮くん。」

電話越しの声は、どこか愉しげだった。心の奥を冷ややかに撫でるような口調。

「決着をつけよう。お前が探している“カラス”も、用意しておく。」

蓮は一瞬、息を呑む。

「何のつもりだ。」

「正面から、だ。ただし……選ぶのはお前だ。俺たちの“ゲーム”を終わらせたいのか、逃げるのか。」

蓮の手に力がこもる。脈打つように握りしめたスマホの画面に、雨粒がひとつ落ちる。

「場所は……例のビルの屋上。夜、風の強い時間を選んだ。劇的だろ？」

ぷつり、と通話が切れた。

空は、まるで嵐の前の静けさのように、重く沈んでいた。

蓮はゆっくりとスマホを下ろし、夜空を見上げた。
その瞳には、決意と、消しきれない迷いが交差している。

「鴉……俺は、お前を——」

何かを言いかけたが、その言葉は夜に溶けた。