灰に堕ちるその日まで

こりゃりゃ

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交差点の記憶

お前を忘れたことなんてない

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崩れかけた中央管理棟の上階。
鉄骨が剥き出しになったフロアに、沈黙が落ちていた。

ぎぃ、と鈍い音を立てて扉が開く。

鴉の足が、重く静かに踏み入れる。
部屋の奥、ガラスの向こうには、宵宮が背を向けていた。

「……遅かったな」

車椅子ごと振り返った宵宮の瞳に、もう感情の色はなかった。
その左手には、迷いなく構えられた銃。

「兄さんじゃなきゃよかったのにな」

「……そうだな。そう思われる覚悟はできてたよ」

鴉は手を上げることもなく、その場に立ち尽くす。

「お前を、助けたかった。あのとき、俺も囚われてて、身動きができなかったんだ。信じてくれなんて言わない。でも――」

「言い訳か?」

宵宮の引き金が微かに絞られる。

「俺はあの日から、毎晩、お前のことを夢に見てた」

「……そうかよ。俺はあの日から、信じることをやめた」

車椅子の車輪がわずかに軋む音。

「……それでも、俺は、お前を取り戻しに来た」

鴉の手が、静かに胸元へと伸びた。
小さな、古びた革の紐が、彼の指先に引かれて揺れる。
銀の枠に囲われた、小さなペンダント。
ガラス越しに差し込む光を受けて、鈍く光った。

「……これ、まだ持ってたのか」

宵宮の声が掠れる。
それは銃を構える男の声ではなかった。
ただ、過去に置き去りにされた少年の、忘れかけた記憶の破片に触れた声だった。

「お前が落としていった。あの日、振り返りもせずに去ったその足元に、転がってた」

宵宮の手が、わずかに震える。
銃口が、数ミリだけ揺らぐ。

「……俺は敵だよ、兄さん。銃を持てよ。情けなんて、いらない」

「お前こそ撃て。それでお前の気持ちが晴れるなら、それでも俺は構わない」

宵宮の視線が鴉の瞳に釘付けになる。
そこには、憎しみも、嘘も、なかった。

あるのは、ただ、後悔と、痛みと、――あたたかさだった。

宵宮の銃口が、ゆっくりと下がる。

「……ふざけんなよ。今さら、そんな顔しやがって……」

ぽつりと呟いた声が震える。
そのまま、宵宮は車椅子から崩れ落ち、その場に膝をついた。
力が抜けたように、頭を垂れ、両手で顔を覆う。

鴉は、ゆっくりと歩み寄る。
一歩一歩、壊れものに触れるような足取りで、膝をつき、そっとその肩に手を添えた。

「……宵宮」

触れられた肩が、震える。
その震えは拒絶ではなく、ようやく壊れた心に届いた、温もりへの戸惑いだった。

「……何度も、お前を夢に見た。どれだけ呼んでも、手を伸ばしても、いつも届かなくて……」
鴉の声は、ひとつひとつ言葉を選ぶように、息の間に滲んだ。

「この手で助けられなかったのに……それでも、ずっと、お前を取り戻したかった」

沈黙の中、宵宮が顔を上げる。
濡れた瞳に映る鴉の顔は、何年も見たことのない、優しい兄の顔だった。

鴉は、何も言わずにその身体を抱きしめた。
過去も、痛みも、後悔も、すべてを腕の中に包み込むように。

「やっと……会えたな、黎」
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