灰に堕ちるその日まで

空白を超えて

交差する運命の拳

暗闇の倉庫に、重く張り詰めた空気が漂う。
銃をしまった鴉と蓮は、互いの瞳をじっと見据え、拳を握りしめた。

「お前は……俺の敵だ」
蓮の声に震えが混じる。怒りと悲しみ、そしてどこか諦めにも似た覚悟。

「敵としてお前を殺す……」
鴉の声は冷たくも、どこか切なさを孕んでいた。

一歩、二歩と距離が縮まる。
二人の鼓動がぶつかり合うように高鳴る。

拳が初めてぶつかった瞬間、衝撃と共に蓮の心の奥底で何かが崩れ落ちた。
それでも拳は止まらない。憎しみが絡みつき、痛みを伴いながら燃え上がる。

「なんで……そんなに強いんだ」
息を切らし、蓮が叫ぶ。自分自身に問いかけるように。

「お前のために、鍛えてきたからな」
鴉の声は低く、震えていた。強がりの裏にある本音がにじみ出て。

再び拳が交わるたびに、二人の間にあった壁は少しずつ、確かに壊れていく。
けれどその距離は、決して縮まらない。

「もう……戻れないのか」
蓮の瞳が揺れる。胸の奥が締めつけられ、痛みが走る。

鴉は答えず、ただゆっくりと拳を握り直した。
そして深い息をついて、最後の一撃を繰り出す。

膝蹴りが胸を打つ。痛みとともに倒れそうになるが、蓮は必死に踏みとどまった。

「俺のことは、忘れろ」
鴉の言葉が切なく胸に響く。

「そんなの……無理だ」
蓮の答えは、震える声でありながらも、揺るがなかった。

夜の闇は深く、二人の戦いはまだ終わらない。
でも、確かにこの瞬間だけは、敵以上の“何か”がそこにあった。