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影の輪郭
公安本部・取調室
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蛍光灯の白い光が容赦なく照らす、無機質なコンクリートの部屋。
中央の机を挟み、鷲巣恭介が座っていた。両手首の手錠が金属音を立てるたび、まだ闘志が残っているのが伝わってくる。
正面の椅子に座る蓮は書類を捲りながらも、その目は一度も逸らさなかった。
「鷲巣恭介、年齢41。格闘家上がりの元チャンピオン。朱鷺会の薬物流通の中枢。合ってるな?」
「……お前らみたいな連中に興味持たれて、光栄だな」
鷲巣は唇を歪めて笑う。だが、その目は警戒している。
その背後。壁にもたれていた鴉が、無言のままじっと視線を落とす。
蓮が証拠写真を机に置いた瞬間、鷲巣は鼻で笑った。
「映像だの記録だの……それで全部片づけられるなら、警察なんていらねぇよな」
蓮はその挑発に動じず、淡々と書類を重ねる。
「書類は証明に過ぎない。真実を語るのはお前の言葉だ」
「ハッ、うまいこと言いやがって。だが俺は何も知らねぇ。あんな倉庫、たまたま立ち寄っただけかもな?」
鷲巣の口元には薄ら笑いが浮かぶが、その目は爛々と光っている。まだ完全には折れていない。
鴉が一歩前へ。
「たまたまにしちゃ、3日連続、同じ時間帯に、同じ連中と出入りしてるな」
「たまたまだよ。散歩コースってだけだ」
「倉庫で散歩か?」
「黙ってりゃ黙ってたで勝手に作文してくれるんだろ? どうせシナリオはできてんだ」
鷲巣はあくまで余裕を装う。その態度が鼻につくほど、虚勢なのは明らかだった。
蓮は一枚の紙を差し出した。
「“彼”の供述だ。お前の直下の部下。──名前は伏せるが、お前の指示で運搬に加わったって言ってる」
鷲巣の目がかすかに動いた。
「はっ……ビビって裏切ったか、あいつ。ケツの青いガキが……」
「もう一人。そっちは今日、保護されたばかりだが、話し始めてる。あと一押しだ」
沈黙。鷲巣の両肩が、わずかに上下する。
鴉が低い声で追い打ちをかける。
「もう一つ教えてやろうか。朱鷺会、お前のこと“切り捨て要員”って書類に明記してたぜ」
「……は?」
「初動で捕まった場合、上層部への波及を避けるため“情報を持たせない要員”──あんたの名前、筆頭だ。もうお前は、使い捨てられた」
その瞬間、鷲巣の顔色が変わった。
肩が一瞬、びくりと震え、次の瞬間、彼は机に拳を叩きつけた。
「……チクショウ……! あのクソジジイ共……!」
怒りとも悔しさともつかない咆哮。
そして、それが静まり返るまで数秒。
重い沈黙の中で、鷲巣はついに背を預けた。
「……もういい。どうせ詰んでんだろ」
鴉と蓮は互いに視線を交わす。
「倉庫の管理は俺がやってた。口座もルートも全部、俺の指示だった」
絞り出すような声。もう、そこに虚勢はない。
蓮は静かにうなずき、供述メモを整える。
鴉は腕を組んだまま、1歩引いた。
空気が、静かに緩む。
蓮は供述書の用意に取りかかり、鴉と一瞬、視線を交わす。
もう言葉はいらない。
やるべきことは、終わった。
中央の机を挟み、鷲巣恭介が座っていた。両手首の手錠が金属音を立てるたび、まだ闘志が残っているのが伝わってくる。
正面の椅子に座る蓮は書類を捲りながらも、その目は一度も逸らさなかった。
「鷲巣恭介、年齢41。格闘家上がりの元チャンピオン。朱鷺会の薬物流通の中枢。合ってるな?」
「……お前らみたいな連中に興味持たれて、光栄だな」
鷲巣は唇を歪めて笑う。だが、その目は警戒している。
その背後。壁にもたれていた鴉が、無言のままじっと視線を落とす。
蓮が証拠写真を机に置いた瞬間、鷲巣は鼻で笑った。
「映像だの記録だの……それで全部片づけられるなら、警察なんていらねぇよな」
蓮はその挑発に動じず、淡々と書類を重ねる。
「書類は証明に過ぎない。真実を語るのはお前の言葉だ」
「ハッ、うまいこと言いやがって。だが俺は何も知らねぇ。あんな倉庫、たまたま立ち寄っただけかもな?」
鷲巣の口元には薄ら笑いが浮かぶが、その目は爛々と光っている。まだ完全には折れていない。
鴉が一歩前へ。
「たまたまにしちゃ、3日連続、同じ時間帯に、同じ連中と出入りしてるな」
「たまたまだよ。散歩コースってだけだ」
「倉庫で散歩か?」
「黙ってりゃ黙ってたで勝手に作文してくれるんだろ? どうせシナリオはできてんだ」
鷲巣はあくまで余裕を装う。その態度が鼻につくほど、虚勢なのは明らかだった。
蓮は一枚の紙を差し出した。
「“彼”の供述だ。お前の直下の部下。──名前は伏せるが、お前の指示で運搬に加わったって言ってる」
鷲巣の目がかすかに動いた。
「はっ……ビビって裏切ったか、あいつ。ケツの青いガキが……」
「もう一人。そっちは今日、保護されたばかりだが、話し始めてる。あと一押しだ」
沈黙。鷲巣の両肩が、わずかに上下する。
鴉が低い声で追い打ちをかける。
「もう一つ教えてやろうか。朱鷺会、お前のこと“切り捨て要員”って書類に明記してたぜ」
「……は?」
「初動で捕まった場合、上層部への波及を避けるため“情報を持たせない要員”──あんたの名前、筆頭だ。もうお前は、使い捨てられた」
その瞬間、鷲巣の顔色が変わった。
肩が一瞬、びくりと震え、次の瞬間、彼は机に拳を叩きつけた。
「……チクショウ……! あのクソジジイ共……!」
怒りとも悔しさともつかない咆哮。
そして、それが静まり返るまで数秒。
重い沈黙の中で、鷲巣はついに背を預けた。
「……もういい。どうせ詰んでんだろ」
鴉と蓮は互いに視線を交わす。
「倉庫の管理は俺がやってた。口座もルートも全部、俺の指示だった」
絞り出すような声。もう、そこに虚勢はない。
蓮は静かにうなずき、供述メモを整える。
鴉は腕を組んだまま、1歩引いた。
空気が、静かに緩む。
蓮は供述書の用意に取りかかり、鴉と一瞬、視線を交わす。
もう言葉はいらない。
やるべきことは、終わった。
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