Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第三章 オンリー・ユー 君だけを

Episode 19

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--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 4F
■【偽善者A】ハロウ

これまで戦ってきた人型の敵性モブは、ほぼほぼ全て物理型……剣やその肉体で攻撃してきた者らが多かった。
例外として、このダンジョンのジョブ別スケルトンが居たが……それにしたって私やCNVLが先んじて潰していたために、まともにこの世界で『魔術』に分類されるものを見た記憶はなかった。
唯一見たもの中で近いものを挙げるとするならば……やはり、禍羅魔の使ったスキルである相手の動きを阻害させる【信奉者の信仰】くらいだろう。

だからだろうか。
全くと言っていいほど、私達はそれに対する策をもってはいなかった。

「くッ……近づけないなぁ!」
「射撃メインの相手に無理に近づくのは愚策も愚策よ!とりあえず今は待ち!」
「了解ッ!」

私達は複数飛んでくる火球を避けながら、そんな会話を掛け合いつつ。
相手に近づけるタイミングを今か今かと待ち望んでいた。

通常、魔術師という職はゲームの中では基本的には後衛となる職業だ。
というのも、一般的な感覚や考えとして、魔術師という者らは物理的な衝撃ダメージに弱く。
一発一発が強力ながらも高コストの『魔術』と呼ばれるものを使って敵を倒していく……そんな職業。
ゲームならば、敵としてよく出てくる悪魔などもそれらに準ずるモノとなっている事も多い。

そういった認識があった私達は、とにかく接近戦に持ち込めれば勝てるだろうと考えていた。
どうせ魔術を使ってきたとしても、コスト面でいつかボロは出るだろうと踏んで。

『カハッ!どうしましたお客人ンン!近づいて来られないではないですかァ!!』
「うっさいわねぇ!ならこれ止めなさいよ!」
『それは出来ない相談ですねェ!』

しかし、現在戦闘が開始してから約10分ほど経ったのだが。
ヨハンが放つ魔術が途切れることはなかった。

何かしらのギミックがあるのだろうが、私達前衛組がそれを探す余裕はなく。
現状ギミックを探すのを後衛組の2人に任せ、攻撃を避けるのに集中していた。
とはいっても、正直避けるのにも集中力は必要で。

「CNVL、残りは?」
「まだ余裕はあるかな。でもこれが続くなら正直厳しいかも」
「了解。隙見て突っ込みましょうか」
「……え、イケる?」
「無理やり行くのよ……まぁ何かしらギミックはあるでしょうけど、直接HP減らせばもうちょっとアクションあるでしょう」

そんなことを言えば、少し半目になったCNVLがこちらを見てきているが気にせずに続ける。

「分かりやすいし良いけれど……それ正面いくの私だよね?」
「まぁ、そうね」
「あはッ……後で覚悟しとけハロウ」

うちのパーティの中で壁役、それも自身で回復が出来る者となると……スキルでなんとでもなるCNVLくらいしか該当者が居らず。
こういった状況でダメージを喰らいつつ、相手へ殴りこみをかけるならば彼女が一番適任なのだ。

彼女もそれが分かっているのか、多くは言わないものの。
少しだけ笑顔を浮かべ、私の方を見た後に中指を立てて意思表示してきているその姿は、まだまだ元気があるようで少しだけ安心する。

『作戦会議は終わりましたか?ではもう少し密度を上げていきましョう……!』

ヨハンの、こちらを煽るような声を聴きながら。
CNVLが前へと一歩踏み出したのを横目で確認して、私も続くように前へと踏み出した。
といっても、私の場合当たってしまえば自力で回復も出来ずどうしようもなくなってしまうため、こちらへと飛んでくる魔術を避けながらにはなるのだが。
……量が多いわね。CNVLには悪いけれど使いましょうか。

【暴食本能】も乗せているのか、私との距離がどんどん離れていくCNVLを確認しながら、私は無言でヨハンに向かって【真実の歪曲】を使用した。
対象から認識されづらくなる限定的な【隠蔽】を付与するそのスキルは、確かにヨハンに効果があったようで。
一瞬目を見開いたかと思えば、私を探すように視線を左右へと彷徨わせているのが分かった。

CNVLもそれに気が付いたのか、飽きれたように少しだけ笑うとその隙を逃さぬように更に力強く地面を蹴ってスピードを上げた。

「何処見てるのかなぁ!?」
『ッ!?貴方、ダメージとか気にしないんですか?!』
「気にはするけど、それを無視して突っ込めっていうのがリーダーの命令でねぇ!」

至極存外なことを言いながら突っ込んでいくCNVLの後ろについていくように、私は走ってヨハンへと近づいていく。

といっても、今こうしている間にも相手の魔術による攻撃は止んでおらず。
いつのまにか火球以外にも氷柱なんかも飛んでくるようになった部屋の中を、避けながら進んで行った。

何やらパーティチャットの方が騒がしいが、突然行動を開始した私達に何かを伝えようとしているのだろう。
しかし、それを見ている余裕はなく。
申し訳ないと思いながら近付いて。

そして遂に手が届く程の距離になった瞬間に、ヨハンが口が裂けたかのように笑った。
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