Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第四章 天使にレクイエムを

Episode 28

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【衝撃】の印章によって発生した衝撃波。
それの反動に身を任せるようにして前の方向に勢いをつけ、また一歩踏み出し加速した。
私の周囲の天使は勿論、少し離れた天使の攻撃が雨のように降ってくる。

近くからは光の剣が、斧が、たまに盾なんかで攻撃しようとしてくる者もいるが、それら全てを相手にするわけもなく。
横からの攻撃は出来るだけ早くそこから前に進むことで相手にせず。
正面からの攻撃は、双剣に持ち替える事で弾き、逸らすことで最小限の時間消費だけでその横を通り過ぎていく。

上から降ってくる槍や弓矢、フレイルなんかに関しては自分の運を信じるしかない。
どうしても持っている武器の都合上……横からの攻撃には強いが上からの攻撃に関してはタイミングが合わない限り対処ができない。
タイミングを合わせるのにも、こう周りに天使が大量に居る状態ではまともに出来るようなものではない。

「あとッ少し!」

中央区画はそこまで広くはない。
いや、普通の広場と言われて思い浮かぶ広さよりはずっと広いが、1つの区画としてみればそこまで広くはない。

そんな中を天使の攻撃を凌ぎながら全速力で走っているのだ。
目的地……デンスやオリエンスのプレイヤーが居る地点まで辿り着くのに、やはりいつもよりは時間が掛かっている。
無理矢理自分で少ないものの印章によるバフも盛っているが、デスペナの影響がまだ抜けていないのだ。
その分だけ通常よりも遅くなっているのも理由の一つだろう。

しかし、ここまで派手に何かが近づいているのだ。
それに気付く人間は、勿論存在する。

「あはッ!楽しんでるねぇ!」

声は上から聞こえた。
最近の彼女は天井にさえ当たらなければ、足も使って攻撃しているのだから当然だ。
私のすぐ近くに大きな影が落ちてきて。それは今もなお私に向かって攻撃を仕掛けようとしていた天使達を押し潰した。
大きな肉の塊のようにしか見えないそれは、彼女のスキルによって作り出された異形の足。

「ナイスCNVL!」
「なーんか凄い事になってるねぇハロウ。君なんかしたかい?」
「そりゃあのログ見たでしょう?アレよ」
「成程ね?私も上から攻撃してるけど天使が集まってて見えないんだよ」

足を光に変え、私の近くへと降りてきた彼女は私が死ぬ前とあまり変わらない状態だった。
というよりは、何本か腕のようなものを両手に持っている辺り……天使を食べ漁っているのだろう。

「ちょっと一点突破で行きましょう。ただ流石にマギとメアリーの援護が欲しいからちょっと私を連れてってくれるかしら」
「ん、オーケィ。じゃあそうだねぇ……【食人礼賛】」

彼女は左手に持った腕を喰らう。
すると、食べていないはずの右手の腕、そしてCNVLの全身から光の粒子が溢れ出た。
次の瞬間、彼女の右腕から腕が複数生え、纏まり、そしてまた生えを繰り返し巨大な腕を象っていく。

その間にも周囲の天使からの攻撃や、空から槍などが降ってきている。
しかし今まで走りながら対処出来ていたような攻撃だ。
周囲からの攻撃は私が、そして空から降ってくる物に関しては……CNVLがこちらに来た事で私の存在に気が付いたプレイヤー達の遠距離攻撃によって撃ち落とされていった。

腕の集合体のような巨大な肉の塊が、彼女の右手に生成された。
腕同士が掴み合っているためか、所々に隙間が出来ているその異形の塊は光を少し帯びている。
天使の腕の素材でも使ったのだろうか。

「ほぉら行くぜ、ハロウ」
「いや、言わんとしてる意味は分かるけれど本当……?」
「本当。酔鴉に連絡も入れてあるから受け止めてくれるよ」
「ちょっ、まっ……ッ!」

そうして私は彼女の異形の腕に優しく持ち上げられ、空中に放り出される。
自身で空中に上がるのではなく、突然勢いを付けられて投げられるのとでは心構えの段階からもう違う。
勢いによって視界がぐるぐると回り、そして突然強烈な衝撃によって身体の勢いが止まった。

「あの子本当に投げてきたわね……大丈夫?」
「……大丈夫だと、思うかしら……?」
「あー……うん、一応マギの近くに下ろすわ」

どうやら酔鴉が空中に上がってきて受け止めてくれたようで。
私はぐったりとしながら彼女に身を任せる。
近くに天使もいるだろうが、身体を起こそうとしても動かないのだ。
見れば【身体異常:酔い】という見た事もない状態異常に罹っているのが分かってしまい、少しだけ顔を顰める。

「マギ、貴女の所のリーダーを持ってきたわ」
「あぁ、すいません酔鴉さん。うちの先輩が迷惑をかけて……」
「まぁここのメンバーじゃ私くらいしか空中で受け止めながら迎撃とかできないしいいわ。でももうちょっとCNVLの手綱くらいは握りなさいね?」
「分かりました」

声が聞こえ、ゆっくりと地面に下ろされた。
そしてすぐにマギがスキルを発動させ状態異常を快復させてくれる。

「あー……酷い目に遭ったわ。ありがとう酔鴉、マギ」
「大丈夫ですよ、先輩には後で言っときますんで」
「ネースの連中は?」
「こっちから見ると……そうね、大体11時の方向で天使と戦ってるわ。こっちに合流するために私は早々に抜けてきたけどね」

視線を向ければ、今もなお光や爆発音が聞こえているため、恐らくはまだ戦っているのだろう。
これでこちらにくる敵の量が少しばかり減るはずだ。
無理矢理辿り着かされたものの、ここから私達の攻略は再開する。
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