Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 24

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「一度言ってみたかったのよ。……ここから先に行きたいのなら、私を倒してからにしなさいッ!この、ディエス所属のッ!アリアドネが相手をするわ!」

目の前でやる気に満ちた顔でそう宣言する女性プレイヤー……アリアドネ。
現在、ディエス以外の区画へと襲い掛かっている白い人型の何かを、この場から操ることが出来るらしい彼女は、じっと油断なくこちらを見据えていた。

……成程ねぇ。
軽くこちらへとファイティングポーズをとっている彼女の姿は隙だらけにしか見えない。
決闘コンテンツにはあまり手を出していないのだろう。
もしかしたらこうやってプレイヤーと対面で戦闘を行う事自体が初めてなのかもしれない。
だが、だからと言って相手が対人に弱いとは限らない。

どんなプレイスタイルなのか分からない。
少なくとも使役系のスキルを使うのは分かっているが、それ以外にも何かしらの攻撃手段は持っているだろう。

「……この人数を1人で相手にするつもり?」
「そうよ?悪い?」
「悪いとは言わないわ。私は貴女の事全く知らないもの。でも無謀って言葉は知っておいた方が良いと思うわ?」

ハサミを一度インベントリへと仕舞い、双剣として再度取り出し構える。
その行動にギミックを知っている2人が怪訝な顔をしているが、気にしない。
なんとなくやっただけの意味のない行動だからだ。

「柚子饅頭さん、ジョンドゥさん。どうする?」
「……戦いたくはない。だが、任せようにもアリアドネをどうにかしないと先に進めない、か」
「うゥん……でもここで全員で行くよりも周りのプレイヤーをデスペナにした方が良さそうでもあるよねェ?」
「こちらとしてはどちらでも。私達3人だけでもいいわよ」

元々、彼らと私達の関係は雇い主と雇われの関係。
雇い主がやれと言えば私達はやるしかないが、彼ら2人は別にやりたくなければやる必要はないのだ。

「じゃあお願いしよう。ある程度隙があったら私は奥へ抜けていく事にする」
「周りに隠れてるのを倒してから行くから安心して。大丈夫、そこらへんはしっかりするよゥ」
「了解、任せるわ」

これで私達の方針は決まった。
私達が戦っている間に、横を2人が抜けていき重要拠点の破壊を目指す。
そうと決まれば、と私以外にもマギやメアリーもそれぞれの武器を構えだした所で、こちらをじっと見ていたアリアドネが口を開いた。

「……嘗めてんの?」
「あら、嘗めてはないわよ。むしろそっちの方が嘗めてると思うわ。この人数に1人で挑んできてるんだから」
「ッ!こっちの事も知らないで……ッ!」

何やら言っているうちに、私は一気に足に力を込め地を蹴り距離を詰める。
狙うは首。そのまま直撃すれば急所判定が入ってほぼ1撃でデスペナルティまでもっていける部位だ。
バフも掛かっていない単純な私の動きのみで構成されたその一撃は、反応しきれなかったのか目を見開きつつも後ろへと仰向けで倒れていく。

アリアドネが仰向けに倒れたからだろうか、私の一撃は首ではなく彼女の顔を削ぐような形でヒットする。
流石に顔を削いだような状態のアバターは実装されていないのか、彼女の顔はそのままだが、流石にダメージ自体は出ているようだった。

「今の反応出来るのね」
「当ッ然!【竹取の五難題】!」

彼女がスキルらしき宣言をした瞬間、その身体に白い革で出来た外套が被さるように出現した。

「竹取と、革の外套ねぇ……モチーフはかぐや姫?」
「答えるとでも?!」
「全く思ってないわ。独り言よ」

竹取物語。
光り輝く竹の中から見つけた女の子……かぐや姫を巡る平安時代初期の物語。
その中で、主人公であるかぐや姫は5人の貴族階級の男から求婚される……のだが。その時にその5人に対して、それぞれにとある宝を持ってくるように言付けた。
『仏の御石の鉢』、『蓬莱の玉の枝』、『龍の首の玉』、『燕の子安貝』、そして『火鼠の皮衣』。
それぞれが手に入れること自体難しいものばかり。
この無理難題を出した事から、求婚難題……あるいはかぐや姫の五難題などと呼ばれることもあるほど、有名なものだ。

目の前のアリアドネがその身に纏ったのは、恐らくはその中の1つである『火鼠の皮衣』だろう。
その効果自体は分からないが……ここで使ったのだ。防御力的にも効果的にも私のような近距離アタッカーには有効なのだろう。
少しばかり面倒な相手かもしれない。そう考え、私はインベントリから新たに印章を彫ってある小さいハンマーを複数取り出した。
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