Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 25

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アリアドネから距離をとりつつ。インベントリから取り出したトンカチを【印器乱舞】によって操り、自身にバフを複数捺印していく。
ダメージ強化を、防御強化を、敏捷強化を、再生力強化を、射程増加を。
それぞれの効果量は私がサボっていたために今だ初級……少ないものの。
少しでも動きの速度や、その攻撃の射程が変わるだけで戦闘中は驚くほどに攻撃が当たるようになる。
……これが中級になったらどうなるのかしらねぇ……。
そんなことをふと思いつつ、私は目の前でいそいそとこちらから距離をとろうとしているアリアドネを見た。

先程受けたダメージは既に回復したのか、宙に浮くトンカチを警戒しながらも私が何をしてくるのか警戒しているのが分かる。
本当に対人戦は経験がないのだろう。考えている事、というよりかは感情がそのまま表情に出すぎているのだ。
私やCNVLは戦闘中に良く笑うが……あれは単純に気分が昂っただけで、意味のある笑いは意外と少なかったりもする。

「……厄介ねぇ」

ぽつりと、自分以外には聞こえないであろう声量で呟いた。
『火鼠の皮衣』を模した革の外套にどんな効果があるか分からない以上、ある程度の効果が割れるまでは自ら触れに行くなんてことはしたくない。
もっと言えば、区画順位戦前に挑んだダンジョンのボス……パラケルススのようなカウンター能力を持っている可能性もある。
その場合遠距離から攻撃しても反撃されるかもしれないため、私よりもHPが少ない後衛組の2人に関しては攻撃はさせていなかった。

『あー、マギ?』
『なんです?』
『これから突っ込むから、回復よろしく。メアリーは私が攻撃したのを見て、相手のスキルの効果がカウンターじゃなかったら攻撃。それ以外なら手持ちでのトラップ作成』
『分かりました』
『了解(゚д゚)!』

パーティチャットを開き、思考操作でチャットを入力していく。
横目で画面を見ながらやっているものの。今この瞬間に攻撃されたら反応出来ない自信はある。
最近はこの技術を平然と行うようになったメアリーの頭の中がどうなっているのか……一度見てみたい。
後で本人に言ったら怒られそうな事を考えながら。
私は宣言した通り、再度一気に距離を詰めるために地を蹴った。

戦闘で向いているスタイルというのは人やジョブによって異なる。
それこそ、うちのパーティで言えば……私とCNVLの戦い方が全く違うのと似たようなものだ。
私の場合は、双剣やハサミ、そして現在は壊れているため使っていないがハンマーを使い、一撃離脱のヒットアンドアウェイを主に。
それとは反対にCNVLは相手に張り付くように距離を詰め、スキルによるHP回復能力に頼ってそのままゴリ押すスタイルが主だ。
他に知っているプレイヤーならば、スキニットは盾を使い時間を稼ぎ、自身に強化を施しながら攻撃をちまちまと与えていくスタイル。
ソーマは特殊だが、その場その場の状況に合わせた武器を【複製】というスキルによって出現させ対応するスタイル。

私を含めた4人だけでもここまで戦闘のスタイルは違うのだ。
だからこそ私が見たこのスタイルもまた、彼女にとって何かしらの利点があったからこそなのだろう。

「ッ!?」

地を蹴り、またも一足飛びのように彼女へと近づいた私は、突くように右手に持つ剣を相手の胸に対して振るった。
先程は咄嗟に倒れるという選択肢をとられたからこそ避けられた。
それならば、同じように突っ込んで違う手で攻めればまた違う結果が待っている可能性がある。
その結果。
案の定、私の考えた通り違う結果が待っていた。

アリアドネは避ける事すらしなかった。
それどころか、しっかりと私の目を見据えていた。

彼女の胸に私の剣が突き刺さる。
普段ならばずぶりと、水の入った風船を刺すように水音を伴った柔らかくも重たい感触が剣越しに伝わってくるのだが……今回はそれがなかった。
代わりに伝わってきたのは、何か粘性のある液体に入っていくような感覚。
それと共に、私の目の前にいたアリアドネの姿が溶ける・・・
元が液体かのように、しかしながらそれは初見のものではなかった。

脳裏に過ったのは、私がよく知る人物。
うちのアタッカーであるCNVLの使う、あるスキルにそれは酷似していた。

「拘束用の攻撃ね?!」
「ん、正解までが早い。もしかして同系統のスキルでも持ってる人が知り合いに居たりする?」
「丁度うちのパーティに居るのよッ」

それはCNVLの使う【祖の身を我に】。
その中でも、ゾンビスポーナーの肉塊をコストとして使った時に現れる効果である、敵対者拘束用のNPCを出現させるもの。
あちらは赤黒い……【食人鬼】に相応しい色をしていたのだが、こちらは白い。
私は実際に目にしていないものの……恐らくはこれ・・が各区画に攻め込んでいるらしいモノなのだろう。
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