Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
178 / 192
第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 26

しおりを挟む

彼女の身体は溶けて……その色を白へと変化させながら、私の身体へと絡みつくようにして拘束しようとしてきていた。
そしてこの身体拘束系のスキルを行使している本人はと言えば、

「私が一気に近づくとでも思った?集団を相手にする時にチャンスだからって突っ込んでいけば、すぐにHPは0になっちゃうのよ。それくらいは何度も経験してきたから知ってるわ」

私の真正面に立っていた。
瓜二つな顔をした身体が白く、そして粘性のある液体のようなものへと変わっていくのを真顔でその後ろから……少し離れた位置から見守っているのが見えた。
しかしながらその姿に油断は見られない。
私だけではなく、私の後ろにいる2人のパーティメンバーや、ネース側の2人にまで意識を向けているようだった。

「随分とさっきより冷静になったわねぇ……」
「当然でしょう。少しは感情コントロールくらいできないと」
「その変わりようは少しってレベルじゃあないと思うけどねぇ」

真面目な顔でそう言う彼女に、私は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。
対人戦に慣れていなさそうな立ち振る舞いだったのに、その心構えはしっかりとこちら側……決闘者側だったためだ。

こちらの煽りに乗ってくる。
それだけで、まず相手が対人戦に慣れていないことくらいは分かる。
それ以外にも、わざと相手を怒らせるようなことを言ったり行ったりすることで、相手の動きを単調化させる。
対人戦に関して言えば、子供のような煽りも一種の戦闘技術なのだ。

しかしながら、そんなものが技術として認識されている以上。
だからこそ対する技術……感情のコントロールもまた、対人戦をメインとしているプレイヤーにとっては必須とされているのだ。

「……動けないみたいね」
「動けるとでも?貴女は知らないかもしれないけど、同系統の同じスキルで、巨大なゾンビも拘束できるのよ?私じゃあ拘束を解くのは難しいわ」
「ゾンビ……?」
「それに、こうして話しかけてきてるのは甘いわねぇ……」

そんなことを考えていても状況は変わらない。
私の身体は今、白い粘性の液体によって拘束されている。
CNVLの赤黒い人型と似たようなコレは、以前にも受けた事があるものの……私1人の力では解くことは叶わない程度には拘束能力が高い代物だ。
だが、しっかりと対策……というよりはこれを解く手段というのも存在している。

「ぐッ……!」
「なッ!?」

直後、私の背中・・に強烈な衝撃が襲い掛かってくる。
それと共に私のHPが急速に減っていくが、とりあえずそれは良い。
問題は私の身体に纏わりつくように拘束してきていた粘性の液体だが……全て、吹き飛んでいる・・・・・・・
後ろをちらと見れば、メアリーが小さなクロスボウを片てに、こちらへとドヤ顔を向けていた。

正直、ネタ晴らしをしてしまえば手段や対策などと仰々しい言葉を使うほどのものではない。
しっかりとした、ゲームの仕様を理解しそれを使用しているだけの事だ。

まず前提として、CNVLやアリアドネの使う粘性の液体による拘束は、捕らわれた本人はほぼ確実に振り解くことはできない。
拘束されているとわかるのだが、力づくで振り解こうとしても水を押しているかのように力が全く入っていかないのだ。
漫画や小説のように、気を放つ事で拘束を吹き飛ばすことが出来たらどんなに楽だったことか。
では、どうやって解くのかと言われれば……これは条件さえ揃っていればすごく簡単なものだ。

それは――『ダメージを与える』。
単純に、拘束された対象に対して何でもいいからダメージを与える事。これで拘束は解くことが出来てしまうのだ。
CNVLの使っている赤黒い人型の場合はそれで何故か解けてしまうため、本人が言うには『3体一気に出てきてくれるのは本当にありがたい』との事だった。

そしてその仕様を知っている私達は、それを本番で実行し成功した。
ただこれだけの話だったのだ。

「マギ」
「【魔女術:一時回復リジェネレイト】」

拘束が解けた。敵とこちらの位置も近い。
ならば攻撃を仕掛けるまでだ。
マギにHPが継続的に回復するバフを掛けてもらい、自分でも再生の印章を捺印しつつ唖然とした表情をこちらへと向けているアリアドネの元へと地を蹴る。
『火鼠の皮衣』が目に入るが、何故かそこまで心配はしていなかった。

アリアドネはといえば。
そんな私の行動に、目を見開きつつも口を開いた。

「【竹取の五難題】ッ!」

瞬間、近づく私の上空に影が差した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...