Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 26

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彼女の身体は溶けて……その色を白へと変化させながら、私の身体へと絡みつくようにして拘束しようとしてきていた。
そしてこの身体拘束系のスキルを行使している本人はと言えば、

「私が一気に近づくとでも思った?集団を相手にする時にチャンスだからって突っ込んでいけば、すぐにHPは0になっちゃうのよ。それくらいは何度も経験してきたから知ってるわ」

私の真正面に立っていた。
瓜二つな顔をした身体が白く、そして粘性のある液体のようなものへと変わっていくのを真顔でその後ろから……少し離れた位置から見守っているのが見えた。
しかしながらその姿に油断は見られない。
私だけではなく、私の後ろにいる2人のパーティメンバーや、ネース側の2人にまで意識を向けているようだった。

「随分とさっきより冷静になったわねぇ……」
「当然でしょう。少しは感情コントロールくらいできないと」
「その変わりようは少しってレベルじゃあないと思うけどねぇ」

真面目な顔でそう言う彼女に、私は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。
対人戦に慣れていなさそうな立ち振る舞いだったのに、その心構えはしっかりとこちら側……決闘者側だったためだ。

こちらの煽りに乗ってくる。
それだけで、まず相手が対人戦に慣れていないことくらいは分かる。
それ以外にも、わざと相手を怒らせるようなことを言ったり行ったりすることで、相手の動きを単調化させる。
対人戦に関して言えば、子供のような煽りも一種の戦闘技術なのだ。

しかしながら、そんなものが技術として認識されている以上。
だからこそ対する技術……感情のコントロールもまた、対人戦をメインとしているプレイヤーにとっては必須とされているのだ。

「……動けないみたいね」
「動けるとでも?貴女は知らないかもしれないけど、同系統の同じスキルで、巨大なゾンビも拘束できるのよ?私じゃあ拘束を解くのは難しいわ」
「ゾンビ……?」
「それに、こうして話しかけてきてるのは甘いわねぇ……」

そんなことを考えていても状況は変わらない。
私の身体は今、白い粘性の液体によって拘束されている。
CNVLの赤黒い人型と似たようなコレは、以前にも受けた事があるものの……私1人の力では解くことは叶わない程度には拘束能力が高い代物だ。
だが、しっかりと対策……というよりはこれを解く手段というのも存在している。

「ぐッ……!」
「なッ!?」

直後、私の背中・・に強烈な衝撃が襲い掛かってくる。
それと共に私のHPが急速に減っていくが、とりあえずそれは良い。
問題は私の身体に纏わりつくように拘束してきていた粘性の液体だが……全て、吹き飛んでいる・・・・・・・
後ろをちらと見れば、メアリーが小さなクロスボウを片てに、こちらへとドヤ顔を向けていた。

正直、ネタ晴らしをしてしまえば手段や対策などと仰々しい言葉を使うほどのものではない。
しっかりとした、ゲームの仕様を理解しそれを使用しているだけの事だ。

まず前提として、CNVLやアリアドネの使う粘性の液体による拘束は、捕らわれた本人はほぼ確実に振り解くことはできない。
拘束されているとわかるのだが、力づくで振り解こうとしても水を押しているかのように力が全く入っていかないのだ。
漫画や小説のように、気を放つ事で拘束を吹き飛ばすことが出来たらどんなに楽だったことか。
では、どうやって解くのかと言われれば……これは条件さえ揃っていればすごく簡単なものだ。

それは――『ダメージを与える』。
単純に、拘束された対象に対して何でもいいからダメージを与える事。これで拘束は解くことが出来てしまうのだ。
CNVLの使っている赤黒い人型の場合はそれで何故か解けてしまうため、本人が言うには『3体一気に出てきてくれるのは本当にありがたい』との事だった。

そしてその仕様を知っている私達は、それを本番で実行し成功した。
ただこれだけの話だったのだ。

「マギ」
「【魔女術:一時回復リジェネレイト】」

拘束が解けた。敵とこちらの位置も近い。
ならば攻撃を仕掛けるまでだ。
マギにHPが継続的に回復するバフを掛けてもらい、自分でも再生の印章を捺印しつつ唖然とした表情をこちらへと向けているアリアドネの元へと地を蹴る。
『火鼠の皮衣』が目に入るが、何故かそこまで心配はしていなかった。

アリアドネはといえば。
そんな私の行動に、目を見開きつつも口を開いた。

「【竹取の五難題】ッ!」

瞬間、近づく私の上空に影が差した。
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