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第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 34
しおりを挟む■【食人鬼A】CNVL
足を欠損したハロウの代わりに、1歩前に出る。
正直、今回私はそこまで前に出るつもりは無かった。
というのも、それなりに暴れられる場を与えてもらっていたからだ。
この区画順位戦中、1日目の天使騒動から既に私は色々と自由な行動を刺せてもらっていた。
出来得る限り用意していたアイテム群が底を尽いているのが良い証拠だ。
あれらを使い切る程度には、無茶な事を沢山やった。
そして、それらをやらせてくれたハロウの為に、デンスの重要拠点を守ろうと……デスペナルティになった後、自分の身体の一部を文字通り食いながら戦っていたのだが……そんな時。
同じく重要拠点の防衛を行っていたスキニット達、顔見知りのプレイヤー達に言われてしまったのだ。
『道中程度なら、俺達の持ってるアイテムで保つだろ!』
『リーダーのパーティのアタッカーがこんなところで道草食ってんじゃねぇよ』
『ほら、行ってこい。どうせハロウの事だ……また無駄に1対1とかやってボロボロに負けそうになってんだろ。ちょっくら行って横槍いれてこい』
『正々堂々なんてクソ喰らえだねぇ。ほらほら、CNVLちゃん。ここは君の居場所じゃあないんだよ、行ってらっしゃい』
だからこそ、私は今ここに立っている。
自分の意思じゃない、なんて言えば気持ち的には楽なのだろう。
しかしながら、私は今自分の意思でここに立っている。立ってしまっている。
目の前には、巫女服を着た見覚えのない女性プレイヤー。
名前も知らない、顔も今見たのが初めて。しかしながら、何となしに誰なのか理解できた。
確認のために声を掛ける。
「ところで、彼女がアリアドネさんでいいのかな?」
「――ッ。……えぇ、そうよ。私がアリアドネ。この先に行きたかったら――」
「あー、うん。私はそういうのあんまり気にしてないんだけどさぁ……」
アリアドネの名乗り自体はどうでもいい。
この先に行くかどうかなんてのもどうでもいい。
私にとってこの場で一番気になるのは別の事……それでいて、この世界で一番重要な事だ。
今まで戦っていたハロウは、見ればわかる通りに戦えない。
ネース所属の2人も戦う気があるのかないのか、後ろに下がったまま。
残りのうちの2人は後衛で、私達の居るラインに立つような役割じゃあない。
つまり、私の獲物。
ということは、だ。
「これから、私は君の事を喰らい尽くしてしゃぶりつくす。辛くなったら言ってくれればすぐにデスペナ送りにするから、遠慮なく元気に手を挙げてくれよ?」
「……嘗めてるの?」
「あはッ、嘗めてないさ。これから舐めるけどね」
そう、味だ。
彼女の味は、どんなものなのか。それをじっくりと、ねっとりと、骨にこびりついた肉を丁寧に丁寧にこそぎ落とすかのように味わい尽くす。
最近は区画順位戦の準備のために時間がなく、現実でもこの世界でも味気ない料理が続いていたのだ。
つまり簡単に言えば……食欲がもう限界なのだ。
ネースに赴いた時に一時的に凌いだものの、美味しいものが食べたいという欲はどうやっても頭の中を埋め尽くしていく。
ログアウトして近場へと繰り出せば違うのだろうが、今ログアウトしてしまえば区画順位戦中に戻ってこれるかは怪しい。
つまりは……ゲーム内で、一時的に欲求を満たし続けるしかないのだ。
「ハロウ。良いよね?」
「えぇ、私はもう無理だもの」
「オーケィ。じゃあここからがミールタイムだ」
一種の願掛けのように言葉を紡ぐ。
意味が分かっているのか、それとも私の存在をあまり理解できてないのか。
しかしながら、何か殺意のようなものを私に向けているアリアドネに対し、にっこりと笑いかける。
今までは彼女も何かしらの矜持などをもってハロウと戦っていたのだろう。
しかしながら……ここからはそんなものはいらない。
食うか食われるか、それだけしかない戦いだ。
野性と野性がぶつかり合うだけの泥臭い戦いだ。
相手が何を使おうが、それには違いがない。
呆気にとられているアリアドネに、自身の身体能力にものを言わせ近づき。
手に持っていたマグロ包丁で無造作に右から左へと斬りつける。
型なんてあったもんじゃない、適当な一撃。
「くぅッ、【竹取の五難題】ッ!」
首ではなく胴体を狙ったその一撃は避けられることなく、そのまま彼女の身体に吸い込まれるようにして当たり。
次の瞬間、光と共に傷が癒えていく。
普通ならば、この回復能力に色々と思うことがあるのだろう。
しかしながら、私はそれを見て更に笑みを深めた。
そんな私を見て、何故か恐怖したような顔を浮かべるアリアドネに、私は語り掛ける。
「どうしたんだい?君がここに立っている理由は、私を恐れる程度で消えてしまうものなのかなぁ?」
「……ッ」
相手の事情なんてものは知らない。
全くもって裏の事情なんて調べていない私にとって、そこの情報はあってもなくても関係ない。
だが、ただ怯えているだけの獲物は面白くない。
焚きつけるように。煽るように。そんな気がなくとも、相手のやる気が出るように。
私は一度、後ろに跳び退きながらそう言った。
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