Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第五章 月を壊したかぐや姫

Episode 35

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両手に持った包丁を使わず、彼女の腹に蹴りを一発入れておく。
アリアドネはそれを咄嗟に腕で防いだものの。
だが、それだけじゃ終わりじゃあない。
軽くマグロ包丁を手先だけで振るい、無理な体勢ではあるものの蹴りを防いだ腕に少しだけ傷を付けておく。

ハロウの悪い癖決闘狂いのように、私にも悪い癖というのは存在する。
それが、今しがた相手を煽ったアレだ。
一度獲物と判断した相手が、出来る限り全力を出せるように。
全力でこちらに向かってきてくれるように、その神経を逆撫でする。
勿論、良い行為ではない。普通怒られても文句が言えない悪癖だ。

当然、私は何度も何度も怒られてきたが……これだけはやめられなかった。

「おいおい、足が止まってるぜ?」
「ッ」

右に持ったマグロ包丁で軽めに突き、左に持った出刃包丁で力強く斬りつける。
軽く、とはいうものの……その狙いは首元で、しっかり防御するか回避をしなければそこで終わりだ。
アリアドネはアリアドネで、私の言葉に顔を顰めつつも……『ぼっち姫』と言われるだけはあるのか、しっかりと出現させた貝のような何かで防いでいく。
……防御手段になるのか、あの貝。

パーティチャットでアリアドネのスキルを知らない私の為にマギ達が何やら書いてくれているのが分かるが……攻めている私にとってもそれを見ている余裕はない。
正直、パーティチャットを見ながら戦うなんてことは、余所見しながら相手をするのと同じだ。
それは相手をしてくれているアリアドネに失礼だし、私個人もそういう戦い方はしたくない。
まぁ、私がパーティチャットの読み上げ設定をオンにしていないのが悪いのだが。

ハロウが以前、酔鴉と双剣の練習をしていた時の事を思い出す。
あの時の後半……ハロウが粗削りではあるものの、酔鴉を双剣で詰め始めた時。
その時の彼女の双剣の振るい方を思い出しながら、自らの身体を動かしていく。

右から、左から、下から、上から。
触れるように、舞うように、削ぎ落すように、断ち切るように。
双剣として包丁を使ってアリアドネを攻撃する。

それに対し、アリアドネはその立ち位置から避けるに避けれないのか。
その綺麗な身体に少しずつ切り傷を増やしながらも、致命傷を避けるように貝で防いでいく姿は笑みを浮かべてしまうものだった。
そんな時、こちらの刃を防いでいた貝が突然砕け散ると同時。彼女の身体についていた傷が消えていくように癒えていった。

しかしながら、消えていない傷も存在している。
無理な体勢から傷を付けた、小さい腕の傷。
他の傷が癒えたのにも関わらず、それだけはしっかりと残っていた。

「おや、その腕の傷は消さないのかい?」
「ッるさいわね!」

……まぁ、単純に考えるならあの貝が出てる間に受けた傷を全快させる、とかだよねぇ。
だが、それだけだと強すぎる。
何かしらの制限がまだあるとは思うが、まぁ良いだろう。
あまり重要な話じゃあない。
思案顔からまたもにやにやと笑いかけるが、嫌そうな顔をされてしまった。失礼な。

そんなアリアドネは貝に続いて、何やら玉のついた金属製の枝を出現させこちらへと向ける。
申し訳ないが、私は真面目に勉学に励んできた方ではないために、それが何なのか分からないが……きっと面白い能力を持っているのだろう。
回復よりも選択する程度には。

「おっと失礼、一口」

スキルが切れかけているのに気が付き、自身の腕の肉を噛み千切る。
一瞬、自分の肉で【祖の身を我に】を発動させたら何が起こるのか気になるが、十中八九何も出ないだろうし、出たとしてもまともな効果ではないだろう。
少なくともこんな実戦で試すようなものではない。
だが、今回の私はテンションが高い。
理性の部分で否定したモノを、即座に実行してしまう程度には楽しくなってしまっていた。

「あはッ、【祖の身を我に】」

そして、私の目の前……出現させた金属製の枝を振るおうとしたアリアドネとの間に、赤黒い刀身のハンティングナイフが出現した。
どうやら十中八九の十を引けたようだ。
効果の分からないそれを、咄嗟に出刃包丁を仕舞うことで左手で掴み取り。
アリアドネがこちらへと振るってきた金属製の枝に対して合わせるように、手首のスナップだけで振るう。

ガキン、という音と共にお互いの武器がぶつかり合う。
それと共にこちらのハンティングナイフからは鉄の香りがする赤黒い液体が。
向こうの枝からは、枝についていた玉が地面へと落ちていく。

それらが地面に触れると同時、それぞれが盛り上がり人型を象っていく。
その姿は、ゾンビスポーナーの肉塊を使って【祖の身を我に】を使った時に出現するものと似ていたが、何処かこちらのモノは水っぽい。
アリアドネの方は、どうやったらそうなるのか玉が白い粘性の液体に変わり、1体の人型の何かへと変化していた。
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