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1-A.アマランサスの咲く地
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真っ白な太陽が僕たちを見下ろしている。一年の半分以上は真っ黒な雲の間に隠れているそれは僕たちが少し目を離したすきにまたひよっこりと現れる。
太陽は太陽であるからにして、何も言うことはない。しかし、それは確実にじっくりとこちらを眺めている。
そんな感じがする。
それがよくわかるのは僕、カケル・ミスミとその友人レン・トキムラがひいこらと登っているこの坂がこのコロニーで一番高い丘につながっているからだ。
坂はまだその途上にあったが、すでにコロニーの全景を僕たちに見せてくれる。
コロニーの内外は明確に壁で隔てられている。無機質な灰色のそれが内側が僕たちの暮らすコロニーというわけだ。
ヌースのコロニー。簡単には知性のコロニーと呼ばれる場所。
このコロニー以外の場所は知らないけれど、住む人はみな、ここをおいて人類が文明的な暮らしをしている場所はないという。
それが単なる自負に過ぎないのか、それとも客観的な事実なのかは僕には知る由はないのだが。
コロニーはいたってシンプルだ。汚れ一つない白磁のビルが延々と連なっている。その隙間を縫うように敷設された道路の上をロボットが動かすローバーたちが荷物片手に走り回っている。
外を歩く人は僕たちのほかには見えない。学生たるもの、学業が終わればまっすぐ家に帰るものだ。彼らはとっくにコロニーが用意する集団生活用の寮に帰ってしまっただろう。学生以外の労働者も子供も老人もいない。
とても数十万の人が生きているとは思えないような生気のなさだ。まるで人々の魂がどこかくらい奥底に吸い込まれてしまったかのようだった。
この景色に僕はうすら寒い思いがする。今は晩夏のはずなのに思わず鳥肌が立ちそうになる。
「ここに来ると毎度毎度誇らしい気持ちになるよ」
レンがいつもの調子で言った。
「そうか」
僕はそう返した。
「なんだよ。カケルはそうは思わないのか。このコロニーは周辺のそれらより数百年分は進んでいると言われている。将来的には周辺コロニーをすべて統合し、また人類を夢を実現するかもしれないんだ」
いいや、必ず実現するさとレンは空を見上げて言った。目線の先には暗雲が立ち込めていたが、彼の目にはもっと別のものが見えているのかもしれなかった。
僕にはそれが何かわからなかった。いいや本当は知っているのだが、あえて話をそらした。
「ほら、早く行こう。レン。面会の時間が終わっちゃうよ」
「おお、悪い悪い」
僕たちは急峻ともいえる坂をゆっくりと登っていく。
それが坂の上にある理由は公式には分からない。どう考えてももっと町中に作ったほういいし、そうでなくてももう簡単につける場所にするべきだ。用事がなければこんなところ誰がいくものか。
「まったくどうしてこんな辺鄙な場所に作るんだか」
僕は何度目かわからない文句を垂れた。
「いつも言ってるだろ。このほうがいいに決まってる」
レンはいつものように返した。
それから僕たちはむっつりと坂を登り切りようやく丘の頂上に到着した。
「はあ。ついたな。毎度毎度骨が折れる」
「ギリギリ面会時間には間に合いそうだね」
僕たちの正面にはこれまた白磁の建物が建っている。しかし、町中のそれとは打って変わって表面は薄汚れており、清掃が行き届いていないように見えた
このコロニーに唯一存在する病院だ。
「さて、いくぞ」
トキムラの声に生返事をして、僕は来た道を振り返る。
灰色の絶壁のその向こう。知性のコロニーの外側。一応そこにも人は住んでいるらしい。よくよく目を凝らしてみると小屋らしきものが所狭しと並んでいるのが見える。それよりもこの晩夏になるといつも目を奪われる光景がある
真っ赤に咲き誇るアマランサスの花々。
僕たち学生はコロニーの一員となるべく日々学校に通っている。そうして
花言葉は粘り強い精神、不老不死、不滅。そして
終わりのない愛
太陽は太陽であるからにして、何も言うことはない。しかし、それは確実にじっくりとこちらを眺めている。
そんな感じがする。
それがよくわかるのは僕、カケル・ミスミとその友人レン・トキムラがひいこらと登っているこの坂がこのコロニーで一番高い丘につながっているからだ。
坂はまだその途上にあったが、すでにコロニーの全景を僕たちに見せてくれる。
コロニーの内外は明確に壁で隔てられている。無機質な灰色のそれが内側が僕たちの暮らすコロニーというわけだ。
ヌースのコロニー。簡単には知性のコロニーと呼ばれる場所。
このコロニー以外の場所は知らないけれど、住む人はみな、ここをおいて人類が文明的な暮らしをしている場所はないという。
それが単なる自負に過ぎないのか、それとも客観的な事実なのかは僕には知る由はないのだが。
コロニーはいたってシンプルだ。汚れ一つない白磁のビルが延々と連なっている。その隙間を縫うように敷設された道路の上をロボットが動かすローバーたちが荷物片手に走り回っている。
外を歩く人は僕たちのほかには見えない。学生たるもの、学業が終わればまっすぐ家に帰るものだ。彼らはとっくにコロニーが用意する集団生活用の寮に帰ってしまっただろう。学生以外の労働者も子供も老人もいない。
とても数十万の人が生きているとは思えないような生気のなさだ。まるで人々の魂がどこかくらい奥底に吸い込まれてしまったかのようだった。
この景色に僕はうすら寒い思いがする。今は晩夏のはずなのに思わず鳥肌が立ちそうになる。
「ここに来ると毎度毎度誇らしい気持ちになるよ」
レンがいつもの調子で言った。
「そうか」
僕はそう返した。
「なんだよ。カケルはそうは思わないのか。このコロニーは周辺のそれらより数百年分は進んでいると言われている。将来的には周辺コロニーをすべて統合し、また人類を夢を実現するかもしれないんだ」
いいや、必ず実現するさとレンは空を見上げて言った。目線の先には暗雲が立ち込めていたが、彼の目にはもっと別のものが見えているのかもしれなかった。
僕にはそれが何かわからなかった。いいや本当は知っているのだが、あえて話をそらした。
「ほら、早く行こう。レン。面会の時間が終わっちゃうよ」
「おお、悪い悪い」
僕たちは急峻ともいえる坂をゆっくりと登っていく。
それが坂の上にある理由は公式には分からない。どう考えてももっと町中に作ったほういいし、そうでなくてももう簡単につける場所にするべきだ。用事がなければこんなところ誰がいくものか。
「まったくどうしてこんな辺鄙な場所に作るんだか」
僕は何度目かわからない文句を垂れた。
「いつも言ってるだろ。このほうがいいに決まってる」
レンはいつものように返した。
それから僕たちはむっつりと坂を登り切りようやく丘の頂上に到着した。
「はあ。ついたな。毎度毎度骨が折れる」
「ギリギリ面会時間には間に合いそうだね」
僕たちの正面にはこれまた白磁の建物が建っている。しかし、町中のそれとは打って変わって表面は薄汚れており、清掃が行き届いていないように見えた
このコロニーに唯一存在する病院だ。
「さて、いくぞ」
トキムラの声に生返事をして、僕は来た道を振り返る。
灰色の絶壁のその向こう。知性のコロニーの外側。一応そこにも人は住んでいるらしい。よくよく目を凝らしてみると小屋らしきものが所狭しと並んでいるのが見える。それよりもこの晩夏になるといつも目を奪われる光景がある
真っ赤に咲き誇るアマランサスの花々。
僕たち学生はコロニーの一員となるべく日々学校に通っている。そうして
花言葉は粘り強い精神、不老不死、不滅。そして
終わりのない愛
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