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第一章【悪夢で瑞夢】
第一話【暗い】
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毎日が悪夢のようだった。
家は普通だけど、悩みを打ち明けられるような家じゃなかった。そういう、よくある家。でも、学校は違う。最悪な学校。
いじめられてて、誰も救ってくれなくて、先生も見て見ぬふりをして。いっそ、夢であればいいのにと何回も思った。
最初は、まだ良かった。無視だけだったから。
「おはよう」
「……」
張り詰める静寂、笑っている人間、目を合わせないようにする人間。一瞬で、理解できた、否、理解させられた。
「固まったんだけど、キモ~」
「ね~オタクきしょー」
小声のはずで、普段なら聞こえない声量のはずなのに、苦しいほどの静寂の中では嫌でも聞こえて、理解できてしまう。
いじめは、日に日にエスカレートしていった。
「掃除当番よろしく~」
「でもっ」
「は? どうせ暇でしょ? オタクなんだし」
習い事がある。言い出せなかった言葉は、吐き出されることがないまま僕の体の中で黒く残った。
いじめはひどく激しいものへと形を変化させていった。
上履きがなくなり、筆箱がなくなり、教科書が隠されたり。先生にも一度だけ相談した。
「無視されるんです」
「どうして? どんなふうに? なにかしたんじゃないの?」
説明したかった。僕はなにもしていない! おはようって言っても、何も返さないし、喋りかけても喋らない。どこかへ行くんだ。苦しいんです、助けてください。そう、言いたかった。
でも言葉は出てこない。あの時の、掃除当番を押し付けられたときと同じだ。言いたいのに、言えない。
「まぁ、気のせいかもしれないしもう一回話してみたら?」
「わか、りました」
そう言い残して先生は教室を出ていった。また、吐き出せなかった言葉は体の中に黒く残った。
「あっ」
「うっわ、勇斗菌移ったんですけど~きったなー」
そう言って女子は他の女子になすりつけるような仕草をする。
「ちょっまじサイテー! 汚いんですけどー」
笑い声が、僕の心に突き刺さる。彼女たちは、僕に目もくれずどこかへ行く。
僕の学校生活は、どうしてこうなってしまったんだろう。
その夜、ベッドの中で考えた。
「どうして、こうなるのかな」
「なんで、あの時言えなかったんだろう」
先生に、助けてって。女子に、習い事があるって。どうして、なんで、僕は、
「なんで……」
ベッドの中で一人、うずくまった。それでも、どれだけ独り言として吐き出しても、僕の体の中の黒い物体は全然解けなかった。
朝の光が鬱陶しいくらいに刺してくる。朝は、黒い。また、僕は、いじめられる。
「学校、行きたくないな……」
その言葉は、僕しかいない部屋で唯一つ、溶けて消え去った。
登校中も、冷たい、嘲笑の音が聞こえる。
「あ……」
上履きがない。
「スリッパ……借りなきゃ」
職員室へ行って、スリッパを借りる。教頭先生に怒られた。
「何回忘れたら気が済むんだ!」
「ごめんなさい、」
「いつもいつも、遊び呆けているからそうなるんだ!」
「もういい、スリッパ借りて早く行きなさい」
「ありがとう、ございます」
違う。僕は、悪くない。隠されたんです。助けて、また、そう言えなかった。
職員室からでて視界の端に見えたのは、僕を嘲笑う女子たち。みんなの話し声で何を言っているのかわからないのは不幸中の幸いだった。
「……」
暗い足取りで教室へ向かうと、生徒会長がいた。
「なので、今月の話し合いはこれを中心にしていくっていうことでよろしいですか?」
「うん、それでいいと思う、いつもありがとね小林さん」
「いえ、生徒会長なので」
どうやら、次の話し合いについて相談しているようだった。そうか、うちの担任は生徒会も担当なのか。
「ん? すみません先生あの子、なんでスリッパなんですか?」
「え? ああ、あの子ね、よく忘れるのよ上履き、ほんっと、情けないわよね」
「……そうですか」
そう言って、僕の方へゆっくりと歩いてきた。
「忘れ物について注意をしたいので、明日の放課後、時間ありますか?」
「……あり、ます」
習い事が、あればよかったのに。僕はそう思った。生徒会長も、先生も、みんな、敵なんだ。
ここは、悪夢の、地獄だ。
家は普通だけど、悩みを打ち明けられるような家じゃなかった。そういう、よくある家。でも、学校は違う。最悪な学校。
いじめられてて、誰も救ってくれなくて、先生も見て見ぬふりをして。いっそ、夢であればいいのにと何回も思った。
最初は、まだ良かった。無視だけだったから。
「おはよう」
「……」
張り詰める静寂、笑っている人間、目を合わせないようにする人間。一瞬で、理解できた、否、理解させられた。
「固まったんだけど、キモ~」
「ね~オタクきしょー」
小声のはずで、普段なら聞こえない声量のはずなのに、苦しいほどの静寂の中では嫌でも聞こえて、理解できてしまう。
いじめは、日に日にエスカレートしていった。
「掃除当番よろしく~」
「でもっ」
「は? どうせ暇でしょ? オタクなんだし」
習い事がある。言い出せなかった言葉は、吐き出されることがないまま僕の体の中で黒く残った。
いじめはひどく激しいものへと形を変化させていった。
上履きがなくなり、筆箱がなくなり、教科書が隠されたり。先生にも一度だけ相談した。
「無視されるんです」
「どうして? どんなふうに? なにかしたんじゃないの?」
説明したかった。僕はなにもしていない! おはようって言っても、何も返さないし、喋りかけても喋らない。どこかへ行くんだ。苦しいんです、助けてください。そう、言いたかった。
でも言葉は出てこない。あの時の、掃除当番を押し付けられたときと同じだ。言いたいのに、言えない。
「まぁ、気のせいかもしれないしもう一回話してみたら?」
「わか、りました」
そう言い残して先生は教室を出ていった。また、吐き出せなかった言葉は体の中に黒く残った。
「あっ」
「うっわ、勇斗菌移ったんですけど~きったなー」
そう言って女子は他の女子になすりつけるような仕草をする。
「ちょっまじサイテー! 汚いんですけどー」
笑い声が、僕の心に突き刺さる。彼女たちは、僕に目もくれずどこかへ行く。
僕の学校生活は、どうしてこうなってしまったんだろう。
その夜、ベッドの中で考えた。
「どうして、こうなるのかな」
「なんで、あの時言えなかったんだろう」
先生に、助けてって。女子に、習い事があるって。どうして、なんで、僕は、
「なんで……」
ベッドの中で一人、うずくまった。それでも、どれだけ独り言として吐き出しても、僕の体の中の黒い物体は全然解けなかった。
朝の光が鬱陶しいくらいに刺してくる。朝は、黒い。また、僕は、いじめられる。
「学校、行きたくないな……」
その言葉は、僕しかいない部屋で唯一つ、溶けて消え去った。
登校中も、冷たい、嘲笑の音が聞こえる。
「あ……」
上履きがない。
「スリッパ……借りなきゃ」
職員室へ行って、スリッパを借りる。教頭先生に怒られた。
「何回忘れたら気が済むんだ!」
「ごめんなさい、」
「いつもいつも、遊び呆けているからそうなるんだ!」
「もういい、スリッパ借りて早く行きなさい」
「ありがとう、ございます」
違う。僕は、悪くない。隠されたんです。助けて、また、そう言えなかった。
職員室からでて視界の端に見えたのは、僕を嘲笑う女子たち。みんなの話し声で何を言っているのかわからないのは不幸中の幸いだった。
「……」
暗い足取りで教室へ向かうと、生徒会長がいた。
「なので、今月の話し合いはこれを中心にしていくっていうことでよろしいですか?」
「うん、それでいいと思う、いつもありがとね小林さん」
「いえ、生徒会長なので」
どうやら、次の話し合いについて相談しているようだった。そうか、うちの担任は生徒会も担当なのか。
「ん? すみません先生あの子、なんでスリッパなんですか?」
「え? ああ、あの子ね、よく忘れるのよ上履き、ほんっと、情けないわよね」
「……そうですか」
そう言って、僕の方へゆっくりと歩いてきた。
「忘れ物について注意をしたいので、明日の放課後、時間ありますか?」
「……あり、ます」
習い事が、あればよかったのに。僕はそう思った。生徒会長も、先生も、みんな、敵なんだ。
ここは、悪夢の、地獄だ。
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